発生動向総覧
*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。
◆全数報告の感染症
〈第25週コメント〉6月29日集計分
注意:これはこれは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ1例(感染地域:中国/フィリピン)
細菌性赤痢5例(感染地域:愛知県1例、兵庫県1例、インド2例、中国/タイ1例)
腸チフス1例(感染地域:インド) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症67例(うち有症者49例、HUS 1例)
感染地域:すべて国内
国内の多い感染地:大阪府(15例)、愛知県(5例)、熊本県(5例)
年齢群:10歳未満(30例)、10代(14例)、20代(7例)、30代(4例)、40代(4例)、50代(4例)、60代(1例)、70歳以上(3例)
血清型・毒素型:O157 VT2(23例)、O157 VT1・VT2(21例)、O26 VT1(12例)、O157 VT1(3例)、O111 VT1・VT2(2例)、O91 VT1(1例)、O103 VT1(1例)、その他/不明(4例) |
4類感染症: |
A型肝炎4例〔感染地域:北海道1例、宮城県1例、東京都1例、国内(都道府県不明)1例〕
エキノコックス症1例(多包条虫.感染地域:北海道)
オウム病1例(感染地域:岩手県、感染源:インコ)
つつが虫病15例(感染地域:秋田県5例、青森県3例、福島県2例、新潟県2例、山形県1例、富山県1例、長野県1例)
デング熱1例(感染地域:インドネシア)
日本紅斑熱1例(感染地域:鹿児島県)
レジオネラ症 |
7例(肺炎型6例、無症状病原体保有者1例)
年齢群:40代1例、60代3例、70代2例、80代1例
感染地域:青森県1例、福島県1例、長野県1例、岡山県1例、大分県1例、国内(都道府県不明)2例
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5類感染症: |
アメーバ赤痢5例 |
(腸管4例、腸管外1例)
感染地域:すべて国内
感染経路:性的接触2例(異性間1例、異性間・同性間不明1例)、猫1例、不明2例 |
ウイルス性肝炎 2例 |
B型1例_感染経路:性的接触(異性間)
C型1例_感染経路:不明 |
急性脳炎3例〔単純ヘルペスウイルス1例(30代)、病原体不明2例(0歳、2歳)〕
劇症型溶血性レンサ球菌感染症3例(40代2例、50代1例.血清群:すべてA群.うち1例死亡) |
後天性免疫不全症候群23例 |
(無症候15例、AIDS 8例)
感染経路:性的接触19例(異性間5例、同性間14例)、不明4例
感染地域:国内19例、タイ2例、ブラジル1例、ウガンダ1例 |
ジアルジア症2例(感染地域:国内1例、カンボジア1例)
髄膜炎菌性髄膜炎1例(感染地域:国内)
梅毒8例(早期顕症I期2例、早期顕症II期2例、晩期顕症1例、無症候3例)
(補)他に報告遅れとして、コレラ1例〔感染地域:国内(都道府県不明)〕、細菌性赤痢1例(感染地域:ベトナム)、腸チフス1例(感染地域:インド)、パラチフス1例(感染地域:インド/ネパール)、エキノコックス症1例(多包条虫.感染地域:北海道)などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ:定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い状態が継続している。都道府県別では沖縄県(23.1)、青森県(4.1)、岩手県(2.0)、北海道(1.4)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は83例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の77%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第19週以降、増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が継続している。都道府県別では奈良県(2.3)、岐阜県(2.1)、鹿児島県(2.1)、埼玉県(2.1)、島根県(1.9)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してか
なり多い状態が続いている。都道府県別では富山県(4.1)、山形県(4.1)、北海道(3.4)、長野県(3.4)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は21週以降、減少が続いている。都道府県別では大分県(8.1)、福井県(7.6)、宮崎県(7.4)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では長野県(4.3)、新潟県(3.6)、福島県(3.4)、北海道(3.1)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第19週以降、増加が続いている。都道府県別では福井県(6.4)、岐阜県(5.3)、愛知県(4.4)、徳島県(4.4)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では鳥取県(1.6)、静岡県(1.5)、埼玉県(1.5)、島根県(1.4)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では栃木県(0.17)、香川県(0.09)、秋田県(0.06)が多い。風しんの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では大分県(0.06)、山形県(0.03)、滋賀県(0.03)、高知県(0.03)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第10週以降、増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では神奈川県(7.2)、千葉県(6.0)、埼玉県(5.8)、東京都(5.6)、愛媛県(5.4)が多い。麻しんの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では千葉県(0.04)、栃木県(0.04)、秋田県(0.03)、茨城県(0.03)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では鹿児島県(5.1)、新潟県(3.9)、鳥取県(3.8)、長野県(3.6)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は横ばいであったが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では青森県(3.2)、岐阜県(2.0)、埼玉県(1.7)、群馬県(1.4)が多い。成人麻しんは2例の報告があり、いずれも茨城県からの報告であった。
注目すべき感染症
◆ 手足口病
手足口病(hand-foot-and-mouth disease : HFMD)は口腔粘膜、手、足などの水疱性発疹を主症状とした急性ウイルス性感染症であり、乳幼児を中心に夏季を中心に流行する(図1、図2)。病原ウイルスは主にコクサッキーウイルスA16(CA16)、エンテロウイルス71(EV71)であるが、その他、CA10などのエンテロウイルスによっても類似の症状を呈することがある。
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図1. 手足口病の年別・週別発生状況(1996〜2006年第25週) |
図2. 手足口病の報告症例の年別・年齢群別割合(2000〜05年) |
図3. 手足口病の年別発生状況、およびEV71とCA16の分離状況(2000〜05年) |
感染から3〜5日の潜伏期間の後に、口腔粘膜、手掌、足底や足背などの四肢末端に2〜3 mmの水疱性発疹が出現する。発熱は約3分の1に認められるが軽度であり、通常高熱が続くことはない。基本的には、数日間で治癒する予後良好の疾患である。しかしながらまれではあるが、髄膜炎、小脳失調症、脳炎などの中枢神経症状などのほか、心筋炎、急性弛緩性麻痺などの多彩な臨床症状を呈することがある。特にEV71ウイルスに感染した場合は、髄膜炎、脳炎などの中枢神経系合併症を生ずることが比較的多いので、本ウイルスが流行しているシーズンは発症児の経過を注意深く観察し、合併症に対する警戒を行う必要がある。
感染経路は飛沫感染、接触感染、糞口感染であり、保育園や幼稚園などの乳幼児施設においての感染予防は、手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本となる。主症状が回復した後も比較的長期間にわたって、便などからウイルスが排泄されることがあるが、基本的には軽症疾患であるので、回復した児に対して長期間の欠席を求めることは現実的ではない。
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2000〜05年の定点医療機関からの累積報告数の推移をみると、2000年および2003年に増加 しているが、これは、CA16よりもEV71が多く分離されている年と一致している(図3)。2006年については、第25週までの累積報告数は18,965例であり、これまでのところ、2000年以降では2004年に次いで少ない報告数である。 |
図4. 手足口病におけるEV71とCA16の週別分離状況(2006年第1〜25週) |
図5. 手足口病におけるウイルスの分離状況(2006年第1〜25週) |
しかしながら、2006年はCA16よりもEV71の分離報告数が多く、特に第15週以降はEV71のみである(図4、図5)。手足口病は夏季のピークに向けてさらに増加するものと予想されるが、本年はEV71感染例が多いことから、報告数の推移や重症化例、合併症例の報告には注意すべきである。
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