国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第40号ダイジェスト
(2007年10月1日〜10月7日)

 発生動向総覧


*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第40週コメント〉 10月11日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核227例
3類感染症: 細菌性赤痢7例(感染地域:インド2例、中国2例、メキシコ2例、パキスタン1例)
腸管出血性大腸菌感染症212例(うち有症者152例、うちHUS 8例、死亡なし)

感染地域:すべて国内
国内の多い感染地域:宮城県(92例)*、愛知県(12例)、兵庫県(12例)
*うち90例は仕出し弁当による食中毒に関連した集団発生
年齢群:10歳未満(48例)、10代(15例)、20代(69例)、30代(28例)、40代(20例)、50代(15例)、60代(7例)、70歳以上(10例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(88例)、O157 VT2(25例)、O26 VT1(16例)、O157 VT1(3例)、O146 VT1・VT2(2例)、O1VT2(1例)、O91 VT1(1例)、O103 VT1(1例)、O111VT1・VT2(1例)、その他/不明(74例)

腸チフス3例(感染地域:ネパール1例、スリランカ1例、ミャンマー1例)
4類感染症: A型肝炎2例〔感染地域:静岡県1例、国外(国不明)1例〕
デング熱1例(感染地域:ベトナム)
ライム病1例(感染地域:北海道)
レジオネラ症11例(すべて肺炎型)

年齢群:20代1例、60代6例、70代2例、80代2例
感染地域:愛知県3例、埼玉県2例(うち1例温泉)、山形県1例、新潟県1例、国内(都道府県不明)3例、中国1例

5類感染症:
アメーバ赤痢4例(腸管アメーバ症3例、腸管外アメーバ症1例)

感染地域:国内3例、ブルキナファソ1例
感染経路:経口1例、性的接触(異性間および同性間)1例、不明2例
ウイルス性肝炎2例〔B型_感染経路:性的接触(同性間)1例、水平感染1例〕
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(孤発性プリオン病古典型1例、遺伝性プリオン病家族性1例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(50代)
後天性免疫不全症候群12例(無症候9例、AIDS 2例、その他1例)
感染地域:すべて国内
感染経路:すべて性的接触(異性間4例、同性間8例)
ジアルジア症1例(感染地域:ネパール)
梅毒10例(早期顕症I期2例、早期顕症II期3例、晩期顕症1例、無症候4例)
破傷風2例(60代1例、70代1例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症3例(遺伝子型:すべて不明_菌検出検体:胆汁1例、尿2例)

(補)他に第39週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢1例(感染地域:インド)、E型肝炎1例(感染地域:バングラデシュ.感染源:不明)、日本紅斑熱2例(感染地域:三重県1例、長崎県1例)、レジオネラ症2例〔感染地域:ともに北海道(温泉).50代1例、60代1例〕、レプトスピラ症1例(感染地域:沖縄県.感染源:溜め池)、急性脳炎1例〔病原体不明(30代)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(40代)等の報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(5.71)、愛知県(0.26)、静岡県(0.14)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は468例の報告があり、報告数は第33週以降増加が続いている。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約72%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第37週以降減少が続いている。都道府県別では高知県(0.57)、長崎県(0.34)、富山県(0.31)、広島県(0.31)、が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では鳥取県(2.00)、北海道(1.73)、茨城県(1.72)、埼玉県(1.69)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では宮崎県(8.3)、大分県(7.1)、島根県(6.9)、鳥取県(5.7)、が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では大分県(0.92)、愛媛県(0.84)、新潟県(0.72)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第37週以降減少が続いている。都道府県別では宮城県(3.0)、岩手県(2.4)、沖縄県(2.2)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(0.56)、福井県(0.50)、岩手県(0.44)、三重県(0.44)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では山形県(0.17)、滋賀県(0.16)、千葉県(0.08)、愛媛県(0.08)、東京都(0.07)が多い。風しんの報告数は6例と微減した。都道府県別では千葉県、新潟県、富山県、静岡県、広島県、鹿児島県から各1例であった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第31週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では新潟県(1.46)、北海道(1.38)、岩手県(1.38)、山形県(1.37)が多い。麻しんの報告数は減少し、12都府県から36例の報告があった。都道府県別では福岡県19例、大阪府3例、宮城県、東京都、神奈川県、兵庫県から各2例、栃木県、埼玉県、千葉県、広島県、愛媛県、熊本県から各1例の順であった。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(0.80)、秋田県(0.77)、高知県(0.77)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福島県(2.7)、沖縄県(1.9)、富山県(1.8)が多い。成人麻しんの報告数は増加し、4県から4例の報告があった。都道府県別では、岩手県、茨城県、神奈川県、愛媛県から各1例であった。

(補)麻しんおよびヘルパンギーナの報告数は修正予定である。



 注目すべき感染症

◆ A群溶血性レンサ球菌咽頭炎

 A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)はその侵入部位や組織によって多彩な症状を引き起こす。時に稀ながら発症機序がまだ不明である劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因となることがあるが、本項では、通常主に小児の間で発生する疾患であり、感染症法によって5類感染症定点把握疾患と定められているA群溶血性レンサ球菌咽頭炎について述べる。
 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、本邦を含めた温帯地域を中心に広く世界的に分布している感染症である。感染経路はヒトからヒトへの飛沫感染が主であるが、食品を介する経口感染もあるといわれている。潜伏期間は1〜4日であり、突然の発熱、咽頭痛、全身倦怠感によって発症し、しばしば嘔吐を伴う。通常発熱は3〜5日以内に下がり、主症状は1週間以内に消失する予後良好の疾患であるが、菌が産生する毒素に免疫のない場合は猩紅熱に発展する場合がある。治療にはペニシリン系薬剤が第1選択薬とされているが、ペニシリンアレルギーがある場合はマクロライド系薬剤やセフェム系を投与する。リウマチ熱や急性糸球体腎炎など非化膿性の合併症予防のために、少なくとも10日間は確実に投与することが必要である。
 感染症発生動向調査によると、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は例年春季を中心とした流行の後に夏季には定点医療機関からの発生報告数は大きく低下し、第33週前後に最低値を記録した後に冬季の流行に向かって報告数は増加している(図1)。2000年以降の定点当たり累積報告数をみると、2004年に報告数が増加し、2005年はやや減少したものの、2006年の報告数は2004年の報告数を大きく上回った(図2)。また、暫定値であるものの2007年の第40週までの定点当たり累積報告数69.03(累積報告数207,432)は、2006年の同時期の報告数(定点当たり累積報告数67.35、累積報告数202,456いずれも暫定値)をやや上回っている。

図1. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の年別・週別発生状況(1997年〜2007年第40週)

図2. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり累積報告数年別推移(2000〜2006年)

図3. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の都道府県別報告状況(2007年第40週)

 第40週の都道府県別の定点当たり報告数をみると、鳥取県(2.00)、北海道(1.73)、茨城県(1.72)、埼玉県(1.69)、大分県(1.39)、大阪府(1.36)の順であり、全国平均(0.95)を超えている地域は東日本に多くみられている(図3)。2007年第1〜40週の都道府県別の定点当たり累積報告数をみると、富山県(171.82)、鳥取県(133.32)、北海道(112.81)、新潟県(101.07)、宮崎県(101.06)、埼玉県(98.42)、山形県(97.93)、茨城県(95.47)の順であり、やはり全国平均(69.03)を上回っているのは東日本の道県に多い(図4)。第1〜40週の累積報告数の年齢別割合をみると、4〜5歳30.0%、6〜7歳23.2%、2〜3歳15.3%、8〜9歳12.9%の順であり、例年と同様4〜7歳で全報告数の半数以上を占めている(図5)

図4. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の都道府県別累積報告状況(2007年第1〜40週) 図5. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎累積報告数の年齢別割合(2007年第1週〜40週)

 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、今後冬季のピークに向かって報告数は増加していくものと推定される。その発生動向には注意深い観察が必要である。

◆ 腸管出血性大腸菌感染症

 腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法の3類感染症として、無症状病原体保有者を含む症例の報告が、診断した全ての医師に義務付けられている。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の検便によって偶然発見される場合もあるが、届け出された患者と食事をともにした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。

 2007年の腸管出血性大腸菌感染症の報告数は第19週に50例を超え、第22週には東京都における学校の食堂での集団発生の影響から100例を超え、第23週には196例となった。第24週には一旦80例に減少したが、その後は増加傾向となり、第28週(209例)、第30週(226例)、第34週(278例)、第35週(262例)は200例を超える報告数であった。第34週をピークに減少傾向となり第36週以降は200例を下回っていた。しかし第40週(212例)は、同一の仕出し弁当による宮城県、秋田県での食中毒の集団発生によって、再び200例を超える報告数となった(図1)
 本年第40週までの累積報告数は3,647例であり、過去7年間の同週までの累積報告数と比較して、2001年に次いで多い報告数である(2000年2,989例、2001年4,128例、2002年2,828例、2003年2,386例、2004年3,192例、2005年3,016例、2006年3,245例。7年間の平均3,112例)。

 第40週に報告のあった212例は、有症者152例(72%)で、無症状病原体保有者が60例(28%)であった。報告の多かった都道府県は宮城県(84例)、愛知県(12例)、兵庫県(12例)、秋田県(10例)、大阪府(10例)であった。感染地域はすべて国内であり、国内の感染地域として多かった都道府県は、宮城県(92例)、愛知県(12例)、兵庫県(12例)であった。性別では男性154例、女性58例であり、年齢群別では20〜29歳(69例)、10歳未満(48例)、30〜39歳(28例)、40〜49歳(20例)、10〜19歳および50〜59歳(各15例)、70歳以上(10例)、60〜69歳(7例)の順に多かった。
 分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT1・VT2(88例)、O157 VT2(25例)、O26 VT1(16例)、O157 VT1(3例)、O146 VT1・VT2(2例)、O1 VT2(1例)、O91 VT1(1例)、O103 VT1(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、その他/不明(74例)であった。

 第1〜40週に報告された3,647例についてみると、報告の多い都道府県は、東京都(416例)、大阪府(390例)、福岡県(179例)、神奈川県(156例)、兵庫県(156例)、千葉県(144例)、宮城県(143例)、埼玉県(141例)、愛知県(138例)、石川県(117例)、熊本県(107例)であった(図2)。感染地域は国内が3,595例(99%)であり、国外が40例、国内か国外か不明が12例であった。
 症状の有無別では有症者2,486例(68%)、無症状病原体保有者1,161例(32%)、性別では男性1,683例(46%)、女性1,964例(54%)であり、年齢群別では0〜9歳1,315例(0〜4歳823例、5〜9歳492例)、20〜29歳614例、10〜19歳547例、30〜39歳376例、50〜59歳240例、40〜49歳189例、60〜69歳173例、70〜79歳119例、80歳以上74例の順に多かった。また、30歳未満の年齢群では有症状者が多く、30〜39歳及び40〜49歳は無症状病原体保有者が多くなるが、50歳以上の年齢群では再び有症者が多くなる傾向が認められる(図3)
 分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT1・VT2(1,520例)、O157 VT2(1,018例)、O26VT1(360例)、O111 VT1(99例)、O111 VT1・VT2(88例)、O157 VT1(83例)、O121 VT2(62例)、O103 VT1(62例)が多かった。

図1. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(1999年第14週〜2007年第40週) 図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別累積報告数(2007年第1〜40週) 図3. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢群別・症状の有無別報告数(2007年第1〜40週)

 溶血性尿毒症症候群(HUS)は、届け出時点以降の追加報告を含め、第40週までに106例が報告されている。106例の年齢群は、10歳未満84例、10〜19歳8例、20〜29歳5例、40〜49歳1例、50〜59歳2例、60〜69歳3例、70〜79歳1例、80歳以上2例であった。本疾患の届出の基準としては、大腸菌の分離・同定かつ分離菌におけるベロ毒素の確認が必要であるが、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限り、2006年4月からは、便からのベロ毒素の検出や血清抗体(O抗原凝集抗体あるいはベロ毒素抗体)の検出によって診断された場合も届け出の対象とされている。106例のうち34例は菌が分離されておらず、そのうち3例が便からのベロ毒素の検出、31例が血清抗体の検出による診断として届け出られたものである。死亡例は、届け出時点以降の追加報告により、第40週までに3例(3歳、50代、80代)報告されている。届け出時点以降でのHUSなどの合併症や死亡は十分反映されていない可能性があるので、発生があった場合には追加・修正報告していただくようお願いしている。
 夏季を過ぎ一旦減少傾向に向かった腸管出血性大腸菌感染症の報告数は、第40週に大規模な食中毒の発生の影響から、再び大きく増加した。本年はこれまでに、食中毒による集団発生として、本事例と6月に発生した100例を超える大規模な2つの事例がみられているほか、地域の飲食店での集団発生も散見される。また、保育施設における二次感染を中心とした集団発生も多数認められている。今後も本疾患の発生動向には引き続き注意が必要である。
 食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。特に、保育施設における集団発生は多くみられており、腸管出血性大腸菌に限らない日ごろからの注意として、オムツ交換後の手洗い、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。また、簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。さらに2006年には、動物とのふれあい体験での感染と推定される事例が報告されており、動物との接触後の充分な手洗いにも注意する必要がある。保健所などによる原因食材・食品の調査の際には、感染症対策部門と食品衛生部門が連携することはもとより、食材・食品の流通の観点から都道府県を越えた発生拡大(Diffuse outbreak)も考慮し、必要に応じて関連自治体が協働して対応することも重要である。

(補)菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html をご参照ください。


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