発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(2003年第43号「速報」参照)。
〈第28週コメント〉 7月21日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
細菌性赤痢 17例(推定感染地域:国内3例、インド4例、インドネシア2例、ミャンマー1例、バングラデシュ1例、タイ1例、タイ/カンボジア1例、メキシコ1例、ガーナ1例、エジプト1例、不明1例) 腸チフス1例(推定感染地域:インドネシア) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 169例(うち有症者120例)
報告の多い都道府県:岐阜県18例、宮崎県(16例)*、埼玉県(12例)、東京都(12例)
*このうち7例は保育園における集団発生
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(67例)、O26 VT1(29例)、O157 VT2(25例)、O157 VT1(8例)、O103 VT1(2例)、O1 VT1(1例)、O26 VT1・VT2(1例)、O28 VT2(1例)、O111 VT1(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、その他(33例)
年齢:10歳未満(68例)、10代(28例)、20代(22例)、30代(12例)、40代(9例)、50代(15例)、60代(8例)、70歳以上(7例) |
4類感染症: |
Q熱1例(推定感染源:イヌ)
つつが虫病2例(青森県1例、岡山県1例)
日本紅斑熱1例(島根県)
マラリア1例(熱帯熱_推定感染地域:ガーナ)
レジオネラ症7例(40代1例、50代3例、60代3例) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 6例 |
推定感染地域:国内2例、中国1例、台湾1例、タイ1例、カンボジア1例
推定感染経路:経口3例、性的接触(同性間)1例、不明2例 |
ウイルス性肝炎1例(B型_推定感染経路:不明)
クロイツフェルト・ヤコブ病1例〔孤発性(70代)〕
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(70代)
後天性免疫不全症候群 11例 |
11例(無症候3例、AIDS 7例、その他1例)
推定感染経路:性的接触10例(異性間1例、同性間8例、異性間/同性間1例)、不明1例
推定感染地域:すべて国内 |
梅毒 5例(早期顕症II期2例、晩期顕症1例、無症候2例) 破傷風 2例(80代1例、90代1例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例 (遺伝子型:VanA_菌検出検体:喀痰)
(補)他に、報告遅れとしてE型肝炎1例(推定感染地域:ネパール)の報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:定点当たり報告数は2週連続して増加し、過去5年間の同時期 (前週、当該週、後週)と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では沖縄県(14.26)、鹿児島県(0.09)、山梨県(0.05)が多いが、沖縄県では、本島地域を中心にさらに増加している。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では宮城県(1.6)、福岡県(1.6)、福井県(1.1)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第22週以降、減少が続いている。都道府県別では宮崎県(2.1)、山形県(2.0)、北海道(1.9)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第21週以降、減少が続いている。都道府県別では宮崎県(5.8)、福井県(5.6)、大分県(5.4)、愛媛県(4.9)が多い。水痘の定点当たり報告数は 2週連続して減少した。都道府県別では群馬県(1.9)、三重県(1.8)、埼玉県(1.8)、長野県(1.8)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第18週以降、連続して増加が続いている。都道府県別では広島県(12.5)、山口県(12.3)、宮城県(4.3)、福島県(3.8)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福岡県(1.2)、神奈川県(1.2)、福島県(1.1)、山梨県(1.1)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では大分県(0.08)、栃木県(0.07)、和歌山県(0.06)が多い。風しんの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では茨城県(0.08)、滋賀県(0.03)、奈良県(0.03)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第12週以降、連続して増加が続いている。都道府県別では三重県(17.1)、愛知県(11.5)、石川県(11.4)、埼玉県(10.6)が多い。麻しんの定点当たり報告数は微減した。都道府県別では群馬県(0.03)、滋賀県(0.03)、京都府(0.03)、香川県(0.03)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では富山県(3.0)、石川県(2.8)、茨城県(2.5)、沖縄県(2.5)が多い。RSウイルス感染症は、ゼロ報告を含めて35都道府県から18例の報告があり、報告数は増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約50%を占めている。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い状態が続いている。都道府県別では宮城県(1.8)、青森県(1.7)、山口県(1.4)が多い。
(補)風しんの報告(京都府、富山県)と、麻しんの報告〔宮城県(一部)、熊本県〕は取り消し予定。
〈6月コメント〉
◆性感染症について 2005年7月11日集計分 性感染症定点数:923
2005年6月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が3.46(男1.52、女1.94)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.89(男0.38、女0.50)、尖圭コンジローマが0.68(男0.36、女0.32)、淋菌感染症が1.35(男1.09、女0.26)で、4疾患のうち、男性では性器クラミジア感染症および淋菌感染症、女性では性器クラミジア感染症が多かった(図1)。前月に比べると、男女ともに、性器クラミジア感染症および尖圭コンジローマの増加が顕著である(グラフ総覧参照)。過去5年間の同時期と比較すると、性器クラミジア感染症が女性で平均−1標準偏差(SD)を、淋菌感染症が男性で平均-2SDを下回っていた。一方、尖圭コンジローマが男女ともに平均+1SDを超えていた(図2)。
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図1.各性感染症が総報告数に占める割合(5月)
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定点当たり報告数を年齢階級別・男女別に比較すると(図3:PDF参照)、いずれの疾患でもピークは20〜29歳にあったが、性器ヘルペスウイルス感染症では50代以降の高年齢層からの報告も少なくない。淋菌感染症では男性の占める割合が高いが、他の3疾患では若年齢層で女性の報告者数の方が多い。
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年齢層(15〜29歳)での各性感染症の定点当たり報告数を月別・男女別に図4(PDF参照)に示した。性器クラミジア感染症は男女ともに引き続き上昇し、他は横ばいである。
注:本発生動向調査で得られる性感染症患者報告数および解析結果は、現在の定点の構成に基づく制限のもとに解釈される必要がある。詳細はIDWR週報2000年第46号(10月報)4ページの説明を参照されたい。
◆薬剤耐性菌について (7月11日集計分)
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6月の定点(基幹定点)総数:470.
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[定点当たり報告数]
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
3.97(前月:3.83、前年同月:3.95)
定点当たり報告数は、例年年間を通してほぼ一定である。本年6月は前月より増加し、過去6年間の同月との比較では、最も多かった。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
1.22(前月:1.36、前年同月:1.33)
定点当たり報告数は、例年春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く推移しているが、昨年(2004年)は1〜6月までほぼ同数で推移した。本年は2003
年以前と同様に4月、5月と増加し、6月に微減した。過去6年間の同月との比較では、2003年、2001年、2004年に次いで多かった。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.10(前月:0.08、前年同月:0.12)
定点当たり報告数は、例年、年の前半が後半に比してわずかに少ないが、年間を通じてほぼ一定である。本年6月は前月より増加し、過去6年間の同月との比較では2001年の次に少なかった。
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[年齢階級別]
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MRSA感染症
高齢者に多く、65歳以上が全体の72.2%(70歳以上が64%)を占めている(図1:PDF参照)。
PRSP感染症 小児に多く、10歳未満が全体の74%(5歳未満が67%)を占めている。また高齢者にも多く、65歳以上が全体の16%(70歳以上が14.5%)を占めている(図2:PDF参照)。
薬剤耐性緑膿菌感染症 高齢者に多く、65歳以上が全体の77.6%(70歳以上が73.5%)を占めている(図3:PDF参照)。
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[性別:女性を1 として算出した男/女比]
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MRSA感染症…1.7/1
PRSP感染症…1.4/1
薬剤耐性緑膿菌感染症…1.6/1
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[都道府県別]
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MRSA感染症
定点当たり報告数は奈良県(10.2)、高知県(9.4)、香川県(9.3)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は千葉県(15.2)、富山県(6.2)が多い。
薬剤耐性緑膿菌感染症
定点当たり報告数は香川県(0.8)が多い。
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◆結核サーベイランス月報 7月25日集計分
6月の新登録患者数は2,597人(男性1,684、女性913人)で、このうち活動性肺結核患者は2,071人(うち喀痰塗抹陽性者は994人)であった。都道府県・政令指定都市別の新登録患者数は、東京都(328人)、大阪府(大阪市を除く)(165人)、大阪市(141人)、愛知県(名古屋市を除く)(123人)、千葉県(千葉市を除く)(103人)が多い。
また、別掲により集計されているマル初者数*は302人であった。
*マル初者…結核の感染が強く疑われるが発病はしておらず、発病予防のための内服を行っている者。
詳しいコメントは、結核研究所の結核発生動向調査結果報告(http://www.jata.or.jp/tbmr/ tbmr.htm)をご覧ください。
また、2003年の結核発生動向調査年報は結核研究所ホームページ(http://www.jata.or.jp)でご覧ください。
注目すべき感染症
◆インフルエンザ
インフルエンザの定点医療機関からの発生報告は、第27週に増加したが、第28週も増加が続いており、報告数は866(定点当たり報告数は0.18)となった (図1)。第27週と同様、大半が沖縄県からの報告であり、同県からの報告数は827(定点当たり報告数は14.26)と、全国の95.5%を占めている。
第28週は、定点当たり報告数が10.0を超えて、注意報レベルに達している地域が増加し、中 央保健所管内、南部保健所管内、そして中部保健所管内となった(図2)。沖縄県で分離されたインフルエンザウイルスは、2005年4月以降はAH3型のみであり、また6月中旬から7月にかけて毎週のように同ウイルスが分離されていることからも、現在の流行はAH3型によるものと考えられる。
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図1. インフルエンザの発生状況 |
図2. 沖縄県の各保健所管内におけるインフルエンザ発生状況 |
第28週には、沖縄県以外にも15の道府県からインフルエンザの発生報告があったが、報告数が10名を超えているところはなかった。第29週からは、多くの教育機関や施設が夏季休暇に入るが、沖縄県での流行の推移を注視するとともに、他の都道府県での新たな流行の発生にも注意していく必要がある。
◆腸管出血性大腸菌感染症
腸管出血性大腸菌感染症はベロ毒素(verotoxin=VT)を産生する大腸菌、すなわち腸管出血性大腸菌による腸管感染症である。大腸菌は多くの血清型に分類されており、そのうちVT産生性のものは数十種類に及ぶ。わが国ではO157が最も多く、次いでO26、O111が多い。本症は感染症法の三類感染症として、患者及び無症状病原体保有者の届け出が診断したすべての医師に義務づけられている。
2005年の報告数は第20週に50例を超えた後、徐々に増加し、第23週には100例を超えた。第28週の報告数は169例で、第26週からは継続して100例を超えている。また、累積報告数は1,204例(2002年1,260例、2003年831例、2004年1,151例)であり、現在までのところ例年に比べて特に多いとは言えない(図1)。
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図1. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の年別・週別発生状況 |
図2. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の都道府県別発生状況 |
第28週に報告の多かった都道府県は岐阜県(18例)、宮崎県(16例)、埼玉県(12例)、東京都(12例)であり、宮崎県では保育園での集団発生がみられている。累積報告数では大分県(80例)、北海道(78例)、大阪府(69例)、東京都(64例)が多い (図2)。
第28週に報告された169例のうち、性別では男性81例、女性88例であり、年齢階級別(10歳毎)では相変わらず0〜9歳が68例で最も多く、40%を占めた。また、有症状者は120例(71%)で、無症状病原体保有者が49例であった。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の定期検便によって発見される場合もあるが、多くは探知された患者と食事を共にした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。また感染症法の元での溶血性尿毒症症候群(HUS)の報告は、第28週に3例で、累積では17例となったが、死亡の報告はなく、累積では2例である。血清型・毒素型別では、第28週はO157 VT1・VT2(67例)、O26 VT1(29例)、O157 VT2(25例)の順に多く、累積報告数では、O157 VT1・VT2(450例)、O157 VT2(260例)、O26 VT1(222例)の順に多い。
例年集団発生が多く認められる保育施設も含め、本年も各種施設における集団発生や死亡の報告がなされている。本症の発生が増加する盛夏に入ったので、十分な警戒が必要である。食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。保育所においては、特にオムツ交換時の手洗い、園児に対する食前・食後の手洗い指導の徹底、簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。
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