発生動向総覧
◆全数報告の感染症
*「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正(11月5日施行)により、対象疾患、分類が一部変更されました(2003年第43号「速報」参照)。
〈第50週コメント〉 12月22日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ1例(推定感染地域:フィリピン)
細菌性赤痢3例(推定感染地域:カンボジア1例、モロッコ1例、フィリピン1例) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症12例(うち有症者4例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(3例)、O157 VT2(3例)、O121 VT2(2例)、O1 VT1(1例)、O26 VT1(1例)、O91 VT1(1例)、その他(1例) |
4類感染症: |
つつが虫病12例(鹿児島県3例、福島県2例、神奈川県2例、群馬県1例、東京都1例、新潟県1例、富山県1例、岐阜県1例)
レジオネラ症3例(50代1例、70代2例)
E型肝炎1例(推定感染地域:国内)
A型肝炎1例(推定感染地域:国内) |
5類感染症: |
アメーバ赤痢 7例 |
推定感染地域:国内5例、不明2例
推定感染経路:経口2例、性的接触(同性間)2例、不明3例 |
ウイルス性肝炎1例〔B型_推定感染経路:性的接触(異性間)〕
後天性免疫不全症候群11例 |
(無症候8例、AIDS 3例)
推定感染経路:すべて性的接触(異性間5例、同性間6例)
推定感染地域:国内10例、不明1例 |
ジアルジア症2例(推定感染地域:ともに国内)
先天性風しん症候群1例
梅毒3例(早期顕症I期1例、早期顕症II期2例)
破傷風3例(10代1例、70代1例、80代1例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanB_菌検出検体:褥創部の膿)
(補)他に報告遅れとして、コレラ1例(推定感染地域:フィリピン)、エキノコックス症1例(多包条虫)、コクシジオイデス症1例(推定感染地域:米国)、急性脳炎2例〔A型インフルエンザウイルス1例(3歳)、病原体不明1例(60代)〕などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ定点報告疾患:定点当たり報告数は第45週以降、増加が続いており、流行開始の基準としている1.0を上回った。都道府県別では岡山県(13.1)、山梨県(8.2)、岩手県(6.5)、山形県(5.8)、宮崎県(5.6)、群馬県(4.2)、熊本県(4.2)、鹿児島県(4.2)が多い。
小児科定点報告疾患:咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第42週以降、増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では佐賀県(2.2)、石川県(1.3)、島根県(1.3)、山形県(1.2)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は3週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では山形県(4.6)、北海道(3.9)、石川県(3.9)、埼玉県(3.5)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第41週以降、増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では大分県(33.0)、山口県(31.6)、福井県(31.3)、愛媛県(30.2)、佐賀県(28.0)、静岡県(27.0)が多い。水痘の定点当たり報告数は第39週以降、増加が続いている。都道府県別では愛媛県(4.5)、福井県(4.3)、新潟県(4.3)、石川県(4.1)が多い。手足口病の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では群馬県(0.78)、愛媛県(0.76)、愛知県(0.75)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は第46週以降、増加が続いている。都道府県別では青森県(1.3)、島根県(1.1)、福島県(1.0)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では栃木県(0.07)、群馬県(0.03)、滋賀県(0.03)、京都府(0.03)が多い。風しんの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では京都府(0.04)、岩手県(0.03)、大阪府(0.02)が多い。麻しんの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では青森県(0.05)、埼玉県(0.02)、大阪府(0.02)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続して減少した。都道府県別では沖縄県(5.7)、鳥取県(5.5)、石川県(3.6)、長野県(3.4)が多い。RSウイルス感染症は、ゼロ報告を含めて42都道府県から1,864例の報告があり、報告数は増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の73%を占めている。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福島県(1.9)、埼玉県(1.6)、大阪府(1.2)が多い。
〈11月コメント〉
◆性感染症について 2005年12月13日集計分 性感染症定点数:917
2005年11月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が2.97(男1.31、女1.67)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.91(男0.36、女0.55)、尖圭コンジローマが0.64(男0.32、女0.32)、淋菌感染症が1.24(男1.03、女0.22)で、4疾患のうち、男性では性器クラミジア感染症および淋菌感染症、女性では性器クラミジア感染症が多かった(図1)。前月に比べると、男性においてはいずれの疾病も減少し、女性においては性器クラミジア感染症が減少し、その他はほぼ横ばいである(グラフ総覧参照)。
過去5年間の同時期と比較すると、性器クラミジア感染症が男女共に平均-1標準偏差(SD)を下回り、淋菌感染症も男性で平均-2SDを、女性で平均-1SDを下回っていた。一方、尖圭コンジローマが女性で平均+2SDを上回り、性器ヘルペスウイルス感染症も女性で平均+1SDを超えていた(図2)。
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図1.各性感染症が総報告数に占める割合(11月)
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定点当たり報告数を年齢階級別・男女別に比較すると、いずれの疾患でもピークは20〜29歳にあったが、性器ヘルペスウイルス感染症では50代以降の高年齢層からの報告も少なくない(図3:PDF参照)。淋菌感染症では男性の占める割合が高いが、他の3疾患では若年齢層で女性の報告者数の方が多い。
感染症法が施行された1999年4月以降について、男性における性器クラミジア感染症および淋菌感染症の定点当たり報告数を月別・年齢階級別に図4(PDF参照)に示した。昨年来、10〜20代での減少傾向が顕著である。
注:本発生動向調査で得られる性感染症患者報告数および解析結果は、現在の定点の構成に基づく制限のもとに解釈される必要がある。詳細はIDWR週報2000年第46号(10月報)4ページの説明を参照されたい。
◆薬剤耐性菌について (12月13日集計分)
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11月の定点(基幹定点)総数:469.
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[定点当たり報告数]
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
3.81(前月:3.84、前年同月:3.83)
定点当たり報告数は、例年年間を通してほぼ一定である。本年11月は前月より微減し、過去6年間の同月との比較では最も多かった。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
1.31(前月:0.89、前年同月:1.46)
定点当たり報告数は、昨年(2004年)は1〜6月までほぼ同数で推移したが、例年春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く推移している。本年は2003年以前と同様に4月、5月と増加した後、6月からは減少し、10月に増加に転じ、11月も増加した。過去6年間の同月との比較では、2004年、2002年、2003年に次いで多かった。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.17(前月:0.14、前年同月:0.11)
定点当たり報告数は、例年一年の後半が前半に比してわずかに多い傾向がある。本年11月は前月より増加し、過去6年間の同月との比較では最も多かった。 |
[年齢階級別]
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MRSA感染症
齢者に多く、65歳以上が全体の72%(70歳以上が63%)を占めている(図1:PDF参照)。
PRSP感染症
小児に多く、10歳未満が全体の72%(5歳未満が67%)を占めている。また高齢者にも多く、65歳以上が全体の17%(70歳以上が13%)を占めている(図2:PDF参照)。
薬剤耐性緑膿菌感染症
高齢者に多く、65歳以上が全体の79%(70歳以上が72%)を占めている(図3:PDF参照)。
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[性別:女性を1 として算出した男/女比]
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MRSA感染症…1.9/1
PRSP感染症…1.3/1
薬剤耐性緑膿菌感染症…2.7/1
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[都道府県別]
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MRSA感染症 定点当たり報告数は高知県(7.9)、富山県(7.2)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は富山県(13.8)、千葉県(12.2)が多い。
薬剤耐性緑膿菌感染症
定点当たり報告数は岩手県(0.70)、奈良県(0.67)、佐賀県(0.67)が多い。
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◆結核サーベイランス月報 12月21日集計分
11月の新登録患者数は2,026人(男性1,293、女性733人)で、このうち活動性肺結核患者は1,623人(うち喀痰塗抹陽性者は768人)であった。都道府県・政令指定都市別の新登録患者数は、東京都(290人)、大阪府(大阪市を除く)(128人)、大阪市(115人)、埼玉県(さいたま市を除く)(91人)、千葉県(千葉市を除く)(87人)、愛知県(名古屋市を除く)(87人)が多い。
また、別掲により集計されているマル初者数*は213人であった。
*マル初者…結核の感染が強く疑われるが発病はしておらず、発病予防のための内服を行っ
ている者。
詳しいコメントは、結核研究所の結核発生動向調査結果報告(http://www.jata.or.jp/tbmr/tbmr.htm)をご覧ください。
また、2004年の結核発生動向調査年報が出されました。詳しくは、結核研究所ホームページ(http://www.jata.or.jp)でご覧下さい。
注目すべき感染症
◆インフルエンザ
インフルエンザの第50週の定点当たり報告数は全国レベルで1.88(報告数8,822)となり、前
週の2倍以上に増加し、今シーズン初めて流行の指標である1.0を上回った。1995/96シーズン
以降の11シーズンでは、第50週で定点当たり報告数が1.0を超えたのは今シーズンが6度目で
あり、今シーズンの値は1995/96シーズン、1996/97シーズンに次いで3番目に高い(図1)。
都道府県別では岡山県(13.1)、山梨県(8.2)、岩手県(6.5)、山形県(5.8)、宮崎県(5.6)、群馬県(4.2)、熊本県(4.2)、鹿児島県(4.2)、宮城県(3.6)、長野県(3.5)が多く、定点当たり報告数が1.0を上回っていたのは28道府県にのぼっている。また、管内で注意報レベルのみを超えた保健所のみがみられたのは15道府県であり、岡山県と熊本県では、警報レベル(定点当たり報告数が30以上)を超えた保健所がみられた(感染症情報センターホームページ:「インフルエンザ流行レベルマップ」第50週参照)。
今シーズンは第36週以降これまでに、161件のインフルエンザウイルスの分離報告があり、そ
のうちAH1型は36件、AH3型は124件、B型は1件であった。この様に、AH3型ウイルスの分離
報告数の割合が高い(図2)。
インフルエンザの全国的な流行は始まっており、今後その発生動向にはより一層の注意が必
要である。
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図1. インフルエンザの年別・週別発生状況(1995〜2005年第50週)) |
図2. 2005/06シーズンにおけるインフルエンザウイルスの分離結果 |
◆感染性胃腸炎
感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第41週以降、増加が続いており、第50週は17.4と、1995年以降の11年間では最高値を記録した(図)。1995〜2004年の10年間では、第51週以降に報告数のピークがみられた年が6回あることから、今後さらに報告数が増加する可能性がある。第50週現在で定点当たり報告数が10.0を超えているのは39都府県に達し、20.0を超えているのは大分県(33.0)、山口県(31.6)、福井県(31.3)、愛媛県(30.2)、佐賀県(28.0)、静岡県(27.0)、三重県(26.4)、埼玉県(24.6)、宮崎県(21.6)、宮城県(21.5)、神奈川県(20.3)、群馬県(20.2)の12県である。
例年、12月の感染性胃腸炎の急増はノロウイルス感染症の増加と関連している(IASR, Vol24. No 12. p321-322参照)。特に乳幼児や高齢者の集団生活施設内に発生すると、ヒト−ヒト感染による施設内での流行拡大を来すことが多い。ノロウイルス感染症の主症状は嘔吐・下痢であるが、有症状期間は比較的短く、重症化することは稀であるとされている。しかしながら、2005年1月の広島県の高齢者施設での事例では、死亡例もみられている。施設内における感染拡大を最小限に食い止めるためには、有症状者の速やかな隔離、流水・石鹸による手洗いの徹底、吐物や下痢便の適切な処理、ノロウイルスに有効な消毒剤の使用などが重要である。また、乳幼児や高齢者が発病した場合などでは管理を厳重に行い、脱水や誤嚥には細心の注意を払う必要がある。
今後の感染性胃腸炎の発生動向の推移には、注意深い観察が必要である。
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図. 感染性胃腸炎の年別・週別発生状況(1995〜2005年第50週) |
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