発生動向総覧
※2008年1月からの省令改正に伴い、疾病の追加および並び順を一部変更しました。
〈第13週コメント〉 4月3日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 258例 |
3類感染症: |
コレラ1例(感染地域:長野県)
細菌性赤痢4例(感染地域:千葉県1例、福岡県1例、インドネシア1例、ラオス/タイ/カンボジア1例)
腸管出血性大腸菌感染症14例(有症者8例、HUSなし)
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感染地域:大分県3例*、島根県2例、東京都1例、新潟県1例、愛知県1例、大阪府1例、福岡県1例、佐賀県1例**、兵庫県/米国1例、モンゴル1例、米国1例
*第11週の1例、第12週の6例とともに保育園関連の集団感染、
**第11週の63例、第12週の8例とともに、同一修学旅行関連の集団感染
年齢群:1歳(1例)、3歳(1例)、6歳(1例)、8歳(1例)、10代(2例)、20代(2例)、30代(1例)、50代(3例)、60代(1例)、70代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(5例)、O157 VT2(4例)、O26 VT1(2例)、O126 VT1(1例)、O128 VT1・VT2(1例)、不明(1例)
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腸チフス2例(感染地域:インド2例) |
4類感染症: |
E型肝炎1例
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感染地域:国内(都道府県不明)
感染源:不明 |
A型肝炎2例(感染地域:兵庫県2例)
デング熱1例(感染地域:トンガ)
マラリア1例(三日熱_感染地域:イラン)
レジオネラ症6例(肺炎型6例)
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感染地域:兵庫県2例、岩手県/宮城県1例(温泉)、大阪府1例、国内(都道府県不明)1例、ロシア1例
年齢群:50代(3例)、60代(1例)、80代(2例) |
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5類感染症: |
アメーバ赤痢10例(腸管アメーバ症6例、腸管外アメーバ症2例、腸管及び腸管外アメーバ症2例) |
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感染地域:北海道2例、東京都2例、千葉県1例、愛知県1例、大阪府1例、山口県1例、国内(都道府県不明)1例、インドネシア1例
感染経路:経口感染1例、性的接触2例(同性間2例)、不明7例 |
急性脳炎1例(病原体不明_年齢群:2歳)
クロイツフェルト・ヤコブ病3例(孤発性プリオン病古典型2例、遺伝性プリオン病家族性1例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔年齢群:30代(1例)、50代(1例)〕
後天性免疫不全症候群13例(無症候9例、その他1例、AIDS 3例)
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感染地域:国内8例、韓国1例、タイ1例、国内・国外不明3例
感染経路:性的接触9例(異性間3例、同性間5例、異性/同性間1例)、静注薬物使用1例、不明3例 |
ジアルジア症2例(感染地域:千葉県1例、パキスタン1例)
髄膜炎菌性髄膜炎1例 |
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感染地域:北海道
年齢群:6歳 |
梅毒7例(早期顕症I期2例、晩期顕症2例、無症候3例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanC_菌検出検体:血液)
風しん4例(検査診断例3例、臨床診断例1例)
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感染地域:東京都1例、神奈川県1例、岡山県1例、大分県1例 年齢群:4歳(1例)、25〜29歳(1例)、50代(1例)、60代(1例) |
麻しん333例〔麻しん(検査診断例78例、臨床診断例236例)、修飾麻しん(検査診断例19例)〕
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感染地域:国内333例 国内の多い感染地域:神奈川県115例、北海道32例、広島県29例、東京都25例、福岡県19例、埼玉県12例、愛知県11例 年齢群:0歳(24例)、1歳(15例)、2歳(3例)、3歳(2例)、4歳(3例)、5〜9歳(24例)、10〜14歳(55例)、15〜19歳(74例)、20〜24歳(56例)、25〜29歳(38例)、30〜34歳(20例)、35〜39歳(10例)、40代(7例)、50代(2例)
累積報告数:5,083例〔麻しん(検査診断例1,369例、臨床診断例3,301例)、修飾麻しん(検査診断例413例)〕 |
(補)他に2008年第12週までに診断されたものの報告遅れとして、E型肝炎1例〔感染地域(感染源):愛知県(いのしし肉)〕、エキノコックス症1例(多包条虫_感染地域:北海道)、マラリア1例(熱帯熱_感染地域:ギニア)、急性脳炎3例〔A型インフルエンザウイルス1例(0歳.死亡)、単純ヘルペスウイルス1型1例(0歳)、病原体不明1例(19歳)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症5例〔50代(1例)、70代(3例)、80代(1例)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症3例(遺伝子型:VanB 2例_菌検出検体:ともに便、遺伝子型不明1例_菌検出検体:腹水)、風しん6例〔検査診断例2例、臨床診断例4例.感染地域:岡山県2例、東京都1例、大阪府1例、広島県1例、福岡県1例.年齢群:0歳(1例)、7歳(1例)、10〜14歳(1例)、25〜29歳(1例)、35〜39歳(2例)〕などの報告があった。
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◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は第6週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(13.0)、佐賀県(5.6)、長崎県(5.3)、宮崎県(4.9)、愛媛県(4.4)、福岡県(3.8)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は409例の報告があり、報告数は微増した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約76%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では長崎県(0.75)、富山県(0.72)、広島県(0.61)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では鳥取県(4.4)、山口県(3.5)、山形県(3.4)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は2週連続で減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では宮崎県(16.7)、大分(15.7)、石川県(14.0)、熊本県(13.6)が多い。水痘の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(5.8)、和歌山県(3.1)、福岡県(3.1)が多い。手足口病の定点当たり報告数は微増した。都道府県別では宮崎県(1.11)、鳥取県(1.05)、鹿児島県(1.02)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は微増した。都道府県別では大分県(0.69)、新潟県(0.61)、岩手県(0.44)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では福井県(0.32)、千葉県(0.15)、沖縄県(0.15)、広島県(0.14)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は微減した。都道府県別では熊本県(0.40)、山口県(0.22)、大分県(0.14)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では秋田県(2.14)、佐賀県(1.61)、高知県(1.23)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(4.9)、福島県(4.1)、宮城県(2.3)が多い。
◆ 百日咳
百日咳は、好気性のグラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)の感染を原因とする急性の呼吸器感染症である。特有のけいれん性の咳発作(痙咳発作)を特徴としており、母親からの移行抗体が有効に働かないために乳児期早期から罹患する可能性があり、ことに生後6カ月以下では死に至る危険性がある疾患である。通常は感染後7〜10日間の潜伏期間を経て発症するが、臨床経過は(1)カタル期、(2)痙咳期、(3)回復期の3つに分けられている。百日咳はいずれの年齢でも罹患するが、小児が中心とされており、1950年に百日咳(P)ワクチンが導入されるまでは、わが国でも乳幼児を中心に年間10万例以上の罹患者があり、その約10%が死亡していたといわれている。その後ワクチンの改良・普及と乳児期の接種率の上昇によって、発生報告数は大きく減少したが、最近では年長者からの報告割合が増加してくると共に、発生報告数そのものも増加に転じている。主な感染経路は発症患者の鼻咽頭や気道分泌物による飛沫感染と接触感染であるが、特に成人の発生例は咳が長期にわたって持続するものの、乳幼児にみられるような重篤な痙咳性の咳嗽を示すことは稀であり、症状が典型的ではないために診断が見逃されやすく、感染源となって周囲へ感染を拡大してしまうこともあり、注意が必要である。治療薬としての抗生物質はマクロライド系抗菌薬が第一選択であるが、セフェム系が処方されることもある。早期に抗菌薬を処方すれば、症状の軽減と菌排出期間(無治療の場合は3週間前後)の短縮が期待できる。
現在百日咳は、感染症発生動向調査では全国約3,000カ所の小児科定点からの報告数に基づいて患者発生状況の分析が行われている。2008年の百日咳の週別の定点当たり報告数は、2001年以降の過去5年間の同時期と比較して高い場合が多くなっている(図1)。第13週の定点からの患者報告数は109例であり、小児科定点数がほぼ3,000カ所に達した2000年以降の同時期の最高値(2000年第13週:患者報告数73)を大きく上回った。都道府県別では千葉県19例、大阪府14例、広島県10例、愛知県8例、福井県7例、福岡県6例の順であり、大都市圏からの報告が目立つ(図2)。また、第1〜13週までの累積報告数は851例(定点当たり累積報告数0.28)であり、2000年以降の同時期までの累積報告数と比較しても、これまで最も多かった2000年の累積報告数(689例)を上回っている。都道府県別にみると、千葉県150例、福岡県70例、大阪府69例、広島県58例、愛知県56例、北海道40例の順であり、特に千葉県は2007年から報告数の多い状態が続いている(図3)。2000年以降の年間の累積報告数をみると、最も報告数が多かったのは2000年(3,804例)であり、次いで2007年(2,926例)の順であるが(図4)、現在の患者発生状況が継続すれば、2008年の報告数は2000年以降では最も多くなる可能性が高い。2000年〜2008年まで(2008年は第13週まで)の年間の累積報告数の年齢別割合をみると、0歳児、1歳児を中心とした乳幼児からの報告割合は年々低下がみられている一方で、小児科定点からの報告ではあるものの、20歳以上の報告割合は年々増加しており、2008年は、13週までの報告ではあるが、20歳以上の割合は36.5%にまで達している(図5)。
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図1. 百日咳年別・週別発生状況(1998年〜2008年13週) |
図2. 百日咳の都道府県別報告状況(2008年第13週) |
図3. 百日咳の都道府県別累積報告状況(2008年第1〜13週) |
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図4. 百日咳塁積報告数年別推移(2000〜2007年) |
図5. 百日咳の報告症例の年齢群別割合(2000年〜2008年第13週) |
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乳幼児に対するジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)混合ワクチンの普及により、かつては0歳児を中心に多数の発病者及び死亡者がみられていた百日咳の患者発生数は近年大きく減少した。しかしながら最近では、大学等の小児以外の集団生活施設における集団発生例が報告されるようになってきている(病原微生物検出情報:Vol.29 No.5 p.4-5http://idsc.nih.go.jp/iasr/29/337/dj3372.html、同p.6-7 http://idsc.nih.go.jp/iasr/29/337/dj3373.html)。また、感染症発生動向調査においても小児科定点からの報告ではあるにもかかわらず、成人例の報告割合が無視できないほどに増加し、2008年はまだ13週までの調査ではあるが、累積報告数に占める成人の割合は年々大きく増加してきている。その一方で、近年は患者報告数そのものは少ない状況で推移していたが、2006年以降再び増加してきており、2008年はこれまでのところ、第1週から当該週までの報告数が2000年以降では最も多い状態が続いている。百日咳の発生動向には今後とも注意深い観察が必要であることはいうまでもないことであるが、現在の小児科定点のみからの発生動向調査では、大きく増加してきていると推定される成人層の患者発生状況を正確に把握することは困難である。百日咳の発生動向の全体像を把握するためには、全ての年齢層を対象とした新たなサーベイランスが必要であると思われる。
※病原微生物検出情報(月報)Vol.29 No.3 <特集>百日咳2005〜2007(http://idsc.nih.go.jp/iasr/29/337/tpc337-j.html)も併せてご参照ください。
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