国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第25号ダイジェスト
(2008年6月16日〜6月22日)

 発生動向総覧


※2008年5月12日からの法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第25週コメント〉 6月25日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核367例
3類感染症: 細菌性赤痢5例(感染地域:東京都1例、インドネシア1例、バングラデシュ1例、フィリピン1例、パナマ1例)
腸管出血性大腸菌感染症132例(有症者111例、HUS 1例)

感染地域:長崎県27例*、千葉県9例**、大阪府9例、東京都7例、京都府5例、熊本県5例、愛知県4例、兵庫県4例、宮城県3例、山形県3例、群馬県3例、神奈川県3例、鹿児島県3例、山梨県2例、長野県2例、岐阜県2例、静岡県2例、福岡県2例、北海道1例、青森県1例、福島県1例、栃木県1例、埼玉県1例、富山県1例、石川県1例、三重県1例、滋賀県1例、和歌山県1例、愛媛県1例、大分県1例、国内(都道府県不明)24例***、トルコ1例
*うち26例は第24週の5例とともに、同一施設内の集団発生、
**うち5例は幼稚園での集団発生、
***第24週の7例とともに、修学旅行に関連した集団発生
年齢群:0歳(1例)、1歳(3例)、2歳(4例)、3歳(4例)、4歳(9例)、5歳(5例)、6歳(1例)、7歳(1例)、8歳(3例)、9歳(1例)、10代(31例)、20代(21例)、30代(14例)、40代(14例)、50代(8例)、60代(5例)、70代(4例)、80代(2例)、90代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2( 36例)、O111 VT1・VT2( 33例)、O26 VT1(24例)、O157 VT2(13例)、O103 VT1(3例)、O111 VT1(3例)、O157 VT1(3例)、O121 VT2(2例)、O165 VT2(2例)、O26 VT1・VT2(1例)、O91 VT1(1例)、その他・不明(11例)

4類感染症:
E型肝炎1例

感染地域:千葉県
感染源:不明

A型肝炎2例(感染地域:兵庫県1例、ボリビア1例)
つつが虫病5例(感染地域:青森県3例、秋田県1例、東京都1例)
デング熱1例(出血熱_感染地域:モルディブ)
ブルセラ症1例

感染地域:埼玉県
感染源:飼い犬

レジオネラ症23例(肺炎型22例、ポンティアック型1例)

感染地域:長野県3例、岐阜県2例、静岡県2例、大阪府2例、兵庫県2例、北海道1例、宮城県1例、群馬県1例(温泉)、富山県1例、愛知県1例、滋賀県1例(温泉)、島根県1例、広島県1例、高知県1例、国内(都道府県不明)3例
年齢群:30代(2例)、40代(1例)、50代(7例)、60代(8例)、70代(2例)、80代(1例)、90代(2例)

レプトスピラ症1例

感染地域:東京都
感染源:ネズミ

5類感染症:
アメーバ赤痢13例(腸管アメーバ症10例、腸管外アメーバ症2例、腸管及び腸管外アメーバ症1例)

感染地域:東京都2例、大阪府2例、北海道1例、埼玉県1例、神奈川県1例、石川県1例、長野県1例、京都府1例、広島県1例、国内(都道府県不明)2例
感染経路:性的接触5例(同性間4例、異性間1例)、経口感染1例、経口及び性的接触(異性間)1例、不明6例

ウイルス性肝炎1例〔B型肝炎_感染経路:性的接触(異性間)〕
急性脳炎2例

単純ヘルペスウイルス1例_年齢群:4歳
病原体不明1例_年齢群:0歳

劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例〔年齢群:50代(死亡)〕

後天性免疫不全症候群18例(無症候12例、その他1例、AIDS 5例)

感染地域:国内16例、タイ1例、ブラジル1例
感染経路:性的接触15例(異性間5例、同性間9例、異性/同性間1例)、不明3例

ジアルジア症1例(感染地域:広島県)
梅毒11例(早期顕症I期2例、早期顕症II期3例、晩期顕性1例、先天性梅毒1例、無症候4例)
破傷風5例〔年齢群:30代(1例)、60代(2例)、70代(1例)、80代(1例)〕
バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例

遺伝子型:VanB 1例_菌検出検体:尿
遺伝子型:VanC 1例_菌検出検体:血液

風しん3例(臨床診断例3例)

感染地域:岩手県1例、千葉県1例、福岡県1例
年齢群:3歳(1例)、6歳(1例)、15〜19歳(1例)

麻しん176例〔麻しん(検査診断例33例、臨床診断例120例)、修飾麻しん(検査診断例23例)〕

感染地域:国内176例
国内の多い感染地域:千葉県62例、神奈川県26例、北海道14例、大阪府13例
年齢群:0歳(7例)、1歳(16例)、2歳(4例)、3歳(6例)、4歳(4例)、5〜9歳(12例)、10〜14歳(19例)、15〜19歳(74例)、20〜24歳(15例)、25〜29歳(11例)、30〜34歳(5例)、35〜39歳(2例)、40代(1例)

累積報告数:9,631例〔麻しん(検査診断例2,644例、臨床診断例6,169例)、修飾麻しん(検査診断例818例)〕

(補)他に2008年第24週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢1例(感染地域:カンボジア/ベトナム)、E型肝炎2例〔感染地域(感染源):北海道2例(豚肉1例、不明1例)〕、日本紅斑熱1例(感染地域:高知県)、マラリア1例(熱帯熱_感染地域:ベナン)、急性脳炎3例〔A型インフルエンザウイルス1例(8歳.死亡)、病原体不明2例(2歳、60代)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(50代)、風しん3例〔臨床診断例3例.感染地域:岩手県1例、福島県1例、神奈川県1例.年齢群:1歳(1例)、6歳(1例)、7歳(1例)〕などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患によ り小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基 幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は第22週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(3.05)、福島県(0.20)、香川県(0.19)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は122例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約71%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では鹿児島県(1.85)、大分県(1.58)、新潟県(1.52)、愛媛県(1.41)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は2週連続で減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では埼玉県(4.5)、千葉県(4.1)、長野県(4.1)、鳥取県(4.1)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第22週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では大分県(8.5)、福井県(7.5)、長野県(7.3)が多い。水痘の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では長野県(3.7)、山形県(3.7)、新潟県(3.5)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第15週以降増加が続いている。都道府県別では宮崎県(14.9)、鹿児島県(6.8)、佐賀県(5.0)、三重県(4.4)、石川県(4.4)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(0.92)、大分県(0.72)、秋田県(0.57)が多い。百日咳の定点当たり報告数は3週連続で減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では千葉県(0.25)、愛媛県(0.22)、福岡県(0.18)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第20週以降増加が続いている。都道府県別では愛媛県(8.5)、高知県(4.9)、佐賀県(3.8)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では佐賀県(2.30)、宮崎県(2.17)、高知県(2.10)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(2.71)、福島県(2.00)、埼玉県(1.89)が多い。





 注目すべき感染症

◆ 腸管出血性大腸菌感染症

 腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法の3類感染症として、無症状病原体保有者を含む症例の報告が、診断した全ての医師に義務付けられている。無症状病原体保有者は、食品産業従事者などでの検便によって偶然発見される場合もあるが、届け出された患者と食事をともにした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。届出の基準としては、大腸菌の分離・同定かつ分離菌におけるベロ毒素の確認が必要であるが、2006年4月からは、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限り、便からのベロ毒素の検出や血清抗体(O抗原凝集抗体あるいはベロ毒素抗体)の検出によって診断された場合も届け出の対象とされた。
 2008年の腸管出血性大腸菌感染症報告数は、例年報告数の少ない第11週に一時的に増加した。これは佐賀県でオーストラリアへ修学旅行に行った高校生がO26 VT1に多数感染し、帰国した生徒から感染した家族の報告を含め、第10〜13週にかけて計76例が報告されたものである(IDWR 第10巻第20号「速報」参照)。その後第18週から徐々に増加し始め、第24週から急増して、第25週は132例であった(図)。本年第25週までの累積報告数843例は、2000年以降では2001年、2007年に次いで3番目に多い(2000年808例、2001年1,244例、2002年794例、2003年580例、2004年780例、2005年789例、2006年761例、2007年958例)。

図. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(1999年第14週〜2008年第25週)

表. 溶血性尿毒症症候群(HUS)届出症例(n=9)(2008年第1〜25週)


 第25週に報告のあった132例は、有症状者が111例(84%)で、無症状病原体保有者が21例(16%)であった。都道府県別にみると、長崎県(27例)と神奈川県(23例)からの報告が多く、次いで千葉県と大阪府(各10例)、東京都(7例)、愛知県(6例)の順に多かった。長崎県では第24週から県内の医療機関の食堂における集団発生(O111 VT1・VT2)により、神奈川県では修学旅行に行った高校生の集団発生(O26 VT1)により報告が増加している。性別では男性60例、女性72例であり、年齢群別では0〜9歳32例、10〜19歳31例、20〜29歳21例の順に多かった。

 第1〜25週の累積報告数843例についてみると、報告の多い都道府県は、佐賀県(79例)、神奈川県(56例)、大阪府(54例)、福岡県(48例)、東京都(44例)、愛知県(41例)であった。性別では男性378例、女性465例であり、年齢群別では0〜9歳206例、10〜19歳199例、20〜29歳146例の順に多かった。
 溶血性尿毒症症候群(HUS)は、第25週までに9例報告があった(表)。9例のうち2例は、菌の分離はされなかったが、血清抗体の検出により届け出られたものである。また、年齢は0〜4歳が6例、5〜9歳が1例、10代が2例となっており、全例が小児であった。2008年では第25週までに死亡例の報告はない。HUSなどの合併症や死亡については、届け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があり、発生があった場合の追加・修正報告を自治体に依頼している。

 本年第25週までに既に保育施設、学校等での集団発生が報告されている。特に、保育施設における集団発生は例年散見されており、日ごろからの注意として、オムツ交換時の手洗い、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。また、これからの季節は簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。動物との接触による感染と推定される事例も報告されているので、動物との接触後の手洗いにも気をつけたい。
 近年、生レバーが感染源と見られる届出が多く認められており、特に小児などではレバーなど食品はよく加熱し生食は控える必要がある。食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。
 その他、最近では自治体をまたいだ広域発生事例も散見されており、食材・食品の流通の観点も併せ、事例調査における自治体間の連携がますます重要となってきている。毎年本症が数多く発生する夏季を迎えるにあたり、今後の発生動向には注意が必要である。

(補)菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.htmlをご参照ください。


◆ 咽頭結膜炎

 咽頭結膜熱は主にアデノウイルス3型(他に1、2、5、4、6、7型等でもみられる)に感染することによってみられる咽頭炎、結膜炎を主とする急性ウイルス性感染症である。発熱、咽頭炎(咽頭発赤、咽頭痛)、結膜炎(結膜充血、眼痛、流涙、眼脂)が3主症状であり、通常感染曝露からの潜伏期間は5〜7日、有症状期間は3〜5日といわれている。感染経路は主に飛沫感染、接触感染であるが、その感染力は強力であり、タオル、ドアの把手、エレベーターのボタン、階段の手すり等の患者が触れたものを触ることによっても感染する場合がある。また、本疾患は症状消失後も約1カ月間にわたって便中にウイルスが排出されるといわれており、更に感染後発病はしない無症候病原体保有者も存在するため、効果的な感染予防対策の実行は困難である。特に感染経験の乏しい小児の集団生活施設である保育園、幼稚園、小学校等では流行時期になると集団発生がみられることも珍しくはない。
 感染症発生動向調査によると、全国約3,000カ所の小児科定点からの咽頭結膜熱の定点当たり報告数は、2008年は第23週に一旦は減少がみられたものの、その後また増加が続いている。第1〜25週までの定点当たり累積報告数は9.18(累積報告数27,693)であり、過去10年間と比較しても最も報告数の多かった2006年(2006年第1〜25週の定点当たり累積報告数は13.80)に次ぐ値となっている(図1)。第25週の定点当たり報告数は0.85(報告数2,561)であり、都道府県別では鹿児島県(1.85)、大分県(1.58)、新潟県(1.52)、愛媛県(1.41)、兵庫県(1.30)、埼玉県(1.19)の順となっている(図2)。定点当たり累積報告数は、都道府県別では大分県(16.53)、長崎県(16.45)、石川県(15.83)、新潟県(15.28)、大阪府(15.16)、山口県(14.88)の順となっている(図3)。咽頭結膜熱の患者報告数を年齢別でみると、例年5歳以下が全報告数の70%以上と発生の中心であり、7歳までで90%前後を占めているが、2008年は第25週までで2〜3歳29.9%、0〜1歳27.7%、4〜5歳25.1%の順となっており、5歳以下で全体の80%を上回っている(図4、図5)
 第1週からこれまでに分離されたウイルス(総分離報告数77)では、アデノウイルス2型35.1%(分離報告数27)、3型27.3%(分離報告数21)、1型、5型共に7.8%(分離報告数6)の順となっている。まだ分離報告数は少ないものの、例年と異なって2型の報告割合が3型を上回っている(図6、図7)

図1. 咽頭結膜熱の年別・週別発生状況(1998〜2008年第25週) 図2. 咽頭結膜熱の都道府県別報告状況(2008年第25週) 図3. 咽頭結膜熱の都道府県別累積報告状況(2008年第1〜25週)
図4. 咽頭結膜熱の年別・年齢群別割合(2000年〜2008年第25週) 図5. 咽頭結膜熱累積報告数の年齢群別割合(2008年第1〜25週) 図6. 咽頭結膜熱分離ウイルスの型別割合2008年
図7. 咽頭結膜熱由来ウイルスの分離・検出状況(2004年〜2008年第25週)

 咽頭結膜熱の流行のピークは例年夏季休暇の始まる第29週前後であり、今しばらくは報告数の増加が継続するものと予想される。今後ともその発生動向には注意深い観察が必要である。





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