国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第27号ダイジェスト
(2007年7月2〜7月8日)

 発生動向総覧


*2007年4月からの法改正に伴い、疾病の追加および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第27週コメント〉 7月11日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核 217例
3類感染症: 細菌性赤痢5例(感染地域:埼玉県2例*、インド1例、インドネシア1例、フィリピン1例)
*第23〜26週に続く知的障害者更正施設における集団発生
腸管出血性大腸菌感染症 142例(うち有症者112例、うちHUS 5例)

感染地域:すべて国内
国内の多い感染地域:東京都21例、埼玉県18例、大阪府13例、千葉県11例、熊本県11例*
*保育所における集団発生
年齢群:10歳未満(59例)、10代(10例)、20代(29例)、30代(12例)、40代(9例)、50代(10例)、60代(6例)、70歳以上(7例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(54例)、O157 VT2(38例)、O26 VT1(16例)、O111 VT1・VT2(12例)、O157 VT1(2例)、 O25 VT2(1例)、O26 VT2(1例)、O91 VT1(1例)、O111 VT1(1例)、O147 VT2(1例)、O165 VT1・VT2(1例)、その他/不明(14例)

4類感染症: E型肝炎1例(感染地域:北海道.感染源:鹿生肉)
A型肝炎5例(感染地域:愛知県1例、国内(都道府県不明)1例、インドネシア1例、サイパン1例、ブラジル1例)
つつが虫病1例(感染地域:青森県)
デング熱2例(感染地域:インドネシア1例、シンガポール1例)
日本紅斑熱3例(感染地域:和歌山県1例、島根県1例、鹿児島県1例)
マラリア 2例

三日熱1例_感染地域:インド
原虫種不明1例_感染地域:インド/ネパール

レジオネラ症18例(肺炎型17例、ポンティアック型1例)

年齢群:40代1例、50代1例、60代7例、70代7例、80代1例、90代1例
感染地域:神奈川県3例(うち1例温泉)、福岡県3例、長野県2例(ともに温泉)、宮城県1例、栃木県1例、群馬県1例、千葉県1例、東京都1例、石川県1例、滋賀県1例、三重県1例、兵庫県1例、国内(都道府県不明)1例

5類感染症:
アメーバ赤痢7例

(腸管アメーバ症6例、腸管および腸管外アメーバ症1例)
感染地域:国内5例、インドネシア1例、国内/国外不明1例
感染経路:経口1例、性的接触2例(同性間1例、異性間・同性間不明1例)、不明4例

ウイルス性肝炎5例

B型4例_感染経路:性的接触3例(異性間2例、同性間1例)、不明1例
C型1例_感染経路:不明

急性脳炎1例(ヘルペスウイルス.40代)
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(ともに孤発性プリオン病古典型)
後天性免疫不全症候群13例(AIDS 4例、無症候8例、その他1例)

感染地域:国内12例、インドネシア1例
感染経路:性的接触12例(異性間4例、同性間6例、異性間/同性間1例、異性間・同性間不明1例)、不明1例

ジアルジア症3例(感染地域:国内1例、インド1例、グアテマラ1例)
梅毒15例(早期顕症I期1例、早期顕症II期6例、晩期顕性4例、無症候4例)
破傷風2例(60代1例、80代1例)

(補)他に報告遅れとして、コレラ1例(感染地域:インド)、細菌性赤痢1例(感染地域:インド)、E型肝炎1例(感染地域:バグラデシュ.感染源:不明)、オウム病1例(感染地域:神奈川県.感染源:インコ)、レジオネラ症1例〔肺炎型_60代、感染地域:岐阜県(温泉)〕、急性脳炎2例〔ともに病原体不明(5歳、50代)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(60代)等の報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は第12週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(11.55)、福島県(0.41)、宮城県(0.29)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は144例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約67%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では富山県(1.17)、滋賀県(1.09)、高知県(1.00)、広島県(0.97)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第23週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では富山県(4.0)、山形県(3.0)、埼玉県(3.0)、宮崎県(2.6)、茨城県(2.6)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第21週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では大分県(9.7)、三重県(7.2)、福井県(7.1)、鳥取県(5.7)が多い。水痘の定点当たり報告数は3週連続で減少した。都道府県別では福井県(2.2)、長野県(1.9)、福島県(1.9)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では熊本県(8.0)、福島県(6.0)、和歌山県(5.9)、佐賀県(5.1)、福岡県(4.3)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では長野県(3.7)、新潟県(2.4)、福井県(2.4)が多い。百日咳の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では滋賀県(0.09)、千葉県(0.06)、山口県(0.06)、沖縄県(0.06)が多い。風しんの報告数は15例と微減した。都道府県別では埼玉県、静岡県、大阪府、広島県より各2例であった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第19週以降増加が続いている。都道府県別では福井県(11.1)、宮崎県(10.8)、鳥取県(8.9)、徳島県(6.9)、山口県(6.9)が多い。麻しんの報告数は24週以降減少が続いており、24都道府県から93例の報告があった。都道府県別では千葉県13例、大阪府12例、神奈川県10例、埼玉県7例、広島県6例、北海道、栃木県、東京都、兵庫県から各5例、愛知県、京都府、徳島県、福岡県から各3例、静岡県、岡山県から各2例の順であった。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では秋田県(1.46)、岩手県(1.41)、愛媛県(1.16)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では沖縄県(2.7)、福島県(1.9)、宮城県(1.8)が多い。成人麻しんの報告数は第22週以降減 少が続いており、13都道府県から26例の報告があった。都道府県別では、東京都8例、神奈川県、大阪府から各3例、埼玉県、福岡県から各2例、北海道、宮城県、山形県、長野県、愛知県、三重県、滋賀県、兵庫県から各1例の報告があった。




 注目すべき感染症


◆ 伝染性紅斑

伝染性紅斑(erythema infectiosum)は4〜5歳の幼児を中心に幼児、学童に好発する感染症であり、B19ウイルスが本症の病原体である。典型例では両頬がリンゴのように赤くなることから「リンゴ病」と呼ばれることもあるが、本症の周辺には多くの非定型例や不顕性感染例があること、また多彩な臨床像があることなども明らかになってきている。
感染後約1週間で軽い感冒様症状を示す例がみられることがあるが、この時期にウイルス血症を起こしており、ウイルスの体外への排泄量は最も多くなる。本疾患の特徴的な症状は感染後10〜20日で出現する両頬の境界鮮明な紅斑であり、続いて腕、脚部にも両側性にレース様の紅斑がみられる。体幹部(胸腹背部)にまでこの発疹が出現する例もある。発熱はあっても軽度である。発疹出現時期は抗体産生後であり、ウイルス血症は終息し、既に他者への感染性は殆どないといわれている。
成人では両頬の蝶形紅斑は少ないが、合併症である関節痛・関節炎の頻度は小児では約10%以下といわれているが、成人男性では約30%、成人女性では約60%と高率である。また、妊婦が感染すると、胎児水腫や流産の可能性がある。妊娠前半期の方がより危険性が高いが、後半期にも胎児感染は生じるとの報告もある。その他、溶血性貧血患者が感染した場合の貧血発作(aplastic crisis)を引き起こすことがあり、他にも血小板減少症、顆粒球減少症、血球貪食症候群等の稀ではあるが重篤な合併症が知られている。

図1. 伝染性紅斑の年別・週別発生状況(1997年〜2007年第27週)

図2. 伝染性紅斑の都道府県別累積報告状況(2007年第1〜27週)

図3. 伝染性紅斑の報告症例の年齢群別割合(2007年第1〜27週)


感染経路は通常は飛沫感染もしくは接触感染であるが、まれにウイルス血症の時期に採取された血液製剤からの感染の報告がある。本症は紅斑の時期には殆ど感染力がないが、反対にウイルス排泄時期には特徴的な症状を呈さないために診断に至らず、実際的な二次感染予防策は存在しない。

感染症発生動向調査によると、伝染性紅斑は例年夏季に報告数が増加し、第26週前後がそのピークとなることが多い。1987年、1992年、1997年、2001年とほぼ5年ごとの周期で患者発生数の増加がみられているが、2006年の秋頃より2007年第27週現在まで例年よりも患者報告数の多い状況が続いている。第27週の定点当たり報告数は0.83(総患者報告数2,507)であり、第26週よりは低下がみられてはいるものの、依然として例年の同時期よりも多い状態が続いている(図1)。都道府県別では、長野県(3.7)、新潟県(2.4)、福井県(2.4)、石川県(2.1)、秋田県(1.7)、高知県(1.6)が多い。

2007年第1週から第27週までの定点当たり累積報告数は19.50(総患者累積報告数58,842)であり、第27週までの報告数としては過去10年間と比較して最も多くなっている。都道府県別では、富山県(74.9)、石川県(55.6)、長野県(50.5)、宮城県(39.6)、北海道(37.2)、岩手県(36.6)の順であり、中部、東北、北海道の地域においての流行が目立っている(図2)。2007年の累積報告数の年齢別割合をみると、4〜5歳が31.6%と最多であり、次いで6〜7歳(24.7%)、2〜3歳(16.0%)の順となっており、7歳までで全報告数の75%以上を占めているのは例年と同様である(図3、図4)

図4. 伝染性紅斑の報告症例の年別・年齢群別割合(2000年〜2007年第27週)

2007年はこれまで伝染性紅斑の報告数が増加した状態が続いており、また報告数の週毎の増減はあるものの、現在そのピークを迎えつつあるものと思われる。特に妊婦などの感染発症によるリスクを伴う者は、流行時期には人ごみを避けて、手洗い励行などの一般的対策をとるべきである。また、幼稚園や保育園等で本症が流行している場合にも、当該施設への訪問には相当の注意が必要である。今後とも伝染性紅斑の発生動向には注意が必要である。


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