発生動向総覧
*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。
◆全数報告の感染症
〈第26週コメント〉7月6日集計分
注意:これはこれは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ2例(感染地域:ともにインド)
細菌性赤痢4例(感染地域:兵庫県2例、愛知県1例、エジプト1例)
腸チフス1例(感染地域:シンガポール/バングラデシュ) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症111例(うち有症者74例、HUS 3例)
感染地域:国内110例、インドネシア1例
国内の多い感染地:埼玉県(18例)、鹿児島県(13例)、東京都(10例)、愛知県(8例)
年齢群:10歳未満(34例)、10代(27例)、20代(14例)、30代(14例)、40代(11例)、50代(3例)、60代(3例)、70歳以上(5例)
血清型・毒素型:O157 VT2(42例)、O157 VT1・VT2(36例)、O26 VT1(13例)、O26 VT1・VT2(2例)、O91 VT1(2例)、O103 VT1(2例)、O157 VT1(2例)、O1 VT1(1例)、O111 VT1(1例)、O121 VT2(1例)、O128 VT1(1例)、その他/不明(8例) |
4類感染症: |
E型肝炎1例(感染地域:神奈川県.感染源:不明)
A型肝炎1例(感染地域:フィリピン)
つつが虫病6例(感染地域:秋田県3例、青森県2例、岩手県1例)
デング熱1例(感染地域:インドネシア)
マラリア2例(ともに三日熱_感染地域:パプアニューギニア1例、インド1例)
レジオネラ症 |
13例(すべて肺炎型、うち1例死亡)
年齢群:50代3例、60代5例、70代3例、80代2例
感染地域(温泉):岐阜県3例(うち1例温泉)、山口県2例(うち1例温泉)、北海道1例(温泉)、埼玉県1例、富山県1例、静岡県1例、三重県1例、京都府1例、兵庫県1例、岡山県1例
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5類感染症: |
アメーバ赤痢 |
12例(腸管11例、腸管外1例)
感染地域:国内8例、インドネシア1例、タイ1例、メキシコ/ブラジル1例、国外(不明)1例
感染経路:経口3例、性的接触4例(異性間2例、同性間1例、不明1例)、不明5例 |
ウイルス性肝炎 5例 |
B型4例_感染経路:すべて性的接触(異性間3例、同性間1例)
C型1例_感染経路:不明 |
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(70代.血清群:A群.死亡) |
後天性免疫不全症候群 |
16例(無症候13例、AIDS 3例)
感染経路:性的接触12例(異性間2例、同性間9例、異性間/同性間1例)、不明4例
感染地域:国内12例、国外(国不明)4例 |
ジアルジア症1例(感染地域:国内)
梅毒10例(早期顕症I期3例、早期顕症II期5例、無症候2例)
破傷風3例(50代1例、60代2例)
(補)他にジアルジア症1例、梅毒2例の報告があったが、削除予定。また報告遅れとして、コレラ1例(疑似症)、Q熱1例(感染地域:香川県.感染源:不明)、ライム病1例(感染地域:北海道)、レジオネラ症3例〔すべて肺炎型.感染地域:東京都1例(温泉)、富山県1例、熊本県1例(温泉)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症4例(40代1例、60代2例、70代1例.血清群:すべてA群)などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ:定点当たり報告数は3週連続して減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では沖縄県(18.6)、青森県(2.6)、岩手県(1.3)、北海道(1.2)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は70例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約70%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では愛媛県(2.5)、奈良県(2.4)、鳥取県(2.1)、長野県(2.0)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は2週連続で減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いて いる。都道府県別では山形県(3.3)、三重県(3.0)、長野県(2.9)、宮崎県(2.9)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第21週以降、減少が続いている。都道府県別では大分県(8.4)、福井県(8.0)、宮崎県(6.5)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では長野県(4.1)、福島県(3.5)、愛媛県(3.4)、新潟県(3.4)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第19週以降、増加が続いている。都道府県別では福井県(9.1)、岐阜県(5.2)、徳島県(4.8)、静岡県(4.7)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では埼玉県(1.6)、山形県(1.5)、鳥取県(1.5)、宮崎県(1.5)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では栃木県(0.09)、福島県(0.06)、福井県(0.05)、長崎県(0.05)が多い。風しんの定点当たり報告数は増加した。都道府県別では宮城県(0.05)、山梨県(0.04)、島根県(0.04)、鹿児島県(0.04)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第10週以降、増加が続いている。都道府県別では和歌山県(9.9)、千葉県(7.9)、神奈川県(7.4)、新潟県(6.2)が多い。麻しんの定点当たり報告数は微減した。都道府県別では千葉県(0.05)、岩手県(0.03)、秋田県(0.03)、岡山県(0.02)、鹿児島県(0.02)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数はほぼ横ばいであった。都道府県別では鹿児島県(4.7)、鳥取県(3.4)、新潟県(3.4)、長野県(3.2)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では青森県(2.7)、群馬県(2.0)、沖縄県(1.9)が多い。
注目すべき感染症
◆ 伝染性紅斑
伝染性紅斑(erythema infectiosum)は幼児、学童に好発する感染症であり、病原体は単鎖DNAウイルスであるパルボウイルスB19である。感染経路は通常、飛沫感染あるいは接触感染であるが、まれに血液製剤からの感染の報告がある。
感染後約1週間で軽い感冒様症状を示すことがあるが、この時期にはウイルス血症を起こしており、ウイルスの体外への排泄量は最も多くなる。本疾患の特徴的な症状は、感染後10〜20日で出現する両頬の境界鮮明な紅斑であり、続いて腕、脚部にも両側性にレース様の紅斑がみられる。発疹が体幹部(胸腹背部)にまで出現する例もある。発熱はあっても軽度である。発疹の出現時期にはすでに抗体産生が始まっており、ウイルス血症は終息し、感染性は殆どないといわれている。
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図1. 伝染性紅斑の年別・週別発生状況(1996〜2006年第26週) |
図2. 伝染性紅斑の報告症例の年別・年齢群別割合(2000〜05年) |
図3. 伝染性紅斑の年別発生状況 |
成人の場合、両頬の紅斑がみられることは少ない。合併症である関節痛・関節炎の頻度は小児では10%以下であるが、成人男性では約30%、成人女性では約60%と高率である。また妊婦が感染すると、胎児水腫や流産の可能性がある。妊娠前半期の方がより危険性が高いが、後半期にも胎児感染が生じるとの報告もある。その他、溶血性貧血を有する場合に骨髓無形成発症(aplastic crisis)を引き起こすことがあり、他にも血小板減少症、顆粒球減少症、血球貪食症候群など、稀ではあるが重篤な合併症が知られている。
感染症発生動向調査によると、伝染性紅斑は例年夏季に報告数が増加し、ピークは第26週前後のことが多い(図1)。年齢では9歳以下が全体の90%以上を占めており、なかでも4〜7歳がほぼ半数を占めている(図2)。過去6年間の定点医療機関からの累積報告数の年別推移をみると、2001年が67,667例と最多であり、2003年以降は50,000例以下で推移していたが(図3)、2006年は第26週までで32,371例であり、今までのところ、2003年以降では最も多くなっている。
伝染性紅斑は紅斑出現時期には感染性は殆どなく、感染予防策の必要性はないが、ウイルス血症を示して感染性のある時期には特徴的な症状はなく、本疾患と判定できないので、実際的な感染予防策は困難である。したがって妊婦などの高リスク者は、普段から流行時期には人ごみを避けて、手洗い励行などの一般的対策をとるべきである。
今後とも伝染性紅斑の発生動向には注意が必要である。
◆ 腸管出血性大腸菌感染症
2006年における腸管出血性大腸菌感染症の報告は、第15週(27例)から増加が認められ、第20週(53例)に50例を超え、第21週以降は80例前後で推移していたが、第26週に100例を超えて111例となった。本年第26週までの累積報告数は866例であるが、今までのところ例年(2000年936例、2001年1,347例、2002年985例、2003年635例、2004年904例、2005年909例)と比べ、多いとは言えない(図1)。
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図1. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の年別・週別発生状況 |
図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告状況・感染状況(2006年第26週) |
図3. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告状況(2006年第1〜26週) |
第26週に報告のあった111例についてみると、報告の多かった都道府県は埼玉県(18例)、福岡県(14例)、東京都(12例)、愛知県(8例)、静岡県(6例)であった(図2)。埼玉県の18例のうち8例は、第25週に報告のあった3例とともに同一焼肉店における集団発生で、福岡県の14例中12例は、2つの高校(各6例ずつ)での集団発生である。2006年4月から、国内を感染地域とする場合に、県名などの詳細情報を届け出るようになったが、第26週に感染地域として多かった都道府県は、埼玉県(18例)、鹿児島県(13例)、東京都(10例)、愛知県(8例)であった(図2)。また、国外(インドネシア)を感染地域とするものが1例あった。性別では男性53例、女性58例であり、年齢階級別(10歳毎)では0〜9歳(34例)が最も多く、31%を占めた。また有症状者は74例で、無症状病原体保有者が37例であった。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の定期検便によって発見される場合もあるが、多くは探知された患者と食事を共にした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。分離された菌の血清型・毒素型別は、O157 VT2(42例)、O157 VT1・VT2(36例)、O26 VT1(13例)の順に多かった。
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第1〜26週の累積報告数866例についてみると、報告の多かった都道府県は、大阪府(83例)、東京都(62例)、愛知県(52例)、埼玉県(45例)、福岡県(44例)である(図3)。性別では男性432例、女性434例であり、年齢階級別(10歳毎)では0〜9歳(338例)が最も多く、39%を占めている。性別・年齢群別にみると、0〜9歳および10〜19歳では男性が女性より多く、それ以上の年齢群では女性が男性より多い。また、有症状者は561例(65%)で、無症状病原体保有者が305例である。 |
図4. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢群別・症状の有無別報告数(2006年第1〜26週) |
性別・年齢群別・症状の有無別にみると、男女ともに30〜50代では無症状病原体保有者が多く、それ以外では有症状者が多い(図4)。分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT1・VT2(324例)、O26 VT1(180例)、O157 VT2(177例)の順に多かった。溶血性尿毒症症候群(HUS)については報告遅れ分や追加報告を含み、第26週に5例報告があり、累積では19例となった。2006年4月からHUS発症例の届出は、病原体の分離ができない症例であっても、便から直接のベロ毒素の検出や、血清抗体の検出によって届出対象となった。19例のうち7例は、血清抗体の検出により届け出られたものである。死亡例については、2006年では第26週までに報告はない。ただしHUSなどの合併症や死亡については、届け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があり、発生があった場合の追加・修正報告をお願いしている。
本年も既に飲食店や動物園に関連した集団発生がみられた他、保育施設での集団発生が散見されている。今後、本症の発生はさらに増加するものと予想され、その発生動向には注意が必要である。そのため、食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。また本症に限らない注意として、保育施設においては特にオムツ交換時の手洗い、園児に対する食前・食後の手洗い指導を徹底し、さらに簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。
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