国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第22号ダイジェスト
(2007年5月28日〜6月3日)

 発生動向総覧


*2007年4月からの法改正に伴い、疾病の追加および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第22週コメント〉 6月6日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核 254例
3類感染症: コレラ1例(感染地域:フィリピン)
細菌性赤痢7例(感染地域:東京都3例、秋田県1例、千葉県1例、インドネシア1例、エジプト1例)
腸管出血性大腸菌感染症105例(うち有症者75例、HUS 3例)

感染地域:すべて国内
国内の多い感染地域:東京都58例、大分県13例、千葉県6例
年齢群:10歳未満(20例)、10代(32例)、20代(26例)、30代(10例)、40代(5例)、50代(6例)、60代(3例)、70歳以上(3例)
血清型・毒素型:O157 VT2(62例)、O157 VT1・VT2(15例)、O157 VT1(1例)、O111 VT1・VT2(12例)、O26 VT1(3例)、O91 VT1(2例)、O121 VT2(2例)、O145 VT1(1例)、その他/不明(7例)

腸チフス1例(感染地域:インド)
4類感染症: オウム病2例(感染地域:ともに和歌山県.感染源:インコ1例、不明1例)
つつが虫病4例(感染地域:秋田県1例、山形県1例、福島県1例、熊本県1例)
日本紅斑熱3例(感染地域:和歌山県1例、島根県1例、鹿児島県1例)
マラリア1例(熱帯熱_感染地域:ガーナ)
レジオネラ症11例(肺炎型10例、無症状病原体保有者1例)

年齢群:20代1例、50代3例、60代1例、70代4例、80代2例
感染地域:宮城県1例、秋田県1例、神奈川県1例、岐阜県1例、鳥取県1例、広島県1例、熊本県1例、国内(都道府県不明)3例、中国(温泉)1例

5類感染症:
アメーバ赤痢7例

(腸管アメーバ症5例、腸管外アメーバ症2例)
感染地域:国内6例、インドネシア1例
感染経路:経口1例、性的接触(異性間)1例、性的接触(異性間/同性間)/野生動物1例、不明4例

急性脳炎3例〔すべて病原体不明(1歳、20代、90代)〕
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(ともに遺伝性プリオン病家族性)
後天性免疫不全症候群9例(無症候5例、その他4例)

感染地域:国内8例、ウガンダ1例
感染経路:性的接触6例(異性間4例、同性間2例)、不明3例

梅毒10例
(早期顕症I期2例、早期顕症II期3例、晩期顕症2例、無症候3例)
破傷風3例(60代1例、80代2例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanC_菌検出検体:胆汁)

(補)他に報告遅れとして、細菌性赤痢1例(感染地域:茨城県)、E型肝炎4例〔感染地域(感染源):愛知県3例(いのしし生肉1例、不明2例)、栃木県1例(不明)〕、レジオネラ症2例〔ともに肺炎型_感染地域:山形県(温泉)1例、香川県(温泉)1例〕、急性脳炎7例〔ロタウイルス1例(9歳)、A型インフルエンザウイルス1例(0歳)、病原体不明5例(1歳3例、3歳、30代)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(80代)などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は第12週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(7.9)、秋田県(3.0)、岩手県(2.6)、宮城県(2.2)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は222例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約69%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では富山県(1.48)、島根県(1.13)、石川県(1.00)、広島県(0.92)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では富山県(5.5)、群馬県(4.4)、埼玉県(4.2)、三重県(4.1)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は2週連続で減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では鳥取県(11.2)、大分県(11.1)、滋賀県(10.2)、福井県(9.6)が多い。水痘の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では福井県(4.5)、徳島県(3.5)、佐賀県(3.5)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では熊本県(4.0)、佐賀県(2.1)、長崎県(1.9)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では長野県(2.4)、富山県(2.2)、新潟県(2.0)、石川県(1.9)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では栃木県(0.09)、千葉県(0.08)、熊本県(0.08)が多い。風しんの報告数は横ばいであった。都道府県別では大阪府4例、千葉県3例、栃木県、神奈川県、三重県、京都府、奈良県、和歌山県、広島県、徳島県、香川県、沖縄県から各1例の順であった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では宮崎県(2.4)、山口県(2.1)、島根県(2.1)が多い。麻しんの報告数は微減し、30都道府県から204例の報告があった。都道府県別では千葉県44例、神奈川県29例、埼玉県27例、東京都22例、北海道17例、福岡県9例、大阪府8例、愛知県6例、岡山県、広島県から各5例、山梨県、鹿児島県から各4例、福島県、栃木県、新潟県、福井県、静岡県、徳島県から各2例の順であった。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(1.6)、秋田県(1.5)、三重県(1.3)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では福島県(2.6)、沖縄県(2.1)、富山県(1.8)が多い。成人麻しんの報告数は減少し16都道府県から65例の報告があった。都道府県別では、東京都23例、神奈川県12例、宮城県9例、広島県5例、北海道、福島県、埼玉県、新潟県から各2例、青森県、群馬県、千葉県、石川県、福井県、山梨県、長野県、大阪府から各1例の報告があった。




 注目すべき感染症


◆ 麻しん

麻しんは麻疹ウイルス(Paramyxovirus科Morbillivirus属)によって引き起こされる感染症であるが、空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染と様々な感染経路を示し、その感染力は極めて強い。特異的な治療法はなく、カタル期・発疹期を合わせると1週間以上高熱が続き、入院率や肺炎、脳炎、中耳炎などの合併症発生率が未だに高い疾患である。典型的な麻しんを発症した場合、感染後10日間前後の潜伏期を経てカタル期に至るが、このカタル期はコプリック斑を除けば麻疹に特異的な症状に乏しく、この期間中に麻しんと診断されることのないままに発病者から感染を拡大させてしまう場合も少なくない。

図1. 麻しんの年別・週別発生状況(1997年〜2007年第22週)

図2. 麻しんの都道府県別累積報告状況(2007年第1〜22週)

感染症発生動向調査によると、全国約3,000カ所の小児科定点からの麻しんの報告数は2007年第22週には30都道府県から204例(定点当たり報告数0.068)と前週の報告数215例(定点当たり報告数0.071)よりも僅かに減少した(図1)。都道府県別では千葉県44例、神奈川県29例、埼玉県27例、東京都22例、北海道17例、福岡県9例、大阪府8例、愛知県6例、岡山県、広島県から各5例、山梨県、鹿児島県から各4例、福島県、栃木県、新潟県、福井県、静岡県、徳島県から各2例の順であり、南関東地域(千葉県、埼玉県、神奈川県、東京都)からの報告数は122例(総報告数の59.8%)と前週よりも増加がみられているが、これは千葉県、神奈川県の増加が続いていることが影響している。2007年第1〜22週までの小児科定点からの累積報告数は1,321例(定点当たり報告数0.44)であり、都道府県別では埼玉県249例、千葉県211例、東京都195例、神奈川県124例、北海道71例、栃木県52例、大阪府49例、宮城県43例、茨城県、広島県から各31例、山梨県30例、鹿児島県23例、長野県、愛知県から各21例、福岡県20例、兵庫県、徳島県、香川県から各17例、岡山県14例、群馬県12例の順となっている(図2)。累積報告数の年齢別割合では、0〜4歳の報告割合は37.4%と例年(55〜67%)と比べて低く、10〜14歳の報告割合は30.4%と例年(5〜15%)よりも高い状態が続いている(図3)。

図3. 麻しんの報告症例の年齢群別割合(2007年第1〜22週)

図4. 成人麻しんの年別・週別発生状況(1999年〜2007年第22週)

全国約450カ所の基幹定点からの成人麻しん(届出対象は15歳以上)の2007年第22週の報告は16都道府県から65例(定点当たり報告数0.142)となり、5月に入って継続が続いていた成人麻しんの報告数は減少した(図4)。都道府県別では、東京都23例、神奈川県12例、宮城県9例、広島県5例、北海道、福島県、埼玉県、新潟県から各2例、青森県、群馬県、千葉県、石川県、福井県、山梨県、長野県、大阪府から各1例の報告があった。2007年第1〜22週までの累積報告数は475例(定点当たり報告数1.05)であり、都道府県別では東京都166例、神奈川県66例、宮城県49例、埼玉県36例、北海道15例、千葉県、長野県から各11例、茨城県、群馬県、広島県から各9例、山形県、福島県、石川県、大阪府から各8例、新潟県7例、岩手県、島根県から各6例の順となっている(図5)。宮城県、神奈川県からの報告数の増加は継続している。累積報告数の年齢別では、20〜24歳(31.6%)、25〜29歳(23.5%)、15〜19歳(23.0%)の順であり、34歳以下で全報告数の約90%を占めている(図6)。

図5. 成人麻しんの都道府県別累積報告状況(2007年第1〜22週)

図6. 成人麻しんの報告症例の年齢群別割合(2007年第1〜22週)

全国の衛生研究所における麻疹ウイルスの分離・検出状況をみると、2007年は6月7日現在52件の報告があり、そのうちウイルスの遺伝子型別が実施された29件は全てD5型であった(詳細は本号12ページ病原体情報参照、最新の報告数は感染症情報センターホームページ:https://nesid3g.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data61j.pdf に掲載)。第22週までの発生動向をみると、小児科定点からの麻しんの報告数は第19週以降は横ばい状態となり、第22週はやや減少傾向を示している。また成人麻しんの報告数は5月に入って増加が続いていたが、第22週は減少がみられた。ただ、麻しん、成人麻しん共に南関東地域や他の地域も含めてまだ増加傾向にあるところも存在しており、麻しん及び成人麻しんの発生動向は依然として注意深い観察が必要である。

アメリカ合衆国を含めたアメリカ大陸の全ての国々や、西ヨーロッパの多くの国々では麻疹は国内から『排除』されており、最近では韓国でも『排除』が達成された。日本では未だにこのような麻疹の流行がみられており、ワクチンの接種制度や麻疹流行時の対応といった、麻疹への対策は上記の麻疹『排除』国と比べて大きく遅れているといわざるを得ない。現行の麻疹関連ワクチン(麻疹・風疹混合ワクチンもしくは麻疹ワクチン)の定期接種対象年齢者に対するより積極的なワクチンの接種勧奨と高い接種率の維持は、麻疹対策の根幹として今後も重要であることはいうまでもない。加えて、今回の麻疹の流行によって多数の発病者がみられた麻疹ワクチンを1回接種している世代(麻疹ワクチンは1978年から定期接種として実施されており、当時の1歳児は現在の29〜30歳となる)に対する麻疹感受性者対策や、学校や施設等における麻疹アウトブレイク時の積極的な対応が、今後同様の流行を繰り返さないためには必要であると思われる。

以下に、麻しん関連情報として感染症情報センターのホームページに掲載されている主な項目とそのURLを挙げる。麻しん対策として活用いただければ幸いである。

麻疹(はしか)
□緊急情報
□関連情報(注目すべき感染症/速報「麻しん」、施設別発生状況(学校欠席者数)、医療機関での麻疹の対応について、保育園・幼稚園・学校等での麻しん患者発生時の対応マニュアル)
□国内情報(麻疹の現状と今後の麻疹対策について、我が国の健常人における麻疹PA抗体保有率、病原微生物情報[IASR]麻疹特集、ウイルス検出状況他)

Q&A
麻疹発生DB(データベース)
予防接種の話「麻疹」
年齢別麻疹、風疹、MMRワクチン接種率
感染症の話「麻疹」
「麻疹・風疹ワクチンなぜ2回接種なの?」ポスター
「麻疹風疹混合ワクチンを1歳のお誕生日のプレゼントにしましょう」ポスター
「小学校入学準備に2回目の麻疹・風疹ワクチンを!」ポスター
2006年度第2期麻疹・風疹ワクチン接種に関する全国調査−2006年10月1日現在中間評価−



◆ 腸管出血性大腸菌感染症

腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法の3類感染症として、無症状病原体保有者を含む症例の報告が、診断した全ての医師に義務付けられている。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の検便によって偶然発見される場合もあるが、届け出された患者と食事をともにした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。届出の基準としては、大腸菌の分離・同定かつ分離菌のベロ毒素の確認が必要であるが、2006年4月からは、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限り、病原体の分離ができない場合であっても、便からのベロ毒素の検出や血清抗体(O抗原凝集抗体あるいはベロ毒素抗体)の検出によって診断された場合も届け出の対象とされている。

2007年の腸管出血性大腸菌感染症の報告数は第17週から増加が認められ、第19週に50例となった。第22週は東京都における集団発生の影響もあり、100例を超え105例であった()。本年第22週までの累積報告数513例は、現在までのところ例年(2000年499例、2001年884例、2002年599例、2003年351例、2004年503例、2005年481例、2006年503例。7年間の平均546例)と比べて多くはない。

図. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の年別・週別発生状況(1999年4月〜2007年第22週)

第22週に報告のあった105例は、有症状者が75例(71%)で、無症状病原体保有者が30例(29%)であった。報告の多かった都道府県は前述のように東京都(51例)がほぼ半数を占め、次いで大分県(14例)、埼玉県(7例)、千葉県(7例)であった。感染地域はすべて国内であり、東京都(58例)、大分県(13例)、千葉県(6例)が多かった。東京都では学校の学生食堂における食中毒による集団発生が、大分県では幼稚園に関連した集団発生がみられている。性別では男性45例、女性60例であり、年齢群別では10〜19歳32例、20〜29歳26例、0〜9歳20例の順に多かった。

第1〜22週の累積報告数513例についてみると、報告の多い都道府県は、東京都(73例)、福岡県(47例)、石川県(32例)、大阪府(31例)、千葉県(29例)、広島県(25例)である。性別では男性210例、女性303例であり、年齢群別では0〜9歳149例、10〜19歳90例、20〜29歳88例の順に多い。

溶血性尿毒症症候群(HUS)は、第22週に報告遅れ分や追加報告を含み4例報告があり、累積では18例の報告となった。18例のうち2例は便からのベロ毒素の検出、5例は血清抗体の検出により届け出られたものである。2007年は第22週まで死亡例の報告はない。HUSなどの合併症や死亡については、届け出時点以降での情報が十分反映されていない可能性があり、このような情報があった場合には追加・修正報告をお願いしている。

本年第22週には既に学校における大規模な集団発生が見られており、今後、毎年本症が数多く発生する夏季を迎えるにあたり、報告数はさらに増加するものと予想されるので、その発生動向には注意が必要である。食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。特に、保育施設における集団発生は例年散見されている。保育施設では、腸管出血性大腸菌感染症に限らず、日常の感染予防策として、オムツ交換時の手洗い、園児に対する食前・食後の手洗い指導を徹底し、特にこれからの季節は簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。また2006年には、動物とのふれあい体験での感染と推定される事例が報告されており(IASRVol.27 No.10 p11-12 http://idsc.nih.go.jp/iasr/27/320/pr3208.html、IASR Vol.28 No.1 p13-14 http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/323/pr3233.html、IASR Vol.28 No.2 p16-17 http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/324/kj3241.html、IASR Vol.28 No.4 p14-16 http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/326/kj3263.html)、動物との接触後には充分な手洗いを行うよう注意する必要がある。

(補)菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html をご参照ください。


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