発生動向総覧
*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並びを一部変更しました。
〈第37週コメント〉 9月21日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては、発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ1例(感染地域:フィリピン)
細菌性赤痢8例
(感染地域:宮城県1例、東京都1例、インド2例、中国1例、インドネシア1例、ネパール1例、モロッコ1例)
腸チフス1例(感染地域:バングラデシュ)
パラチフス1例(感染地域:インド) |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症症症107例(うち有症者55例、HUS 3例)
国内の多い感染地:徳島県(13例)*、福岡県(9例)、京都府(7例)、秋田県(6例).*保育所関連の集団発生
年齢群:10歳未満(46例)、10代(12例)、20代(13例)、30代(12例)、40代(7例)、50代(9例)、60代(3例)、70歳以上(5例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(59例)、O157 VT2(23例)、O26 VT1(15例)、O26 VT2(2例)、O91 VT1(2例)、O111 VT1(2例)、O103 VT1(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、O121 VT2(1例)、O157 VT1(1例) |
4類感染症: |
A型肝炎4例〔感染地域:滋賀県2例、国内(都道府県不明)2例〕
エキノコックス症1例(単包条虫.感染地域:中国)
つつが虫病1例(感染地域:千葉県)
日本紅斑熱4例(感染地域:兵庫県1例、愛媛県1例、高知県1例、鹿児島県1例)
レジオネラ症10例 |
(全て肺炎型)
年齢群:50代5例、60代3例
感染地域:熊本県2例(うち1例温泉)、北海道1例(温泉)、埼玉県1例、東京都1例、新潟県1例、愛知県1例、国内(都道府県不明)1例) |
レプトスピラ症2例(感染地域:東京都1例、鹿児島県1例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢 9例 |
(腸管アメーバ症8例、腸管外アメーバ症1例)
感染地域:国内8例、国外(国不明)1例
感染経路:経口2例、性的接触2例(同性間1例、異性間・同性間不明1例)、不明5例 |
ウイルス性肝炎3例〔すべてB型_感染経路:性的接触(同性間)1例、不明2例〕
クロイツフェルト・ヤコブ病1例(孤発性プリオン病古典型)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(血清群:A群.70代.死亡) |
後天性免疫不全症候群15例 |
(無症候11例、AIDS 3例、その他1例)
感染地域:国内10例、タイ2例、東南アジア1例、国外(国不明)1例、国内・国外不明1例
感染経路:性的接触11例(異性間3例、同性間7例、異性間・同性間不明1例)、不明4例 |
破傷風3例(60代1例、70代1例、80代1例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例(遺伝子型:VanA 1例_菌検出検体:喀痰、遺伝子型:VanC 1例_菌検 出検体:血液.うち1例死亡)
(補)他にクリプトスポリジウム症1例の報告があったが、削除予定。また報告遅れとして、細菌性赤痢1例(感染地域:中国)、レジオネラ症1例〔感染地域:石川県(温泉)〕、急性脳炎1例(病原体不明.40代)などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ:定点当たり報告数は微減した。都道府県別では沖縄県(0.24)、茨城県(0.05)、広島県(0.04)、長崎県(0.04)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は128例の報告があり、報告数は増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の78%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では三重県(2.1)、長野県(1.7)、大分県(1.5)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第34週以降、増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では鳥取県(2.4)、北海道(1.5)、大分県(1.4)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は微減したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では熊本県(6.4)、宮崎県(6.2)、鳥取県(6.1)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(1.19)、愛媛県(0.89)、鹿児島県(0.88)が多い。手足口病の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では新潟県(5.8)、石川県(4.6)、長野県(4.0)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では徳島県(1.11)、愛知県(0.51)、宮崎県(0.49)が多い。百日咳の定点当たり報告数は微減した。都道府県別では愛媛県(0.11)、福井県(0.05)が多い。風しんの定点当たり報告数は微増した。都道府県別では静岡県(0.02)、茨城県(0.01)、千葉県(0.01)、大阪府(0.01)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第28週以降、減少が続いている。都道府県別では秋田県(1.51)、北海道(1.13)、青森県(0.93)が多い。麻しんの定点当たり報告数は微増した。都道府県別では宮城県(0.05)、北海道(0.01)、愛知県(0.01)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(3.3)、鹿児島県(2.7)、長野県(2.3)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎のマイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では大阪府(1.5)、沖縄県(1.4)、群馬県(1.1)が多い。
〈8月コメント〉
◆性感染症について 2006年9月12日集計分 性感染症定点数:954
●月別推移
2006年8月の月別定点当たり報告数は、性器クラミジア感染症が2.93(男1.25、女1.68)、性器
ヘルペスウイルス感染症が0.93(男0.37、女0.56)、尖圭コンジローマが0.57(男0.33、女0.24)、淋菌感染症が1.18(男0.94、女0.24)で、男女とも4疾患のうち、性器クラミジア感染症が最も多かった(図1)。 前月に比べると、性器クラミジア感染症は男性で微減、女性で微増、性器ヘルペスウイルス感染症は男性で減少、女性で微減、尖圭コンジローマは男性で増加、女性で減少、淋菌感染症は男女ともに微増した(「グラフ総覧」参照)。男女別に過去5年間の同時期と比較すると、平均+1標準偏差(SD)超えた疾患は男女ともにみられなかった(図2)。一方、性器クラミジア感染症は男女ともに平均-2SDを下回り、また、淋菌感染症は男性で平均-2SD、女性で平均-1SDを下回った。
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図1.各性感染症が総報告数に占める割合(8月) |
●男女別・年齢階級別
定点当たり報告数のピークは、性器ヘルペスウイルス感染症では男女ともに25〜29歳群であるが、性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症では男性で25〜29歳群、女性で20〜24歳群であり、女性が男性に比べやや若い傾向が認められる(図3)。性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症では男女ともに、ピーク以降、年齢が高くなるに従い減少傾向が認められ、50代以降の報告は僅かである。しかし性器ヘルペスウイルス感染症では、男女 ともに50代以降の年齢群の報告も少なくない。
男女の比較では、淋菌感染症では15〜19歳の年齢群で同値であるのを除き、それ以上の全ての年齢群において男性が女性よりも多いが、性器クラミジア感染症の15〜34歳群、性器ヘルペスウイルス感染症の15〜34歳、45〜49歳、70歳以上の年齢群、尖圭コンジローマの15〜24歳群で女性が男性より多かった。ただし、性感染症定点は泌尿器科系、婦人科系及び皮膚科系などの診療科から構成されるが、男女の比較についてはそれらの比率の影響を受ける可能性がある。
●若年齢層(15〜29歳)での推移
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年齢層における各疾患の定点当たり報告数を男女別・月別に図4に示した。2001年以降、男女ともに性器クラミジア感染症と淋菌感染症は減少傾向がみられ、性器ヘルペスウイルス感染症と淋菌感染症はほぼ横ばいの傾向である。前月との比較では、男性では性器クラミジア感染症は減少し、性器ヘルペスウイルス感染症は同値で、尖圭コンジローマと淋菌感染症は増加した。女性では尖圭コンジローマは減少したが、性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、淋菌感染症は増加した。
注:本発生動向調査で得られる性感染症患者報告数および解析結果は、現在の定点の構成に基づく制限のもとに解釈される必要があります。詳細はIDWR週報2000年第46号(10月報)4ページの説明を参照してください。
◆薬剤耐性菌について (9月12日集計分)
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基幹定点数(8月):453.
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●月別
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
4.35(前月:4.33、前年同月:3.97)
定点当たり報告数は、例年年間を通じてほぼ一定である。8月は前月よりわずかに増加し、過去7年間の同月との比較では最も多かった。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
0.66(前月:0.75、前年同月:0.80)
定点当たり報告数は、例年春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く、夏(7〜9月)に少なく推移している。8月は前月より減少し、過去7年間の同月との比較では低位に属した。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.16(前月:0.15、前年同月:0.18)
定点当たり報告数は、例年後半が前半に比してわずかに多い傾向がある。8月は前月よりやや増加し、過去7年間の同月との比較では下位に属した。 |
●年齢階級別
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MRSA感染症
高齢者に多く、70歳以上が全体の61%を占めている(図1:PDF参照)。
PRSP感染症 小児と高齢者に多い。5歳未満が全体の54%を占める一方、65歳以上が全体の27%を占めている(図2:PDF参照)。
薬剤耐性緑膿菌感染症 高齢者に多く、70歳以上が全体の73%を占めている(図3:PDF参照)。
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●性別:女性を1 として算出した男/女比
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MRSA感染症…男:女=1.6:1
PRSP感染症…男:女=1.5:1
薬剤耐性緑膿菌感染症…男:女=2.0:1
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●都道府県別
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MRSA感染症
定点当たり報告数は栃木県(8.6)、高知県(7.7)、愛知県(6.9)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は富山県(3.6)、千葉県(3.3)、沖縄県(2.4)が突出して多く、富山県・千葉県は過去5カ月間でも上位1、2位であった。
薬剤耐性緑膿菌感染症
報告総数が71件にとどまるため、都道府県別定点当たり報告数の評価は困難。
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◆結核サーベイランス月報 9月21日集計分
8月の新登録患者数は2,319人(男性1,484、女性835人)で、このうち活動性肺結核患者は
1,825人(うち喀痰塗抹陽性者は892人)であった。都道府県・政令指定都市別の新登録患者数は、東京都(271人)、大阪市(148人)、大阪府(大阪市を除く)(128人)、愛知県(名古屋市を除く)(109人)、千葉県(千葉市を除く)(99人)が多い。
また、別掲により集計されているマル初者数*は268人であった。
*マル初者…結核の感染が強く疑われるが発病はしておらず、発病予防のための内服を行っている者。
詳しいコメントは、結核研究所の結核発生動向調査結果報告(http://www.jata.or.jp/tbmr/tbmr.htm)をご覧ください。
注目すべき感染症
◆ マイコプラズマ肺炎
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マイコプラズマ肺炎は肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)を病原体とする呼吸器感染症である。感染経路は、飛沫感染による経気道感染や接触感染である。感染には濃厚接触が必要であり、保育施設、幼稚園、学校などの閉鎖施設内や家庭などでの感染伝播はみられるが、短時間の曝露による感染拡大の可能性はそれほど高くはない。潜伏期間は2〜3週間であり、初発症状は発熱、全身倦怠、頭痛などである。 |
図1. マイコプラズマ肺炎の年別・週別発生状況 |
本症の特徴的な症状である咳嗽は、発症3〜5日後より始まることが多く、当初は乾性咳嗽であるが、経過に従って徐々に増強し、解熱後も長期に渡って(3〜4週間)持続し、ときに湿性咳嗽となる。治療は抗菌薬投与による原因療法が基本であるが、肺炎マイコプラズマは細胞壁を持たないために、β-ラクタム系薬であるペニシリン系薬やセファロスポリン系薬には感受性はなく、蛋白合成阻害薬であるマクロライド系薬(エリスロマイシン、クラリスロマイシン等)が第1選択薬となることが多い。診断については、近年IgM抗体検出迅速診断キットが開発され、陽性となるには発症後5日間以上を要するものの、臨床現場においても活用されつつある。
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図2. 2006年のマイコプラズマ肺炎の過去5年間との週別比較 |
図3. マイコプラズマ肺炎の報告症例の年別・年齢群別割合(2000年〜2006年第37週) |
図4. マイコプラズマ肺炎の年別発生状況(2000〜2005年) |
本症については、かつては異型肺炎の一種として発生動向調査が行われていたが、1999年4月の感染症法施行により、病原体診断を含んだ届出となった。現在、全国約500カ所の基幹定点医療機関からの報告に基づいているが、インフルエンザ定点(全国約5,000カ所)や小児科定点(全国約3,000カ所)と比較すると、定点医療機関数は少ない状況である。 2006年の本症の定点当たり報告数は多い状況が続いており、特に最近では、過去5年間の同週と比較してかなり多くなっている(図1、図2)。本症の報告は例年、秋季から年末にかけて増加する傾向にあり、本年は今後さらに増加するものと予想される。
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定点当たり累積報告数の年齢別割合をみると、例年9歳以下が全体の60%以上、14歳以下で80%以上を占めている(図3)。
年別では、2000年以降、定点当たり累積報告数は年々増加がみられているが(図4)、これには迅速診断キットの影響が否定できない。2004〜06年の定点当たり累積報告数(2006年は第37週まで)を都道府県別にみると、毎年全国平均を下回っている所や、逆に毎年平均を大きく上回っている所が多数みられるが(図5)、都道府県別の真の差異であるのかどうかは検討が必要である。
マイコプラズマ肺炎の発生動向には、今後とも注意深い観察が必要である。
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図5. マイコプラズマ肺炎の年別都道府県別報告状況
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