発生動向総覧
〈第39週コメント〉10月1日集計分 注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が、集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
注目すべき感染症
◆ 腸管出血性大腸菌感染症
腸管出血性大腸菌感染症は感染症法に基づく3類感染症として、患者または無症状病原体 保有者について、診断した医師は届け出が義務づけられている。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の定期的検便によって偶然発見される場合もあるが、探知された患者と食事を共にした者や接触者の調査などによって発見される場合が多い。
2004年第39週の現段階での報告数は67例であった。1週間当たりの報告数は第30週を除き、 第29週以降ほぼ同数で推移していたが、第36週からは4週連続して減少している(図1)。第39 週の報告を都道府県別にみると宮城県(8例)、鳥取県(8例)、福島県(7例)が多かった(図2)。 鳥取県からの報告は、先週に引き続き韓国への修学旅行に関連した症例であり、宮城県およ び福島県からの報告の多くは、保育所での集団発生に関連した症例である。2004年の第39週までの累積報告数は2,986例で、過去3年間の同週までの累積報告数(2001年4,016例、2002年2,772例、2003年2,010例)と比較すると、2002年の状況に近い。都道府県別 にみると、東京都(228例)、大阪府(184例)、石川県(169例)、岡山県(168例)が多く(図3)、年 齢群別(0〜69歳までは10歳毎、および70歳以上)にみると、10歳未満1,256例(42%)、10代491 例、20代392例、30代270例、40代157例、50代161例、60代130例、70歳以上129例となっている。 血清型・毒素型別にみると、O157 VT1・VT2 1,039例(34.8%)、O157 VT2 670例(22.4%)、O26 VT1 567例(19.0%)の順に多い。溶血性尿毒症症候群(HUS)の第39週までの累積は39例である。年齢群別では10歳以下が 31例(うち、5歳以下は25例)、10代2例、60代1例、70歳以上5例であった。性別では男性11例、 女性28例と女性に多かった。それらの原因菌の血清型・毒素型別では、O157 VT2(15例)、 O157 VT1・VT2(13例)、O111 VT1・VT2(3例)、O26 VT1・VT2(2例)、その他6例であった。 本年報告されている死亡例は4例(70代女性、2歳女性、3歳女性、80歳男性)であるが、原因 菌の血清型・毒素型はそれぞれO157 VT1・VT2、O26 VT1・VT2、O111 VT1・VT2、O157 VT1・VT2であった。死亡例やHUSの合併については、届け出時点以降での発生が十分反映 されていない可能性があり、このような発生があった場合には「入力時のお願い」として、修正報告することをお願いしている。また、本年においても、保育所などに関連した集団発生の報告が散見されている。保育所などでの人から人への感染を防ぐために、タオルの共用を避けることや、普段からの手洗い(特にオムツ交換時)、園児への排便後・食事前の手洗い指導を徹底することが重要である。
◆ 急性脳炎(2003年11月〜2004年8月報告分)
急性脳炎は昨年の感染症法一部改正(2003年11月5日施行)によって、基幹定点からの報告による定点把握疾患から五類感染症全数把握疾患に変更され、診断した全ての医師に届出が義務づけられている。届出の対象は、四類感染症に規定されているウエストナイル脳炎および日本脳炎を除き、それ以外の病原体によるもの、病原体不明のものである。また、炎症所見が明らかでなくとも、同様の症状を呈する脳症も含まれる。この変更は、近年インフルエンザ脳炎・ 脳症や、エンテロウイルス71型による重篤な急性脳炎の発生などが問題となっている中、種々の原因による急性脳炎の出現や、過去に国内で認識されていなかった病原体の流行を、病原体不明の時点であっても確実かつ迅速に捉えることの重要性からである。当初、インフルエンザ脳炎や麻しん脳炎など、原疾患が届出対象であるものは除くと解釈されていたが、厚生科学審議会感染症分科会の審議を経て、2004年3月1日以降はこれらも届出の対象となった(厚生労働省結核感染症課長通知、平成16年2月26日健感発第0226001号)。なお、届出時点で病原体不明なものについては可能な限り病原体診断を行い、明らかになった場合には追加で報告 することが求められている。
また、病原体不明が半数以上を占めているが、病原体の特定は、診療の場における早期診断・治療やワクチンなどによる予防対策に必要であるので、より積極的な病原体検索が望まれる。
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