国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第32号ダイジェスト
(2008年8月4日〜8月10日)

 発生動向総覧


※2008年5月12日からの法改正に伴い、疾病の名称および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第32週コメント〉 8月13日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核333例
3類感染症: コレラ5例(感染地域:宮城県3例、フィリピン1例、インド1例)
細菌性赤痢5例〔感染地域:福岡県1例、佐賀県1例、国内(都道府県不明)1例、タイ1例、インドネシア1例〕
腸管出血性大腸菌感染症235例(有症者148例、うちHUS 4例)

感染地域:国内234例、アルジェリア/チュニジア1例
国内の多い感染地域:長崎県36例1)、東京都20例2)、大阪府19例3)、熊本県11例4)、鹿児島県11例5)、山形県10例6)、兵庫県10例、愛知県8例、広島県8例
集団発生:
 保育園関連
  1)全例、2)うち13例、3)うち13例(第31週の4例とともに)、
  4)うち6例、5)全例(第31週の8例とともに)
 放課後児童クラブに関連
  6)うち4例

年齢群:0歳(8例)、1歳(30例)、2歳(26例)、3歳(13例)、4歳(14例)、5歳(16例)、6歳(10例)、7歳(3例)、8歳(3例)、9歳(2例)、10代(23例)、20代(31例)、30代(15例)、40代(11例)、50代(15例)、60代(9例)、70代(4例)、80代(2例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2( 69例)、O157 VT2( 62例)、O26 VT1(41例)、O103 VT1(37例)、O157 VT1(6例)、O111 VT1(3例)、O145 VT2(3例)、O26 VT1・VT2(1例)、その他・不明(13例)

累積報告数:2,064例(有症者1,409例、うちHUS 33例、死亡1例)

パラチフス1例(感染地域:バングラデシュ)
4類感染症: E型肝炎2例〔感染地域:北海道1例(感染源:豚ホルモン)、タイ1例(感染源:不明)〕
A型肝炎1例(感染地域:ボリビア)
デング熱4例(感染地域:タイ3例、マレーシア1例)
日本紅斑熱1例(感染地域:鹿児島県)
レジオネラ症21例(肺炎型21例)

感染地域:岩手県3例、神奈川県3例(うち温泉1例)、北海道2例、宮城県2例、静岡県2例(うち温泉1例)、茨城県1例、千葉県1例、富山県1例、石川県1例、大阪府1例、和歌山県1例、大分県1例、国内(都道府県不明)1例、トルコ1例
年齢群:10代(1例)、40代(2例)、50代(5例)、60代(7例)、70代(2例)、80代(4例)

5類感染症:
アメーバ赤痢14例(腸管アメーバ症14例)

感染地域:大阪府3例、兵庫県2例、宮城県1例、群馬県1例、東京都1例、国内(都道府県不明)5例、オーストラリア1例
感染経路:経口感染3例、性的接触3例(異性間1例、同性間2例)、不明8例

ウイルス性肝炎3例

B型肝炎3例_感染経路:性的接触2例(異性間1例、同性間1例)、
医療行為中の血液への接触1例

急性脳炎2例〔病原体不明2例_年齢群:8歳(1例)、70代(1例)〕
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(孤発性プリオン病古典型2例)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例〔年齢群:70代(死亡)〕
後天性免疫不全症候群18例(AIDS 7例、無症候11例)

感染地域:国内16例、タイ1例、国内/台湾1例
感染経路:性的接触18例(異性間5例、同性間9例、異性/同性間3例、異性間・同性間不明1例)

梅毒6例(早期顕症I期1例、早期顕症II期4例、無症候1例)
破傷風1例(年齢群:30代)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症3例

遺伝子型:VanC 2例_菌検出検体:胆汁2例
遺伝子型:不明1例_菌検出検体:血液

風しん2例(臨床診断例2例)

感染地域:栃木県1例、国内(都道府県不明)1例
年齢群:1歳(1例)、7歳(1例)

麻しん33例〔麻しん(検査診断例5例、臨床診断例22例)、修飾麻しん(検査診断例6例)〕

感染地域:国内33例
国内の多い感染地域:神奈川県15例、千葉県7例、東京都2例、大阪府2例、愛媛県2例
年齢群:0歳(2例)、1歳(7例)、3歳(1例)、5〜9歳(2例)、10〜14歳(4例)、15〜19歳(5例)、20〜24歳(8例)、25〜29歳(3例)、30〜34歳(1例)

累積報告数:10,585例〔麻しん(検査診断例3,018例、臨床診断例6,636例)、修飾麻しん(検査診断例931例)

(補)他に2008年第31週までに診断されたものの報告遅れとして、コレラ1例(感染地域:大阪府)、細菌性赤痢2例(感染地域:福岡県2例)、つつが虫病1例(感染地域:沖縄県)、レジオネラ症1例〔感染地域:岩手県(温泉)〕、急性脳炎3例〔ヒトヘルペスウイルス6型1例(0歳)、エンテロウイルス1例(1歳)、病原体不明1例(10代)〕、風しん3例〔(検査診断例2例、臨床診断例1例.感染地域:北海道1例、神奈川県1例、大阪府1例.年齢群:10〜14歳(1例)、35〜39歳(1例)、40代(1例)〕などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患によ り小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基 幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(1.07)、広島県(0.06)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は353例の報告があり、報告数は第28週以降増加が続いている。年齢別では1歳以下の報告数が全体の約69%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は3週連続で減少した。都道府県別では佐賀県(2.70)、愛媛県(2.38)、宮崎県(2.00)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第24週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してやや多い。都道府県別では大分県(1.89)、宮崎県(1.75)、鳥取県(1.74)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では大分県(6.1)、宮崎県(6.1)、岡山県(4.8)が多い。水痘の定点当たり報告数は第25週以降減少が続いている。都道府県別では山形県(0.97)、和歌山県(0.97)、福井県(0.95)が多い。手足口病の定点当たり報告数は3週連続で減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では石川県(10.1)、新潟県(8.3)、富山県(7.0)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(0.38)、山梨県(0.25)、岡山県(0.24)が多い。百日咳の定点当たり報告数は微増し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では新潟県(0.18)、千葉県(0.11)、広島県(0.10)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は3週連続で減少した。都道府県別では長野県(7.5)、山形県(6.0)、秋田県(5.9)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では佐賀県(3.3)、宮崎県(2.7)、群馬県(1.6)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では福島県(3.3)、沖縄県(2.7)、宮城県(1.2)が多い。




 注目すべき感染症

◆ 腸管出血性大腸菌感染症

 2008年の腸管出血性大腸菌感染症報告数は、第11(〜13)週にオーストラリアへ修学旅行に行った高校生がO26 VT1に感染した計76例の報告が佐賀県からあり、一時的に増加した。その後は、第18週から徐々に増加し始め、第24週に1週間当たりの報告数が100例を超えた。第24〜30週はほぼ100〜150例で推移していたが、第31週は大きく増加し250例を超え、第32週は235例であった。第32週までの累積報告数2,064例は、2000年以降では3番目に多い(2000年1,740例、2001年2,779例、2002年1,924例、2003年1,300例、2004年1,976例、2005年1,872例、2006年1,894例、2007年2,169例)(図1)
 第32週(8月4日〜8月10日診断のもの)の報告235例は、患者(有症状者)が148例(63%)で、無症状病原体保有者87例(37%)であった。36都道府県から報告があり、都道府県別では、長崎県(36例)、東京都(26例)、大阪府(20例)、熊本県(11例)、鹿児島県(11例)、山形県(10例)が多かった。感染地域は国内234例、国外1例(アルジェリア/チュニジア)であった。国内の感染地としての都道府県別では、長崎県(36例)、東京都(20例)、大阪府(19例)、熊本県(11例)、鹿児島県(11例)、山形県(10例)、兵庫県(10例)が多かった。長崎県、東京都、大阪府(第31週からの発生)、熊本県(第31週からの発生)、鹿児島県(第31週からの発生)では保育園、山形県では放課後児童クラブに関連した集団発生があった。性別では男性124例、女性111例で、年齢群別では0〜9歳125例、20〜29歳31例、10〜19歳23例の順に多かった。
 第1〜32週(2007年12月31日〜2008年8月10日診断のもの)の累積報告2,064例は、患者が1,409例(68%)、無症状病原体保有者が655例(32%)であった。報告はすべての都道府県からあり、報告の多い都道府県は、東京都(146例)、大阪府(132例)、福岡県(99例)、神奈川県(95例)、京都府(91例)、愛知県(90例)、兵庫県(86例)、佐賀県(86例)、長崎県(85例)であった(図2)。感染地域は国内が1,967例、国外が92例、国内か国外か不明が5例であり、国内の感染地としての都道府県別では、大阪府(131例)、東京都(111例)、京都府(91例)、福岡県(88例)、長崎県(84例)の順で多かった。性別では男性975例、女性1,089例であり、年齢群別では0〜9歳692例(うち患者77%)、10〜19歳357例(同78%)、20〜29歳322例(同75%)、30〜39歳227例(同46%)、40〜49歳119例(同46%)、50〜59歳153例(同47%)、60〜69歳91例(同52%)、70〜79歳57例(同5%)、80〜89歳40例(同75%)、90〜99歳6例(同67%)であった。
 溶血性尿毒症症候群(HUS)は、前週の集計(8月7日)以降に新たに6例が報告され、第32週までに33例報告となった。33例のうち10例は、菌は分離されなかったが、血清抗体の検出によって届け出られたものである。都道府県別では、23都道府県(東京都5例、大阪府3例、秋田県2例、山形県2例、新潟県2例、愛媛県2例、北海道、栃木県、群馬県、千葉県、埼玉県、石川県、福井県、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、和歌山県、徳島県、香川県、高知県、鹿児島県、沖縄県各1例)から報告があった。年齢は0〜4歳が18例、5〜9歳が7例、10代が7例、50代が1例となっており、33例中30例が15歳未満の小児であった。33例中8例は生肉・生レバー、1例は生せんまい(牛の胃)、1例はステーキが感染源とされていた(表1、表2)
 また、第27週には、基礎疾患に腎臓病を持った60代女性患者(O157 VT2)の死亡例が報告されている。

図1. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(1999年14週〜2008年第32週) 図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告状況(2008年第1〜32週) 表1. 腸管出血性大腸菌感染症の溶血性尿毒症症候群(HUS)の年齢群別報告数(2008年第1〜32週)
表2. 溶血性尿毒症症候群(HUS)届出症例(n=33)(2008年第1〜32週)

 腸管出血性大腸菌感染症は、わが国において、毎年約3,000〜4,500例の報告が続いている疾患である。本年は、2000年以降の過去8年間の同時期までの発生数との比較では、3番目に多い報告数となっている。保育園に関連した集団発生は後を絶たず、第32週にも新たな発生が見られた。また、重症の合併症であるHUSは33例の報告となり、基礎疾患の悪化による死亡例も1例報告されている。
 例年の状況からは、発生のピーク時期を迎えていると考えられ、予防対策の徹底が必要である。食品の取り扱い等の一般的な食中毒対策に加え、特に、小児、高齢者や抵抗力の弱い者などでは、肉・レバーなどはよく加熱し、生食は控えることが肝要である。また、患者・無症状病原体保有者から周囲の人々への感染が起こりやすい疾患なので、手洗いの励行等の二次感染予防対策の一層の徹底が重要である。


(補)腸管出血性大腸菌感染症については、
   □週報IDWR
    ・感染症の話:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_06/k02_06.html
    ・注目すべき感染症
     第25号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-25.pdf
     第27号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-27.pdf
     第29号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-29.pdf
     第30号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-30.pdf
     第31号:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-31.pdf
    ・速報「修学旅行先において腸管出血性大腸菌(EHEC)O26に感染したと思われる事例−
     佐賀県」:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-20.pdf
    ・速報「焼肉店が原因施設とされた腸管出血性大腸菌O157:H7食中毒事例−福井県:
      http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2008/idwr2008-21.pdf
   □月報IASR
    ・<特集>:http://idsc.nih.go.jp/iasr/29/339/tpc339-j.html
   □菌の検出状況:http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html

   などもご参照ください。








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