国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第9号ダイジェスト
(2008年2月25日〜3月2日)

 発生動向総覧


※2008年1月からの省令改正に伴い、疾病の追加および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第9週コメント〉 3月5日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核302例
3類感染症: コレラ1例(感染地域:インドネシア)
細菌性赤痢4例〔感染地域:東京都1例、国内(都道府県不明)1例、インドネシア1例、カンボジア1例〕
腸管出血性大腸菌感染症7例(有症者4例)
感染地域:広島県2例、福岡県2例、富山県1例、京都府1例、大阪府1例
年齢群:20代(2例)、30代(2例)、50代(2例)、80代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(3例)、O91 VT1(2例)、O74VT1・VT2(1例)、O157 VT2(1例)
パラチフス2例(感染地域:インドネシア1例、カンボジア1例)
4類感染症: E型肝炎1例(感染地域(感染源):青森県(豚ホルモン、馬刺し)/グアム(すし)
野兎病1例
感染地域:千葉県
感染経路:野兎の調理
ライム病1例(感染地域:茨城県)
レジオネラ症7例(肺炎型7例)
感染地域:埼玉県2例、青森県1例、岩手県1例(温泉)、群馬県1例、三重県1例(温泉)、広島県1例
年齢群:30代(2例)、50代(2例)、60代(1例)、70代(2例)
5類感染症:
アメーバ赤痢12例(腸管アメーバ症10例、腸管外アメーバ症1例、腸管及び腸管外アメーバ症1例)

感染地域:埼玉県2例、大阪府2例、青森県1例、千葉県1例、兵庫県1例、国内(都道府県不明)1例、インド2例、タイ1例、インドネシア1例
感染経路:経口感染4例、性的接触5例(異性間2例、同性間1例、異性間・同性間不明2例)、不明3例
急性脳炎3例
B型インフルエンザウイルス1例_年齢群:1歳
ロタウイルス1例_年齢群:3歳
病原体不明1例_年齢群:70代
クロイツフェルト・ヤコブ病3例(孤発性プリオン病古典型3例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔年齢群:70代(2例.ともに死亡)〕
後天性免疫不全症候群19例(AIDS 2例、その他1例、無症候16例)
感染地域:国内16例、ミャンマー1例、アメリカ1例、国外(国不明)1例
感染経路:性的接触18例(異性間3例、同性間15例)、不明1例
ジアルジア症3例〔感染地域:福井県1例、国内(都道府県不明)1例、インド1例〕
髄膜炎菌性髄膜炎1例
感染地域:鹿児島県
年齢群:10代
梅毒18例(早期顕症I期3例、早期顕症II期7例、先天梅毒1例、無症候7例)
破傷風2例〔年齢群:60代(1例)、80代(1例)〕
風しん6例(検査診断例5例、臨床診断例1例)
感染地域:東京都2例、北海道1例、神奈川県1例、岐阜県1例、兵庫県1例
年齢群:1歳(1例)、10〜14歳(1例)、25〜29歳(1例)、35〜39歳(1例)、40代(1例)、50代(1例)
麻しんん431例〔麻しん(検査診断例85例、臨床診断例315例)、修飾麻しん(検査診断例31例)〕
感染地域:国内431例
国内の多い感染地域:神奈川県151例、東京都69例、福岡県38例、千葉県27例、北海道20例、埼玉県17例
年齢群:0歳(18例)、1歳(19例)、2歳(7例)、3歳(3例)、4歳(12例)、5〜9歳(26例)、10〜14歳(68例)、15〜19歳(106例)、20〜24歳(69例)、25〜29歳(59例)、30〜34歳(26例)、35〜39歳(10例)、40代(6例)、50代(2例)
累積報告数:3,179例〔麻しん(検査診断例848例、臨床診断例2,116例)、修飾麻しん(検査診断例215例)

(補)2008年第8週までに診断されたものの報告遅れとして、急性灰白髄炎1例(ワクチン由来株、0歳)、E型肝炎3例〔感染地域(感染源):北海道1例(鹿肉、熊肉)、新潟県1例(不明)、静岡県1例(鹿肉)〕、デング熱1例(感染地域:インドネシア)、急性脳炎4例〔A型インフルエンザウイルス1例(14歳)、病原体不明3例(0歳、9歳、60代)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症3例〔60代(1例)、70代(1例)、80代(1例)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanC_菌検出検体:腹水)、風しん1例(検査診断例.感染地域:大阪府.年齢群:15〜19歳)などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患によ り小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基 幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は第6週以降減少が続いている。都道府県別では大分県(24.1)、宮崎県 (22.4)、長崎県(20.5)、福岡県(19.8)、佐賀県(19.4)、熊本県(18.2)、鹿児島県(13.5)、長野県 (12.3)が多い。。

小児科定点報告疾患: RSウイルス感染症は724例の報告があり、報告数は第5週以降減少が続いている。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約76%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は微減した。都道府県別では山口県(0.61)、佐賀県(0.61)、青森県(0.60)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では石川県(5.4)、北海道(4.8)、鳥取県(4.5)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では宮崎県(22.8)、千葉県(16.1)、埼玉県(15.9)、岡山県(15.9)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では沖縄県(4.2)、鳥取県(3.3)、宮崎県(2.9)が多い。手足口病の定点当たり報告数は微減した。都道府県別では鹿児島県(0.95)、宮崎県(0.83)、鳥取県(0.74)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では新潟県(0.79)、山形県(0.57)、大分県(0.50)が多い。百日咳の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では福井県(0.23)、徳島県(0.17)、千葉県(0.12)、沖縄県(0.09)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では大分県(0.19)、栃木県(0.17)、鳥取県(0.16)が多い。 流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では秋田県(1.83)、高知県(0.97)、佐賀県(0.87)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎 の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では沖縄県(3.0)、富山県(2.8)、群馬県(1.9)、福島県(1.9)が多い。



 注目すべき感染症

◆ インフルエンザ

 インフルエンザ(Influenza)は、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症である。1〜3日間の潜伏期間を経て、突然に発熱(38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻水・咳などの呼吸器症状がこれに続く。通常は1週間前後の経過で軽快するが、いわゆる「かぜ」と比べて全身症状が強いのが特徴である。北半球の温帯地域のインフルエンザの流行は例年冬季が中心である。わが国のインフルエンザの発生も例年11月下旬から12月上旬頃に始まり、翌年の1〜3月頃に患者数が増加し、4〜5月にかけて減少していくパターンを示すが、流行の程度とピークの時期はその年によって異なる。また、最近では沖縄県を中心とした夏季のインフルエンザの流行もみられるようになってきている。
 感染症発生動向調査によると、2008年第9週のインフルエンザ定点当たり報告数は7.19(報告数34,204)であり、第6週以降減少が続いている(図1)。都道府県別では大分県(24.1)、宮崎県 (22.4)、長崎県(20.5)、福岡県(19.8)、佐賀県(19.4)、熊本県(18.2)、鹿児島県(13.5)、長野県(12.3)、山口県(11.3)の順であり、特に九州地域の県からの報告数が多い(図2)。シーズン開始の2007年第36週から2008年第9週までの定点当たり累積報告数は121.5(累積報告数579,543)であり、都道府県別でみると宮崎県(190.2)、大分県(189.4)、熊本県(185.1)、三重県(182.0)、高知県(172.3)、静岡県(168.1)、福井県(168.0)、岩手県(166.6)の順となっており、九州および中部地域に報告数の多い県が目立つ(図3)。累積報告数の年齢群別割合をみると、5〜9歳38.4%、0〜4歳24.7%、10〜14歳13.3%、30〜39歳8.0%の順となっている(図4)。2007年第36週以降のインフルエンザウイルスの分離報告数は全国47都道府県から2,657件で、内訳はAH1亜型2,435件(91.6%)、AH3亜型142件(5.3%)、B型80件(3.0%)となっており、報告の大半がAH1亜型である状態が継続している(図5)

図1. インフルエンザの年別・週別発生状況(1998年〜2008年第9週)

図2. インフルエンザの都道府県別報告状況(2008年第9週)

図3. 2007/08シーズンのインフルエンザの都道府県別累積報告状況(2007年第36週〜2008年第9週)

図4. 2007/08シーズンのインフルエンザ累積報告数の年齢群別割合(2007年第36週〜2008年第9週)

図5. インフルエンザウイルス型別分離・検出割合報告(2007年第36週〜2008年第9週)

 インフルエンザ脳症は急性脳炎の発生動向調査の一環として報告がなされているが、2007年第36週以降これまでに16都道府県から28例(男性15例、女性13例)の報告があり、診断週別にみると、第4週および第5週の報告数が4例と多かった(図6)。また、年齢別では1歳が5例と最も多く、8歳以下で21例と全体の75%を占めていた。都道府県別では大阪府5例、岡山県3例、福島県、栃木県、東京都、愛知県、福岡県、鹿児島県から各2例の順であった(表)。都道府県別では大阪府や岡山県からの報告数が多いが、これは必ずしも今シーズンのインフルエンザの流行状況を反映したものとは言い難く、まだ全ての発生例が急性脳炎例として報告されていない可能性を考慮すべきである。ウイルス型別では、A型22例(78.6%)、B型1例(3.6%)、型別不明5例(17.9%)となっており、今シーズンのインフルエンザの流行状況を反映して、大半がA型ウイルス由来であった(図7)。なお、28例中4例の死亡報告がみられているが、全ての死亡例が反映されていない可能性がある。

図6. 2007/08シーズンのインフルエンザ脳症報告数および、インフルエンザ定点当たり報告数の週別推移(2007年第36週〜2008年第9週) 表. 2007/08シーズンのインフルエンザ脳症報告例一覧 図7. 2007/08シーズンのインフルエンザ脳症報告ウイルス型別割合

 今シーズンのインフルエンザの全国的な流行は2007年第47週からと、1987年の感染症発生動向調査開始以降では最も早く始まり、冬期休暇中に一旦報告数が減少した後の2008年第5週に流行のピークを迎えたが、第5週の定点当たり報告数(17.62)は過去10シーズンの最多報告数と比較しても2000/01年シーズンに次いで低い値であった。現状のままでは今シーズンの流行規模は例年よりも小規模となる可能性が高い。しかし、現在まだ九州地域を中心にインフルエンザの流行がみられており、今しばらくはインフルエンザの発生動向には注意が必要である。



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