国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第31号ダイジェスト
(2008年7月28日〜8月3日)

 発生動向総覧


※2008年5月12日からの法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第31週コメント〉 8月6日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核331例
3類感染症: 細菌性赤痢5例〔感染地域:埼玉県1例、山梨県1例、福岡県1例、鹿児島県1例、タイ1例〕
腸管出血性大腸菌感染症229例(有症者173例、うちHUS 2例)

感染地域:国内229例
国内の多い感染地域:鹿児島県18例1)、岩手県14例2)、兵庫県14例3)、愛知県10例、大阪府9例4)、広島県9例、福岡県9例、京都府8例
1)うち8例は保育園に関連した集団発生、
2)うち7例は小学校の行事に関連した集団発生、
3)うち6例は飲食店における集団発生、
4)うち4例は保育園に関連した集団発生
年齢群:1歳(14例)、2歳(16例)、3歳(14例)、4歳(9例)、5歳(11例)、6歳(8例)、7歳(8例)、8歳(11例)、9歳(6例)、10代(33例)、20代(38例)、30代(26例)、40代(10例)、50代(12例)、60代(7例)、70代(5例)、80代(1例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2( 103例)、O157 VT2( 56例)、O26 VT1(33例)、O111 VT1(5例)、O157 VT1(5例)、O121 VT2(3例)、O103 VT1(2例)、O26 VT1・VT2(1例)、O128 VT1・VT2(1例)、その他・不明(20例)

累積報告数:1,784例(有症者1,227例、うちHUS 27例、死亡1例)

4類感染症: A型肝炎2例〔感染地域:大阪府1例、国内(都道府県不明)1例〕
日本紅斑熱2例(うち死亡1例)

感染地域:島根県1例、宮崎県1例

マラリア1例(三日熱_感染地域:インド)
レジオネラ症13例(肺炎型12例、無症状病原体保有者1例.うち死亡2例)

感染地域:東京都3例、宮城県2例、神奈川県2例、山形県1例、埼玉県1例、愛知県1例、大阪府1例、高知県1例(温泉)、秋田県(温泉)/宮城県1例
年齢群:30代(1例)、40代(1例)、50代(2例)、60代(4例)、70代(3例)、80代(2例)

5類感染症:
アメーバ赤痢13例(腸管アメーバ症13例)

感染地域:大阪府2例、北海道1例、栃木県1例、愛知県1例、岡山県1例、熊本県1例、国内(都道府県不明)4例、東京都/韓国1例、韓国1例
感染経路:経口感染1例、性的接触5例(異性間2例、異性間・同性間不明3例)、経口感染/性的接触(異性間)1例、不明6例

ウイルス性肝炎3例

B型肝炎3例(うち死亡1例)_感染経路:性的接触1例(異性間)、不明2例

急性脳炎1例(麻しんウイルス_年齢群:10代)
クリプトスポリジウム症1例(感染地域:福島県)
クロイツフェルトヤコブ病2例

孤発性プリオン病古典型1例、
遺伝性プリオン病ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病1例

後天性免疫不全症候群15例(AIDS 2例、無症候12例、その他1例)

感染地域:国内14例、国内・国外不明1例
感染経路:性的接触15例(異性間6例、同性間9例)

ジアルジア症2例〔感染地域:千葉県1例、京都府1例〕
梅毒10例(早期顕症I期2例、早期顕症II期4例、無症候4例)
破傷風4例〔年齢群:40代(1例)、50代(1例)、60代(2例)〕
風しん4例(臨床診断例4例)

感染地域:島根県3例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:1歳(3例)、2歳(1例)

麻しん50例〔麻しん(検査診断例14例、臨床診断例31例)、修飾麻しん(検査診断例5例)〕

感染地域:国内50例
国内の多い感染地域:神奈川県8例、東京都6例、愛媛県6例、千葉県4例、山梨県3例、兵庫県3例
年齢群:0歳(3例)、1歳(4例)、2歳(1例)、3歳(1例)、4歳(1例)、5〜9歳(5例)、10〜14歳(8例)、15〜19歳(13例)、20〜24歳(4例)、25〜29歳(5例)、30〜34歳(3例)、35〜39歳(1例)、50代(1例)

累積報告数:10,521例〔麻しん(検査診断例3,003例、臨床診断例6,600例)、修飾麻しん(検査診断例918例)〕

(補)他に2008年第30週までに診断されたものの報告遅れとして、細菌性赤痢1例(感染地域:静岡県)、エキノコックス症1例(多包条虫_感染地域:北海道)、デング熱1例(デング出血熱_感染地域:タイ)、レジオネラ症1例〔感染地域:茨城県(温泉)〕、レプトスピラ症2例(感染地域:沖縄県2例_感染原因:水田1例、不明1例)、急性脳炎3例〔麻しんウイルス1例(20代)、病原体不明2例(1歳、9歳)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:不明_菌検出検体:尿)、風しん2例〔(臨床診断例2例.感染地域:茨城県1例、神奈川県1例.年齢群:15〜19歳(1例)、20〜24歳(1例)〕などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患によ り小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基 幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は第22週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(0.78)、広島県(0.07)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は313例の報告があり、報告数は第28週以降増加が続いている。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約80%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では鹿児島県(2.18)、佐賀県(1.91)、新潟県(1.83)、愛媛県(1.76)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第24週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では埼玉県(1.97)、大分県(1.78)、鳥取県(1.74)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では大分県(6.9)、福井県(5.3)、宮崎県(4.9)が多い。水痘の定点当たり報告数は25週以降減少が続いている。都道府県別では山形県(2.03)、青森県(1.62)、千葉県(1.36)が多い。手足口病の定点当たり報告数は2週連続で減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では石川県(9.4)、三重県(8.2)、富山県(7.2)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では宮城県(0.32)、新潟県(0.30)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では山梨県(0.29)、千葉県(0.13)、沖縄県(0.12)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は2週連続で減少した。都道府県別では長野県(9.3)、宮城県(6.5)、山形県(6.3)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では佐賀県(3.1)、宮崎県(2.5)、高知県(1.9)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(3.7)、青森県(1.7)、福島県(1.6)が多い。




 注目すべき感染症

◆ 腸管出血性大腸菌感染症

 2008年の腸管出血性大腸菌感染症報告数は、第11(〜13)週にオーストラリアへ修学旅行に行った高校生がO26 VT1に感染した計76例の報告が佐賀県からあり、一時的に増加した。その後は、第18週から徐々に増加し始め、第24週に1週間当たりの報告数が100例を超えた。第24〜30週はほぼ100〜150例で推移していたが、第31週は大きく増加し229例であった。第31週までの累積報告数1,784例は、2000年以降では3番目に多い(2000年1,562例、2001年2,406例、2002年1,752例、2003年1,224例、2004年1,755例、2005年1,715例、2006年1,737例、2007年1,986例)(図1)
 第31週(7月28日〜8月3日診断のもの)の報告229例は、患者(有症状者)が173例(75.5%)で、無症状病原体保有者56例(24.5%)であった。36都府県から報告があり、都道府県別では、鹿児島県(18例)、兵庫県(17例)、岩手県(14例)、広島県(12例)、愛知県(11例)、福岡県(10例)が多かった。感染地域はすべて国内で、都道府県別では、鹿児島県(18例)、岩手県(14例)、兵庫県(14例)、愛知県(10例)、大阪府(9例)、広島県(9例)、福岡県(9例)が多かった。鹿児島県では保育園、岩手県では小学校の行事、兵庫県では飲食店、大阪府では保育園に関連した集団発生があった。性別では男性121例、女性108例で、年齢群別では0〜9歳97例、20〜29歳38例、10〜19歳33例の順に多かった。
 第1〜31週(2007年12月31日〜2008年8月3日診断のもの)の累積報告1,784例は、患者が1,227例(69%)、無症状病原体保有者が557例(31%)であった。報告はすべての都道府県からあり、報告の多い都道府県は、東京都(117例)、大阪府(99例)、福岡県(96例)、神奈川県(85例)、佐賀県(85例)、京都府(84例)であった(図2)。感染地域は国内が1,688例、国外が91例、国内か国外か不明が5例であり、国内の感染地としての都道府県別では、大阪府(99例)、東京都(89例)、京都府(85例)、福岡県(85例)の順で多かった。性別では男性829例、女性955例であり、年齢群別では0〜9歳556例(うち患者79%)、10〜19歳330例(同78%)、20〜29歳282例(同76%)、30〜39歳207例(同47%)、40〜49歳105例(同47%)、50〜59歳133例(同46%)、60〜69歳78例(同54%)、70〜79歳51例(同73%)、80〜89歳36例(同72%)、90〜99歳6例(同67%)であった。

 溶血性尿毒症症候群(HUS)は、前週の集計(7月30日)以降に新たに3例が報告され、第31週までに27例報告となった。27例のうち10例は、菌は分離されなかったが、血清抗体の検出によって届け出られたものである。都道府県別では、20都道府県(東京都5例、秋田県2例、大阪府2例、愛媛県2例、北海道、群馬県、千葉県、新潟県、石川県、福井県、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、和歌山県、徳島県、香川県、高知県、鹿児島県、沖縄県各1例)から報告があった。年齢は0〜4歳が12例、5〜9歳が7例、10代が7例、50代が1例となっており、27例中24例が15歳未満の小児であった。27例中8例は生肉・生レバー、1例は生せんまい(牛の胃)、1例はステーキが感染源とされていた(表1、表2)
 また、第27週には、基礎疾患に腎臓病を持った60代女性患者(O157 VT2)の死亡例が報告されている。

図1. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(1999年14週〜2008年第31週) 図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告状況(2008年第1〜31週) 表1. 腸管出血性大腸菌感染症の溶血性尿毒症症候群(HUS)の年齢群別報告数(2008年第1〜31週)
表2. 溶血性尿毒症症候群(HUS)届出症例(n=27)(2008年第1〜31週)

 腸管出血性大腸菌感染症は、わが国において、毎年約3,000〜4,500例の報告が続いている疾患である。本年は、2000年以降の過去8年間の同時期までの発生数との比較では、3番目に多い報告数となっている。重症の合併症であるHUSは27例の報告があり、基礎疾患の悪化による死亡例も1例報告されている。
 例年の状況からは、発生のピークの時期を迎えつつあると考えられる。患者・感染者を増やさないよう、HUS症例や死亡者を出さないよう、予防対策の徹底が必要である。食品の取り扱い等の一般的な食中毒対策に加え、特に、小児、高齢者や抵抗力の弱い者などでは、肉・レバーなどはよく加熱し、生食は控えることが肝要である。また、患者・無症状病原体保有者から周囲の人々への感染が起こりやすい疾患なので、手洗いの励行等の二次感染予防対策の一層の徹底が重要である。


(補)腸管出血性大腸菌感染症については、
   □週報IDWR
    ・感染症の話:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_06/k02_06.html
    ・注目すべき感染症
     第25号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-25.pdf
     第27号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-27.pdf
     第29号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-29.pdf
     第30号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-30.pdf
    ・速報「修学旅行先において腸管出血性大腸菌(EHEC)O26に感染したと思われる事例−
     佐賀県」:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-20.pdf
    ・速報「焼肉店が原因施設とされた腸管出血性大腸菌O157:H7食中毒事例−福井県:
      http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-21.pdf
   □月報IASR
    ・<特集>:http://idsc.nih.go.jp/iasr/29/339/tpc339-j.html
   □菌の検出状況:http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html

   などもご参照ください。








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