発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(第2003年第43号「速報」参照)。
〈第19週コメント〉5月19日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が、集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ 7例(推定感染地域:すべてインドネシア) 細菌性赤痢 16例(推定感染地域:国内1例、インド4例、インドネシア2例、カンボジア2例、エジプト2例、タイ1例、ネパール1例、バングラデシュ1例、ケニア1例、不明1例) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 23例(うち有症者19例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(9例)、O157 VT1(1例)、O26 VT1(1例)、O157 VT2(7例)、その他(5例)
年齢:10歳未満(9例)、10代(5例)、20代(2例)、30代(3例)、60代(3例)、70歳以上(1例) |
4類感染症: |
エキノコックス症 1例(多包条虫)
オウム病 1例(推定感染源:インコ)
つつが虫病 8例(福島県3例、山形県2例、新潟県2例、長野県1例)
マラリア 1例(三日熱_推定感染地域:インド)
レジオネラ症 4例(60代2例、70代1例、80代1例)
A型肝炎 1例(推定感染地域:国内) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 6例 |
推定感染地域:国内4例、フランス1例
推定感染経路:経口2例、性的接触(異性間/同性間)1例、不明2例 |
ウイルス性肝炎 2例 |
B型1例(推定感染経路:不明)
C型1例(推定感染経路:刺青) |
後天性免疫不全症候群 8例 |
(無症候5例、AIDS 3例)
推定感染経路:すべて性的接触(同性間6例、異性間2例) 推定感染地域:国内7例、不明1例 |
ジアルジア症 1例(推定感染地域:インド)
梅毒 6例(早期顕症I期2例、早期顕症II期1例、無症候3例)
破傷風 1例(50代)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症 1例(ともに遺伝子型:VanA_菌検出検体:尿)
(補)報告遅れとして、E型肝炎1例(推定感染地域:国内.推定感染源:不明)、急性脳炎1例(インフルエンザウイルスA型.2歳)の報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:定点当たり報告数は減少した。過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い状態であるが、2005年第2週以降、18週ぶりに1.0を下回った。都道府県別では鳥取県(4.3)、島根県(2.8)、広島県(2.5)と、中国地方の3県が多い。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加し、2005年第1週以降では最高値となったが、過去5年間の同時期と比較してもやや多い。都道府県別では福井県(0.86)、山口県(0.69)、石川県(0.62)、岐阜県(0.62)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では山形県(4.0)、新潟県(3.2)、北海道(2.9)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福井県(12.9)、新潟県(11.5)、大分県(10.5)、鳥取県(9.2)が多い。水痘の定点当たり報告数は大きく増加した。都道府県別では新潟県(3.9)、富山県(3.9)、福島県(3.5)、山形県(3.2)が多い。手足口病の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(6.53)、広島県(1.05)、愛媛県(1.00)が多く、特に沖縄県では、本島を中心に報告数の増加が続いている。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福岡県(0.85)、鹿児島県(0.70)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福井県(0.09)、栃木県(0.07)、香川県(0.06)が多い。風しんの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では和歌山県(0.06)、青森県(0.02)、千葉県(0.02)、神奈川県(0.02)、岡山県(0.02)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第12週以降、増加が続き、過去5年間の同時期と比較してもやや多い。都道府県別では愛媛県(2.2)、高知県 (1.8)、佐賀県(1.5)が多い。麻しんの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では石川県(0.03)、沖縄県(0.03)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続して増加した。都道府県別では福井県(5.0)、石川県(3.6)、熊本県(2.8)が多い。RSウイルス感染症は、ゼロ報告を含めて33都道府県から33例の報告があり、報告数は増加した。年齢別では、1歳以下が全体の67%を占めている。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してもかなり多い。都道府県別では岡山県(1.8)、山形県(1.6)、山口県(1.4)、福島県(1.3)が多い。
注目すべき感染症
◆ コ レ ラ
コレラは、1〜5日(通常1日以内)の潜伏期の後に、下痢や嘔吐で急激に発症する腸管感染症である。ほとんどの場合、腹痛や発熱はみられない。典型的には激しい水様性下痢(重症では“米のとぎ汁様”)と、これに伴う脱水を生じるが、近年の報告症例では軽症であることが多い。しかし、胃腸の弱い人(胃切除者や胃酸が低下している人)や高齢者、乳幼児では重症化して死亡することもあり、油断できない疾患である。感染症法では2類感染症として疑似症患者、無症状病原体保有者を含む症例の報告が義務づけられており、また、検疫法で規定される感染症でもある。
1999年4月の感染症法施行以降のコレラの年間累積報告数は、1999年39例、2000年58例、2001年50例、2002年51例、2003年25例、2004年82例(2005年1月20日現在)である。本年(2005年)の報告数は、第19週(5月19日集計)までで20例であるが、第19週には7例の報告がみられた。 |
|
図 コレラの週別推定感染国別報告数(2005年第1〜19週, N=16) |
これら7例の推定感染地域はすべて、インドネシアのバリ島であり(図)、男性6例、女性1例で、年齢群では30代3例、40代1例、60代3例(年齢中央値42歳)であった。また、無症状病原体保有者1例を除く6例の発病日は、5月6〜12日であった。検出された菌は、全例が血清型O1で生物型はエルトール小川であった。
2004年に推定感染地域が国外として報告されたコレラ65例の推定感染国は、フィリピン33例、インド21例、タイ7例、中国3例、インド/中国1例であり、インドネシアはなかった。しかし、1995年にはバリ島観光ツアー帰国者の間で、1年間に296人(患者278人、および無症状病原体保有者18人。37都道府県)に及ぶ爆発的なコレラの発生を経験しており、今後の発生動向には注意が必要である。
アジア、アフリカ諸国などの熱帯・亜熱帯諸国をはじめとするコレラ流行地域へ渡航する場合には、常に生水、氷、生の魚貝類、生野菜、カットフルーツなどを避けることが肝要である。
IDWRトップページへ戻る
|