国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第29号ダイジェスト
(2008年7月14日〜7月20日)

 発生動向総覧


※2008年5月12日からの法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第29週コメント〉 7月23日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核278例
3類感染症: コレラ1例(感染地域:埼玉県)
細菌性赤痢6例(感染地域:東京都1例、福岡県1例、中国1例、カンボジア1例、タイ1例、インドネシア1例)
腸管出血性大腸菌感染症121例(有症者80例、うちHUS1例)

感染地域:国内121例
国内の多い感染地域:富山県13例1)、石川県9例、東京都9例、大阪府9例、長野県7例、兵庫県7例
1)うち11例は第26週の3例、第27週の19例とともに保育園での集団発生
年齢群:0歳(2例)、1歳(6例)、2歳(10例)、3歳(4例)、4歳(8例)、5歳(6例)、6歳(4例)、7歳(3例)、8歳(3例)、9歳(3例)、10代(15例)、20代(13例)、30代(10例)、40代(10例)、50代(13例)、60代(4例)、70代(6例)、80代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT2(35例)、O157 VT1・VT2(35例)、O26 VT1(26例)、O121 VT2(3例)、O103 VT1(2例)、O111 VT1・VT2(2例)、O157 VT1(2例)、O26 VT1・VT2(1例)、O91 VT2(1例)、O145 VT1(1例)、O165 VT2(1例)、その他・不明(12例)
累積報告数:1,382例(有症者943例、うちHUS 22例、死亡1例)

腸チフス1例(感染地域:タイ/インド/イラン)
パラチフス1例(感染地域:感染地域:ミャンマー)
4類感染症: つつが虫病1例(感染地域:岩手県)
デング熱2例(感染地域:フィリピン1例、ベトナム1例)
日本紅斑熱1例(感染地域:和歌山県)
マラリア1例〔三日熱_感染地域:インド〕
レジオネラ症27例(肺炎型24例、ポンティアック型3例)

感染地域:宮城県3例、兵庫県3例、静岡県2例、愛知県2例、広島県2例、佐賀県2例、岩手県1例(温泉)、東京都1例、新潟県1例、富山県1例、石川県1例、岐阜県1例、三重県1例、大阪府1例、福岡県1例(温泉)、沖縄県1例、福井県(温泉)/タイ1例、国内(都道府県不明)1例、ロシア1例
年齢群:3歳(1例)、20代(1例)、40代(2例)、50代(7例)、60代(5例)、70代(7例)、80代(3例)、90代(1例)

5類感染症:
アメーバ赤痢14例(腸管アメーバ症10例、腸管外アメーバ症3例、腸管及び腸管外アメーバ症1例)

感染地域:大阪府2例、北海道1例、群馬県1例、埼玉県1例、東京都1例、石川県1例、沖縄県1例、インドネシア4例、台湾1例、イタリア1例
感染経路:経口感染7例、性的接触3例(異性間3例)、経口感染/性的接触(異性間・同性間不明)1例、不明3例

ウイルス性肝炎1例

B型肝炎_感染経路:不明

クロイツフェルト・ヤコブ病4例(孤発性プリオン病古典型4例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(年齢群:60代)
後天性免疫不全症候群24例(無症候16例、その他3例、AIDS 5例)

感染地域:国内24例
感染経路:性的接触21例(異性間6例、同性間15例)、不明3例

ジアルジア症3例(感染地域:東京都1例、大阪府1例、インド1例)
梅毒10例(早期顕症I期4例、早期顕症II期2例、無症候4例)
破傷風2例〔年齢群:70代(1例)、80代(1例)〕
風しん3例(検査診断例2例、臨床診断例1例)

感染地域:長野県1例、福岡県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:10〜14歳(1例)、25〜29歳(1例)、30〜34歳(1例)

麻しん71例〔麻しん(検査診断例16例、臨床診断例48例)、修飾麻しん(検査診断例7例)〕

感染地域:国内71例
国内の多い感染地域:神奈川県13例、千葉県12例、東京都11例、北海道6例、埼玉県6例
年齢群:0歳(9例)、1歳(8例)、2歳(1例)、5〜9歳(1例)、10〜14歳(9例)、15〜19歳(21例)、20〜24歳(8例)、25〜29歳(3例)、30〜34歳(6例)、35〜39歳(2例)、40代(3例)

累積報告数:10,338例〔麻しん(検査診断例2,851例、臨床診断例6,595例)、修飾麻しん(検査診断例892例)

(補)他に2008年第28週までに診断されたものの報告遅れとして、日本紅斑熱1例(感染地域:鹿児島県)、マラリア1例(熱帯熱_感染地域:ケニア)、急性脳炎2例〔水痘-帯状疱疹ウイルス1例(2歳)、病原体不明1例(5歳)〕、劇症型溶血性レンサ球菌感染症3例〔70代(1例)、80代(2例)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症3例(遺伝子型:VanC 1例_菌検出検体:腹水、遺伝子型:不明2例_菌検出検体:胆汁1例、便1例)、風しん2例〔臨床診断例2例.感染地域:東京都1例、福岡県1例.年齢群:20〜24歳(1例)、35〜39歳(1例)〕などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患によ り小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基 幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は第22週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(1.36)、三重県(0.11)、京都府(0.08)、宮崎県(0.08)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は178例の報告があり、報告数は微増した。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約79%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では鹿児島県(2.40)、新潟県(1.82)、宮崎県(1.69)、愛媛県(1.49)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第24週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では宮崎県(2.78)、埼玉県(2.71)、千葉県(2.42)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は第22週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では大分県(6.8)、宮崎県(5.8)、島根県(5.6)が多い。水痘の定点当たり報告数は25週以降減少が続いている。都道府県別では山形県(2.60)、千葉県(2.22)、長野県(2.11)が多い。手足口病の定点当たり報告数は第15週以降増加が続いている。都道府県別では石川県(11.4)、三重県(11.1)、富山県(9.6)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では新潟県(0.68)、宮城県(0.45)、岩手県(0.43)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では新潟県(0.15)、島根県(0.09)、徳島県(0.09)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第20週以降増加が続いている。都道府県別では埼玉県(8.6)、滋賀県(7.9)、群馬県(7.6)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では佐賀県(4.4)、宮崎県(2.8)、岐阜県(1.9)、高知県(1.9)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では沖縄県(4.9)、福島県(1.7)が多い。





◆ 腸管出血性大腸菌感染症

 腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法の3類感染症として、無症状病原体保有者を含む症例の報告が、診断した全ての医師に義務付けられている。無症状病原体保有者は、食品産業従事者等での検便によって発見される場合もあるが、届け出された患者と食事をともにした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。届出の基準としては、大腸菌の分離・同定かつ分離菌におけるベロ毒素の確認が必要であるが、2006年4月以降は、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限り、便からのベロ毒素の検出や血清抗体(O抗原凝集抗体あるいはベロ毒素抗体)の検出によって診断された場合も届出の対象とされている。
 2008年の腸管出血性大腸菌感染症報告数は、例年報告数の少ない第11週に一時的に増加した。これは佐賀県でオーストラリアへ修学旅行に行った高校生がO26 VT1に多数感染し、帰国した生徒から感染した家族の報告を含め、第10〜13週にかけて計76例が報告されたためである。その後は、第18週から徐々に増加し始め、第24週から急増し、第24週以降はほぼ100〜150例で推移している。第29週は121例であった(図)。本年第29週までの累積報告数1,382例は、2000年以降では5番目に多い(2000年1,300例、2001年1,824例、2002年1,407例、2003年1,015例、2004年1,406例、2005年1,391例、2006年1,321例、2007年1,576例)。

 第29週に診断され報告のあった121例は、有症状者が80例(66%)で、無症状病原体保有者が41例(34%)であった。報告は32都府県からあり、都道府県別では、富山県(13例)、東京都(11例)、兵庫県(10例)、石川県(9例)、大阪府(9例)、長野県(8例)が多かった。感染地域としての都道府県別では、富山県(13例)、東京都(9例)、石川県(9例)、大阪府(9例)、長野県(7例)、兵庫県(7例)が多かった。富山県では第26週から保育施設における集団発生(O26 VT1)により報告が増加している。性別では男性56例、女性65例であり、年齢群別では0〜9歳49例、10〜19歳15例、20〜29歳および50〜59歳各13例の順に多かった。

 第1〜29週に診断され報告のあった累積報告1,382例は有症状者が943例(68%)で、無症状病原体保有者が439例(32%)であった。報告はすべての都道府県からあり、報告の多い都道府県は、東京都(97例)、大阪府(80例)、佐賀県(80例)、神奈川県(76例)、福岡県(76例)、京都府(71例)であった。性別では男性638例、女性744例であり、年齢群別では0〜9歳405例(うち有症状者316例:78%)、10〜19歳268例(同204例:76%)、20〜29歳214例(同159例:74%)の順に多かった。
 溶血性尿毒症症候群(HUS)は、第29週までに22例報告があった(表)。22例のうち6例は、菌の分離はされなかったが、血清抗体の検出により届け出られたものである。年齢は0〜4歳が10例、5〜9歳が4例、10代が7例、50代が1例となっており、22例中19例が15歳未満の小児であった。
 また、死亡例は第27週に1例報告があり、基礎疾患に腎臓病を持つ60代女性(O157 VT2)であった。HUSなどの合併症や死亡については、届け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があるので、発生があった場合の追加・修正報告を自治体に依頼している。

図. 腸管出血性大腸菌の年別・週別発生状況(1999年第14週〜2008年第29週)

表. 溶血性尿毒症症候群(HUS)届出症例(n=22)(2008年第1〜29週)

 腸管出血性大腸菌感染症は、わが国において、毎年約3,000〜4,500例の報告が続いている疾患である。第29週までの本年の発生状況は、2000年以降の過去8年間の同時期との比較では5番目の累積報告数であり、平均的な報告数といえる。しかし、既に保育施設、学校、あるいは飲食店に関連した集団発生の報告が複数みられている。また、重症の合併症である溶血性尿毒症症候群は小児を中心に22例の報告があり、死亡例も1例報告されている。例年の発生状況からは、今後報告のピークを迎えると考えられ、予防対策の徹底が必要である。
 特に保育施設においては、日ごろからの注意として、オムツ交換時の手洗い、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。これからの季節は簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。動物との接触による感染と推定される事例も報告されているので、動物との接触後の手洗いにも気をつけたい。
 また、近年、生肉や生レバーが感染源と見られる届出が多く認められている。本年第1〜29週までの累積報告1,382例の感染源をみると、飲食物の経口感染と報告されたものが577例であり、このうち生肉・生レバーが99例、焼肉・バーベキューを含めると肉に関連するものは158例あった。HUS発症例においても、22例中7例が生肉・生レバーが感染源とされている(表)。特に小児、高齢者や抵抗力の弱い者などでは、肉・レバーなどはよく加熱し、生食は控える必要がある。食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。
 その他として、最近では自治体をまたいだ広域発生事例も散見されており、食材・食品の流通の観点も併せ、事例調査と対策における自治体間の連携がますます重要となってきている。


(補)腸管出血性大腸菌感染症については、
 ●週報IDWR
  ・「感染症の話」http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_06/k02_06.html
  ・速報「修学旅行先において腸管出血性大腸菌(EHEC)O26に感染したと思われる事例−佐賀県」
   http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-20.pdf
  ・速報「焼肉店が原因施設とされた腸管出血性大腸菌O157:H7食中毒事例−福井県」
   http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-21.pdf
 ●月報IASR
  <特集>http://idsc.nih.go.jp/iasr/29/339/tpc339-j.html
 ●菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html
  などもご参照ください。



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