国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第31号ダイジェスト
(2007年7月30〜8月5日)

 発生動向総覧


*2007年4月からの法改正に伴い、疾病の追加および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第31週コメント〉 8月8日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核 225例
3類感染症: 腸管出血性大腸菌感染症165例(うち有症者112例、うちHUS 2例)

感染地域:国内164例、韓国1例
国内の多い感染地域:宮崎県27例*、東京都15例、大阪府13例、福岡県 10例
*うち23例は保育園に関連した集団発生
年齢群:10歳未満(75例)、10代(20例)、20代(22例)、30代(15例)、40 代(8例)、50代(8例)、60代(5例)、70歳以上(12例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2( 84例)、O157 VT2( 26例)、O111 VT1( 23例)、O26 VT1( 13例)、O157 VT1( 4例)、 O121 VT2(3例)、O63 VT2(1例)、O74 VT1(1例)、 O91 VT1 (1例)、O111 VT1・VT2 (1例)、O165 VT2 (1例)、 その他/不明(7例)

腸チフス1例(感染地域:フィリピン)
4類感染症: E型肝炎1例(感染地域:インド/タイ.感染源:不明)
A型肝炎2例(感染地域:静岡県1例、福岡県1例)
オウム病1例(感染地域:愛媛県.感染源:野バト)
つつが虫病1例(感染地域:長崎県)
ライム病1例(感染地域:米国)
レジオネラ症25例(肺炎型24例、ポンティアック型1例)

年齢群:2歳1例、40代2例、50代7例、60代10例、70代2例、80代3例
感染地域:神奈川県3例、宮城県2例、東京都2例、大分県2例、北海道 1例、栃木県1例(温泉)、茨城県1例、群馬県1例、富山県1例、 山梨県1例、岐阜県1例、山口県1例、徳島県1例、香川県1例、 佐賀県1例、長崎県1例、鹿児島県1例、国内(都道府県不明) 2例(うち温泉1例)、愛知県/シンガポール1例

5類感染症:
アメーバ赤痢14例(腸管アメーバ症12例、腸管外アメーバ症2例)

感染地域:国内11例、中国2例、台湾/韓国/タイ1例
感染経路:経口4例、性的接触4例(異性間1例、同性間3例)、不明6例

ウイルス性肝炎6例〔すべてB型_感染経路:性的接触5例(すべて異性間)、不明1例〕
急性脳炎1例(単純ヘルペスウイルス.20代) クロイツフェルト・ヤコブ病3例 (孤発性プリオン病古典型2例、孤発性プリオン病その他1例) 劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例(10代、40代) 後天性免疫不全症候群8例(AIDS 3例、無症候4例、その他1例)

感染地域:国内7例、不明1例
感染経路:性的接触6例(異性間2例、同性間3例、異性間・同性間1例)、 不明2例

ジアルジア症1例(感染地域:ブラジル)
梅毒9例(早期顕症I期3例、早期顕症II期4例、晩期顕症1例、無症候1例)
破傷風5例(すべて60代)


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(8.22)、宮崎県(0.25)、宮城県(0.08)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は151例の報告があり、報告数は増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約77%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では長野県(1.49)、高知県(1.10)、広島県(0.85)、石川県(0.79)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第23週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では鳥取県(1.68)、茨城県(1.67)、埼玉県(1.61)、 富山県(1.59)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第21週以降減少が続いているが、 過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では大分県(6.9)、宮崎県(5.7)、福井県(5.4)、島根県(5.2)が多い。水痘の定点当たり報告数は第25週以降減少が続いている。都道府県別では宮城県(1.55)、福島県(1.29)、北海道(1.27)、福岡県(1.23)が多い。手足口病の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では和歌山県(11.3)、福島県(5.8)、千葉県(4.2)、 山形県(4.1)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では長野県(2.5)、新潟県(1.6)、宮城県(1.5)、福井県(1.1)が 多い。百日咳の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では千葉県(0.09)、福岡県(0.08)、栃木県(0.06)、和歌山県(0.06)が多い。風しんの報告数は11例と増加した。都道府県別では茨城県、千葉県、奈良県から各2例、埼玉県、 東京都、神奈川県、岐阜県、大阪府から各1例の順であった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では宮崎県(7.0)、大分県(6.6)、三重県(6.0)、新潟県(5.9)が多い。麻しんの報告数は減少し、14都道府県から53例の報告があった。都道府県別では福岡県22例、神奈川県11例、北海道4例、秋田県3例、宮城県、大阪府、広島県から各2例の順であった。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では宮崎県(1.03)、新潟県(0.97)、岩手県(0.95)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では沖縄県(2.3)、群馬県(1.4)、福島県(1.3)が多い。成人麻しんの報告数は減少し、11都道府県から20例の報告があった。都道府県別では北海道4例、東京都、福岡県から各3例、宮城県、山形県から各2例、神奈川県、福井県、大阪府、広島県、佐賀県、大分県から各1例の順であった。



 注目すべき感染症


◆ 腸管出血性大腸菌感染症

 腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法の3類感染症として、無症状病原体保有者を含む症例の報告が、診断した全ての医師に義務付けられている。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の検便によって偶然発見される場合もあるが、届け出された患者と食事をともにした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。

 2007年の腸管出血性大腸菌感染症の報告数は第19週に50例を超え、第22週には東京都における集団発生の影響から100例を超えた。第22週134例(うち東京都68例)、第23週196例(うち東京都105例)の後、第24週には一旦80例に減少したが、その後は毎週100例を超えている。 第28週(207例)、第30週(215例)は200例を超え、第31週は165例(8月8日現在)であった(図1)。 本年第31週までの累積報告数1,946例は、過去7年間の同週までの累積報告数と比較して、 2001年に次いで多い報告数となっている(2000年1,561例、2001年2,406例、2002年1,752例、 2003年1,205例、2004年1,755例、2005年1,715例、2006年1,737例。7年間の平均1,733例)。

 第31週に報告のあった165例は、有症者112例(68%)で、無症状病原体保有者が53例(32%) であった。報告の多かった都道府県は宮崎県(27例)、東京都(19例)、大阪府(15例)、福岡県(10例)であった。感染地域は国内164例、韓国1例であり、国内の感染地域として多かった 都道府県は、宮崎県(27例)、東京都(15例)、大阪府(13例)、福岡県(10例)であった。宮崎県では保育園での集団発生に関連した報告が含まれている。性別では男性77例、女性88例であり、年齢群別では0〜9歳75例(0〜4歳60例、5〜9歳15例)、20〜29歳22例、10〜19歳20例、30〜39歳15例の順に多かった。

 分離された菌の血清型は、O157 VT1・VT2(84例)、O157 VT2(26例)、O111 VT1(23例)、 O26 VT1(13例)、O157 VT1(4例)、O121 VT2(3例)、O63 VT2(1例)、O74 VT1(1例)、O91 VT1(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、O165 VT2(1例)、その他/不明(7例)であった。

 第1〜31週に報告された1,946例についてみると、報告の多い都道府県は、東京都(327例)、 大阪府(147例)、福岡県(107例)、神奈川県(94例)、千葉県(92例)、埼玉県(87例)、石川県 (85例)であった(図2)。感染地域は国内が1,921例(99%)であり、国外が22例、国内か国外か不明が3例であった。 症状の有無別では有症者1,314例(67.5%)、無症状病原体保有者632例(32.5%)、性別では男性819例(42%)、女性1,127例(58%)であり、年齢群別では0〜9歳613例(0〜4歳374例、5〜9歳239例)、20〜29歳358例、10〜19歳325例、30〜39歳199例の順に多かった。また、30歳未満の年齢群では有症者が多く、30〜39歳及び40〜49歳は無症状病原体保有者が多くなるが、 50歳以上の年齢群では再び有症者が多くなる傾向が認められる(図3)。 分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT1・VT2(755例)、O157 VT2(637例)、O26 VT1 (169例)の順に多かった。 溶血性尿毒症症候群(HUS)は、第31週までに50例が報告されている。本疾患の届出の基準としては、大腸菌の分離・同定かつ分離菌におけるベロ毒素の確認が必要であるが、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限り、2006年4月からは、便からのベロ毒素の検出や血清抗体(O抗原凝集抗体あるいはベロ毒素抗体)の検出によって診断された場合も届け出の対象と されている。50例のうち15例は菌が分離されず、2例が便からのベロ毒素の検出、13例が血清 抗体の検出による診断として届け出られたものである。2007年では第31週までに死亡例は2例 (3歳、50代)報告されている。届け出時点以降でのHUSなどの合併症や死亡は、十分反映さ れていない可能性があるので、発生があった場合には追加・修正報告していただくようお願いしている。

図1. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(1999年第14週〜2007年第31週)

図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別累積報告状況(2007年第1〜31週)

図3. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢別・症状の有無別報告状況(2007年第1〜31週)


 本年は既に学校での食中毒による大規模な集団発生が見られているほか、保育施設における集団発生も散見されている。本疾患は夏季を中心に流行する疾患であり、今後も報告数の多い状況が続くと考えられるので、その発生動向には注意が必要である。 食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。特に、保育施設における集団発生は例年多くみられているので、腸管出血性大腸菌に限らない日ごろからの注意として、特にオムツ交換時の手洗い、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。また、 簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。さらに2006年には、動物とのふれあい 体験での感染と推定される事例が報告されており、動物との接触後の充分な手洗いにも注意 する必要がある。 (補)菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html をご参照ください。

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