発生動向総覧
*2007年4月からの法改正に伴い、疾病の追加および並び順を一部変更しました。
〈第42週コメント〉 10月24日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 223例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢5例〔感染地域:国内(都道府県不明)1例、中国3例、インド/タイ/シンガポール1例〕
腸管出血性大腸菌感染症126例(うち有症者86例、うちHUS 5例、死亡1例)
感染地域:すべて国内
国内の多い感染地域:宮城県(20例)*、千葉県(13例)、大阪府(9例)
*うち17例は仕出し弁当による食中毒に関連した集団発生
年齢群:10歳未満(41例)、10代(14例)、20代(19例)、30代(21例)、40代(7例)、50代(14例)、60代(2例)、70歳以上(8例) 血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(77例)、O157 VT2(20例)、O26 VT1(13例)、O157 VT1(4例)、O55 VT2(1例)、O91 VT1( 1例)、O103 VT1( 1例)、O121 VT2( 1例)、O165VT1・VT2(1例)、その他/不明(7例)
腸チフス1例(感染地域:インド/ネパール) |
4類感染症: |
E型肝炎1例(感染地域:バングラデシュ.感染源:不明)
A型肝炎1例(感染地域:徳島県)
つつが虫病1例(感染地域:鹿児島県)
デング熱1例(感染地域:フィリピン) 日本紅斑熱1例(感染地域:鹿児島県)
マラリア1例(熱帯熱_感染地域:ガーナ)
レジオネラ症11例(すべて肺炎型)
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年齢群:4歳1例、50代3例、60代1例、70代3例、80代3例
感染地域:愛知県3例(うち1例温泉)、岩手県1例、福島県1例、茨城県1例、千葉県1例、岐阜県1例、岡山県1例、広島県1例、国内(都道府県不明)1例
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5類感染症: |
アメーバ赤痢5例(腸管アメーバ症4例、腸管および腸管外アメーバ症1例) |
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感染地域:すべて国内
感染経路:性的接触(同性間)2例、その他1例、不明2例 |
ウイルス性肝炎2例 |
〔ともにB型_感染経路:ともに性的接触(異性間)〕 |
急性脳炎1例(病原体不明.50代)
クロイツフェルト・ヤコブ病1例(孤発性プリオン病古典型)
後天性免疫不全症候群12例(無症候6例、AIDS 3例、その他3例))
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感染地域:国内10例、国内・国外不明2例
感染経路:性的接触9例(異性間4例、同性間5例)、静脈薬物常用2例、不明1例 |
梅毒5例(早期顕症I期1例、早期顕症II期1例、無症候3例)破傷風2例(20代1例、80代1例)バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanA_菌検出検体:血液)
(補)他に第41週までに診断されたものの報告遅れとして、デング熱2例(感染地域:フィリピン1例、ジャマイカ1例)、日本紅斑熱1例(感染地域:鹿児島県)、レプトスピラ症1例(感染地域:沖縄県.感染原因:畑での活動)、急性脳炎5例〔すべて病原体不明(5歳、8歳、10代2例、60代)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例(30代、80代)等の報告があった。 |
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ:定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(4.88)、千葉県(0.29)、神奈川県(0.23)、静岡県(0.19)、岡山県(0.19)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は527例と増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約70%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では高知県(0.63)、長崎県(0.55)、佐賀県(0.48)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では山形県(2.6)、鳥取県(2.5)、北海道(2.0)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では宮崎県(12.5)、大分県(8.0)、鳥取県(7.0)、島根県(6.5)が多い。水痘の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では青森県(1.31)、大分県(1.06)、長野県(1.02)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第37週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(3.1)、宮城県(2.2)、島根県(1.9)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(0.56)、宮城県(0.55)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では千葉県(0.10)、福岡県(0.10)、新潟県(0.07)、滋賀県(0.06)が多い。風しんの報告数は1例と減少した。都道府県は静岡県であった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第31週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では岩手県(1.03)、香川県(0.76)、北海道(0.71)が多い。麻しんの報告数は横ばいであり、6都道府県から20例の報告があった。都道府県別では福岡県14例、大阪府2例、北海道、東京都、新潟県、愛媛県から各1例の順であった。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では高知県(0.97)、新潟県(0.92)、群馬県(0.88)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では福島県(2.4)、沖縄県(1.6)、宮城県(1.3)が多い。成人麻しんの報告数は増加し、6都府県から8例の報告があった。都道府県別では、栃木県、神奈川県から各2例、宮城県、東京都、大阪府、長崎県から各1例の順であった。
〈9月コメント〉
◆性感染症について 2007年10月11日集計分 性感染症定点数:965
(産婦人科・産科・婦人科:463、泌尿器科:396、皮膚科92、性病科14)
●月別推移
2007年9月の月別定点当たり患者報告数は、性器クラミジア感染症が2.66(男1.17、女1.49)、性器ヘルペスウイルス感染症が0.72(男0.28、女0.43)、尖圭コンジローマが0.50(男0.28、女0.22)、淋菌感染症が0.96(男0.80、女0.17)であった。男性では性器クラミジア感染症、次いで淋菌感染症が多く、女性では性器クラミジア感染症、次いで性器ヘルペスウイルス感染症が多かった(図1)
前月に比べると、性器クラミジア感染症は男性で増加、女性で減少し、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症は男女ともに減少した(29〜32ページ「グラフ総覧」参照)。男女別に過去5年間の同時期と比較すると、性器クラミジア感染症は男女ともにやや少なく、性器ヘルペスウイルス感染症は男女ともにかなり少なく、尖圭コンジローマは男性でやや少なく、女性ではかなり少なく、淋菌感染症は男女ともにやや少なかった(図2)。
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図1. 各性感染症が総報告数に占める割合(9月) |
●男女別・年齢階級別
年齢群(0歳、1〜4歳、5〜69歳は5歳毎、および70歳以上)でみた定点当たり報告数のピークは、男性では性器クラミジア感染症では25〜29歳、性器ヘルペスウイルス感染症では25〜29歳および30〜34歳、尖圭コンジローマでは20〜24歳、25〜29歳、および30〜34歳、淋菌感染症では20〜24歳であるのに対し、女性では性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症で20〜24歳、性器ヘルペスウイルス感染症では20〜24歳および25〜29歳であり、女性の罹患年齢が男性に比べてやや若い傾向が認められた(図3:PDF参照)。また、性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症の3疾患は、男性では60代以降、女性では50代以降の報告はないか、あっても僅かである。しかし、性器ヘルペスウイルス感染症は男女ともに、50代以降の報告も少なくない。この年齢層は再発例が含まれている可能性が以前から指摘されており、2006年4月の届出基準改正により、抗体のみ陽性のものの除外に加えて「明らかな再発例は除外する」ことが明示された。しかし、報告数や年齢階級別分布において明らかな変化は見られておらず、この基準変更の周知徹底が必要と考える。
年齢群毎にみた男女の比較では、淋菌感染症では全ての年齢群において男性が女性よりも定点当たり報告数が多いが、性器クラミジア感染症では15〜29歳の3つの年齢群、性器ヘルペスウイルス感染症では15〜39歳および70歳以上の6つの年齢群、尖圭コンジローマでは15〜24歳の2つの年齢群において、女性が男性よりも多かった。ただし、性感染症定点は泌尿器科系、婦人科系および皮膚科系などの診療科から構成されており、男女の比較についてはそれらの比率の影響を受ける可能性がある。
●若年齢層での推移
感染症法が施行された1999年4月以降について、若年齢層(15〜29歳)における各疾患の定点当たり報告数を男女別・月別に図4(PDF参照)に示した。性器クラミジア感染症と淋菌感染症は男女ともに2003年以降減少傾向がみられる。性器ヘルペスウイルス感染症と尖圭コンジローマは男性では横ばいであり、女性では2005年半ば頃から微かながら減少傾向がみられる。前月との比較では、男性で性器クラミジア感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症は減少し、性器ヘルペスウイルス感染症は同値であった。女性では4疾患ともに減少した。
◆薬剤耐性菌について (10月11日集計分)
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基幹定点数(9月):464.
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●月別
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症
4.19(前月:4.87、前年同月:4.01) 定点当たり報告数は、例年年間を通じてほぼ一定である。9月は前月より減少したが、過去8年間の同月との比較では最も高かった。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症
0.50(前月:0.58、前年同月:0.49) 定点当たり報告数は、例年春から初夏にかけて(4〜6月)と冬(11、12月)に多く、夏(7〜9月)に少なく推移している。9月は前月より減少し、過去8年間の同月との比較では中位に属した。
薬剤耐性緑膿菌感染症
0.11(前月:0.14、前年同月:0.16) 定点当たり報告数は、例年後半が前半に比して多い傾向がある。9月は前月より減少し、過去8年間の同月との比較では最も低かった。。 |
●年齢階級別
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MRSA感染症
高齢者に多く、70歳以上が全体の62%を占めている(図1:PDF参照)。
PRSP感染症
小児と高齢者に多い。5歳未満が全体の52%を占める一方、70歳以上が全体の21%を占めている(図2:PDF参照)。
薬剤耐性緑膿菌感染症
高齢者に多く、70歳以上が全体の63%を占めている(図3:PDF参照)。
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●性別:女性を1 として算出した男/女比
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MRSA感染症…男:女=1.8:1
PRSP感染症…男:女=1.6:1
薬剤耐性緑膿菌感染症…男:女=2.4:1
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●都道府県別
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MRSA感染症
定点当たり報告数は栃木県(8.6)、福島県(8.3)、山口県(7.0)が多い。
PRSP感染症
定点当たり報告数は千葉県(2.2)、大分県(1.6)、沖縄県(1.6)が多い。
薬剤耐性緑膿菌感染症
報告総数が51件にとどまるため、都道府県別定点当たり報告数の評価は困難である。
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注目すべき感染症
◆ 百日咳
百日咳は、好気性のグラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)の感染を原因とする急性の呼吸器感染症である。特有のけいれん性の咳発作(痙咳発作)を特徴としており、母親からの移行抗体が有効に働かないために乳児期早期から罹患する可能性があり、ことに生後6カ月以下では死に至る危険性がある疾患である。通常は感染後7〜10日間の潜伏期間を経て発症するが、臨床経過は(1)カタル期、(2)痙咳期、(3)回復期の3つに分けられている。最近では成人例の報告数の増加や大学等の青年層・成人層における集団発生例がみられるようになってきている。成人の発生例は咳が長期にわたって持続するものの、乳幼児にみられるような重篤な痙咳性の咳嗽を示すことは稀であり、症状が典型的ではないために診断が見逃されやすい。そのために感染源となって周囲へ感染を拡大してしまうこともあり、注意が必要である。百日咳の治療薬としての抗生物質はマクロライド系抗菌薬が第一選択であるが、セフェム系が処方されることもある。早期に抗生物質を処方すれば、症状の軽減と菌排出期間(無治療の場合は3週間前後)の短縮が期待できる。主な感染経路は発症患者の鼻咽頭や気道分泌物による飛沫感染と接触感染である。
感染症発生動向調査によると、2007年の百日咳の各週の定点当たり報告数は、2001年以降の当該週と比較して、多くの週で最高値となっている。2007年第42週の発生報告数は92例(定点当たり報告数0.03)であり、2001年以降では最高値となった(図1)。都道府県別では千葉県13例、福岡県12例、大阪府9例、埼玉県、東京都、愛知県から各8例の順であり、大都市圏からの報告数が多い(図2)。また、第1〜42週までの累積報告数は2,112例(定点当たり累積報告数0.70)であり、2000年以降の同時期までの累積報告数と比較しても、2000年の3,415例に次ぐ値となっている(図3)。2007年第42週までの累積報告数を都道府県別にみると、千葉県314例、大阪府199例、福岡県159例、栃木県132例、神奈川県127例、兵庫県109例、愛知県102例、東京都101例の順となっており、特に関東地域を中心とした大都市圏からの報告が目立つ(図4)。2000〜2007年まで(2007年は第42週まで)の年間の累積報告数の年齢別割合をみると、0歳児、1歳児を中心とした乳幼児からの報告割合は年々低下がみられている一方で、小児科定点からの報告ではあるものの、20歳以上の報告割合は年々増加しており、2007年では30.5%となっている(図5、図6)。
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図1. 百日咳の年別・週別発生状況(1997年〜2007年第42週)
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図2. 百日咳の都道府県別報告状況(2007年第42週)
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図3. 百日咳の第1〜42週までの累積報告数の年別推移(2000年〜2007年)
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図4. 百日咳の都道府県別累積報告状況(2007年第1〜42週)
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図5. 百日咳の報告症例の年別・年齢群別割合(2000年〜2007年第42週)
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図6. 百日咳の報告症例の年齢群別割合(2007年第1〜42週)
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乳幼児に対するDPTワクチンの普及により、かつては0歳児を中心に多数の発病者及び死亡者がみられていた百日咳の患者発生数は近年大きく減少した。しかしながら2007年の百日咳の小児科定点からの患者発生報告は、2000年以降では2000年に次ぐ報告数となっている。また小児科定点からの報告ではあるものの、成人例の報告割合は年々増加し、2007年の百日咳の小児科定点からの患者発生報告では、20歳以上の報告数の占める割合は30%を超えた。今後とも百日咳の発生動向の推移は注意深く観察していく必要があるが、正確な患者発生状況の把握のためには、全年齢層を対象としたサーベイランスが必要であると思われる。
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