発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(2003年第43号「速報」参照)。
〈第20週コメント〉 5月26日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が、集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ 1例〔推定感染地域:インドネシア(バリ島)〕
細菌性赤痢 3例(推定感染地域:国内1例、フィリピン1例、インド1例)
腸チフス 1例(推定感染地域:国内) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 47例(うち有症者30例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(20例)、O157 VT2(7例)、O26 VT1(7例)、O157 VT1(5例)、O26 VT1・VT2(2例)、O164 VT1(1例)、その他(5例)
年齢:10歳未満(13例)、10代(8例)、20代(7例)、30代(6例)、40代(3例)、50代(3例)、60代(1例)、70歳以上(6例) |
4類感染症: |
エキノコックス症 1例(多包条虫)
つつが虫病 5例(秋田県3例、宮城県1例、長野県1例)
マラリア 1例(卵形_推定感染地域:チャド)
レジオネラ症 3例(60代1例、70代2例)
A型肝炎 2例(推定感染地域:国内1例、不明1例) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 7例 |
推定感染地域:すべて国内
推定感染経路:性的接触3例(異性間1例、同性間2例)、不明4例 |
ウイルス性肝炎 3例 |
〔すべてB型_推定感染経路:性的接触(異性間)2例、不明1例〕 |
クロイツフェルト・ヤコブ病 2例(孤発性1例、家族性1例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症 1例(70代)
後天性免疫不全症候群 14例 |
(無症候9例、AIDS 4例、その他1例)
推定感染経路:すべて性的接触(異性間5例、同性間9例)
推定感染地域:国内12例、英国1例、不明1例 |
ジアルジア症 1例(推定感染地域:インド)
梅毒 6例(早期顕症I期3例、早期顕症II期2例、無症候1例)
破傷風 1例(50代)
急性脳炎 2例〔単純ヘルペスウイルス1例(70代)、病原体不明1例(3歳)〕
(補)報告遅れとして、急性脳炎1例(HHV-6. 0歳)の報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:定点当たり報告数は微増し、過去5年間の同時期(前週、当該
週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では鳥取県(6.6)、北海道(3.2)、秋田県(2.9)、広島県(2.8)が多い。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では新潟県(0.88)、福井県(0.68)、三重県(0.60)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では山形県(4.9)、北海道(3.4)、山口県(2.9)、石川県(2.9)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福井県(13.7)、新潟県(12.0)、福島県(9.9)、大分県(9.1)、宮崎県(9.1)が多い。水痘の定点当たり報告数は大きく減少した。都道府県別では山口県(2.8)、富山県(2.8)、和歌山県(2.7)が多い。手足口病の定点当たり報告数は増加が続いている。都道府県別では沖縄県(11.0)、鳥取県(3.3)、広島県(1.8)、熊本県(1.2)が多く、特に沖縄県では、宮崎県が記録した昨年の最高値(10.7)を上回った。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福岡県(1.40)、鹿児島県(0.96)、神奈川県(0.89)が多い。百日咳の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では沖縄県(0.09)、栃木県(0.07)、高知県(0.06)が多い。風しんの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では鳥取県(0.05)、徳島県(0.04)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第12週以降、8週連続して増加が続いている。都道府県別では愛媛県(2.6)、群馬県(2.0)、高知県(1.9)が多い。麻しんの定点当たり報告数は微増した。都道府県別では広島県(0.03)、大阪府(0.02)、青森県(0.02)、群馬県(0.02)、千葉県(0.02)、鹿児島県(0.02)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福井県(3.9)、石川県(2.9)、広島県(2.2)が多い。RSウイルス感染症は、ゼロ報告を含めて30都道府県から25例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では、1歳以下が全体の60%を占めている。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は横ばいであった。過去5年間の同時期と比較してもかなり多い。都道府県別では石川県(2.6)、埼玉県(1.8)、群馬県(1.2)が多い。
〈4月コメント〉
◆性感染症について 2005年5月16日集計分 性感染症定点数:922
2005年4月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が2.87(男1.23、女1.64)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.88(男0.33、女0.55)、尖圭コンジローマが0.60(男0.33、女0.27)、淋菌感染症が1.23(男1.01、女0.23)で、4疾病のうち、男性では性器クラミジア感染症および淋菌感染症、女性では性器クラミジア感染症が多かった(図1)。前月に比べ、尖圭コンジローマを除いて、他は全体に減少または横ばいであった(「グラフ総覧」参照)。過去5年間の同時期と比較すると、尖圭コンジローマが男女で、また、性器ヘルペスウイルス感染症が女性で、平均+1標準偏差(SD)を上回ったが、その他は平均−1SDを下回っていた(図2)。
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図1.各性感染症が総報告数に占める割合(4月)
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定点当たり報告数を年齢階級別・男女別に比較すると(図3:PDF参照)、いずれの疾患でもピークは20〜29歳にあったが、性器ヘルペスウイルス感染症では50代以降の高年齢層からの報告も少なくない。淋菌感染症では男性の占める割合が高いが、他の3疾患では若年齢層で女性の報告者数の方が多い。
感染症法が施行された1999年4月以降について、クラミジア感染症および淋菌感染症の年齢階級別定点当たり報告数を月別・男女別に図4(PDF参照)に示した。両疾病ともに、2003年の夏以降、特に若年齢層で減少傾向が見られる。
注:本発生動向調査で得られる性感染症患者報告数および解析結果は、現在の定点の構成に基づく制限のもとに解釈される必要がある。詳細はIDWR週報2000年第46号(10月報)4ページの説明を参照されたい。
◆薬剤耐性菌について (5月16日集計分)
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4月の基幹定点総数:
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470.
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[定点当たり報告数]
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
3.89(前月:4.46、前年同月:3.89)
定点当たり報告数は、例年年間を通してほぼ一定である。2005年4月は前月より減少したが、過去6年間の同月との比較では、最も多かった。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
1.20(前月:1.02、前年同月:1.43)
定点当たり報告数は、例年春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く推移しているが、2004年は1〜6月までほぼ同数で推移した。2005年4月は前月より増加し、過去6年間の同月との比較では、2004年に次いで多かった。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.09(前月:0.11、前年同月:0.13)
定点当たり報告数は、例年年の前半が後半に比してわずかに少ないが、年間を通じてほぼ一定である。2005年4月は前月より減少し、過去6年間の同月との比較では2002年、2004年、2003年に次いで多かった。
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[年齢階級別]
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MRSA感染症
高齢者に多く、65歳以上が全体の73%(70歳以上が65%)を占めている(図1:PDF参照)。
PRSP感染症 小児に多く、10歳未満が全体の59%(5歳未満が55%)を占めている。また高齢者にも多く、65歳以上が全体の26%(70歳以上が21%)を占めている(図2:PDF参照)。
薬剤耐性緑膿菌感染症 高齢者に多く、65歳以上が全体の80%(70歳以上が73%)を占めている(図3:PDF参照)。
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[性別:女性を1 として算出した男/女比]
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MRSA感染症…1.7/1
PRSP感染症…1.4/1
薬剤耐性緑膿菌感染症…1.3/1
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[都道府県別]
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MRSA感染症
定点当たり報告数は栃木県(7.9)、香川県(7.8)、高知県(7.7)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は千葉県(10.6)、富山県(9.0)が多い。
薬剤耐性緑膿菌感染症
定点当たり報告数は和歌山県(0.9)が多い。
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◆結核サーベイランス月報 5月24日集計分
4月の新登録患者数は2,306人(男性1,503、女性803人)で、このうち活動性肺結核患者は1,848人(うち喀痰塗抹陽性者は925人)であった。都道府県・政令指定都市別の新登録患者数は、東京都(295人)、大阪市(152人)、大阪府(大阪市を除く)(128人)、千葉県(千葉市を除く)(103人)、愛知県(名古屋市を除く)(99人)が多い。
また、別掲により集計されているマル初者数*は356人であった。
*マル初者…結核の感染が強く疑われるが発病はしておらず、発病予防のための内服を行っている者。
詳しいコメントは、結核研究所の結核発生動向調査結果報告(http://www.jata.or.jp/tbmr/ tbmr.htm)をご覧ください。
また、2003年の結核発生動向調査年報は結核研究所ホームページ(http://www.jata.or.jp)でご覧ください。
注目すべき感染症
◆風しん
風しんは、風しんウイルスによって生ずる急性の発疹性感染症で、例年春先から初夏にかけて患者数の増加がみられる。風しん患者の唾液などに含まれるウイルスが飛沫(唾液などのしぶき)となって、周囲の人の鼻や口に入ることで伝播する。2〜3週間(平均16〜18日)の潜伏期間の後、発疹(全身性の小さな赤い発疹)と発熱(約半数では無熱)が3日間程みられ、リンパ節腫脹(耳介後部、後頭部、後頚部に多い)も出現する。リンパ節腫脹は発疹出現の数日前から始まり、3〜6週間持続する。感染しても症状が出現しない不顕性感染が15〜30%(〜50%)程度あると考えられている。症状は小児では通常軽いが、2,000〜5,000人に1人程度に脳炎や血小板減少性紫斑病などの合併症が発生するので、決して軽視できない疾患である。成人では、小児に比べて発疹や発熱の期間が長く、関節痛が多いとされ、1週間以上仕事を休まなければならない場合もある。通常、一度かかると生涯持続する免疫ができ、再感染することはあっても再度発症することはない。
全国約3,000カ所の小児科定点医療機関からの報告による、風しんの発生状況をみると、2004年の総報告数/定点当たり報告数は4,248人/1.40人で、2000年以降では最多であった(表)。都道府県別では群馬県が551人/9.03人、大分県が244人/6.78人、栃木県が244人/5.26人、鹿児島県が279人/4.98人、沖縄県が132人/3.88人で多かった。また、小児科を標榜する定点医療機関からの報告にもかかわらず、20歳以上の占める割合が13%を占めており (図1)、決して“子どもの病気”と考えてはならない。2005年は現在までのところ、報告数の少ない状況が続いている (図2)。
一方、妊娠前半期の妊婦が感染することで胎児に感染して先天異常を生じることがあり、先天性風しん症候群と呼ばれている。主な症状は先天性心疾患、難聴、白内障である。先天性風しん症候群は1999年4月から届出疾患(感染症法の全数把握疾患)となり、1999年には報告がなく、2000〜2003年は各年1例であったが、2004年には10例が報告された。2005年は現在まで報告はない。
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図1. 風しんの年齢別発生状況(2004年) | 図2. 風しんの年別・週別発生状況(1999年4月〜2005年第20週) |
表. 風しんの年別報告数(1999年4月〜2004年) |
風しんと先天性風しん症候群はワクチンで予防できる疾患である。副反応はほとんどなく、接種によってほぼ確実に(95%以上)抗体を得ることができる。現在、12〜90月未満の者を対象に定期接種が行われているが、主な目的は、小児を中心に起こる風しんの流行を抑制することによって、妊婦への感染を防ぐことである。定期接種の対象者とともに、特に風疹ワクチン接種を受けてもらいたい人達は、(1)妊婦の夫、子供、その他の同居者、(2)10代後半から40代の女性、(3)妊婦健診で風しん抗体陰性または弱陽性と判明した分娩後の女性である。先天性風しん症候群の発生をなくすためには、より多くの風しんの免疫のない人々がワクチン接種を受け、社会全体で風しんの流行を確実に抑制することが重要である。
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