発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(2003年第43号「速報」参照)。
〈第33週コメント〉 8月25日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
:細菌性赤痢6例(推定感染地域:インド2例、フィリピン2例、パキスタン1例、メキシコ1例)
腸チフス1例(推定感染地域:国内)
パラチフス1例(推定感染地域:バングラデシュ) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症症164例(うち有症者107例)
報告の多い都道府県:東京都(17例)、大阪府(17例)、埼玉県(13例)、福岡県(12例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(66例)、O157 VT2(44例)、O26 VT1(31例)、O157 VT1(8例)、O111 VT1(2例)、O26 VT1+O111 VT1(1例)、その他(12例)
年齢:10歳未満(79例)、10代(17例)、20代(15例)、30代(24例)、40代(8例)、50代(6例)、60代(9例)、70歳以上(6例) |
4類感染症: |
A型肝炎1例(推定感染地域:国内)
デング熱1例(推定感染地域:マレーシア)
日本紅斑熱1例(宮崎県)
マラリア1例(三日熱_推定感染地域:パプアニューギニア)
レジオネラ症5例(50代2例、60代1例、70代2例) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 9例 |
推定感染地域:国内6例、ベトナム1例、不明2例
推定感染経路:経口3例、性的接触(同性間)1例、不明5例 |
ウイルス性肝炎2例
〔ともにB型_推定感染経路:性的接触(異性間)1例、不明1例〕
クロイツフェルト・ヤコブ病4例(すべて孤発性)
後天性免疫不全症候群 11例 |
(無症候8例、AIDS 2例、その他1例)
推定感染経路:性的接触10例(異性間5例、同性間3例、異性間/同性間2例)、不明1例
推定感染地域:国内7例、ウガンダ1例、東南アジア1例、不明2例 |
ジアルジア症1例(推定感染地域:ガーナ)
梅毒8例(早期顕症I期1例、早期顕症II期4例、晩期顕症1例、無症候2例)
破傷風1例(60代)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例 (遺伝子型:VanB_菌検出検体:中心静脈カテーテル)
(補)他に、細菌性赤痢1例、腸管出血性大腸菌感染症1例、アメーバ赤痢1例、梅毒1例の報告があったが削除予定。また、報告遅れとして、コクシジオイデス症1例(推定感染地域:米国アリゾナ州)、アメーバ赤痢1例(死亡)の報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い状態が継続している。都道府県別では沖縄県(2.03)、鹿児島県(0.10)、茨城県(0.03)、三重県(0.03)が多い。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は2週連続して減少した。都道府県別では大分県(2.1)、静岡県(1.3)、高知県(1.2)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第22週以降、減少が続いている。都道府県別では大分県(0.97)、徳島県(0.96)、宮崎県(0.92)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第21週以降、減少が続いている。都道府県別では宮崎県(5.8)、福井県(5.8)、大分県(5.7)が多い。水痘の定点当たり報告数は第29週以降、減少が続いている。都道府県別では山梨県(1.00)、佐賀県(0.91)、新潟県(0.84)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第28週以降、減少が続いている。都道府県別では新潟県(3.6)、鳥取県(3.5)、岡山県(3.5)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は第28週以降、減少が続いている。都道府県別では青森県(0.52)、福島県(0.48)、福岡県(0.43)が多い。百日咳の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では福岡県(0.07)、和歌山県(0.06)、長崎県(0.05)が多い。風しんの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では東京都(0.03)、千葉県(0.02)、兵庫県(0.02)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第28週以降、減少が続いている。都道府県別では新潟県(4.2)、宮崎県(3.7)、青森県(3.5)が多い。麻しんの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では鳥取県(0.05)、秋田県(0.03)、和歌山県(0.03)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では沖縄県(3.4)、石川県(3.2)、茨城県(2.5)が多い。RSウイルス感染症は、ゼロ報告を含めて35都道府県から28例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約64%を占めている。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は2週連続して増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では山口県(1.8)、石川県(1.6)、青森県(1.0)、福島県(1.0)、岡山県(1.0)が多い。
〈7月コメント〉
◆性感染症について 2005年8月15日集計分 性感染症定点数:920
2005年7月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が3.38(男1.50、女1.87)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.96(男0.40、女0.56)、尖圭コンジローマが0.65(男0.40、女0.25)、淋菌感染症が1.39(男1.16、女0.23)で、4疾患のうち、男性では性器クラミジア感染症および淋菌感染症、女性では性器クラミジア感染症が多かった(図1)。前月に比べると、男性の尖圭コンジローマが引き続き増加し、他はほぼ横ばいである(グラフ総覧参照)。過去5年間の同時期と比較すると、性器クラミジア感染症が男女共に平均-1標準偏差(SD)を、淋菌感染症が男性で平均-2SD、女性で平均-1SDを下回っていた。一方、性器ヘルペスウイルス感染症が男女共に平均+1SDを、尖圭コンジローマが男性で平均+2SDを超えていた(図2)。
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図1.各性感染症が総報告数に占める割合(7月)
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定点当たり報告数を年齢階級別・男女別に比較すると、いずれの疾患でもピークは20〜29歳にあったが、性器ヘルペスウイルス感染症では50代以降の高年齢層からの報告も少なくない(図3)。淋菌感染症では男性の占める割合が高いが、他の3疾患では若年齢層で女性の報告者数の方が多い。
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年齢層(15〜29歳)での各性感染症の定点当たり報告数を月別・男女別に図4に示した。夏季シーズンを迎えたが、性器クラミジア感染症および淋菌感染症はあまり増加していない。
注:本発生動向調査で得られる性感染症患者報告数および解析結果は、現在の定点の構成に基づく制限のもとに解釈される必要がある。詳細はIDWR週報2000年第46号(10月報)4ページの説明を参照されたい。
◆薬剤耐性菌について (8月15日集計分)
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7月の定点(基幹定点)総数:470.
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[定点当たり報告数]
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
3.77(前月:4.01、前年同月:3.84)
定点当たり報告数は、例年年間を通してほぼ一定である。本年7月は前月より減少し、過去6年間の同月との比較では2002年、2003年、2004年に次いで多かった。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
0.93(前月:1.23、前年同月:0.85)
定点当たり報告数は、例年春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く推移しているが、昨年(2004年)は1〜6月までほぼ同数で推移した。本年は2003年以前と同様に4月、5月と増加し、6月から減少し、7月も減少した。過去6年間の同月との比較では、2002年、2003年に次いで多かった。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.15(前月:0.11、前年同月:0.14)
定点当たり報告数は、例年一年の後半が前半に比してわずかに多い傾向がある。本年7月は前月より増加し、過去6年間の同月との比較では2003年に次いで多かった。
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[年齢階級別]
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MRSA感染症
高齢者に多く、65歳以上が全体の69.0%(70歳以上が60%)を占めている(図1:PDF参照)。
PRSP感染症 小児に多く、10歳未満が全体の67%(5歳未満が60%)を占めている。また高齢者にも多く、65歳以上が全体の21%(70歳以上が17%)を占めている(図2:PDF参照)。
薬剤耐性緑膿菌感染症 高齢者に多く、65歳以上が全体の75%(70歳以上が69%)を占めている(図3:PDF参照)。
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[性別:女性を1 として算出した男/女比]
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MRSA感染症…1.6/1
PRSP感染症…1.5/1
薬剤耐性緑膿菌感染症…2.1/1
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[都道府県別]
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MRSA感染症
定点当たり報告数は栃木県(9.1)、山口県(7.6)、滋賀県(7.3)、香川県(7.3)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は千葉県(8.6)、富山県(5.0)が多い。
薬剤耐性緑膿菌感染症
定点当たり報告数は岩手県(0.6)、富山県(0.6)、岡山県(0.6)、広島県(0.6)が多い。
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◆結核サーベイランス月報 8月24日集計分
7月の新登録患者数は2,484人(男性1,615、女性869人)で、このうち活動性肺結核患者は2,003人(うち喀痰塗抹陽性者は922人)であった。都道府県・政令指定都市別の新登録患者数は、東京都(337人)、大阪市(142人)、大阪府(大阪市を除く)(136人)、愛知県(名古屋市を除く)(104人)、千葉県(千葉市を除く)(92人)が多い。また、別掲により集計されているマル初者数*は361人であった。
*マル初者…結核の感染が強く疑われるが発病はしておらず、発病予防のための内服を行っている者。
詳しいコメントは、結核研究所の結核発生動向調査結果報告(http://www.jata.or.jp/tbmr/ tbmr.htm)をご覧ください。
また、2003年の結核発生動向調査年報は結核研究所ホームページ(http://www.jata.or.jp)でご覧ください。
注目すべき感染症
◆麻 疹
麻疹は麻疹ウイルス(measles virus)の初感染によって発生する急性の伝染性疾患である。感染経路は空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染と様々であり、感染力は極めて強い。免疫を保有していない人が感染した場合の発症率は、ほぼ100%である。10日間前後の潜伏期を 経て、カタル期(2〜4日間)、発疹期(3〜5日間)、回復期の経過をたどるが、38〜40℃の高熱が1週間前後持続し、合併症の発症率は30%以上、入院率も40%に達する疾患である(IDWR 2005年第17・18週号「注目すべき感染症」参照)。 定点医療機関からの年間の累積報告数は、2000年以降の5年間では2001年の33,812例(定点 当たり累積報告数11.40)をピークとして、その後は減少が続いている。
2004年は年間の累積報告 数は1,554例(定点当たり累積報告数0.51)で、1995年以降の過去10年間の中でも、累積報告数 および定点当たり累積報告数は最も少ない値であった(図1、図2)。そして2005年は、第33週現 在における累積報告数は418例(定点当たり累積報告数0.14)であり、昨年の第33週での累積報 告数1,342例(定点当たり累積報告数0.44)をさらに大きく下回っている(図1)。 |
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図1. 麻疹の年別・週別発生状況(1995-2005年第33週) |
図2. 麻疹の年別発生状況(2000〜2004年) |
麻疹には特異的な治療法はなく、唯一の効果的な対策はワクチン接種による予防である。2001年の全国的な麻疹の流行以降、小児科医の組織や地方自治体などで1歳早期におけるワクチン接種キャンペーンが開始され、市町村レベルでは1歳児の接種率が90%を超えるところも認められるようになった。しかしながら、全国的には1歳児の麻疹ワクチン接種率が大きく上昇したとは言えない。感染症流行予測調査報告書(厚生労働省結核感染症課、都道府県および地方衛生研究所、国立感染症研究所などの協力による)によると、年齢的に発生の中心である1歳児の麻疹抗体保有率(PA抗体価1:16以上)は、2003年度において61.9%であった(2004年度の結果は現在集計中であり、間もなく当感染症情報センターのホームページ上に掲載の予定である)。現在の状況は、麻疹発生者数の減少によって麻疹ウイルスに曝露する機会が大きく減少し、ワクチン既接種者でも感受性者となることが増えている状況である。
麻疹の感染力は強力であり、保育施設や学校などでの集団発生によって容易に地域への流行に発展していく例がしばしば認められている。今後、1歳時を含めた若年幼児におけるワクチン接 種率が低下するようなことがあれば、近い将来において再び流行を招来する可能性が高い。今後とも、麻疹の発生動向には注意が必要である。
◆腸管出血性大腸菌感染症
腸管出血性大腸菌感染症の2005年の報告数は第20週に50例を超えた後、増加傾向が認められ、第23週には100例、第28週には150例を超えた。その後は週ごとに増減はあるものの、第26週からは継続して100例を超えている。本年第33週までの累積報告数は1,999例(2002年2,175例、2003年1,360例、2004年2,118例)であり、現在までのところ例年に比べて特に多いとは言えない(図1)。
都道府県別では、第33週に報告の多かったのは東京都(17例)、大阪府(17例)、埼玉県(13例)、福岡県(12例)であった。また、累積報告数では大阪府(130例)、東京都(127例)、北海道(113例)、愛知県(106例)が多い(図2)。
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図1. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の年別・週別発生状況 |
図2. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の都道府県別発生状況 |
図3. 腸管出血性大腸菌感染症の年齢別発生状況(症状の有無を含む) |
第33週に報告された164例のうち、性別では男性74例、女性90例であり、年齢階級別(10歳毎)では相変わらず0〜9歳(79例)が最も多く、48%を占めた(図3)。また有症状者は107例(65%)で、無症状病原体保有者が57例であった。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の定期検便によって発見される場合もあるが、多くは探知された患者と食事を共にした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。また、第33週には溶血性尿毒症症候群(HUS)3例、死亡1例の報告があり、累積ではそれぞれ22例、3例となった。ただし、HUSなどの合併症や死亡については、届け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があり、発生があった場合の追加・修正報告をお願いしている。
血清型・毒素型別では、第33週はO157 VT1・VT2(66例)、O157 VT2(44例)、O26 VT1(32例)の順に多く、累積報告数では、O157 VT1・VT2(754例)、O157 VT2(433例)、O26 VT1(359例)の順に多い。
例年集団発生が多く認められる保育施設も含め、本年も各種施設における集団発生や死亡の報告がなされている。食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。保育所においては、特にオムツ交換時の手洗い、園児に対する食前・食後の手洗い指導の徹底、簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。
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