発生動向総覧
*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。
◆全数報告の感染症
〈第16週コメント〉4月27日集計分
注意:これはこれは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ2例(感染地域:インド1例.疑似症1例)
細菌性赤痢5例〔感染地域:国内(不明)1例、インドネシア2例、インド1例、マダガスカル1例〕
腸チフス4例〔感染地域:国内(新潟県)1例、インド1例.疑似症2例〕
パラチフス1例(感染地域:インド) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症35例(うち有症者25例、HUS 1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(24例)、O157 VT2(4例)、O111 VT1(2例)、O26 VT1(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、O157 VT1(1例)、その他(2例) |
4類感染症: |
A型肝炎4例(感染地域:北海道1例、静岡県1例、インド1例、韓国/台湾1例)
レジオネラ症3例 |
(いずれも肺炎型)
年齢群:50代1例、60代1例、70代1例
感染地域:埼玉県1例、新潟県1例、大阪府1例
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5類感染症: |
アメーバ赤痢10例 |
(すべて腸管アメーバ症)
感染地域:国内8例、韓国1例、中国(香港)1例
感染経路:経口2例、性的接触3例(異性間2例、不明1例)、不明5例 |
ウイルス性肝炎1例 |
B型_感染経路:性的接触(異性間) |
クロイツフェルト・ヤコブ病1例〔孤発性プリオン病(古典型)〕 |
後天性免疫不全症候群12例 |
(無症候8例、AIDS 4例)
感染経路:性的接触11例(異性間5例、同性間6例)、その他1例
感染地域:国内8例、アンギラ1例、国外(国不明)2例、不明1例 |
ジアルジア症1例(感染地域:インド)
梅毒10例(早期顕症I期3例、早期顕症II期2例、晩期顕症1例、無症候4例)
破傷風1例(50代)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:不明_菌検出検体:血液)
(補)他に報告遅れとして、細菌性赤痢1例(感染地域:インドネシア)、腸チフス2例(感染地域:ともにインド)、パラチフス1例(感染地域:インド)、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例(ともに60代、血清型:A群1例、型不明1例)などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ:定点当たり報告数は微増した。都道府県別では北海道(4.2)、秋田県(4.2)、愛媛県(2.8)、青森県(2.6)が多い。
小児科定点報告疾患::RSウイルス感染症は163例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の81%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では福井県(2.2)、佐賀県(1.3)、兵庫県(1.3)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では鳥取県(6.0)、新潟県(5.7)、福井県(4.3)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は微増し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では宮崎県(14.2)、大分県(13.0)、福井県(11.1)が多い。水痘の定点当たり報告数は3週連続で減少した。都道府県別では沖縄県(4.2)、宮崎県(4.1)、佐賀県(3.9)が多い。手足口病の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では徳島県(1.29)、愛知県(0.82)、岐阜県(0.72)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は第10週以降、増加が続いている。都道府県別では福島県(1.4)、熊本県(1.4)、青森県(1.3)、島根県(1.3)が多い。百日咳の定点当たり報告数は微増した。都道府県別では徳島県(0.04)が多い。風しんの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では滋賀県(0.03)、高知県(0.03)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は増加した。都道府県別では鳥取県(1.37)、熊本県(0.58)、佐賀県(0.52)が多い。麻しんの定点当たり報告数は微増した。都道府県別では岡山県(0.04)、埼玉県(0.02)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は3週連続で減少した。都道府県別では鹿児島県(4.2)、長野県(3.2)、山口県(3.1)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では埼玉県(1.3)、岡山県(1.2)、愛媛県(1.2)、愛知県(1.2)が多い。
注目すべき感染症
◆ 麻しん
麻しんは麻しんウイルス(measles virus)の初感染によって生じる急性の伝染性疾患である。感染経路は空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染と様々であり、感染力は極めて強い。また、免疫を保有していない者が感染した場合の発症率は、ほぼ100%である。症状としては、10日間前後の潜伏期を経て、カタル期(2〜4日間)、発疹期(3〜5日間)、回復期へと移行していく。38〜40℃の高熱が1週間前後持続するが、未だに合併症発生率は30%以上、入院率も40%に達する疾患である(IDWR 2005年第17・18週号「注目すべき感染症」)。特異的な治療方法はない。
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図1. 麻しんの年別・週別発生状況(1996年〜2006年第16週) |
感染症発生動向調査による小児科定点医療機関からの年間累積報告数は、2001年の33,812(定点当たり累積報告数11.2)をピークとして、その後年々減少し、2005年は545(定点当たり累積報告数0.18)と過去最低を記録した(図1,2)。これは、2001年の全国的な流行以降、1歳早期におけるワクチン接種のキャンペーンが小児科医や地方自治体などで開始され、市町村レベルでは1歳児の接種率が90%を超えるところもみられるようになり、感受性者が減少したことによると思われる。
しかしながら、2004年度の感染症流行予測調査報告書(厚生労働省結核感染症課、都道府県および地方衛生研究所、国立感染症研究所などの協力による)によると、1歳児の麻しん抗体保有率はまだ70%台にとどまっており、1歳以上40歳未満の年齢層には数%の麻しん感受性者がみられている(「2004年度感染症流行予測調査事業による麻疹、風疹血清疫学調査からみた今後の麻疹、風疹対策」IASR Vol. 27,p92-94,2006)。従って最近の状況は、麻しん患者の減少によって麻しんウイルスに曝露される機会が大きく減少した一方、麻しんワクチンの接種が十分でなく、感受性者が蓄積している可能性が高い。 |
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図2. 麻しんの年別発生状況(2000〜2005年) |
本年の過去3週間の小児科定点医療機関からの報告をみると、第14週では栃木県2例、東京都1例、第15週は埼玉県2例、茨城県1例、東京都1例、第16週は埼玉県3例、茨城県1例、千葉県1例、東京都1例と、関東地域からの報告が目立っている。また、基幹定点医療機関からの成人麻しんの報告では、第15週と第16週に茨城県からそれぞれ3例、1例の報告があった。
麻しんの感染力は強力であり、保育施設や学校などにおける集団発生によって、容易に地域の流行に発展していく例がしばしば認められる。麻しんの発生は夏季に向かって増加する(図1)ことからも、今後の発生動向を注意深く観察していく必要がある。
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