発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(平成15年11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(2003年第43号「速報」参照)。
〈第32週コメント〉8月18日集計分
注意:これはこれは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
細菌性赤痢9例(推定感染地域:国内3例、インド2例、中国1例、インドネシア1例、フィリピン1例、ベトナム1例)
腸チフス2例(推定感染地域:フィリピン1例、疑似症1例)
パラチフス1例(推定感染地域:中国) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症137例(うち有症者100例)
報告の多い都道府県:千葉県(15例)*、愛知県(14例)、大阪府(11例)
*うち10例は児童福祉施設での集団発生
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(46例)、O157 VT2(41例)、O26 VT1(21例)、O111 VT1・VT2(4例)、O157 VT1(3例)、O26
VT1・VT2(3例)、O111 VT1(1例)、O111 VT2(1例)、その他(17例)
年齢:10歳未満(64例)、10代(21例)、20代(23例)、30代(13例)、40代(3例)、50代(4例)、60代(7例)、70歳以上(2例) |
4類感染症: |
オウム病1例(推定感染源:インコ)
デング熱2例(推定感染地域:インドネシア1例、シンガポール1例)
日本紅斑熱2例(島根県1例、高知県1例)
ライム病1例(推定感染地域:国内)
レジオネラ症6例(60代3例、70代3例)
A型肝炎1例(推定感染地域:ブータン) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 7例 |
推定感染地域:国内5例、不明2例
推定感染経路:経口3例、性的接触(同性間)1例、不明3例 |
ウイルス性肝炎4例 |
B型3例〔推定感染経路:性的接触(異性間)2例、不明1例〕
C型1例〔推定感染経路:性的接触(異性間)〕 |
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(ともに孤発性)) 劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(40代.死亡)
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後天性免疫不全症候群 |
11例(無症候7例、AIDS 4例)
推定感染経路:性的接触8例(異性間4例、同性間4例)、不明3例
推定感染地域:国内9例、不明2例 |
ジアルジア症2例(推定感染地域:国内1例、不明1例)
梅毒12例(早期顕症I期5例、早期顕症II期5例、無症候2例)
破傷風1例(70代)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例 (遺伝子型:VanB_菌検出検体:便)
(補)他に報告遅れとして、デング熱3例(推定感染地域:ミャンマー1例、フィリピン1例、シンガポール1例)、ライム病1例(推定感染地域:国内)、急性脳炎2例〔ともに病原体不明(4歳、および10代の死亡例)〕の報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い状態が継続している。都道府県別では沖縄県(3.36)、鹿児島県(0.17)、茨城県(0.07)が多い。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では愛媛県(1.5)、高知県(1.4)、静岡県(1.2)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第22週以降、減少が続いている。都道府県別では山口県(1.00)、宮崎県(0.89)、大分県(0.83) が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第21週以降、減少が続いている。都道府県別では福井県(7.1)、大分県(5.5)、宮崎県(4.9)が多い。水痘の定点当たり報告数は3週連続して減少した。都道府県別では福井県(1.3)、大分県(1.1)、島根県(1.0)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第28週以降、減少が続いている。都道府県別では鳥取県(5.9)、山口県(4.4)、岡山県(4.4)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は第28週以降、減少が続いている。都道府県別では青森県(0.60)、鹿児島県(0.54)、福岡県(0.50)が多い。百日咳の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では福岡県(0.08)、香川県(0.06)、長崎県(0.05)が多い。風しんの定点当たり報告数は微増した。都道府県別では福島県(0.04)、広島県(0.03)が多いが、福島県では継続的に同一地域での発生が認められている。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第28週以降、減少が続いている。都道府県別では長野県(5.3)、宮崎県(5.3)、青森県(5.0)、大分県(4.4)が多い。麻しんの定点当たり報告数は微減した。都道府県別では山梨県(0.04)、新潟県(0.03)、大阪府(0.02)、長崎県(0.02)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続して減少した。都道府県別では石川県(4.7)、沖縄県(3.0)、香川県(2.4)、熊本県(2.3)が多い。RSウイルス感染症は、ゼロ報告を含めて32都道府県から31例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では、1歳以下が全体の約45%を占めている。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では岡山県(2.2)、石川県(1.6)、山口県(1.4)が多い。
(補)東京都の風しんおよび麻しんの報告は取り消し予定。
注目すべき感染症
◆マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae )を病原体とする呼吸器感染症である。感染経路としては飛沫感染による経気道感染が主である。感染に は濃厚接触が必要であり、保育施設、幼稚園、学校などの施設内や家庭などでの感染伝播はみられるが、短時間の曝露による感染拡大の可能性はそれほど高くはない。潜伏期間は2〜3週間であり、初発症状は発熱、全身倦怠、頭痛などである。本症の特徴的な症状である咳は、初発症状発現後3〜5日後より始まることが多く、当初は乾性咳であるが、経過に従って徐々に増強し、解熱後も長期にわたって(3〜4週間)持続することがある。
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図1. マイコプラズマ肺炎の年別発生状況(2005年第32週現在) |
図2. 2005年におけるマイコプラズマ肺炎の過去5年間との週別比較 |
図3. マイコプラズマ肺炎の年別・週別発生状況(1999-2005年) |
これまで、わが国では4年周期でオリンピックの年に流行がみられてきたが、近年この傾向は崩れつつある。2000〜2004年にかけて、マイコプラズマ肺炎の報告数の増加がみられており、2005年も第32週現在の累積報告数が、2000年以降では最高値となっている(図1)。また、2005年は過去5年間の同時期と比較して、常にその平均値を超える状態が続いている(図2)。都道府県別では2000年以降、宮城県、岩手県、山形県などの東北地方の県が毎年上位にあり、2005年もその傾向は変わってはいないが、第32週現在での累積報告数が最も多いのは山口県である。季節的には通年性に発生が認められるが、過去5年間では冬季(第50週前後)にピークがみられ、またこの3年間では夏季(第25週前後)にも小さなピークがみられている(図3)。
最近の増加については、患者血清を用いた迅速診断キットの普及による影響も否定はできないものの、今後は冬季に向けてマイコプラズマ肺炎の発生報告が増加していくものと考えられるため、その発生動向には注意が必要である。
◆腸管出血性大腸菌感染症
腸管出血性大腸菌感染症の2005年の報告数は第20週に50例を超えた後、増加傾向が認め られ、第23週には100例、第28週には150例を超えた。その後は週ごとに増減はあるものの、第 26週からは継続して100例を超えている。本年第32週までの累積報告数は1,816例(2002年1,924 例、2003年1,282例、2004年1,907例)であり、現在までのところ、例年に比べて特に多いとは言 えない(図1)。
都道府県別では、第32週に報告の多かったのは千葉県(15例)、愛知県(14例)、大阪府(11 例)であり、千葉県では児童福祉施設での集団発生が認められている。また、累積報告数では 大阪府(111例)、北海道(108例)、東京都(107例)が多い(図2)。
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図1. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の年別・週別発生状況 |
図2. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の都道府県別発生状況 |
図3. 腸管出血性大腸菌感染症の年齢別発生状況 |
第32週に報告された137例のうち、性別では男性55例、女性82例であり、年齢階級別(10歳 毎)では相変わらず0〜9歳(64例)が最も多く、47%を占めた(図3)。また、有症状者は100例 (73%)で、無症状病原体保有者が37例であった。無症状病原体保有者は、食品産業従事者 の定期検便によって発見される場合もあるが、多くは探知された患者と食事を共にした者や、 接触者の調査などによって発見される場合が多い。また、第32週には、溶血性尿毒症症候群 (HUS)、死亡ともに報告はなく、累積ではそれぞれ19例、2例である。HUSなどの合併症や死 亡については、届け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があり、発生があっ た場合の追加・修正報告をお願いしている。
血清型・毒素型別では、第32週はO157 VT1・VT2(46例)、O157 VT2(41例)、O26 VT1(21 例)の順に多く、累積報告数では、O157 VT1・VT2(682例)、O157 VT2(383例)、O26 VT1 (325例)の順に多い。
例年集団発生が多く認められる保育施設も含め、本年も各種施設における集団発生や死亡 の報告がなされており、十分な警戒が必要である。食品の取り扱いには十分注意して食中毒 の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防すること が大切である。保育所においては、特にオムツ交換時の手洗い、園児に対する食前・食後の 手洗い指導の徹底、簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。
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