発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(2003年第43号「速報」参照)。
〈第7週コメント〉 2月24日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が、集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
細菌性赤痢 6例(推定感染地域:国内1例、インドネシア3例、インド1例、インド/タイ/カンボジア1例)
腸チフス 1例(推定感染地域:インド) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 5例(すべて有症者)
血清型・毒素型:O157 VT2(4例)、O157 VT1・VT2(1例)
年齢:10歳未満(1例)、20代(3例)、70歳以上(1例) |
4類感染症: |
オウム病 1例(推定感染源:インコ)
A型肝炎 2例(推定感染地域:ともに国内) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 8例 |
推定感染地域:国内5例、韓国1例、東南アジア1例、不明1例
推定感染経路:経口2例、性的接触(同性間)1例、不明5例例 |
ウイルス性肝炎 5例 |
B型4例_推定感染経路:性的接触(異性間)3例、不明1例
C型1例_推定感染経路:針刺し事故 |
クロイツフェルト・ヤコブ病 2例(孤発性1例、家族性1例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症 1例(60代、死亡)
後天性免疫不全症候群 14例 |
推定感染経路:性的接触11例(異性間3例、同性間7例、異性間/同性間1例)、不明3例
推定感染地域:国内8例、インドネシア1例、ベトナム1例、不明4例 |
梅毒 5例(早期顕症I期3例、早期顕症II期1例、無症候1例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症 1例(遺伝子型:不明_菌検出検体:尿)
(補)他に梅毒2例の報告があったが、削除予定。また、報告遅れとしてC型肝炎7例〔推定感染経路:全て院内感染(第6週報告分5例と同一医療機関)〕、レプトスピラ症1例(推定感染地域:マレーシア)、急性脳炎3例〔A型インフルエンザウイルス1例(4歳)、病原体不明2例(30代1例、70代1例)〕の報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:定点当たり報告数は第3週以降、大幅な増加が続いており、過
去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では宮崎県(76.5)、佐賀県(69.3)、愛知県(59.5)、埼玉県(57.8)、千葉県(56.8)、三重県(54.6)、神奈川県(52.8)が多い。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は微増し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では福井県(1.00)、熊本県(0.71)、北海道(0.47)、新潟県(0.47)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では富山県
(3.9)、石川県(3.5)、高知県(3.3)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では福井県(20.0)、宮崎県(15.7)、大分県(14.0)が多い。水痘の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では沖縄県(8.0)、宮崎県(4.5)、鹿児島県(3.4)、長野県(3.4)が多い。手足口病の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では佐賀県(0.57)、富山県(0.48)、島根県(0.48)が多い。百日咳の定点当たり報告数は低値が続いている。都道府県別では沖縄県(0.06)、奈良県(0.03)、宮崎県(0.03)が多い。風しんの定点当たり報告数は低値が続いていたが、第7週は微増した。都道府県別では沖縄県(0.06)、島根県(0.04)、徳島県(0.04)、鹿児島県(0.04)が多い。麻しんの定点当たり報告数は微減した。都道府県別では和歌山県(0.06)、広島県(0.03)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福井県(7.4)、佐賀県(3.3)、熊本県(2.9)が多いが、福井県では2004年の第42週以降、高値が続いている。RSウイルス感染症は、ゼロ報告を含めて38都道府県から128例の報告があり、報告数は横ばいであった。年齢別では、1歳以下が全体の71%である。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加した。過去5年間の同時期と比較してかなり多く、都道府県別では岡山県(2.40)、佐賀県(1.00)、山形県(0.90)が多い。
〈1月コメント〉
◆性感染症について 2005年2月15日集計分 性感染症定点数:921
2005年1月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が3.11(男1.31、女1.80)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.85(男0.34、女0.51)、尖圭コンジローマが0.55(男0.31、女0.24)、淋菌感染症が1.53(男1.29、女0.24)で、4疾患のうち、男性では性器クラミジア感染症および淋菌感染症、女性では性器クラミジア感染症が多かった(図1)。前月に比べ、男性の尖圭コンジローマと淋菌感染症がやや増加した他は、横ばいであった(「グラフ総覧」参照)。過去5年間の同時期と比較すると、男性では、性器クラミジア感染症が平均−1標準偏差(SD)を下回り、尖圭コンジローマが平均+2SDを上回った。女性では、性器ヘルペスウイルス感染症が平均+1SDを超えた(図2)。
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図1.各性感染症が総報告数に占める割合(1月)
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定点当たり報告数を年齢階級別・男女別に比較すると(図3:PDF参照)、いずれの疾患でもピークは20〜29歳にあったが、性器ヘルペスウイルス感染症では50代以降の高年齢層からの報告も少なくない。淋菌感染症では男性の占める割合が高いが、他の3疾患では若年齢層で女性の報告者数の方が多い。
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年齢層(15〜29歳)での各性感染症の定点当たり報告数を月別・男女別に図4(PDF参照)に示した。男性の性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症がやや増加したが、その他は横ばいである。
注:本発生動向調査で得られる性感染症患者報告数および解析結果は、現在の定点の構成に基づく制限のもとに解釈される必要がある。詳細はIDWR週報2000年第46号(10月報)4ページの説明を参照されたい。
◆薬剤耐性菌について (2月15日集計分)
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1月の基幹定点総数:
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470.
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[定点当たり報告数]
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
4.05(前月:3.87、前年同月:4.02)
定点当たり報告数は例年、年間を通してほぼ一定である。1月は前月より微増し、過去5年間の同月との比較では、最も多かった。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
1.17(前月:1.72、前年同月:1.20) 定点当たり報告数は例年、春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く推移している。1月は前月より減少し、過去5年間の同月との比較では、2003、2004年とほぼ同値であった。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.10(前月:0.09、前年同月:0.14)
定点当たり報告数は例年、年の前半が後半に比してわずかに少ないが、年間を通じてほぼ一定である。1月は前月より微増し、過去5年間の同月との比較では平均的な値であった。
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[年齢階級別]
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MRSA感染症
高齢者に多く、65歳以上が全体の72%(70歳以上が64%)を占めている(図1:PDF参照)。
PRSP感染症
小児に多く、10歳未満が全体の68%(5歳未満が61%)を占めている。また高齢者にも多く、65歳以上が全体の20%(70歳以上が17%)を占めている(図2:PDF参照)。
薬剤耐性緑膿菌感染症
高齢者に多く、65歳以上が全体の74%(70歳以上が60%)を占めている(図3:PDF参照)。
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[性別:女性を1 として算出した男/女比]
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MRSA感染症…1.8/1
PRSP感染症…1.3/1
薬剤耐性緑膿菌感染症…2.4/1
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[都道府県別]
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MRSA感染症
定点当たり報告数は栃木県(9.9)、山口県(9.0)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は千葉県(11.9)、富山県(8.6)が多い。
薬剤耐性緑膿菌感染症
定点当たり報告数は奈良県(0.7)、群馬県(0.4)が多い。
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◆結核サーベイランス月報 2月23日集計分
1月の新登録患者数は2,083人(男性1,334人、女性749人)で、このうち活動性肺結核患者は1,674人(うち喀痰塗抹陽性者は841人)であった。都道府県・政令指定都市別の新登録患者数は、東京都(255人)、大阪府(大阪市を除く)(136人)、千葉県(97人)、大阪市(88人)、愛知県(名古屋市を除く)(86人)が多い。
また、別掲により集計されているマル初者数*は323人であった。
*マル初者…結核の感染が強く疑われるが発病はしておらず、発病予防のための内服を行っている者。
詳しいコメントは、結核研究所の結核発生動向調査結果報告(http://www.jata.or.jp/tbmr/ tbmr.htm)をご覧ください。
また、9月15日に、2003年の結核発生動向調査年報が出されました。詳しくは、結核研究所ホ ームページ(http://www.jata.or.jp)でご覧下さい。
注目すべき感染症
◆インフルエンザ
2005年第7週の全国定点からのインフルエンザ報告数は191,948、定点当たり報告数は40.8で、第3週以降大幅な増加が続き、過去10シーズンでのピーク値との比較では3番目の高値に達した (図1)。保健所地域でみると、注意報レベルのみを超えているのが215地域、警報レベルを超えているのが338地域である。都道府県単位でみると、注意報レベルのみを超えた保健所があるのは3都道府県、警報レベルを超えた保健所があるのは44都道府県となった。また、都道府県別で定点当たり報告数が50を超えているのは、宮崎県(76.5)、佐賀県(69.3)、愛知県(59.5)、埼玉県(57.8)、千葉県(56.8)、三重県(54.6)、神奈川県(52.8)、山口県(50.2)、静岡県(50.1)、福岡県(50.0)の10県に及び、40を超えているのは20都県にまで広がり、全国的な流行の規模はさらに拡大した (図2)。
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図1. インフルエンザのシーズン別・週別発生状況(1994/95シーズン〜2005年第7週) |
図2. 週別・都道府県別インフルエンザ発生状況(2005年第7週) |
図3. インフルエンザの累積での年齢群別発症者の割合 |
インフルエンザウイルスの分離報告数では、B型が半数以上を占める状態が続いている(本号「病原体情報」参照)。
累積での年齢群別発症者の割合を昨シーズンと比較すると、今シーズンは5〜9歳の年齢層における発症者の割合が大きく増加し(21.0%→37.3%)、逆に15〜19歳の年齢層の発症者の割合が大きく低下(10.4%→1.6%)している(図3)。また、9歳以下の年齢層が60%以上を占めており、幼児から学童期前半までが中心である。 今シーズンの流行は過去10年間の中でも比較的大きなものとなりつつあり、第7週現在収束の兆しはみえていないので、流行状況の推移には注意が必要である。今後とも高齢者の超過死亡、低年齢者におけるインフルエンザ脳症の発症には注意すべきである。
◆麻しん
2004年の1年間では、全国約3,000ヵ所の小児科定点医療機関からの麻しん患者報告数(2005年1月28日現在暫定値)は1,554名、定点当たり報告数は0.51であった。これは、年間を通しても2医療機関に平均1例しか受診しなかったことを表している。麻しんはこの10年間、春季を中心とする流行を繰り返してきたが、昨年は全国単位では、流行と呼べる程の発症者の増加はみられなかった(図)。 |
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図. 麻しんの週別発生状況(1995〜2005年第7週) |
これは2001年の麻しん流行時期を契機として、1歳早期における麻しんワクチン接種の必要性が認識され、接種率の向上に関する全国的な啓発が行われた結果を反映して
いるものと考えられる。
しかしながら、感染症流行予測調査報告書(厚生労働省結核感染症課、都道府県および地方衛生研究所、国立感染症研究所などの協力による)によれば、2002年度の1歳の麻しん抗体保有率(PA抗体価1:16以上)は73.2%で、前年度(43.9%)に比べて大幅に上昇していたが、2003年度は61.9%と低下している。麻しんの流行の中心は1歳児を中心とした乳幼児であるので、流行を抑制するためには、1歳での抗体保有率を高くするのを目的に、1歳早期のワクチン接種率を上げなければならない。流行抑制のための目標値は、1歳児の麻しん接種率95%である。一部の自治体では、1歳早期における高い接種率の目標設定と、その維持に対する努力が続けられているものの(速報「那覇市における麻しん対策−五者会議の設立と成果について−」参照)、現状のままでは麻しんウイルスに対する感受性者が全国的に蓄積し、近い将来、2001年のような流行が再来する可能性が高いと思われる。
また、思春期以降の世代における麻しんの集団発生は、ワクチン接種によって一度は免疫が得られたにもかかわらず、麻しんウイルスの曝露機会の減少に伴ってブースター効果が低減し、
後年感染して麻しんを発症するいわゆるsecondary vaccine failure(SVF)との関連が以前より指摘されてきた(国立感染症研究所感染症情報センター「麻しんの現状と対策について」参照)。しか
しながら、わが国の麻しんワクチン定期接種は1回であり、最近の麻しん発症者数の減少はより一層、麻しんワクチン既接種者における曝露の機会の減少に繋がっており、今後新たな麻しんの流行が生じた際には、これまで以上に思春期以降の麻しん発症者の割合が増加するものと懸念される。
麻しんは特異的な治療法がなく、カタル期・発疹期を合わせると1週間以上高熱が続き、肺炎、麻しん脳炎などの合併症を高率に合併する疾患である。また、空気感染する感染症であり、感染力は極めて強い。これまで春季を中心とした流行がみられてきたが、度々集団発生の報告があったように、卒業(園)式、入学(園)式など、大勢の感受性者が一堂に会するようなこれらの行事は要注意である。
再び麻しんの流行を起こさないためには、1歳群におけるワクチン接種率のより一層の向上を目指すことはいうまでもない。さらに、1)1回接種だけでは免疫が賦与されなかった者(接種者全体の約5%)にも改めて免疫を獲得する機会を与え、2)麻しんウイルスに対する曝露機会の減少によるブースター効果の低減を防止し、3)何らかの理由により1回目の接種機会を逃した者に接種機会を与える、などの3つの理由により、今後は2回接種を導入し、わが国からの麻しんの排除を目指すべきであろう。
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