国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第30号ダイジェスト
2006年第30週(7月24日〜30日)

 発生動向総覧


*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症


〈第30週コメント〉8月3日集計分

注意:これはこれは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は第22週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では沖縄県(2.93)、青森県(0.98)、宮崎県(0.64)、岩手県(0.52)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は95例の報告があり、報告数は増加した。年齢別で は、1歳以下の報告数が全体の74%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では宮崎県(2.5)、三重県(2.4)、埼玉県(2.3)、富山県(2.1)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報 告数は第25週以降、減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では三重県(1.6)、富山県(1.6)、福島県(1.5)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は微増し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では福井県(9.2)、大分県(6.5)、鳥取県(6.2)が多い。水痘の定点当たり報告数は第25週以降、減少が続いている。都道府県別では愛媛県(1.6)、青森県(1.6)、北海道(1.6)が多い。手足口病の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福井県(16.5)、岐阜県(6.3)、三重県(5.2)、滋賀県(4.8)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では宮城県(1.1)、埼玉県(1.1)、静岡県(1.1)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では高知県(0.07)、福井県(0.05)、長崎県(0.05)が多い。風しんの定点当たり報告数は微増した。都道府県別では福井県(0.05)、徳島県(0.05)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は3週連続して減少した。都道府県別では北海道(6.8)、青森県(6.4)、宮城県(6.0)が多い。麻しんの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では広島県(0.04)、千葉県(0.02)、神奈川県(0.01)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は微増した。都道府県別では新潟県(4.6)、鹿児島県(4.4)、長野県(3.3)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と 比較してかなり多い。都道府県別では大阪府(3.3)、青森県(2.0)、栃木県(1.3)が多い。成人麻しんは1例(北海道)の報告があった。
(補)兵庫県からの麻しん報告は取り消し予定である。


 注目すべき感染症

◆ 手足口病

手足口病(hand-foot-and-mouth disease : HFMD)は、口腔粘膜および手や足などの水疱性発疹を主症状とした急性ウイルス性感染症であり、乳幼児を中心に主に夏季に流行する(図1)。病原ウイルスは主にコクサッキーウイルスA16(CA16)、エンテロウイルス71(EV71)であるが、その他、CA10などのエンテロウイルスによっても類似の症状を呈することがある。感染経路は飛沫感染、接触感染、糞口感染である。

3〜5日の潜伏期間の後に、口腔粘膜、手掌、足底や足背などの四肢末端に2〜3 mmの水疱性発疹が出現する。発熱は約3分の1に認められるが軽度であり、通常高熱が続くことはない。基本的には数日間で治癒する予後良好の疾患である。しかし、ときに髄膜炎の合併がみられ、稀ではあるが急性脳炎を生ずることもあり、なかでもEV71では中枢神経系合併症の発生率が高いことが知られている。

図1. 手足口病の年別・週別発生状況(1996〜2006年第30週) 図2. 手足口病の年別発生状況、およびEV71とCA16の分離状況(2000〜2005年) 図3. 手足口病におけるウイルスの分離状況(2006年第1〜30週)

感染症発生動向調査によると、例年7月中旬から下旬にかけて発生のピークを迎えることが多く(図1)、本年も現在が最も発生の多い時期であると考えられる。2000〜2005年の小児科定点からの累積報告数の推移をみると、EV71がCA16よりも多く分離されている2000年と2003年に、報告数が増加している(図2)。しかし2006年では、第30週までの累積報告数が45,278と、2000年以降の過去5年間の同時期では2004年に次いで少ないものの、EV71が71.3%と多数を占めている(図1、図3)。年齢では、毎年5歳以下の報告が80%以上を占めており、乳幼児を中心に発症する疾患である(図4)。

保育園や幼稚園などの乳幼児の集団生活施設では、しばしば集団発生がみられている。本疾患は基本的には予後良好の軽症疾患であることから、治癒後も長期間にわたってウイルスが排泄されることもあるとの理由で、感染予防のために回復児に対して長期の隔離や欠席を求めることは現実的ではない。
本年は本疾患の報告数は今のところ少ないながらも、流行の主流はEV71であることから、今後ともその発生動向には注意深い観察が必要である。

図4. 手足口病の報告症例の年別・年齢群別割合(2000〜2005年)


◆ 腸管出血性大腸菌感染症

2006年の腸管出血性大腸菌感染症の報告数は第15週(27例)から増加が認められ、第20週(59例)に50例を超え、第21〜25週は80例前後で推移した。第26週(137例)に100例を超えた後、第27週(135例)、第28週(139例)、第29週(137例)は130例台で推移し、第30週は191例とさらに増加した。本年第30週までの累積報告数は1,500例であるが、今までのところ例年(2000年1,435例、2001年2,030例、2002年1,555例、2003年1,107例、2004年1,525例、2005年1,563例)と比べ、多いとは言えない(図1)。

図1. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の年別・週別発生状況 図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告・感染状況(2006年第30週) 図3. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告状況(2006年第1〜30週)

第30週に診断された191例についてみると、報告の多かった都道府県は岐阜県(27例)、大阪府(19例)、千葉県(16例)、福岡県(16例)、神奈川県(13例)であった(図2a)。岐阜県の27例のうち22例は、保育園関連の集団発生である。また2006年4月から、国内を感染地域とする場合に、県名などの詳細情報を届け出るようになったが、第30週に感染地域として多かった都道府県は、報告の都道府県とほぼ同様で、岐阜県(27例)、福岡県(16例)、大阪府(14例)、愛知県(13例)、千葉県(12例)であった(図2b)。国外を感染地域とするものはみられなかった。性別では男性73例、女性118例であり、年齢階級別(10歳毎)では0〜9歳(73例)が最も多く、約38%を占めた。また有症状者は127例で、無症状病原体保有者が64例であった。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の定期検便によって発見される場合もあるが、多くは探知された患者と食事を共にした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。分離された菌の血清型・毒素型別は、O157 VT1・VT2(97例)、O26 VT1(38例)、O157 VT2(32例)の順に多かった。

第1〜30週の累積報告数1,500例についてみると、報告の多かった都道府県は、大阪府(135例)、東京都(106例)、愛知県(92例)、群馬県(91例)、兵庫県(78例)である(図3)。性別では男性717例、女性783例であり、年齢階級別(10歳毎)では0〜9歳(596例)が最も多く、40%を占めている。性別・年齢群別にみると、0〜9歳および10〜19歳では男性が女性より多く、それ以上の年齢群では女性が男性より多い。また有症状者は1,019例(68%)で、無症状病原体保有者が481例である。性別・年齢群別に症状の有無をみると、30〜40代の男性および30〜50代の女性では無症状病原体保有者が多く、50代男性では有症状者と無症状病原体保有者は同数であり、それ以外では男女ともに有症状者が多い(図4)。分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT1・VT2(622例)、O157 VT2(320例)、O26 VT1(304例)の順に多かった。

溶血性尿毒症症候群(HUS)は報告遅れ分や追加報告を含み、第30週に2例の報告があり、累積では39例となった。2006年4月からHUS発症例の届出は、病原体の分離ができない症例であっても、便から直接のベロ毒素の検出や血清抗体の検出によって届出対象となった。39例のうち、便から直接のベロ毒素の検出によるものが1例、血清抗体の検出によるものが10例届け出られている。死亡については、2006年では第30週までに3例の報告があった。しかし、HUSなどの合併症や死亡については、届け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があり、発生があった場合の追加・修正報告をお願いしている。
図4. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢群別・症状の有無別報告数(2006年第1〜30週)

2006年も既に保育施設での集団発生が散見されている他、飲食店や展示動物に関連した集団発生もみられている。今後、本症の発生はさらに増加するものと予想され、その発生動向には注意が必要である。食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。また保育施設においては、特にオムツ交換時の手洗い、園児に対する食前の手洗い指導を徹底し、簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。

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