発生動向総覧
*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。
◆全数報告の感染症
〈第5週コメント〉2007年2月8日集計分
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
コレラ1例(疑似症)
細菌性赤痢19例
感染地域:東京都1例、ベトナム7例、インドネシア4例、カンボジア3例、ケニア2例、ネパール1例、フィリピン1例
パラチフス1例(感染地域:奈良県)
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3類感染症: |
腸管出血性大腸菌感染症 5例(うち有症者4例、HUS 1例)
感染地域:大阪府2例、埼玉県1例、広島県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:10歳未満3例、30代1例、60代1例
血清型・毒素型:O157 VT2(4例)、O157 VT不明(1例) |
4類感染症: |
E型肝炎1例〔感染地域:埼玉県.感染源:生レバー(種類不明)〕
A型肝炎2例〔感染地域:国内(都道府県不明)1例、チュニジア1例〕
Q熱3例(感染地域:すべて香川県.感染源:イヌ1例、ウサギ1例、不明1例)
つつが虫病1例(感染地域:鹿児島県)
ボツリヌス症1例(乳児ボツリヌス症)
レジオネラ症6例(すべて肺炎型) |
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年齢群:50代3例、60代2例、70代1例
感染地域:北海道1例、茨城県1例、静岡県1例、福岡県1例、大分県1例、国内(都道府県不明)1例
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レプトスピラ症1例(感染地域:新潟県.感染源:ネズミ)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢12例(腸管アメーバ症11例、腸管外アメーバ症1例) |
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感染地域:国内6例、インドネシア2例、中国1例、タイ1例、トンガ/インドネシア1例、米国/ヨーロッパ/東南アジア1例
感染経路:経口2例、性的接触4例(異性間2例、同性間1例、不明1例)、経口/性的接触(異性間)1例、不明5例 |
ウイルス性肝炎2例 |
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B型1例(感染経路:不明)
C型1例〔感染経路:性的接触(異性間)〕 |
急性脳炎2例〔A型インフルエンザウイルス2例(8歳、9歳)〕
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(ともに孤発性プリオン病古典型)
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後天性免疫不全症候群 20例(無症候15例、AIDS 4例、その他1例) |
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感染地域:国内17例、ブラジル1例、ドミニカ1例、不明1例
感染経路:すべて性的接触(異性間8例、同性間12例) |
ジアルジア症1例(感染地域:ボリビア)
梅毒9例(早期顕症I期4例、早期顕症II期1例、晩期顕症2例、無症候2例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症3例(遺伝子型:VanB 1例_菌検出検体:血液、遺伝子型:VanC 2例_菌検出検体:胆汁1例、中心静脈カテーテル1例)
(補)他に梅毒1例の報告があったが削除予定。また報告遅れとして、細菌性赤痢6例(感 染地域:インドネシア2例、アイルランド1例、中国1例、カンボジア1例、ラオス/カンボジア1例)、パラチフス1例(感染地域:インド)、E型肝炎1例〔感染地域:国内(都道府県不明).感染源:ブタレバー〕、急性脳炎4例〔RSウイルス2例(ともに1歳)、B型インフルエンザウイルス1例(6歳)、病原体不明1例(30代)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(50代.血清群:不明)、バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例(遺伝子型:VanA 1例_菌検出検体:血液、遺伝子型:不明1例_菌検出検体:胆汁)などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ:定点当たり報告数は3週連続で増加した。都道府県別では愛知県(19.3)、宮崎県(14.3)、山形県(14.1)、福島県(8.5)、福岡県(8.3)、三重県(7.8)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は3,141例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の73%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は微増 し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してもかなり多い。都道府県別では長野県(1.02)、富山県(0.97)、青森県(0.95)、宮崎県(0.81)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第2週以降、増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してもかなり多い。都道府県別では富山県(7.5)、鳥取県(6.6)、新潟県(5.0)、北海道(5.0)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は微増した。都道府県別では鳥取県(13.0)、大分県(12.6)、福井県(11.4)、宮崎県(11.1)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(4.3)、和歌山県(4.2)、大分県(4.0)が多い。手足口病の定点当たり報告数は微減したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では宮崎県(5.5)、長崎県(1.9)、佐賀県(1.8)、鹿児島県(1.4)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では富山県(3.7)、宮城県(1.6)、石川県(1.4)、岩手県(1.3)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では長野県(0.09)、栃木県(0.07)、岐阜県(0.06)が多い。風しんの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では神奈川県、愛知県、京都府、大阪府から各1例の報告であった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では熊本県(0.21)、山口県(0.16)、島根県(0.13)が多い。麻しんの定点当たり報告数は微減した。都道府県別では埼玉県より3例、長野県、愛知県、兵庫県、広島県から各1例の報告であった。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(3.3)、宮崎県(1.9)、岩手県(1.8)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してもかなり多い。都道府県別では沖縄県(5.0)、青森県(3.0)、福島県(1.9)が多い。成人麻しんは宮城県、長野県から各1例の報告であった。
注目すべき感染症
◆ インフルエンザ
インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性呼吸器感染症である。1〜3日間の潜伏期間を経て、突然に発熱(38℃以上)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻水・咳などの呼吸器症状がこれに続く。通常は1週間前後の経過で軽快するが、いわゆる「かぜ」と比べて全身症状が強いのが特徴である。インフルエンザの正確な診断には、ウイルス学的検査が必要である。
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感染症発生動向調査によると、2007年第5週のインフルエンザの定点当たり報告数は5.31(報告数25,190)であり、前週2.58の2倍以上となった(図1)。都道府県別では愛知県(19.3)、宮崎県(14.3)、山形県(14.1)、福島県(8.5)、福岡県(8.3)、三重県(7.8)、岐阜県(7.7)、大分県(6.9)の順であり、全国平均を上回っている都道府県は中部、九州、東北地方南部〜関東北部の地域に多くみられている(図2)。
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図1. インフルエンザのシーズン別・週別発生状況(1996年第30週〜2007年第5週)
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図2. インフルエンザの都道府県別報告状況(2007年第5週)
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今シーズンはこれまでに(2006年第36週〜2007年第5週)、定点医療機関から49,671例の報告がなされている。年齢別では、5〜9歳が27.5%と最も多く、次いで10〜14歳(23.9%)、0〜4歳(18.9%)の順であるが(図3)、例年と比較すると0〜4歳、5〜9歳の割合が低く、10〜14歳、15〜19歳の割合が高くなっている。
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図3. インフルエンザの報告症例の年齢別割合(2006年第36週〜2007年第5週) |
図4. 2006/07シーズンにおけるインフルエンザウイルスの分離状況(2006年第36週〜2007年第5週) |
図5. 2006/07シーズンにおけるインフルエンザウイルス分離の週別推移(2006年第36週〜2007年第5週) |
2006年第36週以降これまでに、全国の衛生研究所から報告されたインフルエンザウイルスの分離報告(総報告数344)では、AH3亜型(A香港型)58.1%(報告数200)、B型32.0%(110)、AH1亜型(Aソ連型)9.9%(34)の順となっているが(図4)、特に2006年第50週以降ではAH3亜型の割合が増加している(図5)。
今シーズンのインフルエンザの流行は1月中旬(2007年第3週)から始まっており、そのピークは2月下旬以降になるものと予想される。今後とも、インフルエンザの発生動向には注意深い観察が必要である。
◆ 麻しん
麻しんは、空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染と様々な感染経路を示す疾患であり、その感染力は極めて強い。通常は、10日間前後の潜伏期を経て、カタル期(2〜4日間)、発疹期(3〜5日間)、回復期へと移行する。しかし、最近では麻しんワクチン接種者の一部に修飾麻しんが認められ、この場合は発熱、発疹共に軽微であることが多く、麻しんとは気付かれないままに周囲への感染源となっている場合が少なくないと思われる。
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図1. 麻しんの年別・週別発生状況(1997年〜2007年第5週) |
図2. 麻しんの都道府県別累積報告数(2006年第36週〜2007年第5週) |
図3. 主要都道府県における麻しんの報告の週別推移(2006年第36週〜2007年第5週) |
感染症発生動向調査による小児科定点からの麻しん報告数は、2006年1年間では519例(暫定値)であり、2005年の537例に続いて、2年連続して1,000例以下となり、2007年に入っても定点当たり報告数は少ない状態が続いている(図1)。しかしながら、麻しんの地域的な流行は散発しており、2006年春〜夏季に千葉県や茨城県等で発生がみられた(「関東における麻しんの集団発生」IDWR週報2006年第16週)。2006年第36週〜2007年第5週の約5カ月間では、報告数は164例であった。これを都道府県別にみると、埼玉県が34例と最多であり、次いで愛知県(26例)、東京都(14例)、神奈川県(12例)、茨城県(10例)、千葉県(9例)の順であり、関東地方における発生が目立っている(図2)。特に埼玉県では2006年第48週以降、ほぼ継続的に発生がみられており、また、近隣の東京都、千葉県、神奈川県の関東南部地域でも、同時期に発生がみられている(図3)。また、成人麻しんは2006年第36週以降これまでに、全国の基幹定点から20例の報告があった。これを都道府県別にみると埼玉県(4例)、東京都(3例)、神奈川県(3例)、宮城県(3例)、長野県(2例)、沖縄県(2例)の順であるが、埼玉県、東京都、神奈川県では全てが2006年第47週以降の報告である。
麻しんは2003年以前においては、秋期に発生が最も減少し、春〜夏季に流行する疾患であった。しかし、埼玉県を含めた関東南部地域では、冬季である現時点において既にほぼ継続的な発生がみられており、今後春〜夏季に更に同地域を中心として流行が拡大し、更に周辺地域へ波及する可能性もあると思われる。
2004年以降、麻しんワクチン接種率の向上により、麻しんの報告は大きく減少してきており、発生動向調査については、従来の小児科定点における定点把握から、全ての医療機関に報告を求める全数把握方式への転換を考慮すべき時期とも思われる。加えて、2006年4月からは麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)が導入され、同年6月からは麻しん関連ワクチン(MRワクチン、麻しん単抗原ワクチン)の定期予防接種としての2回接種制度が開始された。WHOは、日本を含む西太平洋地域において、2012年までに麻しんを排除(elimination)することを目標としている。日本国内の発生状況からしても、麻しんは国内からの排除を目標とし、そのために国内での発生を積極的に阻止すべき疾患へと変わりつつあるが、最近の状況をみると、その目標達成は必ずしも容易とは思われない。麻しんの発生を阻止するためには、2回接種を含めた麻しん関連ワクチンのより積極的な勧奨と、1例の発生でもすぐに対応を講じる等の対策が重要である。今後の麻しんの発生動向には、より注意深い観察が必要である。
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