発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(2003年第43号「速報」参照)。
〈第41週コメント〉 10月20日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ3例(推定感染地域:国内1例、フィリピン1例、パキスタン1例)
細菌性赤痢15例(推定感染地域:国内2例、インドネシア11例*、インド1例、フィリピン1例)
*第40週分の1例を含む12例が、同一ツアーによる感染
腸チフス4例(推定感染地域:インド1例、ネパール1例、インド/ネパール1例、疑似症1例) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症症64例(うち有症者42例)
報告の多い都道府県:北海道(10例)、兵庫県(10例)、大阪府(8例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2 (30例)、O157 VT2 (14例)、O26 VT1 (7例)、O157 VT1(2例)、O91 VT1・VT2(1例)、その他(10例)
年齢:10歳未満(32例)、10代(6例)、20代(7例)、30代(5例)、50代(7例)、60代(4例)、70歳以上(3例) |
4類感染症: |
オウム病1例(推定感染源:鳥/ネコ)
デング熱1例(推定感染地域:バングラデシュ)
マラリア1例(三日熱_推定感染地域:ガーナ)
レジオネラ症6例(50代1例、60代3例、70代1例、80代1例)
E型肝炎1例(推定感染地域:国内)
A型肝炎1例(推定感染地域:国内) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 2例 |
推定感染地域:ともに国内
推定感染経路:性的接触1例(異性間)、不明1例 |
ウイルス性肝炎2例〔ともにB型_推定感染経路:ともに性的接触(異性間1例、同性間1例)〕
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(ともに孤発性)
後天性免疫不全症候群 13例 |
(無症候11例、AIDS 2例)
推定感染経路:性的接触11例(異性間3例、同性間7例、異性間/同性間1例)、不明2例
推定感染地域:国内11例、マレーシア1例、不明1例 |
ジアルジア症1例(推定感染地域:パキスタン)
梅毒6例(早期顕症I期3例、無症候3例)
破傷風1例(40代)
急性脳炎1例(病原体不明.10代)
(補)他に、デング熱1例の報告があったが削除予定。また、報告遅れとして、腸管出血性大腸菌感染症1例(70歳以上、死亡)、アメーバ赤痢1例(死亡)、レプトスピラ症2
例(推定感染地域:ともに国内)、クリプトスポリジウム症1例(推定感染地域:国内)、急性脳炎3例〔いずれも病原体不明.3歳(死亡)、40代、80代〕の報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:定点当たり報告数は横ばいであったが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では沖縄県(1.40)、宮城県(0.02)、茨城県(0.02)、山梨県(0.02)が多い。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第37週以降、減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では福井県(1.00)、石川県(0.66)、大分県(0.56)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では北海道(1.23)、山形県(1.23)、富山県(0.97)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は微減した。都道府県別では宮崎県(4.9)、大分県(4.7)、鳥取県(4.2)が多い。水痘の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では福井県(1.6)、佐賀県(1.3)、福島県(1.2)が多い。手足口病の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では愛媛県(2.0)、富山県(1.4)、香川県(1.4)が多い。百日咳の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では福井県(0.05)、福岡県(0.05)が多い。風しんの定点当たり報告数は微増した。都道府県別では宮崎県(0.05)、岡山県(0.04)、岩手県(0.03)、沖縄県(0.03)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第28週以降、減少が続いている。都道府県別では高知県(1.8)、宮崎県(1.6)、愛媛県(1.5)が多い。麻しんの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では岐阜県(0.04)、島根県(0.04)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では沖縄県(3.4)、石川県(3.1)、徳島県(2.6)が多い。RSウイルス感染症は、ゼロ報告を含めて39都道府県から195例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約73%を占めている。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では福島県(1.3)、愛媛県(1.2)、山口県(1.1)が多い。
〈8月コメント〉
◆性感染症について 2005年10月11日集計分 性感染症定点数:919
2005年9月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が3.44(男1.55、女1.89)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.94(男0.38、女0.56)、尖圭コンジローマが0.67(男0.38、女0.29)、淋菌感染症が1.36(男1.13、女0.23)で、4疾患のうち、男性では性器クラミジア感染症および淋菌感染症、女性では性器クラミジア感染症が多かった(図1)。前月に比べると、男女ともに横ばい、あるいはやや減少している(グラフ総覧 参照)。過去5年間の同時期と比較すると、淋菌感染症が男性で平均-2標準偏差(SD)、女性で平均-1SDを、性器クラミジア感染症が女性で平均−1SDを下回っていた。一方、尖圭コンジローマが男女共に平均+1SDを、性器ヘルペスウイルス感染症が女性で平均+1SDを超えていた(図2)。
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図1.各性感染症が総報告数に占める割合(9月)
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定点当たり報告数を年齢階級別・男女別に比較すると(図3)、いずれの疾患でもピークは20〜29歳にあったが、性器ヘルペスウイルス感染症では50代以降の高年齢層からの報告も少なくない。淋菌感染症では男性の占める割合が高いが、他の3疾患では若年齢層で女性の報告者数の方が多い。
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年齢層(15〜29歳)での各性感染症の定点当たり報告数を月別・男女別に図4に示した。前月に比べ、やや減少したものが多い。
注:本発生動向調査で得られる性感染症患者報告数および解析結果は、現在の定点の構成に基づく制限のもとに解釈される必要がある。詳細はIDWR週報2000年第46号(10月報)4ページの説明を参照されたい。
◆薬剤耐性菌について (10月11日集計分)
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9月の定点(基幹定点)総数:469.
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[定点当たり報告数]
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
3.64(前月:4.02、前年同月:3.76)
定点当たり報告数は、例年年間を通してほぼ一定である。本年9月は前月より減少し、過去6年間の同月との比較では、2003年、2004年に次いで多かった。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
0.61(前月:0.83、前年同月:0.48)
定点当たり報告数は、例年春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く推移しているが、昨年(2004年)は1〜6月の期間ほぼ同数で推移した。本年は2003年以前と同様に4月、5月と増加した後、6月からは減少している。9月も減少し、過去6年間の同月との比較では、2003年、2002年に次いで多かった。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.16(前月:0.18、前年同月:0.12)
定点当たり報告数は、例年一年の後半が前半に比してわずかに多い傾向がある。本年9月は前月より減少したが、過去6年間の同月との比較では最も多かった。
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[年齢階級別]
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MRSA感染症
高齢者に多く、65歳以上が全体の68%(70歳以上が60%)を占めている(図1:PDF参照)。
PRSP感染症 小児に多く、10歳未満が全体の63%(5歳未満が58%)を占めている。また高齢者にも多く、65歳以上が全体の20%(70歳以上が15%)を占めている(図2:PDF参照)。
薬剤耐性緑膿菌感染症 高齢者に多く、65歳以上が全体の72%(70歳以上が67%)を占めている(図3:PDF参照)。
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[性別:女性を1 として算出した男/女比]
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MRSA感染症…1.8/1
PRSP感染症…1.7/1
薬剤耐性緑膿菌感染症…1.6/1
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[都道府県別]
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MRSA感染症
定点当たり報告数は高知県(8.6)、富山県(8.4)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は千葉県(4.7)、富山県(4.6)が多い。
薬剤耐性緑膿菌感染症
定点当たり報告数は石川県(0.60)、岩手県(0.55)が多い。
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◆結核サーベイランス月報 10月21日集計分
9月の新登録患者数は2,281人(男性1,455、女性826人)で、このうち活動性肺結核患者は1,856人(うち喀痰塗抹陽性者は935人)であった。都道府県・政令指定都市別の新登録患者数は、東京都(293人)、大阪府(大阪市を除く)(142人)、大阪市(127人)、愛知県(名古屋市を除く)(95人)、千葉県(千葉市を除く)(91人)が多い。
また、別掲により集計されているマル初者数*は320人であった。
*マル初者…結核の感染が強く疑われるが発病はしておらず、発病予防のための内服を行っている者。
詳しいコメントは、結核研究所の結核発生動向調査結果報告(http://www.jata.or.jp/tbmr/tbmr.htm)をご覧ください。
また、2003年の結核発生動向調査年報は結核研究所ホームページ(http://www.jata.or.jp)でご覧ください。
注目すべき感染症
◆A群溶血性レンサ球菌咽頭炎
A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes )は、その侵入部位や組織によって多彩な症状を引き起こす。稀ながら、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因となることがあるが、本項では、主に小児の間で発生する疾患で、感染症法によって5類感染症定点把握疾患に定められているA群溶血性レンサ球菌咽頭炎について述べる。
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図1. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の年別・週別発生状況(1995〜2005年第41週) |
図2. 2005年におけるA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の過去5年間との週別比較 |
図3.A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の年別推移 |
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、本邦を含めた温帯地域を中心に、広く世界的に分布している感染症である。感染経路はヒトからヒトへの飛沫感染が主であるが、食品を介する経口感染もあるといわれている。潜伏期間は1〜4日であり、突然の発熱、咽頭痛、全身倦怠感によって発症し、しばしば嘔吐を伴う。通常、発熱は3〜5日以内に下がり、主症状は1週間以内に消失する予後良好の疾患であるが、菌が産生する毒素に免疫のない場合は、猩紅熱に発展する場合がある。治療にはペニシリン系薬が第1選択薬とされているが、ペニシリンアレルギーがある場合はマクロライド系薬やセフェム系薬が用いられる。リウマチ熱や急性糸球体腎炎など非化膿性の合併症予防のために、10日間程度の服用が必要である。
例年冬季〜夏季にかけて発生が増加するが、この間、学校などの冬休み、春休み、さらにはゴールデンウイークなどの影響によって、発生の少ない谷間がみられる。また、夏休みの間に発生は減少し続け、最少となるが、その後は冬季に向かって増加していく(図1、図2)。2000年以降、定点医療機関からの年間の累積報告数はほぼ横ばいであったが、2003年、2004年と増加が見られている(図3)。2005年では第41週までの累積報告数は139,464(定点当たり累積報告数45.79)であり、2003年の同時期よりは多いものの、2004年の同時期よりは減少している。年齢別では4〜7歳が中心であり、全報告数の50%を超えており、また報告数の80%以上が9歳以下である(図4、図5)。
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図4.A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の年齢別割合(2000年〜2005年第41週) |
図5. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の年齢別割合(2005年第1〜41週) |
図6. 主要都道府県におけるA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の週別推移(2005年第1〜41週) |
第41週の都道府県別の定点当たり報告数では、北海道(1.23)、山形県(1.23)、富山県(0.97)の順であったが、2005年では山形県、北海道がともに、常に全国平均を上回っている(図6)。今後冬に向かって、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の発生は増加することが予想されるため、その発生動向には注意が必要である。
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