発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(2003年第43号「速報」参照)。
〈第46週コメント〉 11月18日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が、集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ 2例(推定感染地域:ともにインド)
細菌性赤痢 7例(推定感染地域:インド3例、中国1例、タイ1例、インドネシア 1例、不明1例)
腸チフス 2例(推定感染地域:インド1例、タイ1例) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 48例(うち有症者23例)
報告の多い都道府県:福島県(10例)、兵庫県(8件)
血清型・毒素型:O157 VT2( 10例)、O111 VT1・VT2( 10例)、O157
VT1・VT2( 8例)、O26 VT1( 4例)、O121 VT2( 4例)、
O111 VT1(1例)、O146 VT1・VT2(1例)、その他(10例)
年齢:10歳未満(26例)、10代(1例)、20代(5例)、30代(6例)、40代(2例)、
50代(5例)、60代(1例)、70歳以上(2例) |
4類感染症: |
つつが虫病 14例(福島県4例、大分県3例、宮崎県2例、青森県1例、宮城 県1例、山梨県1例、広島県1例、熊本県1例)
マラリア 1例(三日熱_推定感染地域:カメルーン)
レジオネラ症 2例(40代1例、60代1例)
A型肝炎 3例(推定感染地域:国内2例、マレーシア1例) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 8例 |
推定感染地域:国内4例、タイ1例、不明3例
推定感染経路:性的接触(異性間)1例、性的接触(同性間)1例、不明6例例 |
ウイルス性肝炎 2例(ともにB型_推定感染経路:ともに不明)
クロイツフェルト・ヤコブ病 2例(ともに孤発性)
後天性免疫不全症候群 13例 |
(無症候8例、AIDS 1例、その他4例)
推定感染経路:性的接触10例(異性間4例、同性間5例、異性間/同性間1例)、不明3例
推定感染地域:国内10例、ミャンマー1例、不明2例 |
ジアルジア症 3例(推定感染地域:国内1例、中国1例、インドネシア1例)
梅毒 4例(早期顕症II期3例、無症候1例)
破傷風 1例(80代)
急性脳炎 6例 Streptococcus bovis 1例(10代.死亡)
Arcanobacterium haemolyticum 1例(70代)
病原体不明4例(10歳未満1例、50代1例、60代1例、70代1例)
(補)報告遅れとして、レプトスピラ症1例〔推定感染地域:国内(沖縄県)〕、急性脳炎5例
(結核菌疑い1例(20代)、肺炎球菌1例(90代)、病原体不明3例〔10歳未満1例(死
亡)、50代1例、70代1例〕の報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:インフルエンザの報告数は微増したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較して少なく、都道府県別では35都道府県から報告があったが、いずれも0.3以下であった。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第25週に過去10年間の全ての週と比較して最高値となった後、第29週まで最高値を更新し続けた。その後、第40週の微増を除き、減少を続けたが、第43週から再び微増している。都道府県別では福井県(1.1)、高知県(0.5)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第23週から減少し続けた後、第35 週からは増加傾向が認められ、第46週も増加した。都道府県別では山形県(2.7)、北海道(2.2)、大分県(2.2)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第12週から減少傾向が続いた後、第 31週からはほぼ横ばいで推移したが、第43週からはゆっくり増加している。都道府県別では福井県(9.1)、三重県(7.0)、愛媛県(6.7)が多い。水痘の定点当たり報告数は第42週から増加傾 向が認められており、第46週も増加した。都道府県別では宮崎県(2.8)、青森県(2.4)、岩手県 (2.4)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第20週から第29週まで緩やかに増加した後、第 32週までほぼ横ばいで推移した。第33週に微減したが、その後再びほぼ横ばいで推移している。過去5年間の同時期と比較してやや多く、都道府県別では宮崎県(4.7)、島根県(3.5)が多い。風しんの定点当たり報告数は前週とほとんど同値で、第29週から継続して0.03未満で推移している。麻しんの定点当たり報告数は前週とほとんど同値で、第1週から継続して0.03未満で推移している。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加し、都道府県別では佐賀県(4.1)、 福井県(3.4)が多い。RSウイルス感染症はゼロ報告を含めて43都道府県から報告がなされ、報告数は合計331例であった。
基幹定点報告疾患:細菌性髄膜炎の定点当たり報告数は増加し、感染症施行(1999年4月)以降の最高値であった2004年第40週と同値を示した。13都道府県から報告があったが、際だって多い都道府県はなく、いずれも0.2以下であった。マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、感染症法施行以降の最高値となった。都道府県別では岡山県(2.8)、埼玉県(1.6)、山口県(1.6)が多い。
〈10月コメント〉
◆性感染症について 2004年11月11日集計分 性感染症定点数:922
2004年10月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が3.27(男1.41、女1.86)、 性器ヘルペスウイルス感染症が0.87(男0.33、女0.54)、尖圭コンジローマが0.58(男0.33、女 0.25)、淋菌感染症が1.50(男1.23、女0.27)で、4疾患のうち、男性では性器クラミジア感染症お よび淋菌感染症、女性では性器クラミジア感染症が多かった(図1)。前月に比べ、横ばいまたは減少傾向を示すものが多かった(グラフ総覧参照)。過去5年間の同時期と比 較すると、男性では、性器クラミジア感染症・性器ヘルペスウイルス感染症・淋菌感染症で平 均‐1標準偏差(SD)を下回ったが、尖圭コンジローマでは平均+1SDを上回った。女性では、 性器クラミジア感染症では平均‐1SDを下回ったが、性器ヘルペスウイルス感染症では平均+ 1SDを上回った(図2)。
|
|
図1.各性感染症が総報告数に占める割合(10月)
|
定点当たり報告数を年齢階級別・男女別に比較すると(図3:PDF参照)、いずれの疾患でもピークは20〜29歳にあったが、性器ヘルペスウイルス感染症では50代以降の高年齢層からの報告も少なくない。淋菌感染症では男性の占める割合が高いが、他の3疾患では若年齢層で女性の報告者数の方が多い。
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年齢層(15〜29歳)での各性感染症の定点当たり報告数を月別・男女別に図4(PDF参照)に示した。他の3疾患に比べ、2004年に入ってから女性の淋菌感染症の減少が目立つ。
注:本発生動向調査で得られる性感染症患者報告数および解析結果は、現在の定点の構成 に基づく制限のもとに解釈される必要がある。詳細はIDWR週報2000年第46号(10月報) 4ページの説明を参照されたい。
◆薬剤耐性菌について (11月11日集計分)
|
10月の基幹定点総数:
|
472.
|
[定点当たり報告数]
|
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
3.62(前月:3.76、前年同月:3.78)
年間を通してほぼ一定である。10月は微減し、過
去5年間の同月との比較では、2002年、2003年と
ほぼ同値であった。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
1.02(前月:0.48、前年同月:1.04) 過去には、春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、 12月)に多く推移していたが、2004年は1月から6月 までほぼ一定で推移した後、7月からは過去と同様 に9月まで減少し、10月は増加を示している。過去 5年間の同月との比較では、2002年、2003年とほぼ 同値であった。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.13(前月:0.12、前年同月:0.18)
年の前半が後半に比してわずかに少ないが、年間
を通じてほぼ一定である。6〜8月まで増加が続い
ていたが、9月は減少し、10月は再び増加した。過
去5年間の同月との比較では1999年に次いで少な
かった。。
|
[年齢階級別]
|
MRSA感染症
高齢者に多く、65歳以上が全体の71% (70歳以上が62%)を占めている(図1:PDF参照)。
PRSP感染症
小児に多く、10歳未満が全体の75%(5 歳未満が67%)を占めている。また高齢者にもやや 多く、65歳以上が全体の16%(70歳以上が12%)を占めている(図2:PDF参照)。
薬剤耐性緑膿菌感染症
高齢者に多く、65歳以上が全体の74%(70歳以上が58%)を占めてい る(図3:PDF参照)。
|
[性別:女性を1 として算出した男/女比]
|
MRSA感染症…1.7/1
PRSP感染症…1.6/1
薬剤耐性緑膿菌感染症…1.1/1
|
[都道府県別]
|
MRSA感染症
定点当たり報告数は栃木県(7.4)、高知県(7.3)、山口県(7.2)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は千葉県(10.2)、富山県(5.6)が多い。
薬剤耐性緑膿菌感染症
定点当たり報告数は広島県(0.6)、群馬県(0.4)、岡山県(0.4)が多い。
|
◆結核サーベイランス月報 11月19日集計分
10月の新登録患者数は2,295人(男性1,468人、女性827人)で、このうち活動性肺結核患者は
1,862人(うち喀痰塗抹陽性者は904人)であった。 都道府県・政令指定都市別の新登録患者数は、東京都(261人)、大阪府(大阪市を除く) (139人)、大阪市(131人)、埼玉県(さいたま市を除く)(100人)、愛知県(名古屋市を除く)(87人)が多い。
また、別掲により集計されているマル初者数*は395人、非定型抗酸菌陽性者数は291人であ
った。
*マル初者…結核の感染が強く疑われるが発病はしておらず、発病予防のための内服を行っている者。
詳しいコメントは、結核研究所の結核発生動向調査結果報告(http://www.jata.or.jp/tbmr/ tbmr.htm)をご覧ください。
また、9月15日に、2003年の結核発生動向調査年報が出されました。詳しくは、結核研究所ホ ームページ(http://www.jata.or.jp)でご覧下さい。
注目すべき感染症
◆急性脳炎(2004年10月1日〜11月18日報告分)
急性脳炎は2003年11月5日施行の感染症法一部改正によって、それまでの基幹定点からの報告による定点把握疾患から五類感染症全数把握疾患に変更され、診断した全ての医師に届出が義務づけられている。届出の対象は、四類感染症に規定されているウエストナイル脳炎および日本脳炎を除き、それ以外の病原体によるもの、病原体不明のものである。また届け出には、炎症所見が明らかでなくとも同様の症状を呈する脳症も含まれる。
急性脳炎の報告数は、第43及び44号で述べたとおり、10月以降増加が目立っている。これらの多くは、秋田県、山形県、新潟県などで発生している原因不明の急性脳症患者の報告であり、メディアでも報道されている。
感染症法のもとで、第44号の「注目すべき感染症」に掲載後、11月18日までに新たに報告(診 断日とは異なる)された症例数は12例で、10月1日から11月18日までに報告された症例数は78 例に上った。 |
|
図1. 発症週別・都道府県別にみた病原体不明の急性脳炎(脳症) |
|
図2. 性別・年齢別にみた病原体不明の急性脳炎(脳症) |
そのうち、病原体診断が得られている急性脳炎は11例(単純ヘルペスウイルス4例、 A型インフルエンザウイルス1例、EBウイルス1例、A群コクサッキーウイルス2型1例、肺炎球菌2 例、Arcanobacterium haemolyticum 1例、Streptococcus bovis 1例)、結核菌疑いが1例で、病原 体不明は66例(原因不明の急性脳症も含む)と多かった。
病原体不明の66例の発症週別・都道府県報告数では、秋田県、新潟県、山形県が多く、他に北海道、岩手県、宮城県、福島県、千葉県、東京都、富山県、石川県、福井県、岐阜県、三重県、島根県、広島県から報告があった(図1)。発症日(週毎)は、9月27日〜10月3日(19例)が最も多く、次いで9月20〜26日(17例)が多い。また、性別では男性30例、女性36例であった。年齢群別(10歳毎)では10歳未満から90代まで見られ、60代18例、70代18例、80代12例が多く、年 齢の中央値は69歳であった(図2)。血液透析を受けているなど腎機能障害の有無については、 全てが正確に把握されているとは言えないが、有りが22例、無しが4例と記載されていた。また、 転帰については、14例の死亡が確認されている。
IDWRトップページへ戻る
|