発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(第2003年第43号「速報」参照)。
〈第51週コメント〉12月24日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が、集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ1例(推定感染地域:フィリピン)
細菌性赤痢4例(推定感染地域:国内1例、インド1例、フィリピン1例、不明1例)
腸チフス1例(推定感染地域:国内) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 17例(うち有症者10例) 報告の多い都道府県:兵庫県(4例)
血清型・毒素型:O157 VT2(6例)、O157 VT1・VT2(6例)、O157 VT1(1例)、O111 VT1(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、その他
(2例)
年齢:10歳未満(6例)、20代(4例)、30代(1例)、40代(3例)、50代(2例)、70歳以上(1例)
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4類感染症: |
つつが虫病 13例(鹿児島県5例、宮崎県4例、福島県1例、群馬県1例、神奈川県1例、新潟県1例)
デング熱 1例(推定感染地域:フィリピン)
マラリア 1例(三日熱_推定感染地域:ブラジル)
レジオネラ症 5例(40代1例、70代3例、80代1例)
E型肝炎 1例(推定感染地域:国内.推定感染源:豚レバー) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 6例 |
推定感染地域:国内4例、不明2例
推定感染経路:経口2例、性的接触(同性間)1例、経口/動物1例、不明2例 |
ウイルス性肝炎 3例 |
B型2例_推定感染経路:性的接触(同性間)1例、不明1例
サイトメガロウイルス1例 |
クロイツフェルト・ヤコブ病 4例(すべて孤発性)
後天性免疫不全症候群 8例 |
(無症候5例、AIDS 2例、その他1例)
推定感染経路:性的接触7例(異性間1例、同性間5例、異性間/同性間1例)、不明1例
推定感染地域:すべて国内 |
ジアルジア症 2例(推定感染地域:インド1例、不明1例)
梅毒 6例(早期顕症I期2例、早期顕症II期3例、無症候1例)
破傷風 1例(60代)
急性脳炎 1例(病原体不明.40代)
(補)報告遅れとして、急性脳炎1例(病原体不明. 70代)の報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:インフルエンザの定点当たり報告数(0.36)は増加しているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較して低いレベルにある。都道府県別では宮城県(3.9)の増加が急速であり、その他群馬県(1.7)、岡山県(1.5)が多い。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は、第29週に最高値を記録した後は減少し、前年と同様に第42週に最低値となり、その後再び継続的に増加してきている。過去5年間の同時期と比較してやや多く、都道府県別では福井県(1.3)、北海道(1.3)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は、第35週以降は増加傾向にあり、第51週も増加した。都道府県別では高知県(3.9)、山形県(3.5)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加が続いており、第51週もその速度は弱まってはいない。都道府県別では前週に引き続いて福岡県(31.4)が最も多く、次いで大分県(30.5)、新潟県(24.1)の順となっている。水痘の定点当たり報告数は、第42週以降ほぼ継続的に増加している。都道府県別では宮崎県(6.4)、和歌山県(4.2)、宮城県(4.1)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第29週まで緩やかに増加した後、微減あるいは横ばい状態が続いており、例年と比べて夏のピークが目立たない。第51週は過去5年間の同時期と比較してかなり多く、都道府県別では香川県(2.8)、和歌山県(2.3)が多い。百日咳の定点当たり報告数は微増し、過去5年間の同時期と比較してかなり多くなっている。都道府県別では島根県(0.17)、栃木県(0.11)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は、2004年の最多を記録した前週よりは微減した。都道府県別では福井県(5.6)、佐賀県(3.7)が多い。 RSウイルス感染症は、ゼロ報告を含め42都道府県から921例の報告があり、継続的に増加している。1歳以下の報告数が全体の79%を占めている。都道府県別では大阪府(94例)、山口県(81例)、広島県(80例)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は、感染症法施行以降最高を記録した前週よりは減少した。過去5年間の同時期と比較してやや多く、都道府県別では山口県(1.8)、岡山県(1.6)が多い。
注目すべき感染症
◆インフルエンザ
インフルエンザの定点当たり報告数は第51週現在0.36であり、まだ本格的な流行が始まって いる状況ではない。しかしながら、宮城県(3.9)、群馬県(1.7)、岡山県(1.5)では1.0を超えており、特に宮城県では石巻保健所管内での報告数の急増により、警報レベルを超えた(図)。 |
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図. 2004/05シーズンのインフルエンザ発生状況 |
現在までに分離されたインフルエンザウイルスとしては、AH3型が27件、B型22件、AH1型16 件、である(本号「病原体情報」参照)。AH1型ウイルス分離の報告は2002/03年シーズンでは1 件、2003/04年シーズンでは5件(IDWR2003年第20号「病原体情報」、および2004年第39号「病原体情報」参照)のみであったことと比較すると、今シーズンの状況は過去2シーズンとは異なっていると思われる。
インフルエンザの流行期に一致して、5歳未満の乳幼児を中心に(特に1〜3歳児)、毎年国内では100〜300名の子どもにインフルエンザ脳症の発生がみられている。インフルエンザ脳症では、インフルエンザ発症による発熱から神経症状(痙攣、熱せん妄、意識障害など)の出現までが0〜1日と急速であり、その予後は致死率30%、後遺症出現率25%と不良である(「インフルエンザ脳症」の手引き:厚生労働省「インフルエンザ脳症研究班(略称)」編集)。2002/03年シーズン に大阪では6人の子どもで、インフルエンザ発症後の急性死亡例が報告されており、うち5名は基礎疾患のない1〜3歳児で、インフルエンザ発症後48時間以内に死亡し、その後うち3例では、解剖・組織学的所見からインフルエンザ脳症であることが判明した。
インフルエンザ発症者において、インフルエンザ脳症の発生を予防する効果的な方法はなく、インフルエンザの流行そのものを抑制することが重要である。インフルエンザの予防のためには、流行期にうがいやマスクの着用を励行することが、流行前にワクチンを接種することと並んで重要である。
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