発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(第2003年第43号「速報」参照)。
〈第16週コメント〉4月28日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が、集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ 2例(ともに疑似症)
細菌性赤痢 3例(推定感染地域:国内1例、タイ1例、ラオス1例)
パラチフス 1例(推定感染地域:カンボジア) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 21例(うち有症者14例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(8例)、O157 VT2(5例)、O26 VT1(4例)、O157 VT1(2例)、O111 VT1(1例)、その他(1例)
年齢:10歳未満(8例)、10代(5例)、20代(1例)、30代(5例)、50代(1例)、60代(1例) |
4類感染症: |
オウム病 4例(推定感染源:セキセイインコ1例、インコ3例)
デング熱 1例(推定感染地域:インド)
レジオネラ症 1例(50代)
E型肝炎 1例(推定感染地域:国内.推定感染源:不明)
A型肝炎 2例(推定感染地域:ともに国内) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 6例 |
推定感染地域:ともに国内
推定感染経路:性的接触(異性間)1例、不明1例 |
クロイツフェルト・ヤコブ病 1例(孤発性) |
後天性免疫不全症候群 11例 |
(無症候6例、AIDS 3例、その他2例)
推定感染経路:性的接触10例(異性間4例、同性間5例、異性間/同性間1例)、不明1例
推定感染地域:国内10例、不明1例 |
髄膜炎菌性髄膜炎 1例(0歳.推定感染地域:国内)
梅毒 7例(早期顕症I期3例、早期顕症II期2例、無症候2例)
破傷風 1例(80代)
急性脳炎 2例〔ともに病原体不明(2歳、20代)〕
(補)他に、クロイツフェルト・ヤコブ病1例の報告があったが、削除予定。また、報告遅れとしてE型肝炎1例(推定感染地域:国内.推定感染源:不明)、急性脳炎11例〔インフルエンザウイルスA型8例(1歳、2歳、3歳、4歳、5歳、6歳2例、10歳)、インフルエンザウイルスB型3例(1歳、7歳、9歳)〕の報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い状態は継続している。都道府県別では秋田県(13.5)、北海道(9.7)、沖縄県(9.4)、鳥取県(9.1)、福井県(8.7)、山形県(7.5)が多い。北海道では2週連続して増加し、山形県でも前週より増加している。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では石川県(0.62)、福井県(0.62)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では北海道(3.5)、山形県(3.0)、新潟県(2.3)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では鳥取県(17.6)、福井県(17.3)、宮崎県(11.4)、石川県(11.0)、大分県(11.0)が多い。水痘の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(3.0)、福岡県(2.5)、三重県(2.3)が多い。手足口病の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(1.94)、佐賀県(0.91)、高知県(0.87)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福岡県(1.03)、佐賀県(1.00)、福島県(0.77)が多い。百日咳の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では栃木県(0.07)が多い。風しんの定点当たり報告数は微増した。都道府県別では沖縄県(0.15)、群馬県(0.05)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第12週以降、増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では高知県(1.26)、佐賀県(1.22)、愛媛県(1.00)が多い。麻しんの定点当たり報告数は微増した。都道府県別では沖縄県(0.09)、東京都(0.04)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福井県(2.6)、熊本県(2.5)、香川県(2.3)が多い。RSウイルス感染症は、ゼロ報告を含めて35都道府県から40例の報告があり、報告数は増加した。年齢別では、1歳以下が全体の70%を占めている。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では石川県(1.40)、山口県(1.22)、福島県(1.00)が多い。
注目すべき感染症
◆ 水 痘
水痘は、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の初感染によって生じる急性伝染性疾患である。主な感染経路は、ウイルスを含有した飛沫による感染、あるいは飛沫核による感染(空気感染)であり、感染力は極めて強い。通常は2週間前後(10〜21日)の潜伏期間を経て、発疹、倦怠感、発熱を主症状として発症するが、成人では、発疹が他の症状の出現よりも1〜2日程度遅れることがある。発疹は紅斑として始まり、丘疹を経て短時間で水疱となり、痂皮化する。発疹は全身性であるが、体幹、顔面に多く、四肢には少ない。急性期には紅斑、丘疹、水疱、痂皮のそれぞれの段階が混在するのが特徴である。健康小児においては罹患者の大半が順調に経過し、予後は良好である。ただし、医原的な理由などにより免疫力が低下している児や、成人における発症例では重症化し、場合によっては死亡することもある。
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図1. 水痘の年齢別発生状況(2004年) |
図2. 水痘の年別・年齢別割合(1999年4月〜2004年) |
図3. 水痘の年別・週別発生状況(1995年〜2005年第16週) |
2004年の定点医療機関からの総報告数は246,655例であったが、1999年4月に感染症法が施行されて以降、大きな変動はない。また、年齢別内訳をみると1〜4歳児が中心であり、6歳以下が全体の90%以上、9歳以下が95%以上を占めている(図1)。これは1999年以降の過去5年間でも同様である(図2)。この様に、現在わが国では発症者の多くが学童期前であり、ほとんどが小学校低学年頃までに罹患している。
世界に先駆けて日本で開発された岡株水痘ワクチンは世界保健機関(WHO)によって、有効性および安全性の点で最も望ましいワクチンであると認められ、多くの国で認可されて接種されている。ワクチン接種後の抗体陽転率は健康小児で95%以上であり、軽症例まで含めた予防効果は80〜85%、中等症例および重症例の予防効果は95〜100%とされている。一方、わが国における水痘ワクチンの国内向け生産量は麻疹ワクチンの約1/4と少なく、ワクチン接種率は25〜30%程度であると考えられる。乳幼児の保育施設に限るとさらに接種率が低く(7.6〜13%程度)、毎年のように施設内集団感染が発生している(水痘1982〜2004. IASR, vol. 25, p318-320, 2004)。この様にわが国では、ワクチンにより水痘の流行をコントロールするには至っていない状況である。
時期的には、例年第19〜24週(5〜6月)頃に小さなピークを形成した後は減少に向かい、第36〜38週(9月)に最低となり、その後増加に転じ、第51〜翌年第2週(12〜1月)頃に別のピークを形成する流行形態となっている(図3)。これから6月にかけて罹患者数が増加すると推測されるが、新年度となり、感受性者の割合が増加している保育施設などの乳幼児の集団生活施設では、特に注意が必要である。
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