発生動向総覧
※2008年1月からの省令改正に伴い、疾病の追加および並び順を一部変更しました。
〈第16週コメント〉 4月23日集計分
◆全数報告の感染症
注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。
*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。
1類感染症: |
報告なし |
2類感染症: |
結核 247例 |
3類感染症: |
コレラ4例(感染地域:埼玉県3例*、インドネシア1例)
*第14週の1例、第15週の4例とともに同一飲食店に関連した集団感染例
細菌性赤痢2例(感染地域:インド2例)
腸管出血性大腸菌感染症13例(有症者7例、HUS 1例)
|
|
感染地域:愛媛県3例**、岡山県2例、福岡県2例、秋田県1例、群馬県1例、富山県1例、静岡県1例、タイ1例、インドネシア1例
**うち2例は、第15週の1例と同一飲食店での集団感染例
年齢群:2歳(1例)、7歳(1例)、10代(3例)、20代(2例)、30代(1例)、40代(3例)、50代(1例)、60代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2( 6例)、O26 VT1( 2例)、O91 VT1(1例)、O119 VT1(1例)、O165 VT2(1例)、不明(2例) |
腸チフス1例(感染地域:インド) |
4類感染症: |
A型肝炎1例(感染地域:インド) つつが虫病2例(感染地域:福島県1例、島根県1例)
デング熱2例(感染地域:マレーシア1例、インドネシア1例)
マラリア1例(熱帯熱_感染地域:マラウイ)
レジオネラ症7例(肺炎型7例)
|
|
感染地域:兵庫県3例、東京都1例、高知県1例、大分県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:60代(3例)、70代(2例)、80代(1例)、90代(1例) |
|
5類感染症: |
アメーバ赤痢14例(腸管アメーバ症11例、腸管外アメーバ症3例) |
|
感染地域:東京都2例、青森県1例、愛知県1例、三重県1例、大阪府1例、兵庫県1例、奈良県1例、国内(都道府県不明)4例、中国1例、ペルー1例
感染経路:経口感染3例、性的接触4例(異性間2例、同性間1例、異性間・同性間不明1例)、不明7例 |
ウイルス性肝炎2例〔B型肝炎2例_感染経路:性的接触(異性間)1例、不明1例〕
クリプトスポリジウム症1例〔感染地域:インド***(ジアルジア症との重複感染)〕
クロイツフェルト・ヤコブ病1例(孤発性プリオン病古典型)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(年齢群:90代)
後天性免疫不全症候群16例(無症候10例、AIDS 4例、その他2例)
|
|
感染地域:国内12例、国内(都道府県不明)2例、ロシア1例、ウガンダ1例
感染経路:性的接触14例(異性間1例、同性間11例、異性間/同性間2例)、不明2例 |
ジアルジア症3例(感染地域:長崎県1例、インド2例***)
梅毒8例(早期顕症I期2例、早期顕症II期3例、無症候3例)
破傷風2例〔年齢群:50代(1例)、70代(1例)〕
バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例(遺伝子型:VanC 2例_菌検出検体:創面1例、血液1例)
風しん9例(検査診断例3例、臨床診断例6例)
|
|
感染地域:神奈川県2例、東京都1例、長野県1例、静岡県1例、岡山県1例、大阪府1例、徳島県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:4歳(1例)、5歳(1例)、6歳(1例)、10〜14歳(1例)、15〜19歳(1例)、20〜24歳(3例)、25〜29歳(1例) |
麻しん259例〔麻しん(検査診断例66例、臨床診断例167例)、修飾麻しん(検査診断例26例)〕
|
|
感染地域:国内259例
国内の多い感染地域:神奈川県87例、北海道23例、東京都17例、福岡県15例、千葉県14例、埼玉県13例、大阪府13例、愛知県12例、広島県11例
年齢群:0歳(15例)、1歳(19例)、2歳(3例)、3歳(1例)、4歳(9例)、5〜9歳(24例)、10〜14歳(46例)、15〜19歳(52例)、20〜24歳(29例)、25〜29歳(26例)、30〜34歳(21例)、35〜39歳(11例)、40代(2例)、60代(1例)
累積報告数:6,185例〔麻しん(検査診断例1,711例、臨床診断例3,965例)、修飾麻しん(検査診断例509例)〕 |
(補)他に2008年第15週までに診断されたものの報告遅れとして、コレラ1例(感染地域:東京都)、細菌性赤痢1例(感染地域:ネパール)、マラリア1例(熱帯熱_感染地域:ギニア/セネガル)、レジオネラ症2例〔感染地域:福島県1例(温泉)、大分県1例(温泉)〕、急性脳炎3例〔ロタウイルス2例(2歳.死亡、4歳)、病原体不明1例(0歳)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanA_菌検出検体:便)、風しん2例〔検査診断例1例、臨床診断例1例.感染地域:東京都1例、長崎県1例.年齢群:2歳(1例)、20〜24歳(1例)〕などの報告があった。
|
◆定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)
全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
インフルエンザ: 定点当たり報告数は第6週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(6.9)、佐賀県(2.9)、宮崎県(1.7)、長崎県(1.6)、長野県(1.6)が多い。
小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は220例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約68%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では長崎県(1.00)、徳島県(0.96)、青森県(0.81)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では鳥取県(4.8)、山形県(4.4)、新潟県(3.6)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では石川県(18.4)、福井県(17.7)、高知県(15.4)が多い。水痘の定点当たり報告数は微増した。都道府県別では沖縄県(4.7)、宮崎県(3.1)、熊本県(2.4)、福井県(2.4)、佐賀県(2.4)が多い。手足口病の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では宮崎県(1.75)、鹿児島県(1.28)、長崎県(1.07)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(1.14)、岩手県(0.83)、大分県(0.83)が多い。百日咳の定点当たり報告数は第13週以降増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では広島県(0.29)、山口県(0.26)、千葉県(0.16)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では熊本県(1.10)、山口県(1.04)、大分県(0.64)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は微増した。都道府県別では佐賀県(2.22)、秋田県(1.29)、群馬県(1.18)が多い。
基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福島県(2.43)、沖縄県(2.29)、富山県(1.40)が多い。
◆ 百日咳
百日咳は、好気性のグラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)の感染を原因とする急性の呼吸器感染症である。特有のけいれん性の咳発作(痙咳発作)を特徴としており、母親からの移行抗体が有効に働かないために乳児期早期から罹患する可能性があり、ことに生後6カ月以下では死に至る危険性がある疾患である。通常は感染後7〜10日間の潜伏期間を経て発症するが、臨床経過は(1)カタル期、(2)痙咳期、(3)回復期の3つに分けられている。百日咳は元々乳幼児を中心とした小児で流行する疾患とされてきたが、ワクチンの開発・普及と乳児期の接種率の上昇によって、発生報告数は大きく減少した。だが最近では小児科定点報告疾患であるにもかかわらず20歳以上の成人例の報告数が年々増加してくると共に、発生報告数そのものも増加に転じている。成人の発生例は咳が長期にわたって持続するものの、乳幼児にみられるような重篤な痙咳性の咳嗽を示すことは稀であり、症状が典型的ではないために診断が見逃されやすく、感染源となって周囲へ感染を拡大してしまうこともあり、注意が必要である。治療薬としてはマクロライド系抗菌薬が第一選択であるが、セフェム系が処方されることもある。早期に抗菌薬を処方すれば、症状の軽減と菌排出期間(無治療の場合は3週間前後)の短縮が期待できる。
感染症発生動向調査では、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告数に基づいて百日咳の患者発生状況の分析を行っている。2008年の百日咳の週別の定点当たり報告数は、過去10年間の同時期と比較しても高い状態が続いている(図1)。第16週の定点からの患者報告数は165例(定点当たり報告数0.05)であり、小児科定点がほぼ3,000カ所となった1999年第14週以降の最高値(2000年第24週:患者報告数130例)を大きく上回った。都道府県別では、広島県21例、千葉県20例、大阪府13例、山口県13例、福岡県11例、愛知県10例、兵庫県8例の順となっている(図2)。第1〜16週までの累積報告数は1,264例であり、2000年以降の同時期の累積報告数と比較ても、これまで最も多かった2000年(961例)を上回っている。都道府県別にみると、千葉県227例、福岡県100例、広島県95例、大阪府90例、愛知県79例の順であり、千葉県は2007年から報告数の多い状態が続いている(図3)。現在の患者発生状況が継続すれば、2008年の報告数は2000年以降では最も多くなる可能性が高い。2000年〜2008年まで(2008年は第16週まで)の年間の累積報告数の年齢別割合をみると、0歳児、1歳児を中心とした乳幼児からの報告割合は年々低下がみられている一方で、小児科定点からの報告ではあるものの、20歳以上の報告割合は年々増加しており、2008年は16週までの報告ではあるが、20歳以上の割合は37.8%にまで達している(図4)。
|
|
|
図1.百日咳の年別・週別発生状況(1998〜2008年第16週) |
図2. 百日咳の都道府県別報告状況(2008年第16週) |
図3. 百日咳の都道府県別累積報告状況(2008年第1〜16週) |
|
図4. 百日咳の報告症例の年別・年齢別割合(2008年第1〜16週) |
百日咳に対するワクチンが開発される前の1950年代では、我が国の百日咳の患者発生数は小児を中心に年間10万例以上あり、その約10%が死亡していたといわれている。乳幼児に対する百日咳(P)ワクチンを含んだジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)3種混合ワクチンの開発と改良・普及により、かつては0歳児を中心に多数の発病者及び死亡者がみられていた百日咳の患者発生数は近年大きく減少した。しかし、近年では大学等の小児以外の集団生活施設においての集団発生の報告が見られるようになってきているとともに、小児科定点からの報告であるにもかかわらず、累積報告数に占める成人の割合は37.8%に達している。加えて、百日咳の報告数そのものも、2006年以降増加傾向にあり、その増加は成人発生例の報告数の増加に負うところが大きい。百日咳は、過去の乳幼児等の小児を中心とした流行形態が変化してきていることは間違いないが、現在の小児科定点のみからの発生動向調査だけでは、その実態を正確に把握することは困難である。百日咳の発生患者数が大きく減少したことによって、感染暴露の機会が失われ、百日咳(P)含有ワクチン接種者である成人層での百日咳に対する免疫が減衰し、現在の流行を招いているものとも推察されるが、いずれにせよ早急な実態の把握と対策の立案が望まれる。
今後とも百日咳の発生動向には注意が必要である。
|