国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第12号ダイジェスト
(2007年3月19〜25日)

 発生動向総覧


*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第12週コメント〉 3月29日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 細菌性赤痢9例(感染地域:千葉県1例、インド2例、エジプト2例、タイ1例、マレーシア1例、ペルー/ブラジル1例.疑似症1例)
腸チフス1例(感染地域:インド)
3類感染症: 腸管出血性大腸菌感染症 4例(うち有症者3例、HUS 1例を含む)

感染地域:愛知県2例、千葉県1例、福岡県1例
年齢群:10歳未満(2例)、20代(1例)、30代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(3例)、O157 VT2(1例)

4類感染症: E型肝炎2例(感染地域:ともに静岡県.感染源:ともに猪レバーの生食) デング熱1例(感染地域:ボリビア)
マラリア2例(三日熱1例_感染地域:インドネシア、熱帯熱1例_感染地域:ガーナ)
レジオネラ症 8例(肺炎型7例、ポンティアック型1例)

年齢群:20代1例、50代1例、60代3例、70代3例
感染地域:岐阜県2例、山形県1例、静岡県1例、愛知県1例、熊本県1例(温泉)、鹿児島県1例、国内(都道府県不明)1例

5類感染症:
アメーバ赤痢 9例

(腸管アメーバ症6例、腸管外アメーバ2例、腸管及び腸管外アメーバ症1例)
感染地域:国内8例、インドネシア1例
感染経路:経口2例、性的接触3例(異性間1例、同性間1例、異性間・同性間不明1例)、不明4例
ウイルス性肝炎1例(B型_感染経路:カミソリの共用)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(40代.血清群:A群)
後天性免疫不全症候群11例(無症候9例、AIDS 1例、その他1例)
感染地域:国内9例、タイ1例、国内・国外不明1例
感染経路:性的接触10例(異性間4例、同性間6例)、不明1例
髄膜炎菌性髄膜炎1例(感染地域:宮崎県、血清群:不明)
梅毒6例(早期顕症I期1例、早期顕症II期3例、無症候2例)
破傷風1例(60代)

(補)他に報告遅れとして、オウム病1例(感染地域:神奈川県.感染源:野鳥)、劇症型溶血性レンサ球菌感染症3例(0歳1例、50代1例、70代1例.血清群:A群2例、C群1例)などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は微減したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では大分県(58.0)、長崎県(53.7)、新潟県(52.5)、山口県 (52.2)、宮崎県(51.8)、沖縄県(50.8)、青森県(49.7)、佐賀県(48.5)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は357例の報告があり、第5週以降報告数は減少が続いている。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約77%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第9週以降減少が続いている。都道府県別では富山県(1.21)、山形県(0.87)、島根県(0.70)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では富山県(7.5)、北海道(4.3)、鳥取県(3.8)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(16.3)、愛媛県(13.7)、福井県(13.1)、福岡県(11.6)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してもやや多い。都道府県別では沖縄県(6.4)、宮崎県(5.4)、鹿児島県(4.3)、愛媛県(4.0)が多い。手足口病の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してもかなり多い。都道府県別では宮崎県(2.1)、佐賀県(1.5)、熊本県(1.3)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では富山県(2.8)、石川県(1.9)、北海道(1.6)、長野県(1.4)が多い。百日咳の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では栃木県(0.06)、千葉県(0.05)、長野県(0.05)が多い。風しんの報告数は微減した。都道府県別では神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県から各2例、北海道、岩手県、山梨県、岡山県から各1例の報告であった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では山口県(0.33)、長崎県(0.23)が多い。麻しんの報告数は減少した。都道府県別では東京都4例、茨城県、兵庫県から各1例の報告があった。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では青森県(1.9)、秋田県(1.6)、新潟県(1.6)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は横ばいであったが、過去5年間の同時期と比較してもかなり多い。都道府県別では沖縄県(5.9)、群馬県(1.8)、大阪府(1.3)が 多い。成人麻しんは9例の報告であり、東京都から3例、宮城県、埼玉県から各2例、神奈川県、大阪府から各1例の報告があった。




 注目すべき感染症

◆ インフルエンザ

インフルエンザ(Influenza)は、インフルエンザウイルスを病原体とする主に上気道に感染する感染症であるが、「一般のかぜ症候群」とは分けて考えるべき「重くなりやすい疾患」である。推計では日本国内において2004/05シーズンは約1,770万人(IASR 26: 287-288, 2005参照)が、2005/06シーズンでは約1,116万人(IASR 27: 293-294, 2006参照)がインフルエンザに罹患しており、世界的にみても先進国・発展途上国を問わず未だに人類に残されている最大級の疫病であるといっても過言ではない。急激に発症する38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などに加えて、咽頭痛、鼻汁、咳などの症状もみられることが一般的であり、特に高齢者や、年齢を問わず呼吸器、循環器、腎臓に慢性疾患を持つ患者、糖尿病などの代謝性疾患、免疫機能が低下している患者では、原疾患の増悪とともに、呼吸器に二次的な細菌感染症を起こしやすくなることが知られており、重症化や時には生命の危機を招くこともある。また、小児では中耳炎の合併、熱性痙攣や気管支喘息の誘発、更に頻度は低いもののインフルエンザ脳症を合併する場合がある。

図1. インフルエンザのシーズン別・週別発生状況(1996年第30週〜2007年第12週)

図2. インフルエンザの都道府県別報告状況(2007年第12週)

図3. 2006/07シーズンにおけるインフルエンザの都道府県別報告状況 (2006年第36週〜2007年第12週)

感染症発生動向調査によると、2007年第12週現在の全国約5,000カ所のインフルエンザ定点医療機関からの定点当たり報告数は32.5(報告数155,045)となり、第2週以降継続していた報告数の増加は止まったものの、前週の報告数(定点当たり報告数32.9)と比べてほぼ横ばいである(図1)。都道府県別では、大分県(58.0)、長崎県(53.7)、新潟県(52.5)、山口県(52.2)、宮崎県(51.8)、沖縄県(50.8)、青森県(49.7)、佐賀県(48.5)の順となっている(図2)

2006年第36週以降これまでの定点医療機関からの定点当たり累積報告数は170.6(総患者累積報告数800,291)であり、都道府県別では福岡県(288.6)、宮崎県(277.3)、大分県(262.3)、 愛知県(241.9)、三重県(237.2)、沖縄県(232.0)、新潟県(224.6)、福井県(216.4)の順であり、九州地域と中部地域において今シーズンの流行の影響が大きいことがわかる(図3)
図4. インフルエンザの報告症例の年齢別割合(2006年第36週〜2007年第12週) 図5. 2006/07シーズンにおけるインフルエンザウイルスの分離状況(2006年第36週〜2007年第12週)

また、累積報告の年齢別では5〜9歳が33.0%と最多であり、次いで10〜14歳(22.8%)、0〜4歳(19.5%)の順である(図4)
第36週以降これまでに全国の衛生研究所から報告されたインフルエンザウイルス分離報告(総報告数2,507)では、AH1亜型(Aソ連型)8.2%(報告数205例)、AH3亜型(A香港型)51.9%(1,300例)、B型40.0%(1,002例)であり、AH3亜型の分離報告が最多であるが、B型の報告割合が増加しつつある(図5、図6)

今シーズンインフルエンザの流行は1月中旬(2007年第3週)より開始した後継続的に増加し、定点当たり報告数は第11週32.9、第12週32.5と高い値となった。同時期の定点当たり報告数と比較すると、過去10シーズンを上回る最高値である。インフルエンザの発生動向には今後とも注意が必要である。

図6. 2006/07シーズンにおけるインフルエンザウイルス分離の週別推移(2006年第36週〜2007年第12週)



◆ 麻しん

麻しんは空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染と様々な感染経路を示す疾患であり、その感染力は極めて強い。麻しんに対して免疫を持たない者が感染した場合は、10日間前後の潜伏期を経て発症し、カタル期(2〜4日間)、発疹期(3〜5日間)、回復期へと続いていく。特異的な治療法は存在しないが、先進国では栄養状態の改善や対症療法の発達等により、致死率は0.1〜0.2%にまで低下している。しかし、2000年の大阪の流行時には、合併症発症率約30%、平均入院率は約40%であったことが流行後の調査で明らかとなっており、未だ重篤な疾患であることには変わりはない(感染症情報センターホームページ「麻疹の現状と今後の対策について」http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/report2002/measles_top.html#m_fig2)。また、最近では麻しん発症者数の低下に伴って、ワクチン既接種者であっても接種後年数を経てからの一次性、二次性のワクチン効果不全による麻しんの発症例も目立つようになってきており、比較的年長者の麻しん発症が散見されつつある。

図1. 麻しんの年別・週別発生状況(1997年〜2007年第12週) 図2. 麻しんの都道府県別累積報告状況(2006年第36週〜2007年第12週) 図3. 主要都道府県における麻しんの報告の週別推移(2006年第36週〜2007年第12週)
感染症発生動向調査によると、2007年に入っても全国約3,000カ所の小児科定点からの麻しんの定点当たり報告数は、全国的には過去2年間と同様に低い状態が続いている(図1)
図4. 成人麻しんの年別・週別発生状況(1999年第14週〜2007年第12週) 図5. 成人麻しんの都道府県別累積報告状況(2006年第36週〜2007年第12週)

しかし、関東南部地域(埼玉県、東京都、千葉県、神奈川県)や愛知県における麻しんの発生は、現在に至るまで継続しており(2006年第36週以降現在までの累積報告数は、埼玉県63、愛知県32、東京都24、千葉県15、神奈川県15の順である)、特に第10、11、12週では東京都からの報告が増加しつつある(図2、図3)。また、定点数が少なく、比較することはできないものの全国約450カ所の基幹定点からの成人麻しんの報告は急増しており、その多くが東京都を中心とした関東地域からの報告である(図4、図5)

既に東京都や埼玉県等を中心とした南関東地域では昨年に引き続いて麻しんが流行しているが(「関東における麻しんの集団発生」http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html)、その特徴の1つには乳幼児のみならず、中学、高校等の学校単位での流行が散見されていることがあげられる。10代以降の麻しん発生例では、麻しんと診断されるまでに広範囲に行動している例が多く、広い地域の不特定多数のヒトに麻しんウイルスを感染させる結果となりやすい。特に4月に入ると新入学の時期となり、入学式における麻しんの集団感染や、新たな集団生活によって、麻しんの流行は更に拡大する可能性が高い。

麻しんは国内からの排除(elimination)を目標とすべき疾患であり、そのためには地域的な流行は積極的に阻止されなければならない。麻しんの流行を阻止するためには、1歳になったらすぐと学童期前の2回目接種を含めた麻しん関連ワクチンのより積極的な勧奨が必要であると共に、1例でも発生すればすぐに対応を講じる等の対策が重要である(「保育園・幼稚園・学校等での麻しん患者発生時の対応マニュアル」http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html)。麻しん発生動向に対するより注意深い観察と、麻しん発生時における迅速な対応が必要である。


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