発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(第2003年第43号「速報」参照)。
〈第2週コメント〉1月13日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が、集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
細菌性赤痢 15例(推定感染地域:国内7例、インド3例、インドネシア2例、タイ1例、アジア1例、不明1例)
腸チフス 2例(推定感染地域:バングラデシュ/マレーシア1例、不明1例) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 8例(うち有症者5例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(2例)、O157 VT2(2例)、O26 VT1・VT2(1例)、O26 VT1(1例)、O121 VT2(1例)、その他(1例)
年齢:10歳未満(1例)、20代(4例)、40代(1例)、50代(2例) |
4類感染症: |
オウム病 1例(推定感染源:インコ)
レジオネラ症 2例(ともに70代.うち1例死亡)
A型肝炎 3例(推定感染地域:国内1例、不明2例) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 7例 |
推定感染地域:国内5例、スリランカ1例、ブルキナファソ1例
推定感染経路:経口2例、不明5例 |
ウイルス性肝炎 1例(C型_推定感染経路:不明)
クロイツフェルト・ヤコブ病 1例(孤発性)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症 1例(70代)
後天性免疫不全症候群 6例 |
(無症候4例、AIDS 1例、その他1例)
推定感染経路:すべて性的接触(異性間1例、同性間5例)
推定感染地域:すべて国内 |
梅毒 3例(早期顕症I期1例、晩期顕症1例、無症候1例)
破傷風 1例(40代)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症 2例(遺伝子型:ともに不明_菌検出検体:ともに便)
急性脳炎 2例〔インフルエンザウイルスB型1例(3歳)、病原体不明1例(30代)〕
(補)他に、アメーバ赤痢1例、ウイルス性肝炎1例の報告があったが、削除予定。また、昨年分の報告遅れとして、急性脳炎4例〔すべて病原体不明(6歳1例、20代2例、50代1例)〕の報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:定点当たり報告数はいまだ低レベルにはあるが、第1週の約2倍に増加した。都道府県別では静岡県(1.64)、岐阜県(1.61)、群馬県(1.59)が多い。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は微減した。しかし、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多く、都道府県別では福井県(1.1)、新潟県(0.77)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では宮崎県(2.1)、高知県(2.0)、山形県(2.0)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加した。第52週のピークの値よりは減少しているものの、過去5年間の同時期と比較してやや多く、都道府県別では宮崎県(29.1)、福井県(25.5)、山口県(21.0)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(5.0)、山形県(4.5)が多い。手足口病の定点当たり報告数は微減したが、過去5年間の同時期と比較してやや多く、都道府県別では宮崎県(0.95)、石川県(0.76)が多い。百日咳の定点当たり報告数(0.01)は横ばいであった。都道府県別では山梨県(0.04)、福岡県(0.04)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数はやや減少した。都道府県別では福井県(7.0)、佐賀県(3.1)、福岡県(3.1)が多い。RSウイルス感染症は、ゼロ報告を含めて42都道府県から341件と減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の84%を占めている。都道府県別では山口県(37例)、大阪(30例)からの報告が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では秋田県(1.0)、福島県(0.86)が多い。
〈12月コメント〉
◆性感染症について 2005年1月13日集計分 性感染症定点数:919
2004年12月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が3.14(男1.35、女1.80)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.88(男0.35、女0.52)、尖圭コンジローマが0.51(男0.28、女0.23)、淋菌感染症が1.43(男1.18、女0.24)で、4疾患のうち、男性では性器クラミジア感染症および淋菌感染症、女性では性器クラミジア感染症が多かった(図1)。前月に比べ、横ばいまたは減少傾向を示すものが多い。(グラフ総覧参照)。過去5年間の同時期と比較すると、性器クラミジア感染症は男女ともに平均−1標準偏差(SD)を下回り、淋菌感染症は、男性で平均−2SD、女性で平均−1SDを下回った。一方、女性の性器ヘルペスウイルス感染症は平均+1SDを超えた。(図2)。
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図1.各性感染症が総報告数に占める割合(12月)
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定点当たり報告数を年齢階級別・男女別に比較すると(図3:PDF参照)、いずれの疾患でもピークは20〜29歳にあったが、性器ヘルペスウイルス感染症では50代以降の高年齢層からの報告も少なくない。淋菌感染症では男性の占める割合が高いが、他の3疾患では若年齢層で女性の報告者数の方が多い。
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年齢層(15〜29歳)での各性感染症の定点当たり報告数を月別・男女別に図4(PDF参照)に示した。男性では減少傾向が続いており、女性では横ばいである。
注:本発生動向調査で得られる性感染症患者報告数および解析結果は、現在の定点の構成に基づく制限のもとに解釈される必要がある。詳細はIDWR週報2000年第46号(10月報)4ページの説明を参照されたい。
◆薬剤耐性菌について (1月13日集計分)
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12月の基幹定点総数:
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471.
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[定点当たり報告数]
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
3.86(前月:3.80、前年同月:3.71)
例年、年間を通してほぼ一定である。2004年では12月は微増し、過去5年間の同月との比較では最も多かった。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
1.72(前月:1.46、前年同月:1.63)
例年、春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く推移していた。2004年は1月から6月までほぼ一定で推移し、7月からは過去と同様に9月まで減少し、10月以降増加を示している。過去5年間の同月との比較では最も多かった。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.09(前月:0.11、前年同月:0.16)
例年、年の前半が後半に比してわずかに少ないが、年間を通じてほぼ一定である。2004年では6〜8月まで増加が続いていたが、9月は減少、10月は微増し、11月以降減少を示している。過去5年間の同月との比較では、2000年に次いで少なかった。
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[年齢階級別]
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MRSA感染症
高齢者に多く、65歳以上が全体の71%(70歳以上が62%)を占めている(図1)。
PRSP感染症
小児に多く、10歳未満が全体の79%(5歳未満が73%)を占めている。また高齢者にもやや多く、65歳以上が全体の14%(70歳以上が11%)を占めている(図2)。
薬剤耐性緑膿菌感染症
高齢者に多く、65歳以上が全体の86%(70歳以上が74%)を占めている(図3)。
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[性別:女性を1 として算出した男/女比]
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MRSA感染症…1.8/1
PRSP感染症…1.3/1
薬剤耐性緑膿菌感染症…1.5/1
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[都道府県別]
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MRSA感染症
定点当たり報告数は栃木県(9.7)、高知県(7.8)、山口県(7.7)が多い。2004年の累積定点当たり報告数では、山口県(107.4)、富山県(96.8)、栃木県(93.1)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は千葉県(21.4)、富山県(10.6)が多い。2004年の累積定点当たり報告数では、千葉県(124.9)、富山県(86.0)、高知県(40.6)が多い。
薬剤耐性緑膿菌感染症
定点当たり報告数は香川県(0.5)、群馬県(0.4)、大分県(0.4)が多い。2004年の累積定点当たり報告数では、岩手県(5.3)、広島県(4.4)、香川県(4.0)が多い。
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◆結核サーベイランス月報 1月24日集計分
12月の新登録患者数は2,290人(男性1,409人、女性881人)で、このうち活動性肺結核患者は1,858人(うち喀痰塗抹陽性者は816人)であった。都道府県・政令指定都市別の新登録患者数は、東京都(258人)、大阪府(大阪市を除く)(151人)、大阪市(109人)、兵庫県(神戸市を除く)(96人)、埼玉県(さいたま市を除く)(83人)が多い。 また、別掲により集計されているマル初者数*は365人であった。
*マル初者…結核の感染が強く疑われるが発病はしておらず、発病予防のための内服を行っている者。
詳しいコメントは、結核研究所の結核発生動向調査結果報告(http://www.jata.or.jp/tbmr/ tbmr.htm)をご覧ください。
また、9月15日に、2003年の結核発生動向調査年報が出されました。詳しくは、結核研究所ホ ームページ(http://www.jata.or.jp)でご覧下さい。
注目すべき感染症
◆インフルエンザ
インフルエンザの定点当たり報告数は第2週現在、全国レベルで0.70であり、まだ本格的な
流行は始まってはいないが、第2週は第1週の約2倍になった。都道府県別では定点当たり報告数が1.0を超えたのは、静岡県(1.64)、岐阜県(1.61)、群馬県(1.59)、千葉県(1.39)、三重県(1.38)、鳥取県(1.38)、埼玉県(1.31)、福島県(1.28)、愛知県(1.19)、石川県(1.17)、福井県(1.06)、東京都(1.03)の12都県に達し、第1週の1県よりも大幅に増加した(図)。今後、インフルエンザ流行の指標である、全国レベルにおける定点当たり報告数が1.0を超えるのは、ごく近いと考えられる。 |
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図. 都道府県別インフルエンザ発生状況(2005年第2週) |
インフルエンザは通常、突然の高熱と全身倦怠感、筋肉痛などの全身症状を伴って発症し、これらの症状と同時かあるいはやや遅れて、咽頭痛や咳などの呼吸器症状が現れる。微熱程度の軽症例もあるが、肺炎を合併して重症化する例があり、また、基礎疾患を有する高齢者における死亡や、小児層におけるインフルエンザ脳症の合併が知られている。
インフルエンザは主に、感染者からの呼吸器飛沫の吸引あるいは接触(飛沫感染、接触感染)により感染するが、感染性は強く、特に医療機関や施設での感染拡大予防は重要である。そのためには、事前のワクチン接種、患者の早期発見と個室管理、飛沫感染・接触感染予防策が必要である。
◆コレラ−2004年(2005年1月20日時点)
コレラは、1〜5日(通常1日以内)の潜伏期の後に、下痢や嘔吐で急激に発症する腸管感染症である。殆どの場合、腹痛や発熱はみられない。典型的症状は激しい水様性下痢(重症では“米のとぎ汁様”)と脱水であるが、近年の報告症例では軽症であることが多い。しかし、胃腸の弱い人(胃切除者など胃酸の働きが低下している人)や高齢者、乳幼児では重症化して死亡することもあり、油断できない疾患である。
WHOの報告基準では、コレラ毒素産生性のO1血清型コレラ菌およびO139血清型コレラ菌によるものと定義されており、日本でも同じ定義を用いている。現在は、1999年4月施行の感染症法に基づく2類感染症として、疑似症患者、無症状病原体保有者を含む症例の報告が義務づけられている。また、検疫法に基づく感染症でもある。
過去の年間累積報告数は2000年58例、2001年50例、2002年51例、2003年25例であったが、2004年(診断日が2004年第1〜53週のもので、2005年1月20日までに報告されたもの)には82例に増えた。それらのうち疑似症患者が6例あり、無症状病原体保有者は4例であった。性別では、疑似症を除く76例につき男性60例、女性16例で、年齢は10〜75歳(中央値44歳)であった。推定感染地域は国内11例、国外65例であった。
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図1. 年齢別推定感染国別のコレラ患者発生状況(2004年1〜12月報告分) |
図2. 発症月別推定感染国別のコレラ患者発生状況(2004年1〜12月報告分) |
図3. コレラ患者の推定感染国別血清型分布(2004年1〜12月) |
国内を推定感染地域とする11例(男性8例、女性3例)について年齢群別にみると、40代2例、50代6例、60代1例、70代2例(年齢中央値48歳)であった(図1)。また、死亡例が1例報告されている。報告の限りでは、疫学的関連性の確認された症例はなく、すべて散発例であった。発症月別にみると、これまで国内での感染は7〜9月に多発する傾向が認められているが(参照:IASRVol.23No.9<特集>コレラ)、2004年においても8月に6例みられている(図2)。11例のコレラ菌の血清型では7例がO1小川型、4例がO1稲葉型であった(図3)。
国外を推定感染地域とする65例(男性52例、女性13例)について年齢群別にみると、10代1例、20代17例、30代14例、40代12例、50代11例、60代7例、70代3例(年齢中央値44歳)であった(図1)。推定感染国別ではフィリピン33例が半数を占め、インド21例、タイ7例、中国3例、インド/中国1例で、すべてアジア地域であった。発症月別・推定感染国別にみると、発症月が不明の3例を除く73例については、6月に20例(1999年4月〜2003年の各年の6月の発症者は1〜9例)と非常に多く、このうち16例の推定感染国はフィリピンであった(参照:週報第6巻27号・31号)(図2)。コレラ菌の血清型を推定感染国別にみると、フィリピンでは型不明の1例を除きすべてO1小川型であり、タイではO1稲葉型が多い傾向がみられた。中国では3例のうち、2例がO139であった(図3)。
2004年の報告数は、感染症法施行以降最多となっており、その多くは国外での感染であった。コレラ流行地域へ渡航する場合には、生水、氷、生の魚貝類、生野菜、カットフルーツなどを避けることが肝要である。また、無理な旅行日程などによって体調をくずし、抵抗力を落とさないよう心がけることも大切である。
なお、わが国には従来からの不活化注射ワクチンがあるが、効果が低いことや副反応が多いことなどから、余り勧められていない。海外ではより効果が高く、副反応の少ない経口ワクチン(不活化および生ワクチン)2種類(病原微生物検出情報23(9):9(227):2002)が発売されており、コレラの高度流行地域へ出かける援助関係者などに、必要に応じて接種されることがある。
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