発生動向総覧
*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。
◆全数報告の感染症
〈第23週コメント〉6月15日集計分
注意:これはこれは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ2例(ともに疑似症)
細菌性赤痢6例(感染地域:インド2例、中国1例、エジプト1例、カンボジア1例、トルコ/エジプト1例)
腸チフス1例〔感染地域:国内(都道府県不明)〕 |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症69例(うち有症者45例、HUS 1例)
感染地域:すべて国内
国内の多い感染地:広島県(6例)、長崎県(6例)、東京都(5例)、大阪府(5例)、熊本県(5例)
年齢群:10歳未満(34例)、10代(8例)、20代(7例)、30代(9例)、40代(4例)、50代(3例)、60代(2例)、70歳以上(2例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(25例)、O157 VT2(17例)、O26 VT1(16例)、O145 VT1(2例)、O157 VT1(2例)、O121 VT2
(1例)、O128 VT2(1例)、その他/不明(5例) |
4類感染症: |
A型肝炎2例〔感染地域:国内(都道府県不明)1例、中国1例〕
コクシジオイデス症1例〔感染地域:米国(アリゾナ州)〕
つつが虫病15例(感染地域:新潟県6例、青森県2例、秋田県2例、福島県2例、長野県2例、山形県1例)
日本紅斑熱2例(感染地域:和歌山県1例、愛媛県1例)
マラリア 2例 |
三日熱1例_感染地域:パプアニューギニア
熱帯熱1例_感染地域:タンザニア |
レジオネラ症 |
6例(すべて肺炎型)
年齢群:10代1例、40代2例、60代1例、70代2例
感染地域:東京都1例、京都府1例、兵庫県1例、山口県1例、国内(都道府県不明)2例
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5類感染症: |
アメーバ赤痢8例 |
(腸管6例、腸管外2例)
感染地域:国内7例、インド1例
感染経路:経口1例、性的接触(同性間)1例、不明6例 |
ウイルス性肝炎1例(B型_感染経路:不明)
クロイツフェルト・ヤコブ病1例〔孤発性プリオン病(古典型CJD)〕
劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例(60代1例、70代1例.血清群:ともにA群.うち1例死亡) |
後天性免疫不全症候群25例 |
(無症候15例、AIDS 7例、その他3例)
感染経路:性的接触22例(異性間5例、同性間15例、不明2例)、静脈薬物使用1例、不明2例
感染地域:国内20例、ベトナム2例、タイ1例、ブラジル1例、国外(国不明)1例 |
ジアルジア症1例(感染地域:インド)
梅毒6例(早期顕症I期3例、早期顕症II期1例、無症候2例)
破傷風1例(60代)
(補)他に報告遅れとして、エキノコックス症1例(多包条虫.感染地域:北海道)、急性脳炎1例(B型インフルエンザウイルス.10代)などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ:定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では沖縄県(16.8)、北海道(3.3)、岩手県(3.1)、秋田県(2.4)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は109例の報告があり、報告数は微増した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約68%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第19週以降、増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が継続している。都道府県別では福井県(3.5)、香川県(2.3)、鹿児島県(2.1)、岐阜県(2.1)、島根県(2.0)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では山形県(4.5)、富山県(4.1)、新潟県(4.0)、北海道(3.5)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は3週連続で減少した。都道府県別では大分県(8.7)、福井県(8.5)、富山県(7.8)、山口県(7.4)が多い。水痘の定点当たり報告数は2週連続で減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い状態が続いている。都道府県別では新潟県(4.1)、長野県(4.1)、石川県(3.7)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第19週以降、増加が続いている。都道府県別では岐阜県(4.2)、愛知県(3.1)、福井県(3.1)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では島根県(1.3)、鳥取県(1.2)、熊本県(1.2)、山形県(0.9)が多い。百日咳の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では栃木県(0.11)、秋田県(0.09)が多い。風しんの定点当たり報告数は微増した。都道府県別では広島県(0.06)、京都府(0.04)、滋賀県(0.03)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第10週以降、増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では埼玉県(4.1)、愛媛県(3.7)、東京都(3.6)、山口県(3.3)、新潟県(3.3)が多い。麻しんの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では千葉県(0.08)、鳥取県(0.05)、茨城県(0.04)、広島県(0.04)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は微減したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では鹿児島県(5.3)、静岡県(3.5)、長野県(3.4)、新潟県(3.2)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では大阪府(1.8)、群馬県(1.8)、青森県(1.3)、愛媛県(1.2)が多い。成人麻しんは3例の報告があり、岐阜県から2例、千葉県から1例であった。
注目すべき感染症
◆ ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナ(herpangina)は発熱、口腔粘膜に現れる水疱性の発疹を特徴とした急性のウイルス性感染症であり、乳幼児を中心に夏季に流行する(図1、図2)。病原ウイルスは主にコクサッキーウイルスA群(CA2、CA4、CA5、CA6、CA8、CA10など)であるが、まれにコクサッキーウイルスB群、エコーウイルスもある。
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図1. ヘルパンギーナの年別・週別発生状況(1996〜2006年第23週) |
図2. ヘルパンギーナの報告症例の年別・年齢別割合(2000〜2006年第23週) |
図3. ヘルパンギーナの年別発生状況 |
2〜4日の潜伏期間の後に、突然の発熱に続いて咽頭痛が出現し、咽頭の発赤とともに、主として軟口蓋から口蓋弓にかけて直径1〜2 mm、大きいものでは5 mmほどの紅暈で囲まれた小水疱が出現する。小水疱はやがて破れて浅い潰瘍となる。発熱は2〜4日間程度で解熱し、やや遅れて粘膜疹も消失する。殆どの場合、予後良好の疾患であるが、エンテロウイルス感染症の特徴として、まれに無菌性髄膜炎や急性心筋炎を合併することがある。発熱以外に頭痛、嘔吐などの症状や、心不全兆候の出現には十分に注意すべきである。
2006年のヘルパンギーナの定点当たり報告数は第10週以降、一貫して増加が続いており(図1)、第23週の報告を都道府県別にみると、埼玉県(4.1)、愛媛県(3.7)、東京都(3.6)、山口県(3.3)、新潟県(3.3)、千葉県(3.3)、熊本県(3.2)が多くなっている。2001〜05年の過去5年間の定点医療機関からの累積報告数をみると、隔年で報告数の増減がみられている(図3)。
2006年は第23週までの累積報告数が18,953例であるが、これは最も多かった2003年第23週までの10,740や、2005年第23週までの15,649を上回っており、これまでのところ報告数の多い状態が続いている(図1)。
2000年からの累積報告数の年齢別割合をみると、1歳児、2歳児が多く、5歳以下が全体の90%前後を占めているが、2006年もこれまでのところ同様である(図2)。
感染経路は飛沫感染、接触感染、糞口感染である。症状回復後も2〜4週間の長期にわたって便からウイルスが検出されるので、保育園、幼稚園、学校施設などの小児の集団生活施設において、急性期のみの登園・登校停止によっては、厳密な意味での流行阻止効果は期待できない。しかしながら本症の大部分は予後良好の軽症疾患であり、登園・登校については手足口病と同様、流行阻止の目的というよりも、患者本人の状態によって判断をする方が現実的である。
1996〜2005年の10年間では、流行のピークは第28〜29週にみられることが殆どであった(第28週6回、第29週3回、第27週1回)(図1)。今後、7月中旬まではさらに発生が増加していくものと予想され、その発生動向にはより一層の注意が必要である。
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