発生動向総覧
*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。
◆全数報告の感染症
〈第29週コメント〉7月27日集計分
注意:これはこれは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
細菌性赤痢6例(感染地域:熊本県1例、中国1例、韓国1例、タイ1例、ベトナム1例、エジプト1例)
腸チフス2例(感染地域:インド1例、インドネシア1例) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症症125例(うち有症者95例、HUS 3例)
感染地域:国内123例、中国1例、インドネシア1例
国内の多い感染地:愛知県(12例)、神奈川県(9例)、千葉県(7例)、東京都(7例)、兵庫県(7例)
年齢群:10歳未満(43例)、10代(21例)、20代(19例)、30代(7例)、40代(5例)、50代(11例)、60代(9例)、70歳以上(10例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(72例)、O157 VT2(18例)、O26 VT1(15例)、O111 VT1(3例)、O121 VT1・VT2(2例)、O157 VT1(2例)、O26 VT1・VT2(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、O165 VT1・VT2(1例)、その他/不明(10例) |
4類感染症: |
A型肝炎3例(感染地域:すべて長崎県)
つつが虫病2例(感染地域:秋田県1例、福島県1例)
ライム病1例(感染地域:三重県)
レジオネラ症 7例 |
(すべて肺炎型)
年齢群:50代5例、60代1例、70代1例
感染地域:栃木県1例(温泉)、群馬県1例(温泉)、富山県1例、石川県1例、岐阜県1例(温泉)、滋賀県1例、香川県1例
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5類感染症: |
アメーバ赤痢 12例 |
(腸管7例、腸管外5例)
感染地域:国内9例、中国1例、サイパン1例、フィリピン/韓国/サイパン1例
感染経路:経口3例、性的接触2例(異性間1例、不明1例)、不明7例 |
ウイルス性肝炎 4例 |
B型3例:感染経路_性的接触2例(ともに異性間)、不明1例
C型1例:感染経路_不明 |
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(G群.50代) |
後天性免疫不全症候群 |
11例(無症候9例、AIDS 2例)
感染地域:国内9例、中国(香港)1例、東南アジア1例
感染経路:性的接触10例(異性間5例、同性間5例)、不明1例 |
ジアルジア症1例(感染地域:国内)
梅毒5例(早期顕症II期2例、無症候3例)
破傷風1例(80代)
(補)他に報告遅れとして、エキノコックス症1例(多包条虫.感染地域:北海道)、日本紅斑熱1例(感染地域:和歌山県)などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ:定点当たり報告数は第22週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では沖縄県(6.10)、青森県(1.60)、宮崎県(0.54)、岩手県(0.41)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は71例の報告があり、報告数は増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の77%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では宮崎県(2.8)、三重県(2.5)、茨城県(2.2)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第25週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してやや多い状態が続いている。都道府県別では三重県(1.9)、福井県(1.7)、茨城県(1.7)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第21週以降、減少が続いている。都道府県別では福井県(8.7)、大分県(6.0)、宮崎県(5.6)が多い。水痘の定点当たり報告数は第25週以降、減少が続いている。都道府県別では北海道
(2.3)、徳島県(2.2)、山形県(2.0)が多い。手足口病の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福井県(17.1)、岐阜県(7.2)、静岡県(5.4)、愛知県(5.2)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では秋田県(1.00)、静岡県(0.80)、山形県(0.73)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では秋田県(0.06)、岡山県(0.06)が多い。風しんの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では岐阜県(0.04)、兵庫県(0.02)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮城県(8.3)、和歌山県(6.0)、青森県(5.6)が多い。麻しんの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では
鳥取県(0.05)、千葉県(0.04)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では鹿児島県(5.0)、新潟県(3.8)、宮崎県(3.0)、長野県(2.9)が多い。
基幹定点報告疾患::マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では大阪府(2.1)、愛媛県(1.3)、石川県(1.0)が多い。
(補)岡山県および神奈川県の麻しん報告については修正予定である。
注目すべき感染症
◆ 咽頭結膜熱
咽頭結膜熱は主にアデノウイルス3型あるいは2型(他に1、5、6型など)を原因とし、咽頭炎、結膜炎を主とする急性ウイルス性感染症である。3主症状は発熱、咽頭炎(咽頭発赤、咽頭痛)、結膜炎(結膜充血、眼痛、流涙、眼脂)であり、潜伏期間は5〜7日、有症状期間は3〜5日とされている。感染経路は主に飛沫感染、接触感染であるが、感染力は強力であり、タオル、ドアの把手、エレベーターのボタン、階段の手すりなどを介した間接的な接触によっても感染する場合がある。また、症状消失後も約1か月間に渡って、尿・便中にウイルスが排出されると言われており、さらに無症状病原体保有者も存在する。このため効果的な感染予防対策の実施は困難であり、毎年全国的に乳幼児施設や小児施設において集団発生がみられている。
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図1. 咽頭結膜熱の報告症例の年別・年齢群別割合(2000〜2005年) |
図2. 咽頭結膜熱の年別・週別発生状況(1996〜2006年第29週) |
図3. 咽頭結膜熱におけるウイルスの分離状況(2006年第1〜29週) |
年齢では、7歳以下が報告の90%前後を占めており、主に乳幼児が罹患する(図1)。時期的には、例年夏季に最も増加し、特に学校や幼稚園が夏季休暇となる29〜30週頃に流行のピークを迎えることが多い(図2)。本疾患は別名プール熱とも呼ばれており、過去にプールにおける集団発生の報告もみられていた。しかし、前述したように感染力は強く、プールのみならず日常生活のあらゆるところで感染の可能性がある。実際、例年多くの地域でプール施設が使用される前より報告数は増加し始め、また、例年プールの使用が最も本格化する8月(第31週)以降は、報告数の減少がみられている。
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図4. 咽頭結膜熱から分離されたアデノウイルスの年別・型別割合 |
図5. 咽頭結膜熱の年別発生状況 |
図6. 咽頭結膜熱の週別発生状況の過去5年間との比較 |
2006年第1週からこれまでに分離されたウイルス(総分離報告数138)では、例年と同様、アデノウイルス3型が52%と最多を占め、次いで2型が多い(図3、図4)。
咽頭結膜熱の報告数は2003年以降、急増している(図5)。加えて、2006年は現時点でさらに報告数の増加がみられている(図2、図6)。これについては、近年ほとんどの小児科系の医療機関でアデノウイルスの迅速検査が普及したことも関係すると考えられる。従って、本疾患の報告数を過去と比較しても、実際の発生状況の変化を正確に表していない可能性もある。本疾患は現在発生のピークを迎えている可能性が高いが、その発生動向には今後とも注意が必要である。
◆ 腸管出血性大腸菌感染症
2006年の腸管出血性大腸菌感染症の報告数は第15週(27例)から増加が認められ、第20週 (59例)に50例を超え、21週以降は80例前後で推移していたが、第26週(137例)に100例を超え た。第27週は134例、第28週は135例であり、第29週は125例であった(図1)。本年第29週まで の累積報告数は1,293例であるが、今までのところ例年(2000年1,299例、2001年1,824例、2002 年1,407例、2003年977例、2004年1,406例、2005年1,385例)と比べ、多いとは言えない。 第29週に診断された125例についてみると、報告の多かった都道府県は東京都(13例)、愛 知県(12例)、神奈川県(10例)、千葉県(9例)、兵庫県(9例)であった(図2a)。
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図1. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の年別・週別発生状況 |
図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告・感染状況(2006年第29週) |
図3. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告状況(2006年第1〜29週) |
千葉県の9例の うち5例は、第28週の1例とともに保育施設関連の集団発生である。また、2006年4月から、国内 を感染地域とする場合に、県名などの詳細情報を届け出るようになったが、第29週に感染地域 として多かった都道府県は、報告の都道府県とほぼ同様で、愛知県(12例)、神奈川県(9例)、 千葉県(7例)、東京都(7例)、兵庫県(7例)であった(図2b)。さらに、国外を感染地域とするもの が2例(中国1例、インドネシア1例)みられた。性別では男性74例、女性51例であり、年齢階級別 (10歳毎)では0〜9歳(43例)が最も多く、約34%を占めた。また、有症状者は95例で、無症状病 原体保有者が30例であった。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の定期検便によって発 見される場合もあるが、多くは探知された患者と食事を共にした者や、接触者の調査などによ って発見される場合が多い。分離された菌の血清型・毒素型別は、O157 VT1・VT2(72例)、 O157 VT2(18例)、O26 VT1(15例)の順に多かった。
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第1〜29週の累積報告数1,293例についてみると、報告の多かった都道府県は、大阪府(116例)、東京都(96例)、群馬県(85例)、愛知県(79例)、兵庫県(72例)である(図3)。性別では男性639例、女性654例であり、年齢階級別(10歳毎)では0〜9歳(517例)が最も多く、40%を占めている。性別・年齢群別にみると、0〜9歳、10〜19歳、40〜49歳では男性が女性より多く、それ以外の年齢群では女性が男性より多い(図4)。また有症状者は878例(68%)で、無症状病原体保有者が415例である。性別・年齢群別に症状の有無をみると、30〜50代では男女ともに無症状病原体保有者が多く、それ以外では有症状者が多い。分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT1・VT2(514例)、O157 VT2(283例)、O26 VT1(266例)の順に多かった。
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図4. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢群別・症状の有無別報告数(2006年第1〜29週) |
溶血性尿毒症症候群(HUS)は報告遅れ分や追加報告を含み、第29週に4例報告があり、累積では37例となった。また2006年4月から、HUS発症例の届出は、病原体の分離ができない症例であっても、便から直接のベロ毒素の検出や、血清抗体の検出によって届出対象となった。37例のうち10例は、血清抗体の検出により届け出られたものである。死亡については、2006年では第29週までに2例の報告があった。しかし、HUSなどの合併症や死亡については、届け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があり、発生があった場合の追加・修正報告をお願いしている。
2006年も既に保育施設での集団発生が散見されている他、飲食店や展示動物に関連した集団発生もみられている。今後、本症の発生はさらに増加するものと予想され、その発生動向には注意が必要である。そのため食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。また保育施設においては、特にオムツ交換時の手洗い、園児に対する食前の手洗い指導を徹底し、 この季節は簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。
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