国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第13号ダイジェスト
(2007年3月26日〜4月1日)

 発生動向総覧


*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第13週コメント〉 4月5日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 細菌性赤痢13例(感染地域:インドネシア8例、ベトナム2例、インド1例、エジプト1例、シンガポール1例)
腸チフス1例(感染地域:インド)
3類感染症: 腸管出血性大腸菌感染症 症10例(うち有症者7例、HUSなし)

感染地域:福岡県2例、北海道1例、山形県1例、福島県1例、富山県1例、大阪府1例、鹿児島県1例、国内(都道府県不明)1例、アルゼンチン1例
年齢群:10歳未満(3例)、10代(3例)、20代(3例)、50代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2 (3例)、O157 VT2 (3例)、O26 VT1 (1例)、O19 VT1(1例)、O157 VT1(1例)、その他/不明(1例)

4類感染症: A型肝炎1例(感染地域:宮城県)
つつが虫病2例(感染地域:ともに福島県)
デング熱1例(感染地域:クアラルンプール)
レジオネラ症 5例(すべて肺炎型)

年齢群:50代1例、60代1例、70代1例、80代2例
感染地域:北海道2例、富山県1例(温泉)、岐阜県1例、三重県1例

5類感染症:
アメーバ赤痢 5例(すべて腸管アメーバ症)

(腸管アメーバ症6例、腸管外アメーバ2例、腸管及び腸管外アメーバ症1例)
感染地域:国内8例、インドネシア1例
感染経路:経口2例、性的接触3例(異性間1例、同性間1例、異性間・同性間不明1例)、不明4例
ウイルス性肝炎1例(B型_感染経路:不明)
急性脳炎2例〔ロタウイルス1例(1歳)、B型インフルエンザウイルス1例(5歳)〕
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(孤発性プリオン病古典型1例、遺伝性プリオン病ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病1例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(30代.血清群:A群.死亡)
後天性免疫不全症候群 6例(無症候5例、AIDS 1例)
感染地域:国内3例、タイ1例、ミャンマー1例、米国1例
感染経路:性的接触6例(異性間4例、同性間2例)
梅毒3例(早期顕症II期1例、晩期顕症1例、無症候1例)

(補)他に報告遅れとして、E型肝炎1例(感染地域:三重県.感染源:不明)、急性脳炎4例〔ムンプスウイルス1例(0歳)、A型インフルエンザウイルス1例(7歳)、B型インフルエンザウイルス1例(3歳)、インフルエンザウイルス型不明1例(30代)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例(30代1例、40代1例.血清群:ともにA群)などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では青森県(40.5)、大分県(38.4)、長崎県(38.1)、山口県(37.1)、宮崎県(37.1)、新潟県(35.6)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は377例の報告があり、報告数は増加した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約79%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では富山県(0.86)、大分県(0.78)、山形県(0.60)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は3週連続で減少した。都道府県別では富山県(6.5)、北海道(4.0)、鳥取県(3.5)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は微減した。都道府県別では宮崎県(16.1)、福井県(15.4)、福岡県(11.5)、大分県(11.3)が多い。水痘の定点当たり報告数は微減したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では宮崎県(5.8)、鹿児島県(4.5)、沖縄県(4.4)、佐賀県(3.7)が多い。手足口病の定点当たり報告数は2週連続で減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では宮崎県(1.9)、長崎県(1.1)、熊本県(1.0)、鹿児島県(1.0)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では富山県(3.1)、石川県(1.7)、北海道(1.5)が多い。百日咳の定点当たり報告数は微増した。都道府県別では千葉県(0.05)、岐阜県(0.04)が多い。風しんの報告数は減少した。都道府県別では北海道、栃木県、神奈川県、愛知県、大阪府、兵庫県、鹿児島県から各1例の報告であった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では島根県(0.22)、山口県(0.22)、岡山県(0.17)が多い。麻しんの報告数は増加した。都道府県別では埼玉県11例、東京都9例、青森県、千葉県、神奈川県、滋賀県、広島県、佐賀県から各1例の報告があった。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(2.3)、青森県(1.6)、秋田県(1.2)、高知県(1.2)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は横ばいであったが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(5.9)、福島県(1.7)、群馬県(1.5)が多い。成人麻しんは11例と報告数は増加し、東京都から8例、宮城県、茨城県、神奈川県から各1例の報告があった。




 注目すべき感染症

◆ インフルエンザ

インフルエンザ(Influenza)は、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症である。感染を受けてから1〜3日間の潜伏期間を経て、発熱(38℃以上)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが突然出現し、咳・鼻水などの上気道炎症状がこれに続く。1週間前後の経過で軽快するのが典型的なインフルエンザの症状であり、いわゆる「かぜ」と比べて全身症状が強い。高齢者では超過死亡の原因として知られている二次性の細菌性肺炎、小児では発症率は低いものの生命に関わる可能性のあるインフルエンザ脳症等の合併症が知られている。感染症発生動向調査によると、2007年第13週現在の全国約5,000カ所のインフルエンザ定点医療機関からの定点当たり報告数は21.5(報告数102,402)となり、前週の定点当たり報告数(32.5)から大幅に減少した(図1)

図1. インフルエンザのシーズン別・週別発生状況(1996年第30週〜2007年第13週)

図2. インフルエンザの都道府県別報告状況(2007年第13週)

図3. インフルエンザの報告症例の年齢別割合(2006年第36週〜2007年第13週)

都道府県別では、青森県(40.5)、大分県(38.4)、長崎県(38.1)、山口県(37.1)、宮崎県(37.1)、新潟県(35.6)の順であるが、高知県を除く全ての都道府県で定点当たり報告数の減少がみられている(図2)。2006年第36週以降これまでの定点医療機関からの定点当たり累積報告数は192.1(累積報告数902,928)であり、年齢別では5〜9歳が32.7%と最多であり、次いで10〜14歳(21.8%)、0〜4歳(20.2%)の順である(図3)

第36週以降これまでに全国の衛生研究所から報告されたインフルエンザウイルス分離/ 検出報告(総報告数2,738)では、AH1亜型(Aソ連型)7.9%(報告数216例)、AH3亜型(A香港型)52.3%(1,432例)、B型39.8%(1,090例)であり、AH3亜型の分離/ 検出報告が最多であるが、B型の報告割合も少なくない(図4、図5)
図4. 2006/07シーズンにおけるインフルエンザウイルスの分離/検出状況(2006年第36週〜2007年第13週) 図5. 2006/07シーズンにおけるインフルエンザウイルスの分離状況(2006年第36週〜2007年第13週)

今シーズンのインフルエンザの流行は1月中旬(2007年第3週)より開始した後継続的に増加し、定点当たり報告数は第11週32.9、第12週32.5と高い値が続いたが、第13週に21.5と低下し、流行のピークを越えたものと思われる。しかしながら、例年の同時期と比較すると患者発生報告数は多く、まだインフルエンザの流行は継続している。インフルエンザの発生動向には今後とも注意が必要である。

◆ 麻しん

麻しんは空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染と様々な感染経路を示す疾患であり、その感染力は極めて強い。麻しんに対して免疫を持たない者が感染した場合は、10日間前後の潜伏期を経て発症し、カタル期(2〜4日間)、発疹期(3〜5日間)、回復期へと続いていく。先進国においては罹患者における致死率は低下(0.1〜0.2%)しているものの、わが国においても合併症発症率、入院率は高く、未だ重篤な疾患であることには変わりはない。

図1. 麻しんの年別・週別発生状況(1997年〜2007年第13週) 図2. 主要都道府県における麻しんの報告の週別推移(2006年第36週〜2007年第13週) 図3. 麻しんの報告症例の年別・年齢群別割合(1999〜2005年)
また、最近では比較的年長のワクチン既接種者において、修飾麻しんとして発症する例がしばしばみられており、この場合は潜伏期間の延長や、非典型的な症状を呈する場合も少なくない。感染症発生動向調査によると、2007年第13週の小児科定点からの麻しんの報告数は26(定点当たり報告数0.01)であり、2006年第36週以降の最高値となった(図1)
図4. 麻しんの報告症例の年齢群別割合(2006年第36週〜2007年第13週) 図5. 成人麻しんの年別・週別発生状況(1999年第14週〜2007年第13週)

特に埼玉県11例、東京都9例、千葉県、神奈川県各1例であり、南関東地域のこれら4都県で計22例の報告となり、同地域における麻しんの流行は更に進行している可能性が高いと思われる(図2)。2006年第36週以降の累積患者報告数は253例であり、年齢別では10〜14歳の割合が21.3%と最も多く、1歳児(18.2%)、0歳児(16.6%)を上回っており、2005年までと比較して年長者の報告割合が増加している(図3、図4)

基幹定点からの成人麻しんの報告数は、第13週は11例と第12週(9例)よりも更に増加しているが、そのうち8例は東京都からの報告である(図5)。成人麻しんは2006年第36週から現在までに54例の報告があるが、そのうち29例が2007年第11週からの3週間の報告であり、その多くが東京都を中心とした南関東地域の4都県からである(図6)

図6. 成人麻しんの都道府県別累積報告状況(2006年第36週〜2007年第13週)

現在東京都や埼玉県を中心とした南関東地域では麻しんが流行しており、感染症情報センターホームページにおいても流行情報を掲載しているが、入学式、始業式等の学校、幼稚園、保育園行事の実施に伴って、今後流行は更に拡大する可能性が高い。

麻しんは国内からの排除(elimination)を目標とすべき疾患であり、そのためには地域的な流行は積極的に阻止されなければならない。麻しんの流行を阻止するためには、1歳になったらすぐと学童期前の2回目接種を含めた麻しん関連ワクチンのより積極的な勧奨が必要であると 共に、1例でも発生すればすぐに対応を講じる等の対策が重要である(「保育園・幼稚園・学校等での麻しん患者発生時の対応マニュアル」)。また今後、麻しん発症者の医療機関受診の増加に伴い、院内感染事例の増加も危惧されるところであり、医療機関における適切な準備と迅速な対応が望まれる(「医療機関での麻疹対応について」)。今後とも麻しん発生動向に対するより注意深い観察と、麻しん発生時における迅速な対応が必要である。

なお、感染症発生動向調査における麻しん報告は小児科定点(成人麻しんは基幹定点)からのものであり、そのデータのみで現在のような地域的な流行の実態を迅速に把握し、対応することは困難であるとの指摘が以前よりある。そのため、国立感染症研究所感染症情報センターでは、全国の医療関係者が麻しんの発生情報を入力し、情報発信・情報共有が可能となるように、2006年5月より麻疹DBデータベースをホームページ上に立ち上げている。麻疹・風疹混合生ワクチン(MRワクチン)接種啓発用ポスターのダウンロードと合わせて、積極的に活用していただきたい。


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