国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第27号ダイジェスト
(2008年6月30日〜7月6日)

 発生動向総覧


※2008年5月12日からの法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第27週コメント〉 7月9日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核351例
3類感染症: 細菌性赤痢7例〔感染地域:静岡県1例、長崎県1例、国内(都道府県不明)1例、中国1例、フィリピン1例、インド1例、メキシコ1例〕
腸管出血性大腸菌感染症141例(有症者65例、HUS 4例、死亡1例)

感染地域:富山県20例1)、山形県19例2)、秋田県16例3)、群馬県10例、東京都9例、沖縄県8例、福岡県7例、鹿児島県7例、岐阜県6例、千葉県4例、三重県4例、埼玉県3例、宮城県2例、愛知県2例、大阪府2例、兵庫県2例、広島県2例、山口県2例、神奈川県1例、福井県1例、滋賀県1例、京都府1例、和歌山県1例、徳島県1例、国内(都道府県不明)8例、韓国1例、米国1例
1)うち19例は、第26週の3例とともに保育園での集団発生、
2)うち14例は、第26週の1例とともに小学校での集団発生、
3)うち14例は、第26週の15例とともに宅配弁当関連の集団発生
年齢群:0歳(2例)、1歳(4例)、2歳(9例)、3歳(8例)、4歳(10例)、5歳(9例)、6歳(5例)、7歳(3例)、8歳(3例)、9歳(4例)、10代(23例)、20代(12例)、30代(16例)、40代(4例)、50代(8例)、60代(6例)、70代(5例)、80代(7例)、90代(3例)
血清型・毒素型:O26 VT1( 48例)、O157 VT1・VT2( 44例)、O157 VT2( 13例)、O111 VT1( 12例)、O111 VT1・VT2(3例)、O157 VT1(2例)、O26 VT1・VT2(1例)、O103 VT1(1例)、O121 VT2(1例)、O145 VT1(1例)、O145 VT2(1例)、その他・不明(14例)

腸チフス1例(感染地域:インド)
4類感染症: A型肝炎1例(感染地域:インド)
オウム病1例

感染地域:福島県
感染源:インコ

つつが虫病1例(感染地域:宮城県)
デング熱1例(感染地域:タイ)
日本紅斑熱1例(感染地域:千葉県)
マラリア1例〔熱帯熱_感染地域:カメルーン〕
野兎病2例

感染地域:青森県2例
感染源:変死した野兎の解剖2例

レジオネラ症15例(肺炎型15例)

感染地域:岩手県2例(温泉2例)、長野県2例、宮城県1例(温泉)、埼玉県1例、千葉県1例(温泉)、静岡県1例、三重県1例、大阪府1例、兵庫県1例、広島県1例、長崎県/大分県1例(温泉)、国内(都道府県不明)2例
年齢群:40代(2例)、50代(4例)、60代(4例)、70代(3例)、80代(2
例)

5類感染症:
アメーバ赤痢8例(腸管アメーバ症7例、腸管及び腸管外アメーバ症1例)

感染地域:神奈川県2例、岩手県1例、東京都1例、滋賀県1例、大阪府1例、国内(都道府県不明)1例、台湾1例
感染経路:性的接触4例(異性間3例、同性間1例)、経口感染3例、不明1例

ウイルス性肝炎2例

B型肝炎2例(うち1例死亡)
感染経路:性的接触(異性間)1例、不明1例

クロイツフェルト・ヤコブ病2例(孤発性プリオン病古典型2例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(年齢群:90代)
後天性免疫不全症候群8例(無症候3例、AIDS 5例)

感染地域:国内8例
感染経路:性的接触5例(異性間1例、同性間2例、異性/同性間2例)、注射器1例、刺青1例、不明1例

ジアルジア症1例〔感染地域:国内(都道府県不明)〕
梅毒9例(早期顕症I期1例、早期顕症II期6例、無症候2例)
破傷風2例〔年齢群:50代(1例)、70代(1例)〕
バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例(遺伝子型:VanB 2例_菌検出検体:尿1例、血液1例)
風しん3例(臨床診断例3例)

感染地域:長野県1例、大阪府1例、岡山県1例
年齢群:1歳(1例)、20〜24歳(1例)、40代(1例)

麻しん132例〔麻しん(検査診断例34例、臨床診断例88例)、修飾麻しん(検査診断例10例)

感染地域:国内132例
国内の多い感染地域:千葉県58例、神奈川県20例、東京都16例
年齢群:0歳(7例)、1歳(6例)、2歳(1例)、3歳(2例)、4歳(1例)、5〜9歳(9例)、10〜14歳(17例)、15〜19歳(45例)、20〜24歳(22例)、25〜29歳(10例)、30〜34歳(5例)、35〜39歳(5例)、40代(2例)

累積報告数:10,037例〔麻しん(検査診断例2,772例、臨床診断例6,405例)、修飾麻しん(検査診断例860例)〕

(補)他に2008年第26週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢2例(感染地域:北海道1例、タイ1例)、腸チフス1例(感染地域:インドネシア)、日本紅斑熱1例(感染地域:島根県)、急性脳炎3例〔病原体不明3例(6歳、30代、60代)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(60代、死亡)、風しん4例〔検査診断例1例、臨床診断例3例.感染地域:大阪府2例、東京都1例、三重県1例.年齢群:3歳(2例)、10〜14歳(1例)、70代(1例)〕などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患によ り小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基 幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は第22週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(2.21)、岡山県(0.18)、新潟県(0.13)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は139例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約74%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では鹿児島県(2.11)、新潟県(1.62)、埼玉県(1.36)、滋賀県(1.18)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第24週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では埼玉県(3.9)、千葉県(3.8)、山口県(3.6)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第22週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では大分県(6.6)、宮崎県(6.6)、福井県(6.1)が多い。水痘の定点当たり報告数は3週連続で減少した。都道府県別では長野県(2.87)、山形(2.67)、新潟県(2.53)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第15週以降増加が続いている。都道府県別では宮崎県(13.0)、鹿児島県(9.4)、大分県(7.3)、石川県(6.9)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(0.85)、岩手県(0.63)、長野県(0.55)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では栃木県(0.25)、新潟県(0.22)、千葉県(0.17)、和歌山県(0.13)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第20週以降増加が続いている。都道府県別では愛媛県(9.4)、群馬県(6.9)、愛知県(5.2)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では佐賀県(2.96)、宮崎県(2.08)、岐阜県(2.04)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では沖縄県(3.00)、富山県(2.00)、埼玉県(1.56)が多い。




 注目すべき感染症

◆ 麻しん

 麻しんは「はしか」とも呼ばれ、麻しんウイルス(ParamyxovirusMorbillivirus 属)によって引き起こされる感染症で、39℃前後の高熱と耳介後部から始まって体の下方へと広がる赤い発疹を特徴とする全身性疾患である。麻しんに対して免疫を持たない者が感染した場合、典型的な臨床経過としては10〜12日間の潜伏期を経て発症し、カタル期(2〜4日間)、発疹期(3〜5日間)、回復期へと至る。一方、ヒトの体内に入った麻しんウイルスは、免疫を担う全身のリンパ組織を中心に増殖し、一過性に強い免疫不全状態を生じるため、麻しんウイルスそのものによるものだけでなく、細菌の二次感染による肺炎や中耳炎などの合併症も生じうる。また、発生頻度は低いものの、麻しんウイルスによる脳炎や、罹患後7〜10年の期間を経て発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)などの合併症もある。麻しんは接触感染、飛沫感染、空気感染(飛沫核感染)のいずれの感染経路でも感染し、発症した場合に麻しんに特異的な治療方法はない。手洗い、マスク等の感染対策も十分に効果的な予防手段とは言えず、唯一の有効な予防方法はワクチンの接種によって麻しんに対する免疫を予め獲得しておくことである。
 2008年の1月1日から開始された麻しんの全数把握調査によると、第27週(6月30〜7月6日診断のもの)の麻しん患者発生報告数は7月9日現在で15都道府県から132例あり、都道府県別では千葉県63例、神奈川県24例、東京都12例、埼玉県6例、京都府6例、北海道5例の順となっている(図1、図2)。第22週以降は千葉県からの報告が最も多い状態が続いている。累積報告数は、第1週から第27週までに47都道府県から10,037例であり、第27週目で1万例を超えた。都道府県別では神奈川県3,345例、北海道1,384例、東京都1,063例、千葉県907例、福岡県658例、埼玉県352例、大阪府337例、静岡県217例、愛知県184例、秋田県156例の順となっている(図3)。2008年初頭から継続していた神奈川県、東京都、埼玉県の南関東地域の流行は、沈静化へむかっていると思われる一方で、千葉県では、5月10〜11日に開催された高校の柔道大会を契機に、15〜19歳の年代の報告数が増加した。同県の麻しん患者の報告数は、柔道大会以降の第21〜27週だけで2008年の総累積報告数907例の半数を超える502例に達している。

 病型別累積報告数は、臨床診断例6,405例(63.8%)、検査診断例2,772例(27.6%)、修飾麻しん(検査診断例)860例(8.6%)となっており、臨床診断例が最多である(図4)

図1. 麻しん報告数の週別推移(2008年第1〜27週) 図2. 麻しんの都道府県別報告状況(2008年第27週) 図3. 麻しんの都道府県別累積報告状況(2008年第1〜27週)
図4. 麻しん累積報告数の病型別割合(2008年第1〜27週)

 年齢群別では15〜19歳2,713例(27.0%)、10〜14歳1,722例(17.2%)、0〜4歳1,406例(14.0%)、20〜24歳1,304例(13.0%)、25〜29歳975例(9.7%)、5〜9歳855例(8.5%)の順となっている。10〜20代前半からの報告割合が半数以上を占めており、30歳未満からの報告数が全体の90%近くを占めている(図5)。各年齢別の報告数をみると、15歳709例、16歳668例、17歳535例、0歳527例、1歳503例、14歳483例、18歳411例、13歳398例の順であり、14〜17歳が現在の患者発生の中心である状態が続いている(図6)

 麻しん含有ワクチンの接種歴別の報告数は、全体では接種歴なし4,549例(45.3%)、1回接種2,573例(25.6%)、2回接種113例(1.1%)、接種歴不明2,802例(27.9%)となっており、接種歴のない者が最も多く、次いで接種歴不明者、1回接種者の順となっている(図7)。年齢が高くなる程発病者中に占める接種歴不明者の割合が多い(図6)

 脳炎合併例はこれまでに6例報告されており、すべて10代以上(表)であり、このうち麻しん含有ワクチンの接種歴の無いものが4例、1回接種1例(親の記憶による確認)、接種歴不明1例だった。第1〜27週までに死亡例の報告はない。

図5. 麻しん累積報告数の年齢群別割合(2008年第1〜27週) 図6. 麻しん累積報告数のワクチン接種歴別年齢分布(2008年第1〜27週) 図7. 麻しん累積報告数のワクチン接種歴別割合(2008年第1〜27週)
表. 脳炎合併の報告があった麻しん症例(2008年第1〜27週)

 麻しんの報告数は、第1のピークが第7週にあり、春期休暇明けの第17週が第2のピークとなった。この、第2のピークであった第17週以降は、減少傾向が続いている。しかし、千葉県の事例のように、スポーツの対外試合が集団発生の契機になることや、旅行中に発症した麻しん患者が、滞在先で流行の契機になる可能性もあるため、多くの学校等が夏期休暇に入る今後も、引き続き発生動向には注意が必要である。
 2008年4月1日より、1回しかワクチンを接種していない年齢層に対する補足的ワクチン接種を目的とした5年間の期限付き措置として、第3期(中学校1年生相当年齢)、第4期(高校3年生相当年齢)の定期予防接種が始まり、中学校、高校などでは、麻しん未罹患者や麻しん含有ワクチン接種状況の把握が行われるようになってきている。第3期、第4期の定期予防接種対象者で、まだ接種を済ませていない者は、夏休みなどの機会を利用して、早めに接種を受けることが勧められる。


 以下に、麻しん関連情報として感染症情報センターのホームページに掲載されている主な項
目とそのURLを挙げる。麻しん対策として活用いただければ幸いである。

■麻疹(はしか):http://idsc.nih.go.jp/disea se/measles/index.html
 □緊急情報「2012年麻疹排除(Elimination)に向けて」
  ●「麻疹」の届出基準・届け出様式、「風疹」の届出基準・届出様式、ポスター
  ●2008年4月1日以降の予防接種スケジュール
  ●2008〜2012年度麻疹・風疹の定期予防接種対象者
  ●第3期・第4期予防接種勧奨リーフレット

 □対策・ガイドラインなど
  ●麻疹の現状と今後の麻疹対策について
  ●都道府県における麻しん対策会議のガイドライン
  ●学校における麻しん対策ガイドライン
  ●麻しん排除に向けた積極的疫学調査ガイドライン第二版
  ●医師による麻しん届出ガイドライン第二版
  ●医療機関での麻疹対応ガイドライン第二版
  ●「麻しん対策ブロック会議」関連資料等
 □国内情報
  ●注目すべき感染症/速報
  ●麻しん発生状況(速報グラフ)
  ●麻しん施設別発生状況(学校欠席者数)
  ●病原微生物検出情報[IASR](麻疹特集・速報、ウイルス分離・検出状況他)
  ●高い接種率を達成した自治体における接種率向上への取り組み
  ●平成19年度定期の予防接種(麻しん風しん第2期)の実施状況の調査結果について(第1報)
  ●平成19年度定期の予防接種(麻しん風しん第2期)の実施状況の調査結果について(第2報)
  ●わが国の健常人における麻疹PA抗体保有状況
□関連情報
  ●麻しんに関する特定感染症予防指針
  ●予防接種法施行令の一部を改正する政令 〜定期予防接種対象者に関する改正〜
  ●「定期の予防接種の実施について」の一部改正 〜定期(一類疾病)の予防接種実施要領の改正〜

■Q&A:http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/QA.html
■予防接種の話「麻疹」:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/b-measles.html
■年齢別麻疹、風疹、MMRワクチン接種率:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/atopics/atpcs001.html
■感染症の話「麻疹」:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k03/k03_03/k03_03.html
■麻疹発生DB(データベース):http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/meas-db.html
■「麻疹・風疹ワクチンなぜ2回接種なの?」ポスター:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn01.html
■「麻疹風疹混合ワクチンを1歳のお誕生日のプレゼントにしましょう」ポスター:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn04.html
■「小学校入学準備に2回目の麻疹・風疹ワクチンを!」ポスター:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn07.html
■麻疹教育啓発ビデオ「はしかから身を守るために」:
http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/Video/measlesVideo.html
■Surveillance, Focus, Measles“Measles update in Japan as of end of week12(23 March2008)”:
http://idsc.nih.go.jp/disease/measles_e/idwr200812.html





◆ 腸管出血性大腸菌感染症

 腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法の3類感染症として、無症状病原体保有者を含む症例の報告が、診断した全ての医師に義務付けられている。無症状病原体保有者は、食品産業従事者等での検便によって偶然発見される場合もあるが、届け出された患者と食事をともにした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。届出の基準としては、大腸菌の分離・同定かつ分離菌におけるベロ毒素の確認が必要であるが、2006年4月以降は、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限り、便からのベロ毒素の検出や血清抗体(O抗原凝集抗体あるいはベロ毒素抗体)の検出によって診断された場合も届出の対象とされている。
 2008年の腸管出血性大腸菌感染症報告数は、例年報告数の少ない第11週に一時的に増加した。これは佐賀県でオーストラリアへ修学旅行に行った高校生がO26 VT1に多数感染し、帰国した生徒から感染した家族の報告を含め、第10〜13週にかけて計76例が報告されたためである(IDWR 第10巻第20号「速報」参照)。その後第18週から徐々に増加し始め、第24週から急増し、第24週以降100〜150例で推移している。第27週は141例であった(図)。本年第27週までの累積報告数1,136例は、2000年以降では2001年、2007年、2002年に次いで4番目に多い(2000年1,083例、2001年1,481例、2002年1,161例、2003年743例、2004年1,026例、2005年1,068例、2006年1,036例、2007年1,234例)。
 第27週に報告のあった141例は、有症状者が65例(46%)で、無症状病原体保有者が76例(54%)であった。都道府県別にみると、富山県(20例)、山形県(19例)、秋田県(16例)からの報告が多く、次いで東京都(11例)、群馬県(10例)の順に多かった。富山県では第26週から保育施設における集団発生(O26 VT1)により、山形県では小学校における集団発生(O111 VT1)により、秋田県では宅配弁当を介した集団発生(O157 VT1・VT2)により報告が増加している。性別では男性72例、女性69例であり、年齢群別では0〜9歳57例、10〜19歳23例、30〜39歳16例の順に多かった。

 第1〜27週の累積報告数1,136例についてみると、報告の多い都道府県は、佐賀県(80例)、東京都(69例)、神奈川県(66例)、京都府(65例)、福岡県(63例)であった。性別では男性528例、女性608例であり、年齢群別では0〜9歳320例、10〜19歳238例、20〜29歳177例の順に多かった。
 溶血性尿毒症症候群(HUS)は、第27週までに17例報告があった(表)。17例のうち5例は、菌の分離はされなかったが、血清抗体の検出により届け出られたものである。また、年齢は0〜4歳が8例、5〜9歳が2例、10代が6例、50代が1例となっており、17例中14例が15歳未満の小児であった。また、第27週に60代女性患者(O157 VT2)の死亡例が1例報告され、本年初の死亡例となっている。
 HUSなどの合併症や死亡については、届け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があるので、発生があった場合の追加・修正報告を自治体に依頼している。

図. 腸管出血性大腸菌の年別・週別発生状況(1999年第14週〜2008年第27週)

表. 溶血性尿毒症症候群(HUS)届出症例(n=17)(2008年第1〜27週)

 本年第27週までに既に保育施設、学校等での集団発生が報告されている。特に、保育施設における集団発生は例年散見されており、日ごろからの注意として、オムツ交換時の手洗い、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。また、これからの季節は簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。動物との接触による感染と推定される事例も報告されているので、動物との接触後の手洗いにも気をつけたい。
 また、近年、生肉や生レバーが感染源と見られる届出が多く認められている。本年第1〜27週までの累積報告1,136例の感染源をみると、飲食物の経口感染と報告されたものが473例であり、このうち生肉・生レバーが78例、焼肉・バーベキューを含めると肉に関連するものは120例あった。HUS発症例においても、17例中6例が生肉・生レバーが感染源とされている(表)。特に小児、高齢者や抵抗力の弱い者などでは肉・レバーなどの食品はよく加熱し、生食は控える必要がある。食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。
 その他、最近では自治体をまたいだ広域発生事例も散見されており、食材・食品の流通の観点も併せ、事例調査における自治体間の連携がますます重要となってきている。
 毎年本症が数多く発生する夏季を迎えるにあたり、今後の発生動向には注意が必要である。

(補)菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.htmlをご参照ください。



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