国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第34号ダイジェスト
(2007年8月20日〜8月26日)

 発生動向総覧


*2007年4月からの法改正に伴い、疾病の追加および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第34週コメント〉 8月30日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核274例
3類感染症: 細菌性赤痢17例(感染地域:埼玉県9例*、岩手県1例、ベトナム2例、タイ2 例、エジプト1例、シリア1例、インド/ネパール1例**)
*第15週に始まった知的障害者更生施設に関連した集団発生
**クリプトスポリジウム症、ジアルジア症合併
腸管出血性大腸菌感染症181例 (うち有症者143例、うちHUS 8例、死亡なし)

感染地域:国内178例、トルコ2例*、エジプト1例
*第33週の1例と同一ツアーにおける感染
国内の多い感染地域:大阪府24例*、熊本県13例*、神奈川県10例、愛知県10例、岡山県9例
*保育園に関連した集団発生を含む
年齢群:10歳未満(80例)、10代(25例)、20代(25例)、30代(15例)、40代(9例)、50代(9例)、60代(9例)、70歳以上(9例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(86例)、O157 VT2(44例)、O26 VT1(13例)、O111 VT1(12例)、O121 VT2(4例)、O157 VT1(3例)、O103 VT1(2例)、O165 VT1・VT2(2例)、O91 VT1(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、その他/不明(13例)

腸チフス2例(感染地域:埼玉県1例、ネパール1例)
4類感染症: E型肝炎1例(感染地域:岡山県.感染源:不明)
デング熱3例(感染地域:フィリピン2例、バングラデシュ1例)
レジオネラ症9例(肺炎型8例、ポンティアック型1例)

年齢群:30代1例、40代2例、50代1例、60代4例、80代1例
感染地域:福岡県2例、群馬県1例、埼玉県1例、三重県1例(温泉)、大阪府1例、島根県1例、宮崎県1例、国内(都道府県不明)1例

5類感染症:
アメーバ赤痢12例(すべて腸管アメーバ症)

感染地域:国内10例、インドネシア2例
感染経路:経口5例、性的接触1例(同性間)、経口/性的接触2例(異性間1例、同性間1例)、不明4例

ウイルス性肝炎7例〔すべてB型_感染経路:性的接触4例(異性間3例、異性間・同性間1例)、不明3例〕
急性脳炎1例(病原体不明.1歳)
クリプトスポリジウム症1例(感染地域:インド/ネパール.感染経路:水系)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(40代.死亡)
後天性免疫不全症候群14例(AIDS 4例、無症候10例)

感染地域:国内11例、国外2例(ニジェール1例、国不明1例)、不明1例
感染経路:すべて性的接触(異性間5例、同性間8例、異性間/同性間不明1例)

ジアルジア症1例(感染地域:インド/ネパール)
梅毒11例(早期顕症I期4例、早期顕症II期2例、無症候5例)
破傷風3例(60代2例、80代1例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例(遺伝子型:ともにVanC_菌検出検体:ともに血液)

(補)他に報告遅れとして、細菌性赤痢1例(感染地域:タイ)、急性脳炎5例〔HHV6 1例(1歳)、病原体不明4例(1歳2例、10代、30代)〕等の報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は第29週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(4.41)、宮崎県(0.31)、岐阜県(0.06)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は154例の報告があり、報告数は微増した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約78%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では長崎県(0.91)、広島県(0.82)、長野県(0.80)、佐賀県(0.70)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では鳥取県(1.42)、富山県(1.41)、埼玉県(1.22)、宮崎県(1.19)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では宮崎県(7.2)、大分県(6.2)、福井県(6.2)、島根県(5.8)が多い。水痘の定点当たり報告数は第25週以降減少が続いている。都道府県別では宮崎県(0.83)、長野県(0.78)、福井県(0.73)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第31週以降減少が続いている。都道府県別では秋田県(2.9)、山形県(2.2)、福島県(2.2)、青森県(1.9)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では宮城県(1.08)、長野県(0.93)、高知県(0.70)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では和歌山県(0.13)、石川県(0.10)、山口県(0.08)、愛媛県(0.08)、神奈川県(0.06)が多い。風しんの報告数は15例と増加した。都道府県別では愛知県5例、北海道3例、千葉県2例、埼玉県、岐阜県、滋賀県、鳥取県、岡山県から各1例の順であった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は4週連続で減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では宮崎県(5.6)、新潟県(4.8)、青森県(4.5)、長野県(2.5)が多い。麻しんの報告数は2週連続で増加し、22都道府県から71例の報告があった。都道府県別では福岡県24例、大阪府14例、宮城県8例、北海道4例、岡山県3例、埼玉県2例の順であった。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では高知県(1.53)、宮崎県(1.19)、秋田県(0.83)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では沖縄県(2.71)、福島県(2.00)、富山県(0.80)が多い。成人麻しんの報告数は減少し、8都道府県から12例の報告があった。都道府県別では福岡県3例、新潟県、大阪府から各2例、北海道、宮城県、山形県、神奈川県、岐阜県から各1例の順であった。




 注目すべき感染症


◆ 腸管出血性大腸菌感染症

腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法の3類感染症として、無症状病原体保有者を含む症例の報告が、診断した全ての医師に義務付けられている。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の検便によって偶然発見される場合もあるが、届け出された患者と食事をともにした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。

2007年の腸管出血性大腸菌感染症の報告数は第19週に50例を超え、第22週には東京都における集団発生の影響から100例を超えた。第23週は196例(うち東京都105例)となった後、第24週には一旦80例に減少したが、その後は毎週100例を超える報告が認められる。第28週、第30週は200例を超える報告数となり、第31週は184例、第32週は179例、第33週は145例で、第34週は181例(8月30日現在)であった(図1)
本年第34週までの累積報告数2,479例は、過去7年間の同週までの累積報告数と比較して、2001年に次いで多い報告数である(2000年2,083例、2001年3,296例、2002年2,319例、2003年1,523例、2004年2,416例、2005年2,264例、2006年2,324例。7年間の平均2,318例)。

第34週に報告のあった181例は、有症者143例(79%)で、無症状病原体保有者が38例(21%)であった。報告の多かった都道府県は大阪府(22例)、神奈川県(14例)、熊本県(13例)、愛知県(11例)、兵庫県(10例)であった。感染地域は国内178例、トルコ2例、エジプト1例であり、国内の感染地域として多かった都道府県は、大阪府(24例)、熊本県(13例)、神奈川県(10例)、愛知県(10例)、岡山県(9例)であった。大阪府、熊本県は保育施設での集団発生に関連した報告が含まれている。性別では男性92例、女性89例であり、年齢群別では0〜9歳80例(0〜4歳53例、5〜9歳27例)、10〜19歳及び20〜29歳各25例、30〜39歳15例の順に多かった。
分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT1・VT2(86例)、O157 VT2(44例)、O26 VT1(13例)、O111 VT1(12例)、O121 VT2(4例)、O157 VT1(3例)、O103 VT1(2例)、O165 VT1・VT2(2例)、O91 VT1(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、その他/不明(13例)であった。

第1〜34週に報告された2,479例についてみると、報告の多い都道府県は、東京都(349例)、大阪府(246例)、福岡県(130例)、神奈川県(123例)、千葉県(106例)、兵庫県(102例)、埼玉県及び石川県(各96例)であった(図2)。感染地域は国内が2,440例(98%)であり、国外が26例、国内か国外か不明が13例であった。
症状の有無別では有症者1,694例(68%)、無症状病原体保有者785例(32%)、性別では男性1,082例(44%)、女性1,397例(56%)であり、年齢群別では0〜9歳865例(0〜4歳539例、5〜9歳326例)、20〜29歳418例、10〜19歳387例、30〜39歳248例の順に多かった。また、30歳未満の年齢群では有症者が多く、30〜39歳及び40〜49歳は無症状病原体保有者が多くなるが、50歳以上の年齢群では再び有症者が多くなる傾向が認められる(図3)
分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT1・VT2(981例)、O157 VT2(792例)、O26 VT1(211例)、O111 VT1・VT2(80例)、O111 VT1(78例)、O121 VT2(52例)、O103 VT1及びO157VT1(各47例)の順に多かった。
溶血性尿毒症症候群(HUS)は、第34週までに67例が報告されている。本疾患の届出の基準としては、大腸菌の分離・同定かつ分離菌におけるベロ毒素の確認が必要であるが、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限り、2006年4月からは、便からのベロ毒素の検出や血清抗体(O抗原凝集抗体あるいはベロ毒素抗体)の検出によって診断された場合も届け出の対象とされている。67例のうち21例は菌が分離されず、そのうち2例が便からのベロ毒素の検出、19例が血清抗体の検出による診断として届け出られたものである。死亡例は2007年では第34週までに2例(3歳、50代)報告されている。届け出時点以降でのHUSなどの合併症や死亡は十分反映されていない可能性があるので、発生があった場合には追加・修正報告していただくようお願いしている。

図1. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(1999年第14週〜2007年第34週)

図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別累積報告状況(2007年第1〜34週)

図3. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢別・症状の有無別報告状況(2007年第1〜34週)


本年は学校での食中毒による大規模な集団発生が見られたほか、保育施設における集団発生は後を絶たない状況が続いている。今後も報告数の多い状況が続くと考えられるので、その発生動向には引き続き注意が必要である。
食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。特に、保育施設における集団発生が多くみられており、腸管出血性大腸菌に限らない日ごろからの注意として、オムツ交換時の手洗い、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。また、簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。さらに2006年には、動物とのふれあい体験での感染と推定される事例が報告されており、動物との接触後の充分な手洗いにも注意する必要がある。

(補)菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html をご参照ください。


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