国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第32号ダイジェスト
(2007年8月6日〜8月12日)

 発生動向総覧


*2007年4月からの法改正に伴い、疾病の追加および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第32週コメント〉 8月16日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核229例
3類感染症: 細菌性赤痢11例〔感染地域:埼玉県2例*、モンゴル2例、米国(ハワイ)2例、シンガポール2例、インドネシア1例、フィリピン1例、中国1例〕 *第15週に始まった知的障害者更生施設に関連した集団発生
腸管出血性大腸菌感染症157例(うち有症者105例、うちHUS 5例、死亡者なし))

感染地域:国内156例、不明1例
国内の多い感染地域:大阪府28例、長崎県17例、宮崎県12例、兵庫県12例
※4府県はいずれも保育施設に関連した集団発生を含む
年齢群:10歳未満(83例)、10代(15例)、20代(15例)、30代(12例)、40代(12例)、50代(8例)、60代(6例)、70歳以上(6例)
血清型・毒素型:O157 VT2( 58例)、O157 VT1・VT2( 42例)、O103VT1( 15例)、O111 VT1( 11例)、O26 VT1( 10例)、O157 VT1(4例)、O121 VT2(4例)、その他/不明(13例)

4類感染症: E型肝炎3例(感染地域:北海道3例.感染源:刺身/焼き鳥1例、不明2例)
A型肝炎2例(感染地域:東京都1例、大阪府1例)
エキノコックス症1例(多包条虫.感染地域:北海道)
デング熱2例(感染地域:インドネシア1例、フィリピン1例)
日本紅斑熱2例(感染地域:三重県1例、島根県1例)
レジオネラ症10例(すべて肺炎型)

年齢群:50代4例、60代3例、70代1例、80代2例
感染地域:栃木県2例、東京都2例、広島県2例、長野県1例、愛知県1例、 三重県1例、兵庫県1例例

5類感染症:
アメーバ赤痢17例(腸管アメーバ症15例、腸管・腸管外アメーバ症2例)

感染地域:国内15例、韓国1例、インド1例 感染経路:経口2例、性的接触4例(異性間1例、同性間3例)、不明11例

ウイルス性肝炎1例〔B型_感染経路:性的接触(異性間)〕
急性脳炎3例〔HHV7 1例(1歳)、病原体不明2例(2歳、60代)〕
後天性免疫不全症候群22例(AIDS 8例、無症候13例、その他1例)

感染地域:国内20例、国外(国不明)1例、不明1例
感染経路:性的接触18例(異性間4例、同性間13例、異性間・同性間1 例)、静脈薬物常用/性的接触(異性間)1例、不明3例

髄膜炎菌性髄膜炎1例(感染地域:国内)
梅毒10例 (早期顕症I期4例、早期顕症II期2例、晩期顕症1例、無症候3例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例 (遺伝子型:VanA 1例_菌検出検体:血液、遺伝子型:VanC 1例_菌検 出検体:血液)

(補)他に報告遅れとして、細菌性赤痢11例(感染地域:すべて静岡県.保育所に関連し た集団発生)、レジオネラ症1例〔肺炎型.60代.感染地域:三重県(温泉)〕、急性 脳炎3例〔麻疹ウイルス1例(10代)、病原体不明2例(6歳、60代)〕、劇症型溶血性レ ンサ球菌感染症1例(60代.死亡)等の報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(5.26)、宮崎県(0.21)、大分県(0.12)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は115例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約77%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では高知県(1.37)、長野県(1.14)、広島県(0.89)、大分県(0.86)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第23週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では鳥取県(2.4)、埼玉県(1.5)、宮崎県(1.5)、鹿児島県(1.3)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第21週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では大分県(6.2)、福井県(5.4)、宮崎県(5.4)、島根県(5.4)が多い。水痘の定点当たり報告数は第25週以降減少が続いている。都道府県別では福島県(1.13)、石川県(1.10)、長野県(1.08)が多い。手足口病の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では和歌山県(6.7)、福島県(5.3)、山形県(4.0)、千葉県(3.4)、秋田県(3.3)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は2週連続で減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では長野県(1.29)、宮城県(1.28)、高知県(1.20)、岩手県(1.03)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では栃木県(0.09)、広島県(0.06)、千葉県(0.05)、神奈川県(0.05)が多い。風しんの報告数は7例と減少した。都道府県別では神奈川県3例、北海道、大阪府、和歌山県、長崎県から各1例の順であった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は2週連続で減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では宮崎県(6.2)、石川県(5.1)、三重県(5.0)、群馬県(4.9)が多い。麻しんの報告数は2週連続で減少し、18都道府県から47例の報告があった。都道府県別では神奈川県、大阪府から各9例、北海道7例、新潟県6例、宮城県、埼玉県から各2例の順であった。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では高知県(1.17)、岩手県(1.00)、宮崎県(0.97)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では沖縄県(1.71)、岡山県(1.20)、鳥取県(1.00)が多い。成人麻しんの報告数は2週連続で減少し、7都道府県から11例の報告があった。都道府県別では、大阪府3例、東京都、神奈川県各2例、秋田県、新潟県、京都府、鳥取県から各1例の順であった。




 注目すべき感染症


◆ 腸管出血性大腸菌感染症

腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法の3類感染症として、無症状病原体保有者を含む症例の報告が、診断した全ての医師に義務付けられている。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の検便によって偶然発見される場合もあるが、届け出された患者と食事をともにした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。

2007年の腸管出血性大腸菌感染症の報告数は第19週に50例を超え、第22週には東京都における集団発生の影響から100例を超えた。第23週は196例(うち東京都105例)となった後、第24週には一旦80例に減少したが、その後は毎週100例を超える報告が認められる。第28週、第30週は200例を超える報告数となり、第32週は157例(8月16日現在)であった(図1)。本年第32週までの累積報告数2,123例は、過去7年間の同週までの累積報告数と比較して、2001年に次いで多い報告数である(2000年1,739例、2001年2,779例、2002年1,924例、2003年1,282例、2004年1,976例、2005年1,872例、2006年1,894例。7年間の平均1,924例)。

第32週に報告のあった157例は、有症者105例(67%)で、無症状病原体保有者が52例(33%)であった。報告の多かった都道府県は大阪府(31例)、長崎県(17例)、宮崎県(13例)、兵庫県(11例)であった。感染地域は国内156例、不明1例であり、国内の感染地域として多かった都道府県は、大阪府(28例)、長崎県(17例)、宮崎県(12例)、兵庫県(12例)であった。これら4府県はいずれも保育施設での集団発生に関連した報告が含まれている。性別では男性82例、女性75例であり、年齢群別では0〜9歳83例(0〜4歳57例、5〜9歳26例)、10〜19歳、20〜29歳ともに15例、30〜39歳、40〜49歳ともに12例の順に多かった。

分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT2(58例)、O157 VT1・VT2(42例)、O103 VT1(15例)、O111 VT1(11例)、O26 VT1(10例)、O121 VT2(4例)、O157 VT1(4例)、その他/不明(13例)であった。

第1〜32週に報告された2,123例についてみると、報告の多い都道府県は、東京都(335例)、大阪府(186例)、福岡県(117例)、神奈川県(102例)、千葉県(95例)、埼玉県(90例)、石川県(89例)であった(図2)。感染地域は国内が2,092例(98.5%)であり、国外が21例、国内か国外か不明が10例であった。
症状の有無別では有症者1,431例(67%)、無症状病原体保有者692例(33%)、性別では男性911例(43%)、女性1,212例(57%)であり、年齢群別では0〜9歳703例(0〜4歳436例、5〜9歳267例)、20〜29歳377例、10〜19歳340例、30〜39歳215例の順に多かった。また、30歳未満の年齢群では有症者が多く、30〜39歳及び40〜49歳は無症状病原体保有者が多くなるが、50歳以上の年齢群では再び有症者が多くなる傾向が認められる(図3)
分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT1・VT2(809例)、O157 VT2(698例)、O26 VT1(185例)、O111 VT1・VT2(79例)、O111 VT1(60例)、O157 VT1(40例)の順に多かった。
溶血性尿毒症症候群(HUS)は、第32週までに56例が報告されている。本疾患の届出の基準としては、大腸菌の分離・同定かつ分離菌におけるベロ毒素の確認が必要であるが、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限り、2006年4月からは、便からのベロ毒素の検出や血清抗体(O抗原凝集抗体あるいはベロ毒素抗体)の検出によって診断された場合も届け出の対象とされている。56例のうち17例は菌が分離されず、2例が便からのベロ毒素の検出、15例が血清抗体の検出による診断として届け出られたものである。死亡例は2007年では第32週までに2例(3歳、50代)報告されている。届け出時点以降でのHUSなどの合併症や死亡は十分反映されていない可能性があるので、発生があった場合には追加・修正報告していただくようお願いしている。

図1. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(1999年第14週〜2007年第32週)

図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別累積報告状況(2007年第1〜32週)

図3. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢別・症状の有無別報告状況(2007年第1〜32週)


本年は既に学校での食中毒による大規模な集団発生が見られているほか、保育施設における集団発生も後を絶たない。本疾患は夏季を中心に流行する疾患であり、今後も報告数の多い状況が続くと考えられるので、その発生動向には引き続き注意が必要である。
食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。特に、保育施設における集団発生が多くみられており、腸管出血性大腸菌に限らない日ごろからの注意として、オムツ交換時の手洗い、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。また、簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。さらに2006年には、動物とのふれあい体験での感染と推定される事例が報告されており、動物との接触後の充分な手洗いにも注意する必要がある。

(補)菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html をご参照ください。


◆ 細菌性赤痢の国内における集団発生について2007年(2007年8月16日現在)

細菌性赤痢は赤痢菌(Shigella属菌)により起こる腸管感染症である。Shigella属菌には4つの菌種(S. dysenteriae、S. flexneri、S. boydii、S. sonnei)がある。主な感染源はヒトであり、患者・無症状病原体保有者(保菌者)の糞便、それらに汚染された手指、食品、水、食器等を介して、直接または間接的に経口感染する。通常1〜3日の潜伏期の後に、発熱、腹痛、下痢、ときに嘔吐などによって急激に発症する。重症例ではしぶり腹を伴う頻回の便意を催し、典型的には膿粘血便を少量ずつ排泄する。自然治癒傾向があるため、重症例を除いて1週間程度で症状は改善されるが、未治療の場合、便からの排菌は1〜3カ月続くとされる。
本疾患は、感染症法の対象疾患として診断したすべての医師に届け出が義務づけられている。1999年4月の法施行当初は二類感染症として、患者、疑似症患者、無症状病原体保有者が届出の対象であったが、2007年4月の改正法施行により三類感染症に変更され、現在は患者および無症状病原体保有者が届出対象となっている。感染地域としては、例年、国外感染とされるものが過半数を占めるが、国内感染とされる発生も80〜90例程度報告されている。国内感染とされる細菌性赤痢の多くは、国外感染者からの二次感染、あるいは輸入食品の汚染によると推測されている。
2007年第32週までに、国内感染とされる細菌性赤痢が110例報告された(図1)。この中には、埼玉県の知的障害者更生施設(42例:S. sonnei)、静岡県の保育施設(12例:S. sonnei)、広島県の保育施設(8例:S. sonnei)に関連した集団発生例が含まれている。同様の施設での集団発生事例は、近年では、2005年の愛知県の知的障害者更生施設(IASR Vol.27 No.3 p4-5http://idsc.nih.go.jp/iasr/27/313/dj3132.html)や、2006年の大阪府の保育施設(IASR Vol28.No.2 p15-16 http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/324/pr3242.html)で認められている。また本年は、学生実習による集団発生もあった。

図1. 細菌性赤痢の国内感染例の年別報告状況(2004年〜2007年第32週)


赤痢菌は、腸管出血性大腸菌と同様に、微量の菌により感染が成立する。そのため感染も拡大しやすく、二次感染も起こりやすい。二次感染を防ぐには、患者および無症状病原体保有者を早期に探知し、治療を行うことが必要である。さらに症状の消失をもって治療終了とするのではなく、排菌していないことを確実に確認することも重要である。また、微量の菌で汚染された食品が原因となり得るため、食品からの菌の検出は困難なことが多く、感染源対策を困難にしている。
食品を介しての単一暴露による集団発生(食中毒)の予防としては、食品取扱者の手洗い、必要十分な加熱調理を含め、食品の適切な取り扱いを徹底する。二次感染による感染は、家庭内でも少なからず見られており(IASR Vol.27 No.3 p5-6 http://idsc.nih.go.jp/iasr/27/313/dj3133.html)、注意が必要である。特に保育園や知的障害者施設などのように、便の処理を行っている集団施設等においては感染拡大に注意が必要である。日頃から、多数の人々が頻回に触れる可能の高い場所(ドアノブ、階段の手すり、トイレの便座など)の衛生管理を徹底すること、園児や知的障害者などの下痢症状等の出現に留意するとともに、排便後・食事前の手洗い指導を繰り返し行うこと(タオルの共用は厳禁)、さらに保育者や介護者の手洗いを徹底することも重要である。


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