発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(第2003年第43号「速報」参照)。
*第17・18週は連休の影響があるので、本号は2週合併号とする。そのため、全数報告疾患については第17週、18週に分けて述べるが、定点報告疾患である5類感染症(週報対象のもの)については、第17週についてのみコメントする。
〈第17週コメント〉5月9日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が、集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
細菌性赤痢 7例(推定感染地域:国内1例、パキスタン2例、ベトナム2例、イ ンド1例、カンボジア1例)
パラチフス 1例(推定感染地域:中国) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 18例(うち有症者10例)
報告の多い都道府県:愛知県(7例、保育施設での集団発生)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(14例)、O26 VT1(2例)、O157 VT2(1例)、その他(1例)
年齢:10歳未満(4例)、10代(2例)、20代(5例)、30代(3例)、40代(1例)、50代(1例)、60代(2例) |
4類感染症: |
オウム病 1例(推定感染源:インコ)
デング熱 1例(推定感染地域:マレーシア)
マラリア 1例(熱帯熱_推定感染地域:アフリカ)
レジオネラ症 4例(50代1例、60代2例、70代1例) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 10例 |
推定感染地域:国内7例、フィリピン1例、オーストラリア1例、不明1例
推定感染経路:経口1例、性的接触2例(異性間1例、同性間1例)、不明7例 |
ウイルス性肝炎 1例〔B型_推定感染経路:性的(異性間)接触〕
クリプトスポリジウム症 1例(推定感染源:仔牛)
クロイツフェルト・ヤコブ病 1例(孤発性) |
後天性免疫不全症候群 5例 |
(無症候2例、AIDS 3例)
推定感染経路:性的接触2例(同性間1例、異性間/同性間1例)、不明3例
推定感染地域:国内3例、タンザニア1例、不明1例 |
梅毒 3例(早期顕症II期1例、無症候2例)
破傷風 1例(50代)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症 2例
(ともに遺伝子型:VanB_菌検出検体:膿)
(補)他に、細菌性赤痢2例の報告があったが削除予定。 |
〈第18週コメント〉5月12日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が、集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
細菌性赤痢4例(推定感染地域:ベトナム2例、インド1例、フィリピン1例) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 18例(うち有症者14例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(7例)、O157 VT2(7例)、O26 VT1(2例)、O157 VT1(1例)、その他(1例)
年齢:10歳未満(4例)、10代(2例)、20代(3例)、30代(3例)、50代(2例)、60代(3例)、70歳以上(1例) |
4類感染症: |
つつが虫病 3例(福島県2例、鳥取県1例)
デング熱 2例(推定感染地域:インドネシア1例、タイ1例)
日本紅斑熱 1例(宮崎県)
レジオネラ症 1例(60代)
E型肝炎1例(推定感染地域:国内.推定感染源:不明)
A型肝炎 1例(推定感染地域:韓国)
レプトスピラ症 1例(推定感染地域:国内) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 3例 |
推定感染地域:国内2例、アジア1例
推定感染経路:経口1例、不明2例 |
劇症型溶血性レンサ球菌感染症 1例(50代.死亡) |
後天性免疫不全症候群 5例 |
(すべて無症候) 推定感染経路:性的接触3例(異性間2例、同性間1例)、不明2例
推定感染地域:国内3例、不明2例 |
梅毒 1例(無症候)
(補)他に、細菌性赤痢1例の報告があったが削除予定。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い状態は継続している。都道府県別では鳥取県(12.7)、秋田県(9.7)、島根県(9.2)、沖縄県(7.7)、広島県(7.6)が多い。鳥取県、島根県では前週よりも大きく増加している。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は3週連続して増加した。都道府県別では福井県(0.95)、兵庫県(0.66)、長崎県(0.64)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は微減した。都道府県別では山形県(3.7)、北海道(3.0)、石川県(2.6)、新潟県(2.5)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は微減した。都道府県別では福井県(15.1)、鳥取県(12.4)、大分県(11.4)、宮崎県(11.1)、石川県(10.1)が多い。水痘の定点当たり報告数は2週連続して増加した。都道府県別では沖縄県(4.5)、石川県(3.9)、宮崎県(3.7)が多い。手足口病の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では沖縄県(2.38)、高知県(1.45)、広島県(0.87)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は2週連続して増加した。都道府県別では福岡県(1.00)、鹿児島県(0.75)、秋田県(0.73)が多い。百日咳の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では鳥取県(0.05)、広島県(0.04)が多い。風しんの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では埼玉県(0.03)、石川県(0.03)、京都府(0.03)、沖縄県(0.03)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第12週以降、増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では高知県(1.9)、愛媛県(1.7)、群馬県(1.0)、佐賀県(1.0)が多い。麻しんの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では大阪府(0.03)、青森県(0.02)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続して減少した。都道府県別では福井県(3.7)、佐賀県(2.8)、香川県(2.3)が多い。RSウイルス感染症は、ゼロ報告を含めて30都道府県から24例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では、1歳以下が全体の67%を占めている。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では石川県(2.0)、山口県(1.3)、福島県(1.1)が多い。
注目すべき感染症
◆ 麻しん
麻しんは、麻しんウイルス(measles virus)の初感染によって発生する急性の伝染性疾患である。感染経路は空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染と様々であり、感染力は極めて強い。さらに、免疫を保有していない者が感染した場合の発症率は、ほぼ100%である。潜伏期間は通常10日前後であり、臨床経過は以下の3段階に分かれる。1)カタル期:2〜4日間。38〜39℃前後の発熱、倦怠感、上気道炎症状、結膜炎症状が続き、経過中に頬粘膜にコプリック斑が出現する、2)発疹期:3〜5日間。カタル期の熱が一度下降した後、再び高熱(39℃以上)を発するとともに、顔面および頭部から始まる特異的な皮疹が全身に広がる、3)回復期:解熱し、発疹は出現した順に色素沈着を残しながら消退する。
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図1. 麻しんの年別・週別発生状況(1995年〜2005年第18週) |
図2. 麻しんの年別発生状況(2000〜2004年) |
合併症の頻度は高く、2000年の大阪での麻しん流行時の患者4,564名に対する調査では、合併症の発生率は32.6%に達し、その約半数が肺炎(15.2%)、次いで腸炎(3.1%)、中耳炎(2.1%)の順であり、脳炎も0.2%にみられた。また、患者全体での入院率は約40%であった(「麻しんの現状と今後の麻しん対策について」国立感染症研究所感染症情報センター;平成14年10月、 http://idsc.nih.go.jp/disease/measles /report2002/measles_top.html)。
2001年には麻しんが全国的に流行し、報告数が増加した年であったが(図1)、その年から「麻しんワクチンを1歳のお誕生日のプレゼントにしましょう」のキャンペーンが開始され、そのためか、1歳児、2歳児における麻しんワクチン接種率、麻しん抗体陽性者率ともに上昇がみられた(「麻しん2001〜2003年」IASR, vol. 25, p60-61, 2003)。その後、報告数は減少を続け、2001年の33,812例から2004年は1,554例へと大きく減少した(図2)。2005年では現在までのところ、2004年よりもさらに報告数が減少している(図1)。
しかしながら、感染症流行予測調査報告書(厚生労働省結核感染症課、都道府県および地方衛生研究所、国立感染症研究所などの協力による)によると、発生の中心である1歳児の麻しん抗体保有率(PA抗体価1:16以上)は2003年度において61.9%であり、麻しんの発生を恒常的に抑制できるとは考え難い。最近の麻しんの発生数の減少によって、麻しんウイルスに曝露する機会は大きく減少している。現在わが国では麻しんワクチンの定期接種の機会は1回であるので、このようなウイルス曝露機会の減少がブースター効果の低減に繋がり、ワクチン既接種者の免疫の減衰を招くことも危惧される。
現状のままでは、近い将来において再び麻しんの局地的な、あるいは全国的な流行が生じる可能性もある。また、その際には1歳を中心とした乳幼児のみならず、思春期以降の比較的高年齢層において集団発生や流行が生じる可能性が高い。例年であれば、これから麻しんの発生が増加する時期であるので、今後の動向には注意が必要である。
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