国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第36号ダイジェスト
(2006年9月4日〜10日)

 発生動向総覧


*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症


〈第36週コメント〉9月14日集計分

注意:これはこれは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: コレラ1例(感染地域:千葉県)
細菌性赤痢11例(感染地域:青森県2例、東京都1例、愛知県1例、中国2例、タイ1例、ネパール1例、マレーシア1例、ベトナム1例.疑似症1例)
腸チフス1例(感染地域:福岡県)
パラチフス1例(感染地域:インド)
3類感染症: 腸管出血性大腸菌感染症症158例(うち有症者98例、HUS 3例)
感染地域:すべて国内
国内の多い感染地:京都府(16例)、静岡県(16例)、徳島県(12例)、新潟県(10例)、大阪府(10例)
年齢群:10歳未満(73例)、10代(24例)、20代(17例)、30代(12例)、40代(12例)、50代(10例)、60代(6例)、70歳以上(4例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(75例)、O26 VT1(35例)、O157 VT2(23例)、O157 VT1(9例)、O111 VT1(5例)、O26 VT2(2例)、O26 VT1・VT2(1例)、O103 VT1(1例)、O103 VT2(1例)、O145 VT2(1例)、O165 VT2(1例)、その他/不明(4例)
4類感染症: A型肝炎13例〔感染地域:滋賀県10例*、静岡県1例、奈良県1例、大分県1例.*同一飲食店に関連〕
オウム病1例(感染源:インコ)
デング熱2例(感染地域:ともにフィリピン)
日本紅斑熱1例(感染地域:和歌山県)
マラリア1例(原虫種不明_感染地域:トーゴ)
レジオネラ症12例 (全て肺炎型)
年齢群:30代2例、50代4例、60代3例、70代3例
感染地域:東京都2例、熊本県2例(うち1例温泉)、北海道1例、岩手県1例(温泉)、宮城県1例、茨城県1例、岡山県1例、山口県1例(温泉)、福岡県1例(温泉)、国内(都道府県不明)1例
レプトスピラ症4例〔感染地域:東京都1例、宮崎県1例、沖縄県1例、国内(都道府県不明)1例.うち1例死亡〕

5類感染症:
アメーバ赤痢 5例(すべて腸管アメーバ症)
感染地域:国内4例、国内・国外不明1例
感染経路:性的接触3例(異性間1例、同性間1例、異性間・同性間不明1例)、不明2例
ウイルス性肝炎1例(B型_感染経路:不明)
急性脳炎1例〔病原体不明(50代)〕
クリプトスポリジウム症1例(感染地域:国内)
クロイツフェルト・ヤコブ病4例(すべて孤発性プリオン病古典型)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(血清群:B群.40代)
後天性免疫不全症候群 13例(無症候9例、AIDS 3例、その他1例)
感染地域:国内10例、米国1例、国外(国不明)2例
感染経路:性的接触9例(異性間2例、同性間7例)、不明4例
髄膜炎菌性髄膜炎1例(感染地域:国内)
梅毒3例(早期顕症II期2例、無症候1例)
破傷風2例(60代1例、80代1例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例 (遺伝子型:VanC、菌検出検体:血液)
(補)他に梅毒1例の報告があったが、削除予定。また報告遅れとして、細菌性赤痢5例(感染地域:中国2例、インド2例、エジプト1例)、急性脳炎6例〔すべて病原体不明(0歳1例、4歳1例、10代1例、40代1例、50代1例、60代1例)〕などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は微減した。都道府県別では沖縄県(0.26)、岐阜県(0.09)、長崎県(0.09)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は109例の報告があり、報告数は増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の82%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では高知県(2.5)、長野県(2.3)、三重県(2.2)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は3週連続して増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では山形県(1.8)、鳥取県(1.8)、福島県(1.4)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は3週連続して増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では鳥取県(6.8)、熊本県(6.4)、大分県(5.9)が多い。水痘の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では大分県(1.17)、宮崎県(1.08)、熊本県(0.85)が多い。手足口病の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では新潟県(5.8)、長野県(4.8)、石川県(4.3)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は微増し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では岐阜県(0.75)、静岡県(0.74)、愛知県(0.64)が多い。百日咳の定点当たり報告数は微増した。都道府県別では千葉県(0.07)、長野県(0.07)、岐阜県(0.04)が多い。風しんの定点当たり報告数は微減した。都道府県別では栃木県(0.02)、千葉県(0.01)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第28週以降、減少が続いている。都道府県別では北海道(1.6)、秋田県(1.5)、青森県(1.4)が多い。麻しんの定点当たり報告数は微増した。都道府県別では徳島県(0.06)、栃木県(0.02)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は第31週以降、減少が続いている。都道府県別では新潟県(3.0)、鹿児島県(2.4)、大分県(2.3)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では大阪府(2.3)、群馬県(1.5)、愛媛県(1.3)が多い。



 注目すべき感染症

◆ 腸管出血性大腸菌感染症

2006年の腸管出血性大腸菌感染症の報告数は第15週(27例)から増加が認められ、第20週(59例)に50例を超え、第21〜25週は80例前後、第26〜29週は140例前後で推移した。第30週(237例)に200例を超え、第31〜33週は200例未満であったが、第34週に再び200例を越え、第35週は284例と本年最多の報告数となったが、第36週は158例と減少した(図1)。本年第36週までの累積報告数は2,752例であるが、今までのところ例年(2000年2,458例、2001年3,677例、2002年2,541例、2003年1,824例、2004年2,804例、2005年2,598例)と比べ、特に多いとは言えない。

図1. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の年別・週別発生状況 図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告・感染状況(2006年第36週) 図3. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告状況(2006年第1〜36週)

第36週に診断された158例についてみると、報告の多かった都道府県は京都府(19例)、静岡県(16例)、徳島県(12例)、新潟県(10例)、大阪府(10例)であった(図2a)。また、2006年4月から国内を感染地域とする場合に県名などの詳細情報を届け出るようになったが、第36週に感染地域として多かった都道府県は、報告の都道府県とほぼ同様で、京都府(16例)、静岡県(16例)、徳島県(12例)、新潟県(10例)、大阪府(10例)であった(図2b)。そのうち京都府の14例、および徳島県の12例は保育施設に、また新潟県の9例は飲食店に関連した集団発生である。国外を感染地域とするものはなかった。性別では男性76例、女性82例であり、年齢階級別(10歳毎)では0〜9歳(73例)が最も多く、46%を占めた。また有症状者は98例で、無症状病原体保有者が60例であった。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の定期検便によって発見される場合もあるが、多くは探知された患者と食事を共にした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。分離された菌の血清型・毒素型別では、O157 VT1・VT2(75例)、O26 VT1(35例)、O157 VT2(23例)の順に多かった。
第1〜36週の累積報告数2,752例についてみると、報告の多かった都道府県は大阪府(221例)、東京都(188例)、愛知県(150例)、福岡県(136例)、神奈川県(130例)である(図3)。性別では男性1,309例、女性1,443例であり、年齢階級別(10歳毎)では0〜9歳(1,190例)が最も多く、43%を占めている。性別・年齢群別にみると、0〜9歳及び10〜19歳では男性が女性より多く、それ以上の年齢群では女性が男性より多い。
図4. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢群別・症状の有無別報告数(2006年第1〜36週)

また有症状者は1,834例(67%)で、無症状病原体保有者が918例である。性別・年齢群別に症状の有無をみると、30代、40代の男性、および30代、40代、50代の女性では無症状病原体保有者が多く、それ以外では有症状者が多い(図4)。分離された菌の血清型・毒素型では、O157 VT1・VT2(1,225例)、O26 VT1(577例)、O157 VT2(550例)の順に多かった。

溶血性尿毒症症候群(HUS)は報告遅れ分や追加報告を含み、第36週に4例の報告があり、累積では68例となった(図4)。2006年4月からHUS発症例の届出は、病原体の分離ができない症例であっても、便から直接のベロ毒素の検出や、血清抗体の検出によって届出対象となった。上記68例のうち、便から直接のベロ毒素の検出によるものが1例、血清抗体の検出によるものが17例届け出られた。死亡については、第36週までに3例の報告があった。しかし、HUSなどの合併症や死亡については、届け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があり、発生があった場合の追加・修正報告をお願いしている。
2006年は飲食店や展示動物に関連した集団発生がみられている他、保育施設での集団発生が相次いでみられている。過去の発生状況からは流行のピークは越えつつあると予想されるものの、当分は発生の多い状況が続く可能性もあり、その発生動向には注意が必要である。食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。また保育施設においては、特にオムツ交換時の手洗い、園児に対する食前の手洗い、排便後の手洗い指導を徹底する必要がある。


◆ A群溶血性レンサ球菌咽頭炎

A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes )はその侵入部位や組織によって多彩な症状を引き起こす。また、本菌は稀ながら劇症型溶血性レンサ球菌感染症を生ずることがあるが、その発生機序は解明されていない。本稿では、通常小児の間で発生し、感染症法によって5類感染症定点把握疾患と定められているA群溶血性レンサ球菌咽頭炎について述べる。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は本邦を含めた温帯地域を中心に、広く世界的に分布している。感染経路としてはヒトからヒトへの飛沫感染が主であるが、食品を介する経口感染もあると言われている。潜伏期間は1〜4日であり、突然の発熱、咽頭痛、全身倦怠感によって発症し、しばしば嘔吐を伴う。通常、発熱は3〜5日以内に消退し、主症状は1週間以内に消失する予後良好の疾患であるが、菌が産生する毒素に免疫のない場合は猩紅熱を生じる場合がある。治療にはペニシリン系薬が第1選択薬とされるが、薬剤アレルギーがある場合はマクロライド系薬やセフェム系薬を投与する。抗菌薬は、リウマチ熱や急性糸球体腎炎などの非化膿性合併症の予防のために、少なくとも10日間投与することが必要である。

感染症発生動向調査によると本疾患は例年、主に春季を中心として流行し、その後夏季に入ると急速に減少し、第33週前後に最低値を記録した後、冬季の流行に向かって増加している(図1,2)。
図1. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の年別・週別発生状況 図2. 2006年のA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の過去5年間との週別比較

2000年以降では2004年に増加がみられ、2005年はやや減少したものの(図3)、2006年はさらに増加しており、第36週現在の累積報告数は191,527(定点当たり累積報告数63.76)で、2004年の同時期を上回っている。

図3. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の年別発生状況(2000〜2005年) 図4. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の都道府県別報告数(2006年第1〜36週) 図5. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の報告症例の年別・年齢群別割合(1999〜2006年第36週)

2006年では第36週までの都道府県別の定点当たり累積報告数は、新潟県(129.9)、山形県(115.3)、鳥取県(112.3)、北海道(100.6)の順に高い(図4)。また、年齢別では例年と同様、4〜7歳が全体の半数を超えて発生の中心であり、7歳以下が全体の70%以上を占めている(図5)。本疾患は今後、冬季のピークに向かって発生が増加するものと思われ、その発生動向には注意深い観察が必要である。


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