発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(第2003年第43号「速報」参照)。
〈第3週コメント〉1月27日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が、集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ 1例(推定感染地域:国内)
細菌性赤痢 4例(推定感染地域:国内1例、インドネシア1例、フィリピン1例、エジプト1例)
腸チフス 1例(推定感染地域:国内) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 8例(うち有症者5例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(3例)、O157 VT2(2例)、O91 VT1(2例)、O26 VT1(1例)
年齢:10歳未満(3例)、10代(1例)、20代(2例)、30代(1例)、40代(1例) |
4類感染症: |
オウム病 3例(推定感染源:インコ2例、ハト1例)
つつが虫病 4例(群馬県2例、鹿児島県2例)
デング熱 1例(推定感染地域:インドネシア)
マラリア 2例 |
三日熱1例_推定感染地域:パプアニューギニア
熱帯熱1例_推定感染地域:カメルーン |
レジオネラ症 4例(60代2例、70代1例、90代1例)
E型肝炎 1例(推定感染地域:国内.推定感染源:豚レバー)
A型肝炎 4例(推定感染地域:すべて国内) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 12例 |
推定感染地域:国内6例、タイ2例、中国1例、エジプト1例、不明2例
推定感染経路:経口1例、性的接触3例(異性間2例、異性間/同性間1例)、不明8例
|
ウイルス性肝炎 5例 |
B型4例_推定感染経路:性的接触(異性間)3例、不明1例
C型1例_推定感染経路:静注薬物使用 |
クロイツフェルト・ヤコブ病 2例(ともに孤発性)
後天性免疫不全症候群 17例 |
(無症候12例、AIDS 4例、その他1例)
推定感染経路:性的接触16例(異性間7例、同性間8例、異性間/同性間1例)、不明1例
推定感染地域:国内15例、アフリカ1例、不明1例 |
梅毒 6例(早期顕症I期1例、早期顕症II期2例、晩期顕症3例)
(補)他に、梅毒2例の報告があったが削除予定。また、昨年分の報告遅れとして急性脳炎1例(病原体不明.2歳)、本年分の報告遅れとして急性脳炎1例(病原体不明.30
代)の報告があった。
|
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:インフルエンザの定点当たり報告数は前週の約4倍に増加し、流 行開始の基準値とされる1.0を大きく上回った。都道府県別では群馬県(7.9)、三重県(7.4)、埼玉県(5.9)、千葉県(5.4)が多い。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は緩やかな減少傾向にある。しかし、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多く、都道府県別では福井県(0.91)、北海道(0.66)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加した。過去5年間の同時期と比較してやや多く、都道府県別では、山形県(4.1)、宮崎県(3.5)、富山県(3.3)、が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は微増した。過去5年間の同時期と比較してかなり多く、都道府県別では福井県(29.8)、宮崎県(25.9)、宮城県(20.9)、山口県(20.2)が多い。水痘の定点当たり報告数は微減した。都道府県別では宮崎県(5.8)、沖縄県(4.5)が多い。年齢別では、5歳以下の報告が全体の89%を占めている。手足口病の定点当たり報告数は増加した。過去5年間の同時期と比較してやや多く、都道府県別では島根県(1.26)、宮崎県(1.19)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では島根県(0.09)、福岡県(0.04)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福井県(4.4)、佐賀県(2.1)、福岡県(2.0)が多い。年齢別では、1〜9歳からの報告が全体の89%を占めている。RSウイルス感染症は、ゼロ報告を含めて43都道府県から335件と減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の82%を占めている。都道府県別では兵庫県(42例)、大阪府(41例)からの報告が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では愛媛県(1.7)、岡山県(1.0)が多い。
注目すべき感染症
◆インフルエンザ
インフルエンザの定点当たり報告数は第3週現在、全国レベルで2.81であり、第2週の約4倍に増え、流行の指標である1.0を大きく上回った。例年よりは遅かったが、インフルエンザの流行シーズンに突入したと言える。定点当たり報告数が1.0を超えたのは34都府県に上り、4.0を超えたのも群馬県(7.90)、三重県(7.44)、埼玉県(5.88)、千葉県(5.36)、静岡県(5.05)、鹿児島県(4.76)、東京都(4.48)、岐阜県(4.39)、神奈川県(4.12)、福島県(4.06)と10都県みられている(図)。 |
|
図. 都道府県別インフルエンザ発生状況(2005年第3週) |
また、インフルエンザ様疾患に伴う休校・学年閉鎖・学級閉鎖の合計は158件に上り、昨年同期(1,170件)よりははるかに少ないものの、急激に増加してきている。また、今シーズンの現段階での特徴の1つとして、AH3型のみならずAH1型、B型のインフルエンザウイルスの分離報告数も多いことがあげられる(IDWR2005年第3号「病原体情報」参照)。
インフルエンザは突然の高熱で始まる疾患であるが、肺炎や高齢者における死亡、小児におけるインフルエンザ脳症などの合併症が問題とされている。感染性が強いために、特に医療機関、あるいは高齢者施設や乳幼児の集団生活施設での感染拡大予防対策は重要である。流行期間内は、接触感染・飛沫感染予防策として、うがい・手洗い・マスクの着用を励行すべきである。また、突然の高熱、全身倦怠感、筋肉痛をきたし、インフルエンザの発症が疑われた場合は、速やかに医療機関を受診することが勧められる。
また、65歳以上の高齢者の方で、まだインフルエンザワクチン接種を受けておられない方には、接種を受けられることをお勧めします。
◆細菌性赤痢−2004年(2005年1月21日時点)
細菌性赤痢は、通常1〜3日の潜伏期の後に、全身倦怠感、悪寒を伴う急激な発熱で発症し、発熱が1〜2日続いた後、水様性下痢、腹痛、しぶり腹、膿粘血便などのいわゆる赤痢症状が出現する腸管感染症である。原因菌はShigella属の4つの菌種(S. dysenteriae、S. flexneri、S. boydii、S. sonnei )である。菌種は亜群とも呼ばれ、それぞれA群、B群、C群、D群に該当する。通常、S. dysenteriae、S. flexneri は典型的な赤痢症状を起こすことが多いが、S. sonnei は軽度の下痢あるいは無症状に経過することが多い。
細菌性赤痢は、感染症法(1999年4月1日施行)に基づく二類感染症として、疑似症患者、無症状病原体保有者を含む症例の届け出が義務づけられている。過去の年間累積報告数は2000年843例、2001年844例、2002年699例、2003年473例であったが、2004年の報告数(診断日が2004年第1〜53週のもので、2005年1月21日までに報告されたもの)は578例であった。それらのうち疑似症患者が12例あり、無症状病原体保有者は15例であった。無症状病原体保有者は、探知された患者と食事や渡航を共にした者や、接触者の調査などによって発見された者である。疑似症を除く566例については、性別では男性254例、女性312例で、年齢は1〜89歳(中央値29歳)であった。推定感染地域は国内89例、国外462例、不明15例であった。死亡例の報告はなかった。
|
|
|
図1. 性別・年齢群別・推定感染地域別にみた細菌性赤痢の発生状況(2004年1〜12月) |
図2. 発症月別・推定感染地域別にみた細菌性赤痢の発生状況(2004年1〜12月) |
図3. 細菌性赤痢患者の推定感染地域別菌種分布(2004年1〜12月) |
国内を推定感染地域とする89例(男性47例、女性42例)について年齢群別にみると、10歳未満18例、10代6例、20代14例、30代13例、40代8例、50代6例、60代10例、70歳以上14例(年齢中央値35歳)で、10歳未満及び70歳以上が多かった(図1)。発症日が不明の3例を除いて発症月別にみると、9月に発症したものが22例と多かった(図2)が、このうち11例は、群馬県の保育園での集団発生に関連した報告であった。都道府県別にみると29都道府県から報告があり、群馬県(14例)、東京都(10例)、埼玉県(9例)が多かった。また、検出された菌種は、S. sonnei 55例、S. flexneri 32例、S. dysenteriae 1例、S. boydii 1例であり(図3)、国外を推定感染地域とするもの(後述)に比し、S. flexneri の占める割合が多かった。
国外を推定感染地域とする462例(男性200例、女性262例)について年齢群別にみると、10歳未満8例、10代23例、20代210例、30代105例、40代40例、50代34例、60代26例、70歳以上16例(年齢中央値29歳)であり、特に20〜30代の女性が多く、全体の40%を占めていた(図1)。発症月別にみると、8月、9月、5月の順に多かった(図2)。また、推定感染国別にみると(複数回答あり)、インド119例、インドネシア70例、中国65例、タイ32例の順に多く、アジアの多い傾向は従来 通りであった。その他、ハワイが15例あり、それらの発症は8月末に集積が認められた(参照:IDWR週報第6巻第36号)。男女共に、インド、インドネシア、中国の3国で約半数を占めており、性別による推定感染国の偏りは認められなかった。また、検出された菌種は、S. sonnei 375例、S. flexneri 68例、S. dysenteriae 7例(インド5例、インド/タイ1例、ネパール1例)、S. boydii 12例(インド7例、インドネシア2例、ネパール1例、パキスタン1例、マダガスカル1例)であった(図3)。
予防の基本は感染経路の遮断であり、特に手洗いの励行は予防の基本である。流行地へ渡航する場合には、生水、氷、生の魚介類、生野菜、カットフルーツなどを避けることが肝要である。
また、特に小児や高齢者では重症化しやすいので注意が必要である。
なお、細菌性赤痢はサルの間にも感染がみられ、ヒトへの感染源となり得るため、感染症法改正(2004年10月1日施行)により、細菌性赤痢のサルを診断した獣医師に届け出の義務づけがなされた。現在までに報告はない。
IDWRトップページへ戻る
|