発生動向総覧
*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。
◆全数報告の感染症
〈第38週コメント〉9月28日集計分
注意:これはこれは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
細菌性赤痢14例(感染地域:石川県9例*、インド3例、エジプト1例、ネパール1例)
*すべて飲食店における集団発生 |
3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症症症96例(うち有症者66例、HUS 2例)
感染地域:国内85例、中国11例*
国内の多い感染地:静岡県(14例)**、佐賀県(9例)、岩手県(8例)
*うち10例は高校の修学旅行における集団発生。
**うち11例は保育施設に関連した集団発生。
年齢群:10歳未満(23例)、10代(38例)、20代(7例)、30代(12例)、40代(4例)、50代(6例)、60代(1例)、70歳以上(5例)
血清型・毒素型:O157 VT2(34例)、O26 VT1(25例)、O157 VT1・VT2(19例)、O111 VT1・VT2(3例)、O111 VT1(2例)、O157 VT1(2例)、O121 VT2(1例)、O145 VT1(1例)、その他/不明(9例) |
4類感染症: |
A型肝炎2例(感染地域:和歌山県1例、中国1例)
日本紅斑熱2例(感染地域:愛媛県1例、長崎県1例)
レジオネラ症12例 |
(全て肺炎型) 年齢群:40代3例、50代4例、60代3例、70代1例、80代1例
感染地域:群馬県2例(ともに温泉)、千葉県2例、新潟県2例、秋田県1例、福島県1例(温泉)、岐阜県1例、静岡県1例、愛媛県/山口県1例(温泉)、福岡県1例 |
レプトスピラ症1例(感染地域:和歌山県、感染原因:川遊び) |
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5類感染症: |
アメーバ赤痢 |
9例(腸管アメーバ症6例、腸管外アメーバ症3例)
感染地域:国内8例、中国1例
感染経路:経口1例、性的接触(同性間)1例、経口/性的接触(異性間)1例、不明6例 |
ウイルス性肝炎 |
B型1例〔感染経路:性的接触(異性間)〕
C型1例(感染経路:不明) |
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(ともに孤発性プリオン病古典型)
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後天性免疫不全症候群 |
11例(すべて無症候)
感染地域:国内8例、ケニア1例、国内/タイ1例、国内・国外不明1例
感染経路:性的接触10例(異性間2例、同性間7例、異性間・同性間不明1例)、不明1例 |
梅毒6例(早期顕症I期2例、早期顕症II期2例、無症候2例)
破傷風1例(80代)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:不明、菌検出検体:胆汁)
(補)他に報告遅れとして、細菌性赤痢3例(感染地域:東京都1例、愛知県1例、中国1例)、E型肝炎1例(感染地域:岡山県、感染源:不明)、デング熱(デング出血熱)1例(感染地域:フィリピン)、ライム病1例(感染地域:ドイツ)、レプトスピラ症1例(感染地域:国内、感染源:ネズミ)、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanC、菌検出検体:胆管ドレナージ液)などの報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ:定点当たり報告数は微減した。都道府県別では沖縄県(0.12)、岐阜県(0.05)、宮崎県(0.05)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は120例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の79%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は2週連続して減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では三重県(1.6)、長野県(1.3)、高知県(1.2)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では福島県(1.9)、鳥取県(1.8)、宮崎県(1.7)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は2週連続して減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では熊本県(5.6)、福井県(5.0)、三重県(5.0)が多い。水痘の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では石川県(0.93)、徳島県(0.83)、大分県(0.83)が多い。手足口病の定点当たり報告数は2週連続して減少した。都道府県別では長野県(3.9)、新潟県(3.7)、石川県(3.4)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では徳島県(0.78)、岐阜県(0.68)、宮城県(0.59)、愛知県(0.58)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では千葉県(0.08)、栃木県(0.07)、和歌山県(0.06)が多い。風しんの定点当たり報告数は微減した。都道府県別では北海道(0.01)、千葉県(0.01)から各1例ずつの報告である。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第28週以降、減少が続いている。都道府県別では秋田県(0.86)、宮城県(0.85)、高知県(0.47)が多い。麻しんの定点当たり報告数は微減した。都道府県別では秋田県(0.03)、沖縄県(0.03)、京都府(0.01)から各1例ずつの報告である。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では新潟県(3.0)、長野県(2.1)、大分県(1.8)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では大阪府(1.4)、青森県(1.0)、宮城県(1.0)、新潟県(1.0)、富山県(1.0)、沖縄県(1.0)が多い。
注目すべき感染症
◆ 百日咳
百日咳は、好気性のグラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis )を原因とする急性呼吸器感染症であり、特有のけいれん性咳発作(痙咳発作)を特徴とする。母親からの移行抗体が有効に働かないために、乳児期早期から罹患する可能性があり、この場合は生命に関わる危険性がある。主な感染経路は、鼻咽頭や気道からの分泌物による飛沫感染と接触感染である。通常は感冒様症状で始まるが、合併症がない限り発熱はなく、次第に咳が増強して、発症から1〜2週のうちに痙咳期に移行する。短い咳が連続的に発生し(スタッカート)、続いて息を吸い込む時に笛のようなヒューという音が出る(笛声:whoop)。この様な咳嗽発作が繰り返され、しばしば嘔吐を伴う。発作は夜間に多く、この時期には息を詰めて咳をするために顔面は浮腫状となり、いわゆる百日咳様顔貌がみられる。幼若乳児ではこのような特徴的な痙咳発作を示さずに、無呼吸発作からチアノーゼ、けいれん、呼吸停止へと進展する場合がある。また、乳児では肺炎の他に脳症を発症することがあり、予後不良であるため要注意である。痙咳期が2〜3週間続いた後、激しい発作や嘔吐は次第に治まって回復期に移行するが、時折発作性の咳嗽がみられ、全経過2〜3カ月で治癒に至る。治療薬ではマクロライド系薬が第一選択であるが、セフェム系薬も使われる。早期に抗菌薬を服用すれば、症状の軽減と菌排出期間(無治療の場合は3週間前後)の短縮が期待できる。
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図1. 百日咳の年別発生状況(2000〜2005年) |
図2. 百日咳の年別・週別発生状況(1996年〜2006年第38週) |
図3. 百日咳の報告症例の年別・年齢群別割合(2000年〜2006年第38週) |
予防として我が国では現在、百日咳(P)ワクチンを含んだDPT3種混合ワクチンが使われている。1950年に単味百日咳ワクチンが使用開始されるまでは、日本国内で年間10万例以上の発生があり、その約10%が死亡していた。ワクチンの普及と共に発生数は激減しているが、国内では未だ発病者がみられている。予防接種法の改正により、1994年10月からは、それまで2歳であったDPTワクチンの接種開始年齢が生後3カ月に引き下げられたために、報告数はさらに減少した。しかしながら、今後ワクチン接種率が低下するようなことがあると、再流行する可能性は十分にあると思われる。
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感染症発生動向調査によると、小児科定点からの年間の累積報告数は、2000年と2004年を除くと1,500例前後であり(図1)、過去10年間の定点当たり週別報告数をみても、2001年以降は比較的低い水準で推移しているが、2006年第38週は過去10年間の同時期と比較してやや多くなっている(図2)。年齢では、2000年以降0歳の報告が最多であるが、その割合は低下傾向にある(図3)。
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図4. 百日咳の都道府県別報告状況(2006年第1〜38週) |
逆に20歳以上の割合が年々増加しているが、2006年は今までのところ特にその傾向が強い。2006年第1〜38週の定点当たり累積報告数は0.35(累積報告数1,054)であり、都道府県別では栃木県(1.61)、千葉県(1.07)、福岡県(0.97)、秋田県(0.69)、高知県(0.67)、広島県(0.66)の順であるが、比較的地域による差が大きい(図4)。
百日咳の発生は以前に比べて大きく減少し、流行を示す明確なピークもみられない状況になった(図2)。しかし、乳児が罹患した場合には重症化や死亡の危険性があり、また典型的な症状を示さない年長児や成人例が百日咳と診断・治療されずに、感染源となる場合が少なくないと思われる。百日咳の発生動向の推移には、今後とも注意が必要である。
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