国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第23号ダイジェスト
(2008年6月2日〜6月8日)

 発生動向総覧


※2008年5月12日からの法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第23週コメント〉 6月11日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核314例
3類感染症: コレラ2例(感染地域:フィリピン1例、インドネシア1例)
細菌性赤痢3例(感染地域:インド1例、エジプト2例)
腸管出血性大腸菌感染症45例(有症者30例、HUSなし)

感染地域:広島県8例*、岐阜県6例**、京都府5例、東京都4例、群馬県3例、愛知県3例、長野県2例、兵庫県2例、長崎県2例、熊本県2例、石川県1例、静岡県1例、岡山県1例、福岡県1例、佐賀県1例、国内(都道府県不明)2例、インドネシア1例
*保育園に関連した集団発生、**22週の4例と合わせて同一飲食店における集団発生
年齢群:1歳(4例)、2歳(1例)、3歳(2例)、4歳(1例)、5歳(2例)、6歳(1例)、7歳(1例)、8歳(2例)、10代(7例)、20代(7例)、30代(4例)、40代(5例)、50代(5例)、60代(2例)、80代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(21例)、O26 VT1(8例)、O157 VT2(7例)、O111 VT1(2例)、O26 VT1・VT2(1例)、O63 VT2( 1例)、O91 VT1( 1例)、O103VT1(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、その他・不明(2例)

腸チフス1例(感染地域:インド)
4類感染症:
E型肝炎1例

感染地域:中国
感染源:豚肉

A型肝炎4例(感染地域:東京都1例、三重県1例、韓国1例、タイ/カンボジア1例)
オウム病1例

感染地域:和歌山県
感染源:ハト

つつが虫病5例(感染地域:青森県2例、秋田県1例、福島県1例、新潟県1例)
日本紅斑熱1例(感染地域:長崎県)
レジオネラ症16例(肺炎型14例、ポンティアック型2例)

感染地域:大阪府3例、新潟県2例、茨城県1例、埼玉県1例、富山県1例、山梨県1例、長野県1例(温泉)、静岡県1例、愛知県1例、京都府1例、兵庫県1例、国内(都道府県不明)2例
年齢群:20代(1例)、40代(2例)、50代(4例)、60代(4例)、70代(1例)、80代(3例)、90代(1例)

5類感染症:
アメーバ赤痢16例(腸管アメーバ症13例、腸管外アメーバ症3例)

感染地域:埼玉県3例、千葉県2例、東京都1例、静岡県1例、京都府1例、大阪府1例、鳥取県1例、国内(都道府県不明)5例、中国/マレーシア/シンガポール1例
感染経路:性的接触4例(同性間1例、異性間・同性間不明3例)、経口感染3例、不明9例

ウイルス性肝炎2例

B型肝炎1例_感染経路:性的接触(異性間)
C型肝炎1例_感染経路:不明

急性脳炎2例[病原体不明2例_年齢群:3歳(1例)、70代(1例)]
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(孤発性プリオン病古典型2例)
後天性免疫不全症候群15例(無症候11例、AIDS 4例)

感染地域:国内14例、中国1例
感染経路:性的接触14例(異性間3例、同性間10例、異性間・同性間不明1例)、性的接触(同性間)/針刺し1例

ジアルジア症1例(感染地域:ウズベキスタン)
髄膜炎菌性髄膜炎1例(感染地域:東京都)
梅毒12例(早期顕症I期2例、早期顕症II期6例、無症候4例)
破傷風3例[年齢群:60代(1例)、70代(2例)]
風しん5例(検査診断例2例、臨床診断例3例)

感染地域:茨城県1例、三重県1例、大阪府1例、国内(都道府県不明)2例
年齢群:5歳(1例)、7歳(1例)、10〜14歳(1例)、15〜19歳(1例)、25〜29歳(1例)

麻しん243例〔麻しん(検査診断例51例、臨床診断例166例)、修飾麻しん(検査診断例26例)〕

感染地域:国内242例、中国1例
国内の多い感染地域:千葉県75例、神奈川県36例、北海道25例、京都府14例、静岡県10例
年齢群:0歳(12例)、1歳(13例)、2歳(4例)、3歳(1例)、4歳(3例)、5〜9歳(15例)、10〜14歳(17例)、15〜19歳(115例)、20〜24歳(22例)、25〜29歳(12例)、30〜34歳(10例)、35〜39歳(8例)、40代(5例)、50代(3例)、60代(1例)、70代(1例)、80代(1例)

累積報告数:9,091例〔麻しん(検査診断例2,477例、臨床診断例5,866例)、修飾麻しん(検査診断例748例)〕

(補)他に2008年第22週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢1例(感染地域:ミャンマー)、デング熱1例(感染地域:フィリピン)、日本紅斑熱1例(感染地域:島根県)、マラリア1例(熱帯熱_感染地域:モザンビーク)、急性脳炎5例〔ロタウイルス1例(0歳)、A型インフルエンザウイルス1例(10代)、風しんウイルス1例(40代)、病原体不明2例(10代、60代)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔60代(1例.死亡)、100代(1例.死亡)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanB_菌検出検体:尿)、風しん3例〔検査診断例1例、臨床診断例2例.感染地域:岡山県1例、広島県1例、熊本県1例.年齢群:15〜19歳(1例)、25〜29歳(1例)、35〜39歳(1例)〕などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患によ り小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基 幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では沖縄県(2.47)、青森県(0.52)、北海道(0.42)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は142例の報告があり、報告数は増加した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約76%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では鹿児島県(1.44)、福井県(1.36)、新潟県(1.28)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では埼玉県(5.9)、山形県(5.1)、長野県(4.6)、千葉県(4.6)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は2週連続で減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では福井県(10.7)、愛媛県(9.1)、大分県(9.0)、長野県(9.0)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では山形県(3.5)、新潟県(3.0)、大分県(2.7)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第15週以降増加が続いており、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では宮崎県(11.2)、鹿児島県(5.5)、長崎県(4.5)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(1.23)、大分県(0.78)、岩手県(0.63)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では広島県(0.47)、愛媛県(0.41)、千葉県(0.36)、福井県(0.36)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第20週以降増加が続いている。都道府県別では石川県(5.1)、佐賀県(3.0)、宮崎県(2.8)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では佐賀県(2.70)、宮崎県(2.64)、高知県(1.73)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は2週連続で横ばいであった。都道府県別では福島県(2.86)、沖縄県(2.86)、群馬県(2.00)が多い。





 注目すべき感染症

◆ A群溶血性レンサ球菌咽頭炎

 A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)はその侵入部位や組織によって多彩な症状を引き起こす。日常よく見られる疾患として、急性咽頭炎の他に、膿痂疹、蜂窩織炎、あるいは特殊な病型としては猩紅熱がある。これ以外にも中耳炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、髄膜炎などを起こし、また、リウマチ熱や急性糸球体腎炎を続発させることがある。さらに、発生機序や病態生理は不明ではあるが、軟部組織壊死を伴い、敗血症性ショックをきたす劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因菌としても知られているが、本項では通常主に小児の間で発生する疾患であり、感染症法によって5類感染症定点把握疾患と定められているA群溶血性レンサ球菌咽頭炎について述べる。
 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、本邦を含めた温帯地域を中心に広く世界的に分布している感染症である。感染経路はヒトからヒトへの飛沫感染が主であるが、食品を介する経口感染もあるといわれている。通常は患者との接触を介して伝播するため、ヒトとヒトとの接触の機会が増加する時期に患者報告数の増加もみられている。感染性は急性期に最も強く、その後徐々に減弱する。無症状病原体保有者も存在するが、症状のない保菌者からの感染は稀であると考えられている。潜伏期間は2〜5日であり、突然の発熱、咽頭痛、全身倦怠感によって発症し、しばしば嘔吐を伴う。咽頭壁は浮腫状で扁桃は浸出を伴い、軟口蓋の小点状出血あるいは苺舌がみられることがある。通常発熱は3〜5日以内に下がり、主症状は1週間以内に消失する予後良好の疾患であるが、菌が産生する毒素に免疫のない場合は猩紅熱に発展する場合がある。治療にはペニシリン系の抗菌薬が第1選択薬とされているが、ペニシリンアレルギーがある場合はマクロライド系抗菌薬やセフェム系を投与する。リウマチ熱や急性糸球体腎炎など非化膿性の合併症予防のために、少なくとも10日間は確実に投与することが必要である。
 感染症発生動向調査によると、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は例年学校、幼稚園等の春期休暇とゴールデンウイークに関連した減少はみられるものの、春季から夏季にかけて流行し、夏期休暇が始まる直前頃より患者報告数は減少していき、夏期休暇の終了後に再び増加していくという流行パターンを繰り返している。2008年第23週のA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は3.12(報告数9,415)と、過去10年間の同週と比較して最も高い値となっている(図1)。都道府県別では埼玉県(5.92)、山形県(5.07)、長野県(4.58)、千葉県(4.55)、鳥取県(4.53)、山口県(4.16)、大分県(4.08)の順となっており、全国平均(3.12)を超えているのは東日本の地域に多い(図2)。第23週までの定点当たり累積報告数は49.08(累積報告数147,679)であり、2006年、2007年と同様の水準である(図3)。都道府県別では、鳥取県(88.21)、山形県(83.47)、富山県(78.83)、石川県(77.00)、新潟県(75.08)、山口県(74.98)、埼玉県(74.02)の順であり、やはり東日本地域に全国平均を上回っている地域が多い(図4)。累積報告数の年齢別割合をみると、4〜5歳30.4%、6〜7歳23.8%、2〜3歳14.9%、8〜9歳13.0%の順であり、例年と同様に2〜9歳が発生の中心であり、9歳以下で全報告数の85%以上を占めている(図5、図6)
 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は、夏季のピークにさしかかりつつあるが、現在の定点当たり報告数は過去10年間で最も高い値となっている。今後ともその発生動向には注意が必要である。

図1. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の年別・週別発生状況(1998年〜2008年第23週)

図2. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の都道府県別報告状況(2008年第23週)

図3. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の第1〜23週の定点当たり累積報告数年別推移(1999年〜2008年)

図4. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の都道府県別累積報告状況(2008年第1〜23週)

図5. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎累積報告数の年齢群別割合(2008年第1〜23週)

図6. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎年別・年齢群別割合(1999年〜2008年第23週)







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