発生動向総覧
*2007年4月からの法改正に伴い、疾病の追加および並び順を一部変更しました。
〈第20週コメント〉 5月23日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 229例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢2例(感染地域:アンゴラ/ガーナ/南アフリカ1例、モロッコ1例)
腸管出血性大腸菌感染症39例(うち有症者29例、HUSなし)
感染地域:国内38例、中国1例
国内の多い感染地域:福岡県8例、石川県7例、東京都4例
年齢群:10歳未満(14例)、10代(4例)、20代(6例)、30代(4例)、40代(1例)、50代(3例)、60代(4例)、70歳以上(3例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(13例)、O157 VT2(10例)、O26 VT1(6例)、O111 VT1・VT2(2例)、O20 VT1(1例)、O91 VT1(1例)、O103 VT1(1例)、O121 VT2(1例)、O157 VT1(1例)、その他/不明(3例)
腸チフス1例(感染地域:インドネシア) |
4類感染症: |
E型肝炎1例(感染地域:宮城県.感染源:豚生レバー)
A型肝炎1例(感染地域:大阪府)
オウム病1例(感染地域:神奈川県.感染源:不明)
つつが虫病4例(感染地域:山形県2例、群馬県1例、長野県1例)
日本紅斑熱1例(感染地域:鹿児島県)
マラリア1例(原虫種:熱帯熱_感染地域:ギニア)
レジオネラ症4例(肺炎型3例、無症状病原体保有者1例)
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年齢群:60代2例、70代1例、80代1例
感染地域:埼玉県1例、千葉県1例、兵庫県1例(温泉)、三重県1例
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レプトスピラ症1例(感染地域:東京都.感染源:ネズミ)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢8例(すべて腸管アメーバ症) |
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感染地域:国内7例、国内/タイ1例
感染経路:経口2例、性的接触(異性間)2例、不明4例 |
ウイルス性肝炎1例〔B型_感染経路:性的接触(異性間)〕
急性脳炎1例(病原体不明.1歳)
クロイツフェルト・ヤコブ病1例(孤発性プリオン病古典型)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例(ともに30代) 後天性免疫不全症候群11例(AIDS 2例、無症候8例、その他1例)
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感染地域:国内9例、香港1例、国外(国不明)1例
感染経路:性的接触8例(異性間4例、同性間4例)、不明3例 |
髄膜炎菌性髄膜炎1例(感染地域:国内)
梅毒4例(早期顕症II期3例、無症候1例)
破傷風1例(90代)
(補)他に報告遅れとして、ボツリヌス症1例(食餌性_感染地域:岩手県.感染源:自家製鮎のいずし)、レジオネラ症1例〔肺炎型_感染地域:新潟県(温泉)〕、急性脳炎2例〔単純ヘルペスウイルス1例(70代)、ムンプスウイルス1例(9歳)〕、髄膜炎菌性髄膜炎1例(感染地域:国内)などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ:定点当たり報告数は第12週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(6.9)、秋田県(5.6)、北海道(4.8)、岩手県(4.4)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は262例の報告があり、報告数は増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約67%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では富山県(1.17)、石川県(1.14)、島根県(1.04)、青森県(0.98)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い状態である。都道府県別では富山県(5.3)、新潟県(4.2)、北海道県(4.0)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は微増し、過去5年間の同時期と比較してやや多い状態である。都道府県別では福井県(12.9)、大分県(12.4)、鳥取県(12.1)、三重県(11.8)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(3.6)、福井県(3.5)、富山県(3.3)が多い。手足口病の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では熊本県(2.4)、佐賀県(1.8)、長崎県(1.3)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態である。都道府県別では石川県(3.3)、富山県(3.0)、新潟県(2.1)が多い。百日咳の定点当たり報告数は微減した。都道府県別では千葉県(0.08)、新潟県(0.05)、福岡県(0.05)が多い。風しんの報告数は増加した。都道府県別では東京都、大阪府、兵庫県から各2例の報告であった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では福岡県(0.81)、広島県(0.78)、香川県(0.72)が多い。麻しんの報告数は微減し、30都道府県から210例の報告があった。都道府県別では東京都35例、千葉県28例、埼玉県27例、栃木県、神奈川県各18例、北海道16例、広島県12例、宮城県11例、福岡県7例、山梨県6例、大阪府4例、茨城県、兵庫県、徳島県各3例が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では新潟県(1.8)、高知県(1.4)、秋田県(1.3)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い状態である。都道府県別では沖縄県(3.1)、福島県(2.0)、群馬県(1.5)が多い。成人麻しんの報告数は17都道府県から68例と3週連続で増加した。東京都21例、宮城県8例、神奈川県7例、北海道、埼玉県各5例、岩手県、千葉県、広島県各3例、福島県、茨城県、大阪府、島根県各2例、秋田県、山形県、栃木県、群馬県、岐阜県各1例の報告があった。
〈4月コメント〉
◆性感染症について 2007年5月11日集計分 性感染症定点数:968
(産婦人科・産科・婦人科:466、泌尿器科:393、皮膚科96、性病科13)
●月別推移
2007年4月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が2.39(男1.06、女1.33)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.84(男0.37、女0.48)、尖圭コンジローマが0.48(男0.27、女0.21)、淋菌感染症が0.90(男0.76、女0.14)であった。男性では性器クラミジア感染症、次いで淋菌感染症が多く、女性では性器クラミジア感染症、次いで性器ヘルペスウイルス感染症が多かった(図1)。
前月に比べると、性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症は男女ともに減少し、性器ヘルペスウイルス感染症は男性で増加、女性で減少した(「グラフ総覧」参照)。男女別に過去5年間の同時期と比較すると、性器クラミジア感染症では男女ともに平均-2標準偏差(SD)を下回り、性器ヘルペスウイルス感染症では女性で-1SDを下回り、尖圭コンジローマでは男性で-1SD、女性で-3SDを下回り、淋菌感染症では男性で-2SD、女性で-1SDを下回った(図2)。
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図1.各性感染症が総報告数に占める割合(4月) |
●男女別・年齢階級別 年齢群(0歳、1〜4歳、5〜69歳は5歳毎、および70歳以上)でみた定点当たり報告数のピークは、男性では性器クラミジア感染症が20〜24歳、性器ヘルペスウイルス感染症が30〜34歳、尖圭コンジローマが30〜34歳、淋菌感染症が25〜29歳で、女性では4疾患すべてで20〜24歳であり、女性の罹患年齢が男性に比べてやや若い傾向が認められた(図3:PDF参照)。また、性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症の3疾患は、男性では60代以降、女性では50代以降の報告はないか、あっても僅かである。しかし、性器ヘルペスウイルス感染症は男女ともに、50代以降の報告も少なくない。この年齢層には再発例が含まれている可能性が以前から指摘されており、2006年4月の届出基準改正により、抗体のみ陽性のものの除外に加えて「明らかな再発であるものは除外する」ことが明示された。しかし、年齢階級別分布において明らかな変化はみられておらず、この基準変更の周知徹底が必要と考える。
年齢群毎にみた男女の比較では、淋菌感染症では全ての年齢群において男性が女性よりも多いが、性器クラミジア感染症では15〜34歳、性器ヘルペスウイルス感染症では15〜34歳、尖圭コンジローマでは15〜29歳の若い年齢群において、女性が男性よりも多かった。ただし、性感染症定点は泌尿器科系、婦人科系および皮膚科系などの診療科から構成されており、男女の比較についてはそれらの比率の影響を受ける可能性がある。
●若年齢層での推移
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年齢層(15〜29歳)における各疾患の定点当たり報告数を男女別・月別に図4に示した。性器クラミジア感染症と淋菌感染症は、男女ともに2001年以降減少傾向がみられ、尖圭コンジローマは2005年半ば頃から微かながら減少傾向がみられる。性器ヘルペスウイルス感染症はほぼ横ばい傾向である。前月との比較では、男女ともで4疾患すべてが減少した。
◆薬剤耐性菌について (5月11日集計分)
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基幹定点数(4月):463.
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●月別
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
4.06(前月:4.26、前年同月:4.08)
定点当たり報告数は、例年年間を通じてほぼ一定である。4月は前月より減少し、過去8年間の同月との比較では上位に属した。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
0.84(前月:0.78、前年同月:1.03)
定点当たり報告数は、例年春から初夏にかけて
(4〜6月)と冬(11、12月)に多く、夏(7〜9月)に少
なく推移している。4月は前月より増加し、過去8年
間の同月との比較では低位に属した。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.09(前月:0.10、前年同月:0.09)
定点当たり報告数は、例年後半が前半に比して多
い傾向がある。4月は前月より減少し、過去8年間
の同月との比較では中位に属した。 |
●年齢階級別
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MRSA感染症 高齢者に多く、70歳以上が全体の66%を占めている(図1:PDF参照)。
PRSP感染症 小児と高齢者に多い。5歳未満が全体の
55%を占める一方、70歳以上が全体の23%を占めて
いる(図2:PDF参照)。
薬剤耐性緑膿菌感染症 高齢者に多く、70歳以上が全
体の46%を占めている(図3:PDF参照)。
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●性別:女性を1 として算出した男/女比
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MRSA感染症…男:女=1.9:1
PRSP感染症…男:女=1.3:1
薬剤耐性緑膿菌感染症…男:女=2.4:1
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●都道府県別
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MRSA感染症
定点当たり報告数は島根県(7.8)、山口県(6.9)、富山県(6.6)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は千葉県(3.8)、高知県(2.4)、富山県(2.4)が多い。
薬剤耐性緑膿菌感染症
報告総数が41件にとどまるため、都道府県別定点当たり報告数の評価は困難である。
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注目すべき感染症
◆ 麻しん
麻しんは麻しんウイルス(Paramyxovirus科Morbillivirus属)によって引き起こされる感染症であるが、空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染と様々な感染経路を示し、その感染力は極めて強い。典型的な麻しんを発症した場合、感染後10日間前後の潜伏期を経て、3日間前後続くカタル期で発症し、その後高熱と全身の発疹を呈する発疹期に至る。麻しんは特異的な治療法はなく、カタル期・発疹期を合わせると1週間以上高熱が続き、入院率や肺炎、脳炎、中耳炎などの合併症発生率が未だに高い疾患である。カタル期は他者への感染力が最も強い時期であるにもかかわらず、口腔内に認められるコプリック斑以外には発熱、咳、くしゃみ、鼻水等の感冒様症状や結膜炎症状が主であり、この期間中に麻しんと診断されることのないままに発病者から感染を拡大させてしまう場合も少なくない。
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感染症発生動向調査によると、全国約3,000カ所の小児科定点からの麻しんの報告数は2007年第20週は30都道府県から210例(定点当たり報告数0.070)と前週の報告数214例(定点当たり報告数0.071)よりも僅かに減少した(図1)。
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図1. 麻しんの年別・週別発生状況(1997年〜2007年第20週)
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図2. 麻しんの都道府県別累積報告状況(2007年第1〜20週)
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都道府県別では東京都35例、千葉県28例、埼玉県27例、栃木県、神奈川県各18例、北海道16例、広島県12例、宮城県11例、福岡県7例、山梨県6例、大阪府4例、茨城県、兵庫県、徳島県各3例の順であり、南関東地域(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)からの報告数は108例と前週の144例よりも減少しているものの、他地域からの報告数はかえって増加しており、福島県、福岡県等、2007年に入ってこれまで報告のなかった地域からの報告も新たに寄せられてきている。2007年第1〜20週までの小児科定点からの累積報告数は907例(定点当たり報告数0.300)であり、2004年以来3年振りに累積報告数が1,000例を超えることはほぼ確実な状況となった。都道府県別では、埼玉県195例、東京都145例、千葉県135例、神奈川県74例、栃木県42例、大阪府36例、北海道34例、宮城県25例、茨城県24例、山梨県、広島県各20例、鹿児島県18例、長野県16例、愛知県、兵庫県、徳島県各15例、香川県11例の順となっている(図2)。累積報告数の年齢別割合では0〜4歳の報告割合は39.0%と例年と比べて低く、10〜14歳の報告割合は33.4%と例年よりも高くなっている(図3)。
全国約450カ所の基幹定点からの成人麻しん(届出対象は15歳以上)の2007年第20週の報告数は68例(定点当たり報告数0.150)であり、前週の報告数(53例、定点当たり報告数0.117)よりも増加し、1999年4月の調査開始以来これまでの最高値(2001年第20週、報告数54)をも上回った(図4)。都道府県別では東京都21例、宮城県8例、神奈川県7例、北海道、埼玉県各5例、岩手県、千葉県、広島県各3例、福島県、茨城県、大阪府、島根県各2例、秋田県、山形県、栃木県、群馬県、岐阜県各1例の順であり、南関東地域における増加は継続している(図5)。
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図3. 麻しんの報告症例の年別・年齢群別割合(2000年〜2007年第20週)
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図4. 成人麻しんの年別・週別発生状況(1999年〜2007年第20週)
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図5. 主要都道府県における成人麻しんの報告の週別推移(2007年第1〜20週)
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2007年第1〜20週までの累積報告数は286例であり、第20週までの累積報告数としては、2001年(368例)に次ぐ報告数である。
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都道府県別では、東京都116例、神奈川県28例、宮城県25例、埼玉県21例、長野県10例、北海道9例、茨城県、群馬県、千葉県各8例、大阪府、島根県各6例の順となっている(図6)。累積報告数の年齢別割合では、20〜24歳(34.3%)、15〜19歳(22.7%)、25〜29歳(22.7%)、30〜34歳(12.6%)の順であり、34歳以下で全報告数の約92%を占めている(図7)。
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図6. 成人麻しんの都道府県別累積報告状況(2007年第1〜20週)
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図7. 成人麻しんの報告症例の年齢群別割合(2007年第1〜20週)
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全国の衛生研究所における麻しんウイルスの分離・検出状況をみると、2006年はD5型を中心にA型、H1型も報告されているが、2007年は5月24日現在25件の報告があり、そのうちウイルスの遺伝子型別が実施された19検体は全てD5型であった(感染症情報センターホームページ: http://idsc.nih.go.jp/iasr/virus/virus-j.html)。
第20週では、小児科定点からの麻しんの報告数は南関東地域においては減少しているが、南関東以外からの報告は、その地域及び報告数共に増大傾向が続いている。基幹定点からの成人麻しんの報告では、報告地域の拡大傾向及び南関東地域を含めた報告数の増加傾向が続いており、第20週の報告数は1999年の調査開始以降の最高値となった。麻しんは春から夏にかけて流行する感染症であり、その流行のピークは日本では5月中となることが多い。今回の麻しんの流行もピークを迎えつつある可能性が考慮されるが、流行地域は南関東とその周辺地域よりもさらに広範囲に拡大する傾向がみられており、今後とも麻しん及び成人麻しんの発生動向には十分な注意が必要である。
今回の麻しん流行の特徴は10代後半や20代を中心とした成人麻しんの増加であり、南関東地域を中心に高校や大学内での麻しんの集団発生例がしばしば報告されている。一方、小児科定点からの麻しん報告では、10代前半からの報告数が例年と比較して大きく増加している。これらのことから、今回の麻しん流行には1978年の麻疹ワクチンの定期予防接種化以降に幼児期(接種対象年齢)を迎え、大半が麻疹ワクチンを1度接種している10〜20代における麻しん発生例の増加が大きく関与しているものと考えられる。すなわち、これらの年代者における麻疹ワクチン未接種・麻疹未罹患者及びワクチン既接種群のごく一部にみられる免疫未獲得者の蓄積に加えて、ワクチン既接種群における麻疹ウイルスの感染機会の激減による免疫増強効果の減少が、新たな麻しん感受性者の増加を招来し、麻しんの流行に至ったものと思われる。過去に我が国においてみられたような麻しんの大流行を防ぐためには、1歳早期における麻疹ワクチンの接種率を高く維持しなければならないことはいうまでもないが、麻疹ワクチン既接種者の多くが1回接種者である現状が続く限りは、今回のような流行が今後も繰り返されるものと推察される。
わが国においてはMRワクチンあるいは麻疹単抗原ワクチンは、国内における定期接種を十分賄うことを目的に必要量が生産され、また検査試薬も個別あるいは小集団での診断ないしスクリーニングのために必要な量を想定して生産されているところから、現状のような流行において個別および集団での緊急ワクチン接種及び緊急スクリーニング検査に支障を来しつつある。ワクチン接種前のスクリーニングは、出来るだけ接種対象者を絞りワクチン接種量全体を抑制するためには有効であるが、接種そのものに抗体測定は不要であり、抗体保有者へのワクチン接種は医学的には問題はない。
現状のようにワクチン需要量が供給量を大きく上回っている状況においてワクチンを接種する場合には、最優先されるべきは、麻疹ウイルス感染によって重篤化が容易に想定される未接種未罹患者、および第1期定期接種者(1歳代)であると考えられる。1回ワクチン接種の経験があるsecondary vaccine failureの可能性のある者については、感染発症した場合には感染源にはなり得るもののその多くは軽症に終わるので、十分量のワクチンが再び市場に出回るようになってからワクチン接種の対象にすることも考慮すべき段階であるかと思われる。
欧米諸国をはじめとする多くの国々では、麻しんは既に『排除』が達成された疾患であり、我が国においても2001年のような多数の乳幼児が感染発病した大規模な流行を2度と繰り返すべきではない。また、日本を含めたWHO西太平洋地域(WPRO)は2012年までに域内からの『排除』を目標としている。そのためには、今後とも日本国内における地域的な流行は積極的に阻止されなければならない。加えて、現在の流行下においては麻疹ワクチン未接種で麻疹未罹患の方は、至急ワクチンを接種することが勧められる。また、従来の麻しん流行の中心である乳幼児における患者発生の増大を阻止するために、1歳早期(1回目)と小学校入学前1年間(2回目)のワクチン(麻疹・風疹混合ワクチンもしくは麻疹ワクチン)のより積極的な勧奨が重要である。
以下に、麻しん関連情報として感染症情報センターのホームページに掲載されている主な項目とそのURLを挙げる。麻しん対策として活用いただければ幸いである。
●麻疹(はしか):http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html
□緊急情報
□関連情報(注目すべき感染症/速報「麻しん」、医療機関での麻疹の対応について、保育園・幼稚園・学校等での麻しん患者発生時の対応マニュアル)
□国内情報(麻疹の現状と今後の麻疹対策について、我が国の健常人における麻疹PA抗体保有率、病原微生物検出情報[IASR]麻疹特集、他)
●麻疹発生DB(データベース):http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/meas-db.html
●予防接種の話「麻疹」:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/b-measles.html
●年齢別麻疹、風疹、MMRワクチン接種率:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/atopics/atpcs001.html
●感染症の話「麻疹」:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k03/k03_03/k03_03.html
●「麻疹・風疹ワクチンなぜ2回接種なの?」ポスター:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn01.html
●「麻疹風疹混合ワクチンを1歳のお誕生日のプレゼントにしましょう」ポスター: http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn04.html
●「小学校入学準備に2回目の麻疹・風疹ワクチンを!」ポスター: http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn07.html
●2006年度第2期麻疹・風疹ワクチン接種に関する全国調査−2006年10月1日現在中間評価−:http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3252.html
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