国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第30号ダイジェスト
(2007年7月23〜29日)

 発生動向総覧


*2007年4月からの法改正に伴い、疾病の追加および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第30週コメント〉 8月1日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核 230例
3類感染症: コレラ1例(感染地域:福島県)
細菌性赤痢6例 (感染地域:埼玉県2例、静岡県1例、エジプト2例、ネパール1例)
腸管出血性大腸菌感染症176例(うち有症者120例、うちHUS 4例)

感染地域:すべて国内
国内の多い感染地域:大阪府20例*、千葉県15例、長野県13例**、神奈 川県11例
*うち10例は第29週と同様の保育園における集団発生
**うち10例は保育所に関連した集団発生
年齢群:10歳未満(62例)、10代(21例)、20代(30例)、30代(23例)、40代 (10例)、50代(10例)、60代(13例)、70歳以上(7例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(89例)、O157 VT2(43例)、O26 VT1 ( 19例)、O103 VT1( 4例)、O111 VT1( 4例)、O103 VT1・VT2(2例)、O126 VT1(1例)、O145 VT1(1例)、 O157 VT1(1例)、その他/不明(12例)

パラチフス1例(感染地域:ネパール)
4類感染症: A型肝炎3例 〔感染地域:北海道1例、国内(都道府県不明)1例、インドネシア1例〕
オウム病1例(感染地域:愛知県.感染源:インコ)
デング熱4例 (感染地域:フィリピン1例、ミャンマー1例、タイ1例、ホンジュラス1例)
日本紅斑熱1例(感染地域:島根県)
マラリア1例〔三日熱_感染地域:国外(国不明)〕
レジオネラ症15例(肺炎型14例、ポンティアック型1例)

年齢群:40代2例、50代5例、60代3例、70代3例、80代1例、90代1例
感染地域:埼玉県2例、東京都2例、大阪府2例、北海道1例、山形県1例、 山梨県1例(温泉)、富山県1例、岐阜県1例、兵庫県1例、山口県1例、福岡県1例、沖縄県1例

5類感染症:
アメーバ赤痢3例(すべて腸管アメーバ症)

感染地域:すべて国内
感染経路:性的接触1例(異性間)、不明2例

ウイルス性肝炎1例〔B型_感染経路:性的接触(異性間)〕
急性脳炎1例(単純ヘルペスウイルス.80代)
クロイツフェルト・ヤコブ病1例(孤発性プリオン病古典型)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(50代.死亡)
後天性免疫不全症候群4例(AIDS 1例、無症候3例)

感染地域:すべて国内
感染経路:すべて性的接触(異性間2例、同性間2例)

梅毒5例(早期顕症II期3例、晩期顕症1例、無症候1例)
破傷風1例(60代)


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は横ばいであったが、過去5年間の同時期(前週、当該週、 後週)と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(12.28)、宮崎県(0.68)、福島県(0.28)が 多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は117例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約67%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加し た。都道府県別では長野県(1.29)、山形県(0.93)、埼玉県(0.93)、滋賀県(0.91)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第23週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では鳥取県(2.4)、埼玉県(2.1)、北海道(2.0)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第21週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では大分県(7.4)、宮崎県(5.6)、三重県(5.4)、鳥取県 (5.2)が多い。水痘の定点当たり報告数は25週以降減少が続いている。都道府県別では北海道(1.55)、宮城県(1.40)、福島県(1.31)、山形県(1.30)が多い。手足口病の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では和歌山県(15.4)、福島県(6.9)、千葉県(4.1)、福岡県(3.8)、 熊本県(3.8)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較し てかなり多い。都道府県別では長野県(2.7)、宮城県(2.4)、新潟県(2.0)が多い。百日咳の定 点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では栃木県 (0.09)、広島県(0.07)、山口県(0.06)、千葉県(0.05)が多い。風しんの報告数は7例と減少し た。都道府県別では大阪府2例、北海道、長野県、愛知県、奈良県、高知県から各1例の順で あった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第19週以降増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では三重県(10.0)、兵庫県(8.5)、大分県(8.4)、宮崎県 (8.4)が多い。麻しんの報告数は増加し、17都道府県から73例の報告があった。都道府県別では福岡県14例、大阪府13例、岡山県7例、広島県5例、北海道、埼玉県、千葉県、神奈川県、京都府から各4例、東京都、兵庫県から各3例、宮城県、新潟県から各2例の順であった。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は微増した。都道府県別では岩手県(1.21)、高知県(1.20)、秋 田県(1.17)、宮崎県(1.08)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(3.0)、福島県(1.7)、青森県(1.3)が多い。成人麻しんの報告数は増加し、10都道府県か ら33例の報告があった。都道府県別では、福岡県12例、東京都6例、千葉県4例、北海道、山 形県、神奈川県、岡山県から各2例、福井県、広島県、高知県から各1例の順であった。



 注目すべき感染症


◆ 腸管出血性大腸菌感染症

 腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法の3類感染症として、無症状病原体保有者を含む症例の報告が、診断した全ての医師に義務付けられている。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の検便によって偶然発見される場合もあるが、届け出された患者と食事をともにした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。

 2007年の腸管出血性大腸菌感染症の報告数は第19週に50例を超え、第22週には東京都における集団発生の影響から100例を超えた。第22週134例(うち東京都68例)、第23週196例(うち東京都105例)の後、第24週には一旦80例に減少したが、その後は毎週100例を超える報告が認められ、第28週199例、第29週125例、第30週176例であった(図1)。本年第30週までの累積報告数1,712例は、過去7年間の同週までの累積報告数と比較して、2001年に次いで多い報告数となっている(2000年1,435例、2001年2,030例、2002年1,555例、2003年1,107例、2004年1,525例、2005年1,570例、2006年1,560例。7年間の平均1,540例)。

 第30週に報告のあった176例は、有症状者120例(68%)で、無症状病原体保有者が56例(32%)であった。報告の多かった都道府県は大阪府(18例)、千葉県(15例)、神奈川県(13例)、長野県(13例)であった。感染地域はすべて国内であり、感染地域として多かった都道府県は、大阪府(20例)、千葉県(15例)、長野県(13例)、神奈川県(11例)であった。大阪府と長野県では保育施設での集団発生に関連した報告が含まれている。性別では男性84例、女性92例であり、年齢群別では0〜9歳62例(0〜4歳37例、5〜9歳25例)、20〜29歳30例、30〜39歳23例、10〜19歳21例の順に多かった。

 分離された菌の血清型は、O157 VT1・VT2(89例)、O157 VT2(43例)、O26 VT1(19例)、O103 VT1(4例)、O111 VT1(4例)、O103 VT1・VT2(2例)、O126 VT1(1例)、O145 VT1(1例)、O157 VT1(1例)、その他/不明(12例)であった。

 第1〜30週に報告された1,712例についてみると、報告の多い都道府県は、東京都(301例)、 大阪府(129例)、千葉県(86例)、神奈川県(86例)、福岡県(85例)、埼玉県(83例)、石川県(78 例)であった(図2)。感染地域は国内が1,689例(99%)であり、国外が21例、国内か国外か不明が2例であった。症状の有無別では有症状者1,156例(67.5%)、無症状病原体保有者556例 (32.5%)、性別では男性721例、女性991例であり、年齢群別では0〜9歳516例(0〜4歳300例、 5〜9歳216例)、20〜29歳326例、10〜19歳299例、30〜39歳181例の順に多かった。また、0〜 9歳、10〜19歳、20〜29歳では有症状者が多く、30〜39歳及び40〜49歳では無症状病原体保有者が多く、50〜59歳及び60〜69歳では有症状者と無症状病原体保有者がほぼ同数であり、 70〜79歳及び80歳以上では再び有症状者が多い傾向が認められる。
 分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT1・VT2(637例)、O157 VT2(609例)、O26 VT1 (140例)の順に多かった。
 溶血性尿毒症症候群(HUS)は、第30週までに45例が報告されている。本疾患の届出の基準としては、大腸菌の分離・同定かつ分離菌におけるベロ毒素の確認が必要であるが、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限り、2006年4月からは、便からのベロ毒素の検出や血清抗体(O抗原凝集抗体あるいはベロ毒素抗体)の検出によって診断された場合も届け出の対象と されている。45例のうち12例は菌が分離されず、2例が便からのベロ毒素の検出、10例が血清抗体の検出による診断として届け出られたものである。2007年では第30週までに死亡例の報 告はない。HUSなどの合併症や死亡については、届け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があるので、発生があった場合の追加・修正報告をお願いしている。

図1. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(1999年第14週〜2007年第30週)

図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別累積報告状況(2007年第1〜30週)

図3. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢別・症状の有無別報告状況(2007年第1〜30週)


 本年は既に学校での食中毒による大規模な集団発生が見られているほか、保育施設における集団発生も散見されている。また2006年には、動物とのふれあい体験での感染と推定され る事例が報告されており、動物との接触後には充分な手洗いに注意する必要がある。今後も発生数の多い状況が続くと考えられ、その発生動向には注意が必要である。 食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などによ り、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。特に、保育施設における集団発生は例年多くみられているので、腸管出血性大腸菌に限らない日ごろからの注意として、特にオムツ交換時の手洗い、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。また、 簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。 (補)菌の検出状況については、 http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html をご参照ください。

◆ 咽頭結膜熱

 咽頭結膜熱は主にアデノウイルス3型、4型、7型(4型および7型は近年分離数が大きく減少し ているが原因病原体として重要である。他に1、2、5、6型等でもみられる)に感染することによってみられる咽頭炎、結膜炎を主とする急性ウイルス性感染症である。発熱、咽頭炎(咽頭発赤、 咽頭痛)、結膜炎(結膜充血、眼痛、流涙、眼脂)が3主症状であり、通常感染曝露からの潜伏期間が5〜7日、有症状期間は3〜5日といわれている。感染経路は主に飛沫感染、接触感染で あるが、その感染力は強力であり、タオル、ドアの把手、エレベーターのボタン、階段の手すり等の患者が触れたものを触る間接的な接触によっても感染する場合がある。また、本疾患は症状消失後も約1カ月間にわたって尿・便中にウイルスが排出されるといわれており、更に感染後発病しない無症候病原体保有者も存在するため、効果的な感染予防対策の実行は困難であ り、毎年全国的に乳幼児施設や小児施設において集団感染がみられている。過去にプールにおける集団感染の報告が国内のみならず海外においても散見されたことから、日本では別名 「プール熱」という呼称が定着しているが、本疾患は学校、幼稚園、保育園等の小児、乳幼児の集団生活の場においては、プールとは無関係な様々な機会において感染・伝播する可能性があると考えるべきである。 感染症発生動向調査によると、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関からの咽頭結膜熱の定点当たり累積報告数は、2003年以降急増している。特に2006年の定点当たり累積報告数は31.9(総累積報告数95,865)であり、1997年以降の過去10年間でも最も多い報告数であった (図1)。定点当たり報告数の週別推移をみると、2007年は2006年よりも低い水準で推移してお り、例年第29〜30週前後に流行のピークが見られる場合が多いが、2007年では第24週の報告数をピークにその後概ね横ばいである(図2)。2007年第30週の定点当たり報告数は0.51(報告数1,532)であり、都道府県別では長野県(1.29)、山形県(0.93)、埼玉県(0.93)、滋賀県(0.91)、 高知県(0.90)、広島県(0.89)、山口県(0.88)の順となっている(図3)。第1〜30週の定点当たり累積報告数は11.4(総累積報告数34,258)であり、都道府県別では富山県(32.4)、山形県(23.6)、 青森県(23.1)、島根県(22.7)、石川県(20.7)、広島県(20.2)、新潟県(17.0)の順であり、中部、 中国、東北の各地域に報告数の多い県が散在している(図4)。累積報告数の年齢別割合をみると、咽頭結膜熱は乳幼児を中心に発生する疾患であり、例年7歳以下で全報告数の90%前後を占めているが、これは2007年も同様である(図5)

 2007年第1週から咽頭結膜熱と診断された症例から分離されたウイルス(総分離報告数89) では、アデノウイルス3型が39.3%を占め、次いで2型(19.1%)、1型(18.0%)の順であるというの は2003〜2006年と同様であるが、2007年は現在のところ例年と比較して3型の報告割合が小さ く、反対に1型の報告割合が大きくなっている(図6)

図1. 咽頭結膜熱の累積定点当たり報告数の年別推移(2000〜2006年)

図2. 咽頭結膜熱の年別・週別発生状況(1997年〜2007年第30週)

図3. 咽頭結膜熱の都道府県別報告状況(2007年第30週)


図4. 咽頭結膜熱の都道府県別累積報告状況(2007年第1〜30週)

図5. 咽頭結膜熱の報告症例の年別・年齢群別割合(2000年〜2007年第30週)

図6. 咽頭結膜熱分離アデノウイルス型別割合別年別(2003年〜2007年第30週)


 咽頭結膜熱の報告数は、29〜30週前後にピークとなることが多く、現在は年間を通じて最も患者発生数が多い時期である。2007年の発生報告数は、2004年、2006年の水準を下回ってはいるが、咽頭結膜熱の発生動向には、今しばらく注意が必要である。


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