国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第45号ダイジェスト
(2006年11月6日〜12日)

 発生動向総覧


*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症


〈第45週コメント〉11月16日集計分

注意:これはこれは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 細菌性赤痢5例(感染地域:大阪府2例、ベトナム1例、ネパール1例、エジプト1例)
腸チフス2例(インド1例、疑似症1例)
3類感染症: 腸管出血性大腸菌感染症35例(うち有症者27例、HUS 2例)
感染地域:国内34例、ブラジル1例
国内の多い感染地:兵庫県(4例)、北海道(3例)、静岡県(3例)、岡山県(3例)
年齢群:10歳未満(13例)、10代(1例)、20代(10例)、30代(3例)、40代(1例)、50代(6例)、60代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(12例)、O157 VT2(12例)、O157 VT不明(3例)、O26 VT1(3例)、O91 VT1(1例)、O121 VT2(1例)、その他/不明(3例)
4類感染症: E型肝炎1例(感染地域:愛知県.感染源:豚生肉・生レバー)
つつが虫病15例(感染地域:神奈川県4例、福島県3例、岐阜県3例、青森県1例、秋田県1例、山形県1例、千葉県1例、佐賀県1例)
日本紅斑熱1例(感染地域:和歌山県)
レジオネラ症 4例(病型:肺炎型3例、ポンティアック型1例)
年齢群:10代1例、40代1例、60代1例、70代1例
感染地域:京都府2例(うち1例は大衆浴場)、群馬県1例、新潟県1例
レプトスピラ症3例(感染地域:新潟県2例、宮崎県1例)
5類感染症:
アメーバ赤痢 8例(腸管アメーバ症6例、腸管外アメーバ症2例)
感染地域:国内3例、インドネシア2例、スイス1例、不明2例
感染経路:経口5例、不明3例
ウイルス性肝炎 7例
B型6例〔感染経路:性的接触5例(異性間3例、不明2例)、不明1例〕
C型1例(感染経路:不明)
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(ともに孤発性プリオン病古典型)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(血清群:A群.60代)
後天性免疫不全症候群 12例(無症候10例、AIDS 2例)
感染地域:国内10例、国外2例(ミャンマー1例、不明1例)
感染経路:性的接触10例(異性間1例、同性間8例、異性間/同性間1例)、血液製剤/性的接触1例、不明1例
ジアルジア症1例(感染地域:国内)
梅毒6例(早期顕症I期2例、早期顕症II期2例、無症候2例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例(遺伝子型:VanA 1例_菌検出検体:血液、便、遺伝子型:VanC 1例_菌検出検体:血液)

(補)他に報告遅れとして、細菌性赤痢10例(感染地域:大阪府9例、三重県1例)、E型肝炎1例(感染地域:東京都.感染源:豚生レバー)、コクシジオイデス症1例(感染地域:米国)、デング熱1例(病型:デング出血熱.感染地域:フィリピン)、急性脳炎1例(インフルエンザウイルス)、バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例(遺伝子型:VanA 1例_菌検出検体:血液.遺伝子型:VanC 1例_菌検出検体:胆汁)などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(0.21)、広島県(0.12)、宮崎県(0.12)、鳥取県(0.07)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は302例の報告があり、報告数は増加した。年齢別 では、1歳以下の報告数が全体の75%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第42週以降、増加が続いており、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では三重県(0.93)、石川県(0.90)、長野県(0.87)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第42週以降、増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では鳥取県(4.2)、北海道(3.2)、大分県(2.8)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第39週以降、増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では大分県(22.2)、宮崎県(22.2)、岡山県(20.4)、佐賀県(19.8)が多い。水痘の定点当たり報告数は3週連続して増加した。都道府県別では宮城県(2.3)、宮崎県(2.2)、福井県(2.2)、北海道(2.2)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第42週以降、減少が続いている。都道府県別では山形県(3.1)、長野県(1.6)、秋田県(1.3)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は第40週以降、増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では宮城県(0.70)、愛媛県(0.65)、埼玉県(0.64)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では栃木県(0.09)、福井県(0.09)、沖縄県(0.09)、千葉県(0.08)が多い。風しんの定点当たり報告数は微減した。都道府県別では、宮城県(0.02)、群馬県(0.02)、茨城県(0.01)、埼玉県(0.01)、千葉県(0.01)から各1例ずつの報告であった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮城県(0.52)、岩手県(0.18)、熊本県(0.15)、沖縄県(0.15)が多い。麻しんの定点当たり報告数は増加した。都道府県別では、沖縄県0.06(2例)、愛知県0.05(9例)、茨城県0.01(1例)、東京都0.01(1例)の報告であった。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(3.5)、長野県(2.5)、島根県(2.2)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では埼玉県(3.2)、沖縄県(2.4)、大阪府(2.4)が多い。



 注目すべき感染症

◆ 感染性胃腸炎

感染性胃腸炎は、多種多様の病原体による疾患を包含する症候群である。現在、5類感染症定点把握疾患に規定されており、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から週単位で報告がなされている。例年、報告が増加するのは冬季であり、その大半はノロウイルスやロタウイルス等のウイルスによるものと推測される(IASR, Vol. 24. No. 12. p321-322)。

感染症発生動向調査からは、感染性胃腸炎の定点当たり報告数は例年第33週前後(8月下旬頃)に最低値となり、その後、第41週前後(10月中旬頃)より急激に増加し、第51週前後(12月下旬頃)にピークを迎え、その後冬季の流行が続く(図1)。
図1. 感染性胃腸炎の年別・週別発生状況(1996年〜2006年第45週) 図2. 感染性胃腸炎の年別発生状況(2000〜2005年)

2000年以降の年間報告数をみると、例年90万人前後であり(図2)、小児科定点疾患の中では最も多い(感染症情報センターホームページ http://idsc.nih.go.jp/idwr/ydata/report-Jb.html 参照)。また、感染性胃腸炎は小児に限定されるものではなく、高齢者施設や入院施設においても集団感染例が度々報告されており、国内全体では相当数の発生があるものと推測される。

2006年第45週の定点当たり報告数は11.2(報告数33,738)であり、第44週の7.1よりも大きく増加しているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してもかなり多い状態が続いている(図1)。都道府県別では大分県(22.2)、宮崎県(22.2)、岡山県(20.4)、佐賀県(19.8)、島根県(18.4)、三重県(18.3)、富山県(18.2)が多く、全国平均(11.2)を上回っているのは西日本に多い(図3)。

図3. 感染性胃腸炎の都道府県別報告状況(2006年第45週) 図4. 感染性胃腸炎の都道府県別報告状況(2006年第34〜45週)

2006年も例年と同様に、第33週の定点当たり報告数が最低値(2.2)となっているが、その後の第34〜45週の定点当たり累積報告数(全国平均52.0)を都道府県別にみると、熊本県(112.9)、大分県(107.5)、福井県(102.5)、宮崎県(97.0)、鳥取県(94.1)、島根県(90.1)、三重県(87.7)の順であり、やはり西日本が中心である(図4)。

現在の感染性胃腸炎の主な病原体はノロウイルスと考えられるが、その感染経路としては経口感染、接触感染、飛沫感染がある。もちろん、牡蠣等の生食には気をつけるべきであるが、他に調理、配膳、食事前の流水・石鹸による手洗いや、吐物、下痢便に対する迅速で適切な処理が重要である。

本年における感染性胃腸炎の発生は例年と比べて流行の立ち上がりが早く、今後更に大きく増加してくるものと予想され、その発生動向の推移には注意深い観察が必要である。


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