発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(2003年第43号「速報」参照)。
〈第50週コメント〉 12月16日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が、集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
細菌性赤痢 11例(推定感染地域:国内5例、インドネシア2例、インド2例、エ ジプト1例、タイ/カンボジア1例)
パラチフス 3例(推定感染地域:中国1例、インド1例、ネパール1例) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 23例(うち有症者16例)
報告の多い都道府県:秋田県(4例)、大阪府(4例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(7例)、O26 VT1(5例)、O157 VT2(4
例)、O26 VT1・VT2(1例)、その他(6例)
年齢:10歳未満(7例)、10代(2例)、20代(4例)、30代(4例)、40代(1例)、
60代(3例)、70歳以上(2例) |
4類感染症: |
つつが虫病 17例(千葉県2例、神奈川県2例、新潟県2例、広島県2例、鹿 児島県2例、福島県1例、茨城県1例、栃木県1例、東京 都1例、岡山県1例、長崎県1例、宮崎県1例)
日本紅斑熱 1例(高知県)
マラリア 1例(三日熱_推定感染地域:インドネシア)
レジオネラ症 2例(60代1例、70代1例)
E型肝炎 1例(推定感染地域:国内/中国.推定感染源:シカ生肉/牛生レバー)
A型肝炎 3例〔推定感染地域:国内2例、中国(香港)1例〕 |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 7例 |
推定感染地域:国内6例、ブラジル1例
推定感染経路:経口3例、性的接触(同性間)2例、不明2例 |
ウイルス性肝炎 2例(ともにC型_推定感染経路:針刺し事故1例、不明1例)
クロイツフェルト・ヤコブ病 1例(ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー 症候群)
後天性免疫不全症候群 11例 |
(無症候7例、AIDS 4例) 推定感染経路:性的接触8例(異性間1例、同性間6例、異性間/同性間1例)、不明3例 推定感染地域:国内9例、不明2例 |
梅毒 6例(早期顕症II期4例、無症候2例)
破傷風 2例(ともに50代)
(補)他に、細菌性赤痢2例、梅毒2例の報告があったが、削除予定。また、報告遅れとして、先天性風しん症候群1例、急性脳炎4例〔単純ヘルペスウイルス2例(20代1例、
60代1例)、インフルエンザウイルスAH3 1例(2歳)、病原体不明1例(30代)〕の報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:インフルエンザの定点当たり報告数は引き続き増加しているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)との比較では低いレベルにある。都道府県別では宮城県(2.0)*、岡山県(1.6)、群馬県(1.4)で、今シーズン初めて1.0を超えた。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は、第29週に最高値を記録した後は減少し、前年と同様に第42週に最低値となり、その後再び増加してきている。過去5年間の同時期と比較してやや多く、都道府県別では佐賀県(1.2)、北海道(1.1)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は、第35週以降は増加傾向にあり、第50週も前週に引き続いて増加した。都道府県別では、山形県(3.6)、大分県(3.4)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第43週から増加し、第48週以降その増加速度は大きくなっている。都道府県別では福岡県(23.4)が最も多く、次いで大分県(21.2)、埼玉県(19.5)が多い。水痘の定点当たり報告数は、第42週以降増加していたが、第50週は横ばいとなった。都道府県別では和歌山県(3.8)、宮崎県(3.6)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第29週まで緩やかに増加した後、微減あるいは横ばい状態が続いている。しかし、過去5年間の同時期と比較してやや多く、都道府県別では香川県(3.1)と石川県(2.1)が多い。百日咳の定点当たり報告数は微減したが、第48週以降は過去5年間の同時期と比較してやや多い状態が続いている。都道府県別では栃木県(0.13)と福井県(0.09)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は微増し、2004年では最多となっている。都道府県別では福井県(6.9)、佐賀県(4.0)が多い。6歳以下の報告数が全体の77%を占めている。RSウイルス感染症はゼロ報告を含めて43都道府県から855例の報告があり、第49週よりもさらに増加した。1歳未満の報告数が全体の81%に達している。都道府県別では福島県(84例)、広島県(83例)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、感染症法施行以降の最高値を更新した。過去5年間の同時期と比較してかなり多く、都道府県別では埼玉県(1.8)、山口県(1.7)が多い。
〈11月コメント〉
◆性感染症について 2004年12月9日集計分 性感染症定点数:925
2004年11月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が3.14(男1.39、女1.75)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.84(男0.33、女0.52)、尖圭コンジローマが0.59(男0.33、女0.27)、淋菌感染症が1.46(男1.22、女0.23)で、4疾患のうち、男性では性器クラミジア感染症および淋菌感染症、女性では性器クラミジア感染症が多かった(図1)。前月に比べ、横ばいまたは減少傾向を示すものが多い(グラフ総覧 参照)。過去5年間の同時期と比較すると、平均‐1標準偏差(SD)を下回ったものが、男性では性器ヘルペスウイルス感染症および淋菌感染症、女性では性器クラミジア感染症および淋菌感染症であった。一方、尖圭コンジローマでは、男女ともに平均+1SDを上回った(図2)。
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図1.各性感染症が総報告数に占める割合(11月)
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定点当たり報告数を年齢階級別・男女別に比較すると(図3:PDF参照)、いずれの疾患でもピークは20〜29歳にあったが、性器ヘルペスウイルス感染症では50代以降の高年齢層からの報告も少なくない。淋菌感染症では男性の占める割合が高いが、他の3疾患では若年齢層で女性の報告者数の方が多い。
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年齢層(15〜29歳)での各性感染症の定点当たり報告数を月別・男女別に図4(PDF版参照)に示した。女性の性器ヘルペスウイルス感染症以外は、減少または横ばいが続いている。
注:本発生動向調査で得られる性感染症患者報告数および解析結果は、現在の定点の構成 に基づく制限のもとに解釈される必要がある。詳細はIDWR週報2000年第46号(10月報) 4ページの説明を参照されたい。
◆薬剤耐性菌について (12月9日集計分)
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11月の基幹定点総数:
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471.
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[定点当たり報告数]
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
3.74(前月:3.64、前年同月:3.57)
例年、年間を通してほぼ一定である。2004年では11月は微増し、過去5年間の同月との比較では、最も多かった。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
例年、春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く推移していた。2004年は1月から6月までほぼ一定で推移し、7月からは過去と同様に、9月まで減少し、10月以降増加を示している。過去5年間の同月との比較では、最も多かった。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.11(前月:0.13、前年同月:0.12)
例年、年の前半が後半に比してわずかに少ないが、年間を通じてほぼ一定である。2004年では6〜8月まで増加が続いていたが、9月は減少、10月は微増し、11月は減少した。過去5年間の同月との比較では2001〜2003年の過去3年間の値に近かった。
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[年齢階級別]
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MRSA感染症
高齢者に多く、65歳以上が全体の69%(70歳以上が60%)を占めている(図1)。
PRSP感染症
小児に多く、10歳未満が全体の71%(5歳未満が65%)を占めている。また高齢者にもやや多く、65歳以上が全体の18%(70歳以上が15%)を占めている(図2)。
薬剤耐性緑膿菌感染症
高齢者に多く、65歳以上が全体の70%(70歳以上が66%)を占めている(図3)。
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[性別:女性を1 として算出した男/女比]
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MRSA感染症…1.8/1
PRSP感染症…1.2/1
薬剤耐性緑膿菌感染症…1.8/1
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[都道府県別]
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MRSA感染症
定点当たり報告数は富山県(9.6)、山口県(8.1)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は千葉県(13.8)、富山県(11.4)が多い。
薬剤耐性緑膿菌感染症
定点当たり報告数は富山県(0.6)、山梨県(0.6)が多い。
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◆結核サーベイランス月報 12月22日集計分
11月の新登録患者数は2,322人(男性1,453人、女性869人)で、このうち活動性肺結核患者は1,883人(うち喀痰塗抹陽性者は858人)であった。都道府県・政令指定都市別の新登録患者数は、東京都(304人)、大阪府(大阪市を除く)(132人)、大阪市(124人)、埼玉県(さいたま市を除く)(107人)、千葉県(千葉市を除く)(87人)が多い。
また、別掲により集計されているマル初者数*は318人、非定型抗酸菌陽性者数は259人であった。
*マル初者…結核の感染が強く疑われるが発病はしておらず、発病予防のための内服を行っている者。
詳しいコメントは、結核研究所の結核発生動向調査結果報告(http://www.jata.or.jp/tbmr/ tbmr.htm)をご覧ください。
また、9月15日に、2003年の結核発生動向調査年報が出されました。詳しくは、結核研究所ホ ームページ(http://www.jata.or.jp)でご覧下さい。
注目すべき感染症
◆インフルエンザ
2004年10月初旬に早くも大阪の小学校においてAH3型インフルエンザウイルスの感染流行による学級閉鎖の報告があり、今シーズンにおけるインフルエンザの早期流行が危惧されたが、暖冬のためか定点当たり報告数は第50週現在0.24であり、まだ本格的な流行が始まっている状況ではない。しかしながら、定点当たり報告数が宮城県(2.0)、岡山県(1.6)、群馬県(1.4)と、今シーズンにおいて初めて1.0を超える都道府県が複数認められた。 |
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図. インフルエンザの週別発生状況(1994年〜2004年50週) |
今シーズンこれまでに分離されたインフルエンザウイルスはAH3型が中心であるが、AH1型、B型の報告もみられている(本号「病原体情報」参照)。
インフルエンザウイルスの感染力は強く、ほぼ毎年2月をピークとするインフルエンザの流行が 認められている(図)。そして流行の度にインフルエンザ罹患による高齢者の超過死亡が問題となり、加えて乳幼児を中心とした小児ではインフルエンザ脳症の発生が報告されている。 インフルエンザ対策の基本は予防と適切な診断・治療である。インフルエンザ迅速診断キットや抗インフルエンザ薬の普及により、ここ数年間で臨床現場におけるインフルエンザの診断 精度や治療方法は大きく変化した。しかし、最も重要なことは予防であり、中でも予防接種が中心となる。例年、インフルエンザ流行の主流を占めるのはAH3型であるが、今シーズン分離されている AH3型ウイルスは、今のところ、今シーズンから変更されたワクチン株であるA/Wyoming/3/2003と抗 原性はほぼ一致している。しかしながら、このウイルス株に対する抗体保有率は0〜4歳群および成 人層では低いといわれている(2004/2005シーズンインフルエンザHI抗体保有状況調査速報‐第2 報参照)。全国的な流行が始まる前に、接種が必要な方はワクチンを受けておくことが勧められる。
◆先天性風しん症候群と風しん
先天性風しん症候群(CRS)は、1999年4月の感染症法の施行により全数把握疾患となったが、1999年には報告がなく、2000〜2003年は各1例であった。しかし、本年は第9〜25週に5例、第40週に1例、第41週に2例、第50週に1例の報告があり、合計9例の報告となっている(表1)。CRSは、妊婦が妊娠前半期に感染することによって出生児に起きる疾患で、感音性難聴、白内障または緑内障、心疾患を3主徴とする。妊娠中に感染しても必ずしもCRSが起こるわけではないが、母親が顕性感染した場合の妊娠月別の発生頻度は、妊娠1カ月50%以上、2カ月35%、3カ月18%、4カ月8%とされている。
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表1. 先天性風しん症候群の報告(2004年第50週現在) |
表2. 風しんの累積報告数(1999年4月〜2004年第50週) |
図. 風しん患者の性別・年齢群別報告数(2004年第1〜50週) |
CRSを防ぐため、風しんの罹患歴や予防接種歴がなく、妊娠を希望するあるいはその可能性のある女性は、妊娠する以前に予防接種を受けておくことが重要である。予防接種は、風しんとCRSを予防するための最大の手段と言える。しかし、これまでに報告された13例の母親の予防接種歴をみると、「なし」が5名、「不明」が5名であったが、「あり」が3名みられ、そのうち1例では母子手帳に記載されていた。このように稀には、確実に予防接種歴があっても十分な免疫が獲得されていないこともある。また、風しんに類似した発熱と発疹の出る疾患は他にもあり、誤診を招きやすいので、罹患歴にも注意が必要である。このようなことから、場合により妊娠前に抗体検査を行うことも必要と考えられる。
全国約3,000カ所の小児科定点からの報告数による、本年の風しんの流行状況をみると、2004年第50週までの累積定点当たり報告数は、2000年以降の各1年間の累積報告数を上回っている(表2)。また、小児科を標榜する小児科定点医療機関からの報告によるにも関わらず、本年の第50週までの累積報告数では20歳以上の占める割合が約13%を占めており、風しんが決して子どもに限った病気でないことがわかる。また、20歳以上の報告数においては男性が女性よりも多く(図)、成人男性から妊婦への感染も懸念される。
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