発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(第2003年第43号「速報」参照)。
〈第26週コメント〉7月7日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が、集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ 1例(推定感染地域:国内)
細菌性赤痢 9例(推定感染地域:インド4例、フィリピン2例、ベトナム1例、インドネシア1例、タンザニア1例) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 113例(うち有症者79例)
報告の多い都道府県:北海道(29例)*、東京都(11例)、岡山県(10例)
*このうち27例は介護保険施設における集団発生
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(62例)、O157 VT2(14例)、O26 VT1(10例)、O111 VT1(3例)、O157 VT1(2例)、O111 VT1・
VT2(1例)、O18 VT2(1例)、O165 VT2(1例)、その他(19例)
年齢:10歳未満(39例)、10代(15例)、20代(5例)、30代(6例)、40代(5例)、50代(10例)、60代(7例)、70歳以上(26例) |
4類感染症: |
Q熱 1例(推定感染源:不明)
つつが虫病 3例(青森県2例、岩手県1例)
日本紅斑熱 1例(徳島県)
マラリア 2例 三日熱1例(推定感染地域:ブラジル)
熱帯熱 1例(推定感染地域:ガーナ)
ライム病 1例(推定感染地域:国内)
レジオネラ症 2例(60代1例、70代1例)
E型肝炎 1例(推定感染地域:パキスタン、推定感染源:不明)
A型肝炎 2例(推定感染地域:国内1例、韓国1例)
レプトスピラ症 1例(推定感染地域:国内) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 10例 |
推定感染地域:国内8例、不明2例
推定感染経路:性的接触2例(異性間1例、同性間1例)、不明8例 |
ウイルス性肝炎 6例 |
B型4例〔推定感染経路:性的接触(異性間)1例、不明2例、その他1例〕
C型2例(推定感染経路:血液透析1例、不明1例) |
クロイツフェルト・ヤコブ病 2例(ともに孤発性.50代1例、60代1例) |
後天性免疫不全症候群 11例 |
(無症候9例、AIDS 1例、その他1例)
推定感染経路:性的接触8例(異性間1例、同性間7例)、不明3例
推定感染地域:国内10例、不明1例 |
ジアルジア症 2例(推定感染地域:国内1例、不明1例)
梅毒 5例(早期顕症II期4例、無症候1例)
破傷風 1例(70代)
(補)他に、マラリア1例の報告があったが削除予定。また、報告遅れとして、急性脳炎2例〔水痘・帯状疱疹ウイルス1例(3歳)、病原体不明1例(2歳)〕の報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:定点当たり報告数は横ばいであったが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では沖縄県(5.0)、茨城県(0.05)、鹿児島県(0.05)が多いが、沖縄県では本島地域を中心に増加が目立っている。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は微減した。都道府県別では福岡県(1.7)、福井県(1.3)、静岡県(1.0)、香川県(1.0)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は、4週連続して減少した。都道府県別では茨城県(2.2)、宮崎県(2.2)、山形県(2.2)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は減少が続いている。都道府県別では大分県(6.5)、宮崎県(5.6)、三重県(5.4)が多い。水痘の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では群馬県(3.1)、埼玉県(2.9)、長野県(2.8)、三重県(2.8)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第18週以降、増加が続いている。都道府県別では広島県(7.7)、沖縄県(5.1)、山口県(4.8)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福岡県(1.3)、神奈川県(1.2)、秋田県(1.1)、福島県(1.1)が多い。百日咳の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では秋田県(0.06)、広島県(0.05)、長崎県(0.05)が多い。風しんの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(0.06)、群馬県(0.05)、岡山県(0.04)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第12週以降、一貫して増加が続いている。都道府県別では富山県(15.7)、三重県(15.1)、埼玉県(9.1)、愛知県(9.1)が多い。麻しんの定点当たり報告数は微増した。都道府県別では滋賀県(0.12)、秋田県(0.03)、群馬県(0.03)、富山県(0.03)、沖縄県(0.03)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では石川県(3.6)、富山県(2.9)、佐賀県(2.3)、熊本県(2.2)が多い。RSウイルス感染症は、ゼロ報告を含めて30都道府県から30例の報告があり、報告数は増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の33%である。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では石川県(2.2)、宮城県(1.7)、山口県(1.4)、茨城県(1.1)が多い。
注目すべき感染症
◆ 腸管出血性大腸菌感染症
腸管出血性大腸菌感染症はベロ毒素(verotoxin=VT)を産生する大腸菌、すなわち腸管出血性大腸菌による腸管感染症である。大腸菌は多くの血清型に分類されており、そのうちVT産生性のものは数十種類に及ぶ。わが国ではO157が最も多く、次いでO26、O111が多い。本症は感染症法の三類感染症として、患者及び無症状病原体保有者の届け出が診断したすべての医師に義務づけられている。
2005年の報告数は第20週に50例を超えた後、徐々に増加し、第23週には100例を超えた。第26週の報告数は113例で、第26週までの累積報告数は881例(2002年985例、2003年635例、2004年881例)であり、現在までのところ2004年と同程度で、例年に比べて特に多いとは言えない(図1)。
第26週に報告の多かった都道府県は北海道(29例)、東京都(11例)、岡山県(10例)であり、累積報告数では大分県(76例)、大阪府(52例)、愛知県(49例)、福岡県(47例)、東京都(45例)が多い(図2)。
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図1. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の年別・週別発生状況 |
図2. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の都道府県別発生状況 |
第26週に報告された113例のうち、性別では男性41例、女性72例であり、年齢階級別(10歳毎)では0〜9歳(39例)が最も多く、約35%を占めた。また、有症状者は79例(70%)で、無症状病原体保有者が34例であった。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の定期検便によって発見される場合もあるが、多くは探知された患者と食事を共にした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。また、溶血性尿毒症症候群(HUS)が2例報告され、累積では14例となったが、14例の年齢は10歳未満が9例(うち5歳未満は5例)で、10代3例、50代1例、70代1例であった。死亡例が2例、ともに北海道から報告されたが、これは感染症法の元での今年初めての死亡報告である(北海道で他に2例の死亡が新聞報道されている)。
血清型・毒素型別では、第26週はO157 VT1・VT2(62例)、O157 VT2(14例)、O26 VT1(10例)の順に多く、累積報告数では、O157 VT1・VT2(326例)、O157 VT2(201例)、O26 VT1(158例)の順に多い。
今後本症の発生が増加する盛夏に向かうが、すでに施設などにおける集団発生や死亡の報告がみられているので、十分な警戒が必要である。食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。
◆ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナ(herpangina)の定点当たり報告数は第12週以降、一貫して増加しており、特に1.0を超えた第23週以降は急増している(図1)。第26週における都道府県別の定点当たり報告数は、富山県(15.7)、三重県(15.1)、埼玉県(9.1)、愛知県(9.1)の順となっているが、特に富山県、三重県では2週連続して10を超えている。1995年以降の過去10年間をみると、報告数のピークは第28週前後(第28週がピークであった年が6回、第29週が3回、第27週が1回)であり、本年もまもなくピークを迎えるものと予想される。
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図1. ヘルパンギーナの年別・週別発生状況 |
図2. ヘルパンギーナ患者由来ウイルス分離状況(2005年7月1日現在) |
病原ウイルスはA群コクサッキーウイルス(CA2、CA4、CA5、CA6、CA8、CA10など)が多く、本年は今までCA6が比較的多く分離されているが、昨年最も多かったCA4の分離報告はまだみられていない(図2)。
ヘルパンギーナの流行の推移には、今後とも十分な注意が必要である。
◆ 手足口病 手足口病(hand-foot-and-mouth disease : HFMD)の定点当たり報告数は第18週以降、増加が続いている。第26週の都道府県別定点当たり報告数は、広島県(7.7)、沖縄県(5.1)、山口県(4.8)、福島県(3.7)、青森県(3.3)の順となっている。一時期、定点当たり報告数の大きな増加がみられた沖縄県では、第23週以降報告数は低下してきているが、広島県をはじめとする多くの都道府県ではまだ増加が続いており、引き続き注意が必要である。1995年以降の過去10年間をみると、報告数のピークは第29週前後(第29週がピークであった年が4回、第28週が3回、第27週が2回、第30週が1回)である。本年は今までのところ、例年と比較して多いとは言えないが、まもなくピークを迎えるものと予想される(図1)。
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図1. 手足口病の年別・週別発生状況 |
図2.手足口病患者由来ウイルス分離状況(2005年7月1日現在) |
病原ウイルスは主にA群コクサッキーウイルス16型(CA16)、エンテロウイルス71型(EV71)である。中枢神経系合併症が比較的多いEV71の分離報告は、2005年シーズンでは今までのところ第5週の1例のみであり、現時点では本ウイルスが流行する兆候はみられていない(図2)。
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