発生動向総覧
※2008年1月からの省令改正に伴い、疾病の追加および並び順を一部変更しました。
〈第8週コメント〉 2月27日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 279例 |
3類感染症: |
細菌性赤痢2例(感染地域:インドネシア2例)
腸管出血性大腸菌感染症12例(有症者9例)
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感染地域:宮城県2例、東京都2例、福岡県2例、茨城県1例、三重県1例、兵庫県1例、島根県1例、国内(都道府県不明)1例、タイ1例
年齢群:10代(3例)、20代(5例)、30代(1例)、40代(2例)、70代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(3例)、O157 VT2(3例)、O26 VT1・VT2(1例)、O91 VT1(1例)、O121 VT2(1例)、その他・不明(3例) |
腸チフス2例(感染地域:ネパール2例)
パラチフス1例(感染地域:フィリピン)
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4類感染症: |
つつが虫病1例(感染地域:愛知県) デング熱2例(感染地域:インドネシア2例)
マラリア1例(熱帯熱_感染地域:ナイジェリア)
レジオネラ症12例(肺炎型11例、無症状病原体保有者1例)
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感染地域:東京都2例、愛知県2例、神奈川県1例(温泉)、新潟県
1例、長野県1例、岐阜県1例、兵庫県1例、国内(都道
府県不明)3例
年齢群:50代(3例)、60代(5例)、80代(4例)
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5類感染症: |
アメーバ赤痢11例(腸管アメーバ症6例、腸管外アメーバ症4例、 腸管及び腸管外アメーバ症1例) |
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感染地域:大阪府2例、群馬県1例、千葉県1例、神奈川県1例、三 重県1例、京都府1例、国内(都道府県不明)2例、台湾 1例、韓国1例
感染経路:経口感染3例、性的接触2例(同性間1例、異性間・同性 間不明1例)、不明6例 |
ウイルス性肝炎4例 |
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B型肝炎4例_感染経路:性的接触4例(異性間2例、同性間1例、
異性間・同性間不明1例) |
急性脳炎3例 |
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A型インフルエンザウイルス1例_年齢群:30代
病原体不明2例_年齢群:4歳(1例)、10代(1例) |
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(孤発性プリオン病古典型2例) 劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(年齢群:40代)
後天性免疫不全症候群18例(AIDS 6例、無症候12例)
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感染地域:国内16例、タイ1例、カンボジア1例
感染経路:性的接触16例(異性間6例、同性間8例、異性/同性間1
例、異性間・同性間不明1例)、不明2例 |
ジアルジア症1例(感染地域:インド)
髄膜炎菌性髄膜炎1例(感染地域:大阪府 年齢群:20代)
梅毒13例(早期顕症I期5例、早期顕症II期3例、無症候5例)
破傷風2例〔年齢群:50代(1例)、70代(1例)〕
風しん4例(検査診断例2例、臨床診断例2例)
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感染地域:栃木県1例、神奈川県1例、長野県1例、国内(都道府県
不明)1例
年齢群:5歳(1例)、6歳(1例)、35〜39歳(1例)、40代(1例) |
麻しん370例〔麻しん(検査診断例83例、臨床診断例259例)、修飾麻しん(検査診断例28
例)〕
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感染地域:国内369例、国外(国不明)1例
国内の多い感染地域:神奈川県107例、福岡県49例、東京都46
例、千葉県26例、北海道23例、埼玉県16
例、大阪府11例
年齢群:0歳(18例)、1歳(24例)、2歳(3例)、3歳(2例)、4歳(3例)、
5〜9歳(23例)、10〜14歳(58例)、15〜19歳(105例)、20
〜24歳(55例)、25〜29歳(28例)、30〜34歳(25例)、35〜
39歳(15例)、40代(10例)、70代(1例)
累積報告数:2,638例〔麻しん(検査診断例686例、臨床診断例1,785
例)、修飾麻しん(検査診断例167例) |
(補)他に、2008年第7週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢2例(感染地域:茨
城県1例、インドネシア1例)、腸チフス1例(感染地域:インド)、エキノコックス症1例(多包条虫
_感染地域:北海道)、レジオネラ症2例〔感染地域:兵庫県(温泉)1例、愛媛県(温泉)1例〕、
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(60代.死亡)、風しん2例〔検査診断例2例.感染地域:
北海道1例、広島県1例.年齢群:10〜14歳(1例)、50代(1例)〕などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は3週連続で減少した。都道府県別では宮崎県(26.8)、大分県(25.4)、佐賀県
(24.3)、熊本県(24.0)、長崎県(21.4)、福岡県(20.2)、鹿児島県(18.9)、福井県(14.6)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症はは766例の報告があり、報告数は第5週よ
り減少が続いている。年齢別では1 歳以下の報告数が全体の約76%を占めている。 咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増
加した。都道府県別では山口県(0.76)、三重県(0.64)、 福島県(0.48)が多い。 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の
定点当たり報告数は増加した。都道府県別では山形県(4.5)、 北海道(4.5)、石川県(4.5)が多い。 感染性胃腸炎の定
点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較 してやや多い。都道府県別では宮崎県(21.4)、埼玉
県(14.7)、愛媛県(14.4)、島根県(14.3)が 多い。 水痘の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県
(4.2)、宮崎県(3.8)、長崎県(3.1) が多い。 手足口病の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では鳥取県
(1.47)、愛媛県(0.92)、鹿 児島県(0.65)が多い。 伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟
県(0.92)、大分県(0.61)、 岩手県(0.54)が多い。 百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較
してかなり多い。都道府県別 では徳島県(0.13)、千葉県(0.10)、北海道(0.06)、福島県(0.06)、栃木県(0.06)、岡山県
(0.06) が多い。 ヘルパンギーナの定点当たり報告数は増加した。都道府県別では熊本県(0.19)、福岡県(0.14)、 栃
木県(0.11)が多い。 流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では秋田県(1.91)、 高知県
(1.27)、宮崎県(0.83)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少したが
、過去5年間の同時期と比較
してやや多い。都道府県別では沖縄県(4.4)、富山県(2.2)、宮城県(1.6)、福島県(1.6)が多い。
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◆ 麻しん
麻しんは「はしか」とも呼ばれているが、麻しんウイルス(Paramyxovirus科Morbillivirus属)によ って引き起こされる感染症で、39℃前後の高熱と耳介後部から始まって体の下方へと広がる赤 い発疹を特徴とする全身性疾患である。感染経路には接触感染、飛沫感染、空気感染(飛沫核 感染)があり、その感染力はきわめて強い。1名の麻しん患者から12〜18名が感染するといわれ ており、感染者が麻しんに対する免疫を保有していない場合はその殆どが発症する。麻しんは 未だに重篤な疾患であり、罹患者が入院を要することも少なくない。また、多く見られる合併症と して肺炎、中耳炎、腸炎等があるが、まれに重篤な合併症として脳炎を発症することがあり、さら によりまれな合併症として亜急性硬化性全脳炎という特殊な脳炎がある。麻しんには特異的な 治療法はなく、唯一の有効な医学的対抗手段は発症の予防にワクチンを接種することである。
2008年の1月1日から開始された麻しんの全数把握調査によると、第8週(2月18〜24日診断のも の)の麻しん患者発生報告数は2月27日現在で25都道府県から370例あり、都道府県別では神奈 川県117例、福岡県52例、東京都51例、千葉県25例、北海道23例、埼玉県22例の順となってい る(図1、図2)。なお報告数は、今後報告遅れのものを含めて更に増加する可能性がある。
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図1. 麻しん報告数の週別推移(2008年第1〜8週) |
図2. 麻しんの都道府県別報告状況(2008年第8週) |
第1週から第8週までの累積報告数は42都道府県から2,638例であり、都道府県別では神奈川 県990例、福岡県334例、北海道263例、東京都263例、秋田県142例、埼玉県92例、千葉県92例、 大阪府72例、大分県61例、熊本県46例の順となっている(図3)。神奈川県を中心とした南関東 地域、福岡県を中心とした九州地域、北海道等の複数の地域において、麻しんの流行がみられ ている。神奈川県では横浜市および横須賀市から、福岡県では北九州市から、さらには北海道 では札幌市からの報告数が70%以上を占めており、これらの市が各道県の流行の中心であると 推定される。病型別累積報告数は、臨床診断例1,785例(67.7%)、検査診断例686例(26.0%)、 修飾麻しん(検査診断例)167例(6.3%)となっており、臨床診断例が最も多くを占めている(図4)。
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図3. 麻しんの都道府県別累積報告状況(2008年第1〜8週) |
図4. 麻しん塁積報告数の病型別割合(2008年第1〜8週) |
年齢群別では15〜19歳667例(25.3%)、10〜14歳560例(21.2%)、20〜24歳339例(12.9%)、0 〜4歳332例(12.6%)、25〜29歳260例(9.9%)、5〜9歳215例(8.2%)の順となっている。10〜20 代からの報告割合が70%近くを占めており、中でも10代後半および20代前半からの報告割合が 増加している(図5)。各年齢別の報告数では、14歳168例、15歳165例、16歳165例、13歳149例、 17歳132例の順であり、13〜17歳の年齢を中心に麻しんの発生がみられている(図6)。麻しん含 有ワクチンの接種歴別の報告数は、全体では、接種歴なし1,309例(49.6%)、1回接種569例 (21.6%)、2回接種23例(0.9%)、接種歴不明737例(27.9%)となっており、接種歴なしが約半数を 占めている状態が続いている(図7)。年齢別にみると、10代までは麻しん報告例中の多数がワク チン接種歴なしであるが、20代以降では接種歴不明者の方が多い(図6)。
麻しんの主な合併症に関しては、2008年第1週以降、肺炎が60例、脳炎が3例報告されている。 肺炎の合併例は1歳児(17例、28.3%)、0歳児(12例、20.0%)からの報告数が多く、4歳以下で33 例(55.0%)と全体の半数以上を占めている(図8)。一方、脳炎の合併例はすべて10代以降の年 齢からの報告であり(第4週;10代の女性、20代の男性、第5週;30代の男性)、いずれも麻しん 含有ワクチンの接種歴はなかった。
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図5. 麻しん累積報告数の年齢群別割合(2008年第1〜8週) |
図6. 麻しん累積報告数のワクチン接種歴別年齢別分布(2008年第1〜8週) |
図7. 麻しん累積報告数のワクチン接種歴別割合(2008年第1〜8週) |
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図8. 肺炎合併麻しん累積報告数の年齢群別割合(2008年第1〜8週) |
2008年第1週以降の麻しんの報告状況をみると、神奈川県からの麻しん累積報告数(990例、 全国の累積報告数2,638例の37.5%)が突出した状態が続いている。この神奈川県を中心とした 南関東地域以外にも、現在複数の地域において麻しんの流行がみられている。昨年の麻しんの 流行は、10代、20代が患者発生の中心であったが、それは2008年に入っても同様である。これ らの世代が3月以降、卒業式、終業式、入学式、始業式等で一同に会する機会が増加する。ま た4月以降には、現在の18歳以上の者が大学や専門学校等で集団生活を再開もしくは新たに開 始することとなり、昨年と同様にこれらの年齢者間において麻しんの集団発生が頻発してくる可能 性が危惧される。加えて過去の定点把握による発生動向調査からも、麻しんの流行は春季から 夏季にかけて大きくなることが明らかである。以上より、現状のままでは、麻しんの流行は今後更 に大きくなる可能性が高い。特に春季休暇以降には、現在の流行地域での流行の拡大に加え て、他の地域においても新たに麻しんの流行が発生してくることが予想される。今後とも麻しんの発生動向には注意深い観察を続けていく必要がある。
麻しんの流行抑制のための有効な対策としては、感受性者に麻しんのワクチンを接種して免 疫を保有する者の割合を高めることが重要である。特に麻しんの流行地域やその周辺において は、現在の流行の中心である10代、20代が集団生活を送る中学、高校、大学、専門学校等での 麻しん対策が急務である。これは麻しん患者が来院もしくは入院する可能性の高い全国の医療 機関においても同様である。
日本を含むWHO西太平洋地域では、2012年が麻しん排除(elimination)の目標年として設定 され、国際的な責務として各国に対策が求められている。我が国における麻しん対策の柱として、 (1)麻しん含有ワクチンの接種によって、麻しんに対する免疫を保有する者の割合を大きく増加さ せる、いわゆる感受性者対策、(2)全数把握制度による麻しんサーベイランス、(3)麻しん発生時 の迅速な対応、の3つがあげられる。(1)については、その一環として2月27日に「予防接種法施行 令の一部を改正する政令(政令第三十五号)」が公布、施行され、従来の第1期(1歳代)、第2期 (小学校入学前1年間)の定期接種に加えて、5年間の期限付き措置として、新たに第3期(中学校 1年生相当年齢)、第4期(高校3年生相当年齢)の定期予防接種が2008年4月1日から開始される こととなった。(2)は既に2008年1月1日より実施されており、今後(3)の円滑な実施と徹底が図られ るべきである。これらの対策が円滑に実施されるためには、関係各機関の連携が必要であり、 麻しん排除の目標達成のためには統一した意思をもってそれぞれの対策を確実に実行していくこ とが重要である。
以下に、麻しん関連情報として感染症情報センターのホームページに掲載されている主な項目とそのURLを挙げる。
麻しん対策として活用いただければ幸いである。
■麻疹(はしか):http://idsc.nih.go.jp/disea
se/measles/index.html
□緊急情報「2012年麻疹排除(Elimination)に向けて」
●「麻しん」の届出基準・届出様式、「風しん」の届出基準・届出様式、ポスター
●2008年4月1日以降の予防接種スケジュール
●2008〜2012年度麻疹・風疹の定期予防接種対象者
□対策・ガイドラインなど
●麻疹の現状と今後の麻疹対策について
●都道府県における麻しん対策会議のガイドライン(案)
●麻しん排除に向けた積極的疫学調査ガイドライン第二版
●医師による麻しん届出ガイドライン第二版
●医療機関での麻疹対応ガイドライン第二版 ●保育所・幼稚園・学校等における麻しん対応ガイドライン第二版
●「麻しん対策ブロック会議」関連資料等
□国内情報
●注目すべき感染症/速報
●麻しん発生状況(速報グラフ)
●病原微生物検出情報[IASR](麻疹特集・速報、ウイルス分離・検出状況他)
●平成19年度定期の予防接種(麻しん風しん第2期)の実施状況の調査結果について(第1 報)
●わが国の健常人における麻疹PA抗体保有率 □関連情報
●予防接種法施行令の一部を改正する政令の一部を改正する政令及び予防接種法施行 規則及び予防接種実施規則の一部を改正する省令
●麻しんに関する特定感染症予防指針
●予防接種法施行令の一部を改正する政令 〜定期予防接種対象者に関する改正〜
■Q&A:http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/QA.html
■予防接種の話「麻疹」:
http://idsc.nih.go.jp/vaccine/b-measles.html
■年齢別麻疹、風疹、MMRワクチ
ン接種率:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/
atopics/atpcs001.html
■感染症の話「麻疹」:http://idsc.ni
h.go.jp/idwr/kansen/k03/k03_03/k03_03.html
■麻疹発生DB(データベース):
http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/meas-db.html
■「麻疹・風疹ワクチンなぜ2回接種なの
?」ポスター:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn01.html
■「麻疹風疹混合ワクチンを1歳のお誕生日のプレ
ゼントにしましょう」ポスター:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn04.html
■「小学校入学準備に2回目の麻疹・風疹ワクチンを!」ポスタ
ー:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn07.html
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