発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(第2003年第43号「速報」参照)。
〈第25週コメント〉6月30日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が、集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
細菌性赤痢 6例(推定感染地域:インド1例、ベトナム1例、スーダン1例、モ
ロッコ1例、ベトナム/シンガポール1例、不明1例) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 88例(うち有症者65例)
報告の多い都道府県:千葉県(11例)、佐賀県(7例)、宮崎県(7例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(37例)、O157 VT2(16例)、O26 VT1(12例)、O157 VT1(4例)、O8 VT1(1例)、O103 VT1(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、O111 VT1(1例)、O121 VT2(1例)、その他(14例)
年齢:10歳未満(37例)、10代(5例)、20代(11例)、30代(7例)、40代(6例)、50代(2例)、60代(5例)、70歳以上(15例) |
4類感染症: |
オウム病 1例(推定感染源:オカメインコ)
つつが虫病 4例(山形県3例、群馬県1例)
デング熱 1例(推定感染地域:インドネシア)
日本紅斑熱 1例(島根県)
マラリア 1例(熱帯熱_推定感染地域:マラウイ)
レジオネラ症 2例(40代1例、70代1例)
E型肝炎 1例〔推定感染地域:国内、推定感染源:生レバー(種類は不明)〕
A型肝炎 1例(推定感染地域:国内) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 11例 |
推定感染地域:国内9例、インドネシア1例、アジア1例
推定感染経路:経口1例、性的接触4例(異性間1例、同性間3例)、不明6例 |
ウイルス性肝炎 3例 〔すべてB型_推定感染経路:性的接触(異性間)2例、不明1例〕
クロイツフェルト・ヤコブ病 2例(ともに孤発性.70代1例、80代1例) |
後天性免疫不全症候群 11例 |
(無症候7例、AIDS 3例、その他1例)
推定感染経路:すべて性的接触(異性間3例、同性間8例)
推定感染地域:すべて国内 |
ジアルジア症 1例(推定感染地域:ヨルダン)
梅毒 5例(早期顕症I期1例、早期顕症II期2例、無症候2例)
破傷風 2例(ともに70代)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症 1例
(遺伝子型:VanB_菌検出検体:尿)
(補)他に、細菌性赤痢1例、ジアルジア症1例の報告があったが削除予定。また、報告遅れとして、つつが虫病1例(新潟県.死亡)、E型肝炎2例(推定感染地域:ともに国内、推定感染源:ともに不明)、急性脳炎1例〔病原体不明(9歳)〕の報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:定点当たり報告数は減少した。都道府県別では沖縄県(3.84)、
宮崎県(0.12)、長野県(0.11)が多い。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第18週以降、増加が続いており、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では福岡県(1.8)、石川県(1.7)、福井県(1.4)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は3週連続して減少している。都道府県別では山形県(2.7)、宮崎県(2.7)、茨城県(2.4)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は4週連続して減少した。都道府県別では大分県(7.0)、鳥取県(6.5)、福井県(6.2)、福島県(6.2)が多い。水痘の定点当たり報告数は2週連続して減少した。都道府県別では福井県(2.8)、青森県(2.7)、静岡県(2.7)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第18週以降、増加が続いている。都道府県別では広島県(5.4)、沖縄県(5.4)、福島県(3.8)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福岡県(1.7)、神奈川県(1.4)、福島県(1.2)が多い。百日咳の定点当たり報告数は微減した。都道府県別では広島県(0.12)、高知県(0.06)が多い。風しんの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では滋賀県(0.06)、岩手県(0.05)、群馬県(0.05)、宮崎県(0.05)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第12週以降、一貫して増加が続いている。都道府県別では富山県(12.9)、三重県(11.8)、愛知県(6.4)、埼玉県(5.9)、山形県(5.8)が多い。麻しんの定点当たり報告数は微減した。都道府県別では群馬県(0.10)、千葉県(0.04)、徳島県(0.04)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続して増加した。都道府県別では石川県(3.5)、広島県(2.8)、福井県(2.7)、熊本県(2.6)が多い。RSウイルス感染症は、ゼロ報告を含めて32都道府県から24例の報告があり、報告数は微増した。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では宮城県(2.2)、石川県(2.0)、岡山県(1.6)、埼玉県(1.4)が多い。
注目すべき感染症
◆ マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)を病原体とする呼吸器感染症であるが、定型的な細菌性肺炎と異なって重症感が少なく、胸部レントゲン像も異なると考えられ、かつては「異型肺炎」の一つに分類されていた。1999年4月施行の感染症法によって、病原体診断を含んだマイコプラズマ肺炎として発生動向調査が行われることとなった。本疾患は飛沫感染で伝播する。感染には濃厚接触が必要と考えられており、実際に保育施設、幼稚園、学校などの閉鎖施設内や家庭などでの感染伝播がみられるが、短時間の曝露による感染拡大の可能性は低い。潜伏期間は2〜3週間であり、初発症状は発熱、全身倦怠、頭痛などである。本症の特徴的な症状である咳は、初発症状発現後3〜5日後より始まることが多く、当初は乾性咳であるが、経過に従って徐々に増強し、解熱後も長期に渡って(3〜4週間)持続する。年長児や青年では、後期には湿性の咳となることが多い。鼻炎症状、嗄声、咽頭痛、胸痛、喘息様気管支炎、さらには皮疹がみられることもある。
本症は基本的には予後良好な疾患であり、一般状態も悪化しないことが特徴とされてきたが、実際には重症肺炎となることもあり、胸水貯留も珍しくはない。その他の合併症として、中耳炎、無菌性髄膜炎、脳炎、肝炎、膵炎、心筋炎、関節炎、スティーブンス・ジョンソン症候群などがあげられる。
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図1. マイコプラズマ肺炎の年別発生状況(2000〜2004年) |
図2. マイコプラズマ肺炎の年別・週別発生状況(1999〜2005年) |
図3. マイコプラズマ肺炎報告症例の年別・年齢別割合(2000〜2004年) |
マイコプラズマ肺炎の発生動向調査は、全国の基幹定点医療機関からの報告によってなされている。年別にみると、2002〜2004年にかけて報告数の増加がみられているが(図1)、血清IgM抗体を検出する迅速診断キットが普及したことも関係があると考えられる。従来、わが国では4年周期でオリンピックの年に流行がみられてきたが、近年この傾向は崩れつつある。季節的には通年性に発生が認められるが、過去5年間では冬季(第50週前後)にピークがみられ、またこの3年間では夏季(第25週前後)にも小さなピークがみられている(図2)。また、本年は今までのところ、過去5年間の同時期と比較して報告数が多い傾向にある。2000〜2004年の過去5年間の報告の年齢別割合では、9歳以下が60%以上、14歳以下が80%以上を占めており、発生の中心は小児である(図3)。
現在は夏季の疾患発生のピークに当たる時期であり、その発生動向には今後とも注意が必要である。
◆腸管出血性大腸菌感染症
腸管出血性大腸菌感染症はベロ毒素(Verotoxin=VT)を産生する大腸菌、すなわち腸管出
血性大腸菌による腸管感染症である。大腸菌は多くの血清型に分類されており、そのうちVT
産生性のものは数十種類に及ぶ。わが国ではO157が最も多く、次いでO26、O111が多い。本
症は感染症法の三類感染症として、患者及び無症状病原体保有者の届け出が診断したすべて
の医師に義務づけられている。
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図1. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の年別・週別発生状況 |
図2. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の都道府県別発生状況 |
2005年の報告数は第20週に50例を超えた後、徐々に増加し、第23週には100例を超えた。第25週の報告数は88例で、第25週までの累積報告数は758例(2002年794例、2003年570例、 2004年758例)であり、現在までのところ2004年と同程度で、例年に比べて特に多いとは言えない(図1)。 第25週に報告の多かった都道府県は千葉県(11例)、佐賀県(7例)、宮崎県(7例)であり、累積報告数では大分県(73例)、大阪府(49例)、宮城県(42例)、愛知県(42例)、福岡県(42例)が多い(図2)。
第25週に報告された88例のうち、性別では男性32例、女性56例であり、年齢階級別(10歳毎)では相変わらず0〜9歳(37例)が最も多く、約40%を占める。また、有症状者は65例(74%)で、無症状病原体保有者が23例であった。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の定期検便によって発見される場合もあるが、多くは探知された患者と食事を共にした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。また、溶血性尿毒症症候群(HUS)が1例報告され、累積では12例となったが、年齢では10歳未満が7例(うち5歳未満は5例)で、10代3例、50代1例、70代1例であった。今年に入ってから感染症法の下での死亡例の報告はないが(6月30日現在)、最近北海道で4例の死亡が公表されている。
血清型・毒素型別では、第25週はO157 VT1・VT2(37例)、O157 VT2(16例)、O26 VT1(12例)の順に多く、累積報告数では、O157 VT1・VT2(264例)、O157 VT2(183例)、O26 VT1(146例)の順に多い。
今後本症の発生が増加する盛夏に向かうが、すでに施設などにおける集団発生がみられて いるので、十分な警戒が必要である。食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することも大切である。
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